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抗菌製品にガイドライン  11.30
  






 抗菌製品に対して、マスコミは一時期ほどはやし立てることは無くなったが、それでも、抗菌をうたう製品は着実に伸びているようである。通産省のホームページhttp://www.miti.go.jp/feedback-j/ikouk05j.htmlによれば、次のような商品があるらしい。


表:抗菌加工製品の分類

繊維: 靴下、肌着、下着、タオル、ふきん、傷当て材、白衣、寝具、カーテン、カーペット など
家電: 洗濯機、掃除機、冷蔵庫、食器洗浄乾燥機、電気ジャーポット、空気清浄機、
    炊飯器、電話機、シェーバー、カセットテープ など
建材: 床材、クロス(壁紙)、タイル、アルミ建材、塗装材 など
住宅設備機器: 電気洗浄便座、浄水器 など
キッチン用品: スポンジ、包丁、まな板、水切り袋、フィルム包材、
    流し三角コーナー、野菜洗い用ブラシ、ゴミかご、弁当箱 など
バス・トイレ用品: 湯上がりバスマット、トイレケース付きブラシ、
    トイレ用コーナーポット、ボトル(シャンプー等) など
生活用品: 歯ブラシ、カミソリ、ヘアカーラー、靴(中敷)、油取り紙、
    マスク、抗菌スプレー、アクセサリー(18金合金) など
文具: ボールペン、シャープペン、鉛筆、消しゴム、フロッピーディスク など
玩具: ぬいぐるみ など
自動車: ステアリング、シフトノブ、空気清浄機、内装 など
その他: 砂場用抗菌砂、キャッシュカード、棺 など

出所:日本経済新聞、日経産業新聞、日経流通新聞、TRIGGER1997.6(日刊工業新聞社)、工業材料1997年8月号(vol45 No.8)、富士経済「抗菌・殺菌・除菌関連市場の現状将来展」1997年、シー・エム・シー「抗菌・殺菌・感染症予防ビジネス」1997年


 抗菌剤市場も有機系、無機系併せて210億円になったようである。通産省も現状は「抗菌ブーム状態」にあるという理解はあるようで、抗菌といいながら、抗菌効果が全くないような「詐欺まがい」商品が存在していることに問題意識をもったようだ。そこで現在抗菌商品ガイドラインを作成中。それに対する意見をホームページで求めていたため、最後に示すような意見書を提出してしまいました。


A君:抗菌製品にガイドラインができると、抗菌効果が全くない商品、まあ詐欺まがいの商品が消滅するでしょう。このこと自体、社会的公正さから見て、全く問題は無いのでは。

B君:それはそうだが、自分は、「今の抗菌商品は、効果が無いから害も無い」という認識だったので、今後すべての抗菌商品が本当に効果を持つようになったら、それはそれで怖いことだ。

C先生:「抗菌ブーム」という表現が通産省のホームページにも使われているように、実態は通産省もよく分かっているようだ。とは言っても、一旦ガイドラインができると、抗菌商品そのものの有用性を通産省が保証しているような感触になること、これはまずい。しかし、ガイドラインが無いと詐欺まがい商品がはびこる。 ということで、私の考えは、「抗菌の反環境性」を十分伝達した上で、消費者の選択にゆだねるしか無いのではというところなのだが。

B君:商品開発をする人々の中には、抗菌ブームになったなと思うと、何も考えないで「手で直接触れるものはなんでも抗菌加工」といった程度の浅はかな考えで何かやってしまうとう人もいる。このような人々が抗菌ガイドラインの策定を押し進めているのだろうが、このような人々にとって、ガイドラインが決まることはプラスなのだろうか。単なるファッションだというのが、早くばれるだけだと思うが。

A君:自分の電機業界にも抗菌商品がある。だから悪口になってしまうが、少なくとも、抗菌剤を作って販売している化学メーカー?にとって、抗菌ブームをうまく利用して、何にでも使って貰うことは自分達の商売を広めるために必要。しかし、彼らは抗菌の実態が何か、それは分かっていると思う。問題点が有ることを知っていても、口を閉ざしているのではないだろうか。無知故に問題があるのは、それぞれの業界で商品を実際に開発している人々だろう。抗菌の意味を全く考えていない可能性がある。

C先生:文房具などの抗菌加工、車のハンドルの抗菌加工などは全く意味がないだろうね。完全に「ファッションとしての抗菌ブーム商品」だ。
 もしも抗菌になんらかのニーズがあるとしたら、靴下のような「臭い」が問題になるもの、台所の三角コーナの「ぬめり防止」や風呂場の「カビ防止、汚れ防止」。後者は、主婦が掃除の手抜きを考えているということなのだが。勿論、元気な主婦は、自分の手で掃除をするのが一番。しかし、高齢者になると風呂場のカビの掃除などはキツイから、このような「防汚的ニーズ」が有ることは事実だろう。

A君:ところで、そのような「防汚的効果」は現在の抗菌商品にあるのでしょうか。

B君:噂では余り効果は無いという話だ。

C先生:風呂場のタイル用抗菌処理には銀系の抗菌剤が使われているが、まずタイルに菌の栄養になる石鹸カスなどの有機物が乗って、その上に菌が住み着くことになる。となると、タイルなどの表面から銀が微量出ても、その効果が菌まで届かないことは十分に有り得るのだ。しかし、だからといって強力な殺菌効果を持たせると、人体に害がでる可能性があるし、さらにこれは「細菌との共生が原則」ということに反する。特に、トイレのように、人間ひとりひとりが持っている1kgを越える常在菌にいつでも触れているようなところで、本当に防汚効果を持たせるには、相当のことをしなければならないだろう。

A君:だとすると、どう考えるべきなのでしょうか。

B君:それは決まっている。抗菌は単なるブーム、しかもファッション的ブームだという理解で良い。しかも、反環境的要素があるから、抗菌商品を買うのは消費者として行うべき行動ではない。

C先生:もはや40%の子供がなんらかのアレルギー症状を示すという。これも、日本人が超清潔指向を強めてきた副作用のひとつだ。そのあたりの感覚が市民レベルでもっと理解されなければならない。市民は「ぬめり=不潔、だから殺菌」と短絡的に考えるだけではなくて、人間が生存するには「環境との共生」がキーワードだということをもっと真剣に理解しようと務めなければならないだろう。
 環境との共生を無視してでも、自分の事情によって掃除などの作業を減らすために防汚効果が必要だというのなら、それはそれで仕方がない。



抗菌製品に係わるガイドライン設定に関する意見書  提出者 安井 至

 抗菌製品が市場にあふれている現在の状況は、人類社会の長期的な健全性を維持するという環境問題の真の目的から見れば、極めて望ましくない状況だという立場から、抗菌製品のガイドライン策定に対して、慎重な態度を取られるよう要望したい。

 Webページから得られた情報だけからの判断であるが、今回のガイドライン設定の前提条件には、抗菌商品に対する消費者ニーズがあることが第一に掲げられているように思われる。すなわち、O−157、サルモネラ菌といった食品汚染によって抗菌が消費者の強いニーズになったという認識を基礎として、抗菌商品のガイドラインが決められようとしているように見える。しかし、これが本当の意味で消費者ニーズと言えるのだろうか。

 一時期人類の英知によって克服されたと思われた感染症が、日本のような先進国において再び危機的状況を招いている最大の理由は、実は人体における常在菌のバランスが崩れ、発展途上国の場合と比較して、極めて脆弱になっていることが主たる原因であるとする仮説があるが、これは実際のところかなり有力であると考えられる。O−157の被害が発生している国は、米国、オーストラリア、日本などといった先進国だけであることが、このような仮説を強く支持している。現在の日本人は、歴史上かつてない清潔な状況にあり、このような状況は、幼児死亡率を低下させることに大きな貢献をしたと考えられる一方で、O−157のような生命力の弱い菌への感染の可能性を増大させ、また海外、特に発展途上国に旅行すると、下痢症状を示す日本人が多くなった原因となっている。
 要するに、現状以上の清潔指向は、O−157のような菌への感染の可能性を増大させることはあっても、その防止に有効であるとは言えないのである。すなわち、O−157によって消費者が抗菌製品に対するニーズを感じたのは、このような状況を完全には理解していないためであって、真の情報が消費者に伝達されていないためである。

 O−157感染による死者が出る状況がいまだに続いているが、家庭内の台所が原因となった感染はごく少数である。その理由は、業務用の調理場に比べ、家庭の台所は雑菌が多く存在し、そのためにO−157、MRSAのようなエネルギー効率の悪い病原菌にとって、生存が困難な場所であるためと考えられる。

 そもそも、人間一人一人が体内に持っている常在菌の量は1.5kgにも及ぶ。これらの菌を敵視する発想そのものが、反環境的であると言わざるを得ない。細菌類は世代交代が非常に早いために、過剰なストレスを与えると、それに対応するために遺伝子を変更して耐性を付けが、そのスピードもやはり非常に早い。一方、人間が新しい環境に適合するために遺伝子を変化させるには、200年以上の時間を要する。このような状況を考慮すると、細菌と敵対するばかりが人類生存の戦略ではないことが良く分かる。

 すなわち、抗菌の本来のメリットは、病院のような場においてのみ、あるいは、業務用の調理場のような状況において発揮されるが、家庭内の台所のような状況は、むしろ逆効果であると思われる。

 となると、消費者の本当のニーズは、恐らく「ぬめり防止」、「かび防止」といった、要するに「掃除の手を抜きたい」というニーズなのではないだろうか。もしも、そうであれば、そのような機能を強調すると同時に、抗菌には反環境的要素が強いことを明示し、消費者はそのようなトレードオフを理解した上で、自分の利便性のために商品の選択を行い得るような、啓蒙・教育が必要不可欠である。

 ガイドラインに述べられている安全性に関しては、短期毒性・皮膚感作性刺激性などが上げられているが、抗菌剤家庭内で多用することは、人類の生存といった長期的な観点からは反環境的行為であることも、このガイドラインの中で消費者に正しく伝達すべきである。

 以上要するに、抗菌そのものは、消費者が状況を正しく理解をするまでの一時的なニーズ、言い換えれば現時点では「超清潔ファッション」としてのニーズに過ぎず、ガイドラインでは「副次的」と述べられている「ぬめり防止」「かび防止」などの「防汚効果」が本音レベルの消費者ニーズであろう。このような認識に基づいて、ガイドラインの再検討が行われることが必須であると考える。