________________

廃家電リサイクルの問題点  98.03.16 追加 98.04.22
  






廃家電リサイクルの問題点
                                               安井  至

1.はじめに
 通産省の産業構造審議会によって、家電製品のうち、当面四製品、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの廃棄に際して、そのリサイクルを義務付けることが検討され、その費用負担については、廃棄に消費者に対して廃棄時に求めていくという大略の方針が示された。そして、法案化が間近であるとされている(平成10年3月15日現在)。基本的に消費者が費用を負担することは正しいと思うものの、非常に大きな問題がこの背後に隠されている。場合によっては、物品を所有するという行為そのものの意味が変更される可能性すらあると考えている。
 現時点で行われている議論は、主として、産業界がどのような仕組みであれば受け入れるかといった観点から行われている。しかし、この種の環境問題の常として、これに係わる主体は多く、いわゆる多体問題としての最適な解を模索すべきである。
 ここでは、可能な限り多様な観点から廃家電リサイクルについて述べて見たい。

2.廃家電製品に残存する正の価値
 ここでは、廃家電製品というものが、どのようなものであるのかについて、できるだけ客観的に述べる。すなわち、資源として見たときにどのような価値があるのか、廃棄物として見たときにどのような性格のものなのか、有害物として見たときには、どうか、といった観点である。

2−1. 資源として見た廃家電製品
 廃棄物が資源的な価値があるかどうか、この解も実は多様である。この問題に対する答えを求めるには、答えを出す立場を明確にする必要がある。まず、「経済的な価値」と表現しても、その意味は一義的ではない。投入する人件費と回収される資源との価値から判断して、「市場性があるか」を問うのか、そうではなくて、地球の限界を考えたときに、持続可能型経済を構築する必要があり、そのようなグローバルな観点から見て経済的な価値を議論するかによって、答えが異なると思われる。
 市場性があるかどうかという問に対して、現時点で明らかに「有る」と言えるものは、アルミと銅、さらに金、そしてやや疑問だけれど鉄ではないだろうか。現時点でも、廃家電製品のリサイクルは細々と行われている。リサイクル率は平均10%以下であるが、廃エアコンのリサイクル率は多少高い。その理由が、エアコンの放熱器がアルミ製、パイプ類には銅が使われ、またモーターなどのコイルには、銅が使われているからである。
 金については、接点のメッキに使われている。また、ICの配線にも使用されることがある。すなわち、高級なプリント配線板を使っていれば、金が回収できる可能性がある。しかし、当面の対象である4製品に関しては、かなり低質なプリント配線坂が使用されていることが多く、金メッキなども少ない。
 これらの金属は、考えてみれば大昔からリサイクルされていた。要するに社会的にみても、どのようにリサイクルすべきであるについて合意形成ができているということが大きな要素なのかもしれない。

2−2.廃プラスチックは資源足りうるか
 一方、廃プラスチックが市場的な価値があるかどうかについては、「厳しい」と答えるしかない。一般に、材料がリサイクル用として意味を持つためには、単一組成のものが大量に存在していること、という条件がある。プラスチックという呼び方で呼ばれていても、家電製品に使用されているプラスチックの種類は何種類か、と問われても答えられないぐらい多種類である。しかも、種類が同一のものであっても、添加物が異なっているという例が多い。家電に使用するために、難燃処理をしていることが多く、難燃化剤としては、アンチモンなどの金属酸化物や、リン酸エステル類、あるいは、水酸化物などが加えられている。さらに、色の問題がある。ガラス瓶のリサイクルでも同じ問題があるが、濃い色に着色したものは、薄い色のものに使用することは不可能である。
 一方、精密な成形を行うためには、他のプラスチック混入率を1%以下にする必要がある。となると、リサイクルを目的として完全に分別を行うとしたら、一体何種類に分類しなければならないのだろうか。考えるだけで嫌になる。
 プラスチックの分別の第二の問題点は、分別作業がそのものが困難であることである。まず、組成表示が十分でないために、見ただけでは分からない。当然、手触り、外観による判定は不可能。分別用の機器も無いわけではないが、現時点では効果である。となると、廃電機製品から回収したプラスチックは、高品位用の原料としてリサイクルするのは、相当の手間を要することになる。
 さらに、廃電機製品の寿命が長いことも、リサイクルの観点からは不利である。プラスチックは時間とともに劣化する。10年以上経過したプラスチックは、添加物のあるものは蒸発していたり、塩化ビニルのように脱塩化水素が起きやすいものは、基本組成すら変わっている可能性があるのである。
 現在、プラスチックのリサイクルはどのように行われているのか、と言えば、まずいくつかのレベルがあることを認識する必要がある。上述の最も普通のリサイクルがマテリアルリサイクルと呼ばれるものであって、もとの製品に戻すことを目的にすると、不可能への挑戦のようなことになる。より低品位品へのカスケードリサイクルであれば、分別は若干楽になるが、低品位品でどのような商品を作るのかという問題がある。
 そこで、一旦高分子化してプラスチックにしてしまったものを、分解して、低分子に戻し、もう一度プラスチックの原料にしようという考え方が、ケミカルリサイクルである。これが実現できれば、製品の用途といった問題は無くなるが、別の問題として、経済的に成立するか、あるいは、リサイクルのために必要なエネルギーが多くなって、むしろ、リサイクルをすることがトータルな環境負荷を上げてしまうという場合がありうることである。すなわち、ケミカルリサイクルを行う際には、ライフサイクルアセスメントによるリサイクルの妥当性の検討が必須であると言える。
 以上のようなリサイクルが不可能となると、焼却をしてエネルギーを回収するという方法を検討することになる。これをサーマルリサイクルと呼ぶ向きもあるが、百歩譲っても、これは決してリサイクルではない。サーマルリカバリーと呼ぶべきである。だから悪いということではなくて、正当な理由があれば、むしろサーマルリカバリーを積極的に検討すべきである。何をもってして正当な理由ありとするか。これがプラスチックを利用する際の重要な検討事項である。焼却にあたって、非意図的な有害物質の発生が無いことといったことも、正当な理由のひとつの要素である。
 プラスチックという材料の特殊性を述べてきたが、一言でいえば、プラスチックという材料は、どのようにライフサイクルシナリオを設定すべきであるか、未だに社会的合意の無い材料であると言える。大量消費大量廃棄社会を前提として、その中で利便性だけを追及して使用されてきた材料であると言える。大量消費大量廃棄が社会的に容認されにくくなっている現在、どのようなライフサイクルシナリオを設定するのか、再度基本にもどって検討をすることも無駄ではあるまい。

2−3.部品再利用の価値からみた廃家電製品
 米国などでは、古いパソコンのプリント配線坂を収集して、そこに実装されているICを再利用するという業者もある。また、ドイツジーメンス社では、パソコンを完全に部品レベルにまで分解するという試みを行ったようである。これらのICは、保守用としてあるいは、玩具ようなどに再使用される。
 日本では、このような市場があると考えられていないようである。その理由の第一は、企業が日本の消費者は故障に対して厳しいといえるようで、製造者は、もしも中古部品を使っていることが「ばれた」とき、そのイメージダウンが決定的になりうると考えているようである。
 しかし、OA製品のように、自社で保守をすることが基本になっているような商品では、マージンを十分に与えて部品を設計し、再利用することも普通になりつつある。
 半導体製品についていえば、長時間使ったとしても、寿命と考えられるような変化は起きないから、再利用によって不利になるとは考えにくい。勿論、分解時や実装時に熱がかかったり、手荒い取り扱いによって、機械的なダメージが生ずる場合も有るので、なんとも言えない部分はある。
 パソコンに使用されているCPUについては、確かに玩具などへの再利用が可能であると思われる。しかし、最近の半導体はどんどん専用化する傾向がある。すなわち、半導体の進歩そのものが、再使用と相入れないとも言える。

2−4.その他の材料の価値
(1) ガラス
 ブラウン管に使用されているガラスは、画面の部分がバリウム、ストロンチュームを含むガラス、ロート状になっている部分が鉛を含むガラスである。要するに、2種類のガラスを張りつけてブラウン管は作られている。
 窓用などのガラスとは違って、元素的には貴重なものを含んでいるから、リサイクルは是非とも行いたいところであるし、また、鉛を含むものは有毒性の問題がある。
 しかし、特殊なガラスであるために、またブラウン管に戻すしか方法がなく、テレビの項で後述するように、量的な観点からみても、100%リサイクルは有り得ない。

(2) 配線基板
 配線基板による配線方法は、プラスチック系の板に銅箔を張りつけ、エッチングによって回路をつくったもので、電気・電子機器の大量生産は、この方法によって初めて可能になったと言える画期的な方法であると言える。ここに使われる材料は、したがってもともと複合材料であって、リサイクルの観点から見たときには、不利なものである。
 しかし、これまでは配線基板はリサイクルがよく行われている材料でもあった。その理由は、高価な配線基板では、接点の部分に金メッキがされており、金の回収のために、プリント配線基板を処理することが行われてきたからである。1トンの配線基板に3グラムの金が有れば、処理可能とされてきた。パソコンなどに使用されている配線基板についても、少なくとも80年代までのものであれば、金の含有量はある程度あったが、最近では接点部分の金メッキが、ハンダメッキになっているものもあって、経済的な視点からリサイクルに値する配線基板は消えつつある。

2−5.中古製品として価値
 リサイクルの最大の原則は、なるべく、そのまま使うこと、である。容器についていえば、リターナブルボトルが理想的(ただし原則的には)である。家電製品についても、中古品をそのまま利用することができれば、それが最も理想的である。しかし、日本における家電製品の中古市場は十分とは言えない状況にある。自動車の中古市場が確立していることと対象的である。さらに日本の特殊事情として、修理費の高さ、すなわち、人件費の高さがある。すなわち、一旦故障した製品を再生して中古市場に送ることはできず、家電製品の中古市場が有ったにしても、新品同様の製品に限らざるを得ない。
 日本で廃棄される電機製品は、テレビで年間2000万台に及ぶ。しかし、廃棄物処理業者からの情報によれば、どうも廃棄物のかなりのものが、廃棄されずにどこかに蒸発しているとのことである。噂では、アジアのどこかに流出しているとのことである。
 廃棄物を海外へ移動させることは、バーゼル条約に抵触する。しかし、有価物で、先方で再利用されると考えれば、環境面からみると有利であって、この方法を否定するのは難しい。

3.廃家電製品の負の要素
 2章で述べたように、廃家電製品には、一部、有価物としての資格を有する部分が含まれている。しかし、負の価値が多いのも事実である。どのような負の要素があるのだろうか。

3−1.有毒元素源としての廃家電製品
 廃家電製品に含まれる各種元素には、いくつかの有害元素がある。例えば、鉛、亜鉛、アンチモン、マンガン、ヒ素、水銀などなどである。量も考慮すると、中では鉛が最も問題になる可能性があるだろう。
 鉛は、古典的な有害元素である。鉛食器がローマ文明を破壊したという「伝承(?)」もあるぐらいである。廃家電製品に含まれる鉛は、ハンダという形で含まれている。ハンダは、スズと鉛との合金であって、鉛は中性の水には溶け出さないが、酸性になると溶け出す。pHが4になると、10mg/リットル程度の濃度まで溶け出してくる。
 最近の酸性化の影響で、酸性雨のpHも4程度であれば、それほど驚くに値しない。すなわち、放置された廃家電製品に酸性雨が降り注げば、鉛分が溶け出して、地下水や河川に流れ込み、最終的に人体に摂取される可能性がある。
 アンチモンの毒性は、まだ未確定の部分が多い。アンチモンは、プラスチックを難燃化するために添加される場合がある。特に、パソコン用のモニターには、難燃化したプラスチックが使われているのが普通である。
 その他の元素で、微量でも有毒と考えれるものは、ヒ素と水銀であろう。ヒ素はガリウムヒ素として、次世代半導体の有力材料である。携帯電話には、ガリウムヒ素で作られたICが使われている。しかし、その量となると極めて限られているのも事実である。水銀についても、用途としては、蛍光灯用が多いかもしれない。となると、一般照明用の蛍光灯を問題にしないで、家電製品に使われているものだけを問題にするのは、的外れであろう。蛍光灯1本に、10数mgの水銀が含まれているが、それは放電を持続させるために必須であるからである。
 ヒ素と水銀については、日本の地質からみると、バックグラウンドが高いことで有名な有害元素である。ヒ素は、ヒジキに大量に含まれていることからも分かるように、海水中には大量に存在している。海底に堆積した土壌からは、したがってヒ素が大量に含まれている。水銀についても、火山から放出される量がかなり多い。となると、人為的に放出されるヒ素、水銀がバックグラウンドの値を高めることが確実であるかどうか、これが、どのような対策を取るかについて、決定的要素のようである。

3−2.有機系有害物質を含む家電製品
 有機系有害物質としては、古くはPCBなどを含む製品もあった。しかし、現時点では、そのまま人体に有害であると断定でいる物質を含む製品はまず無い。しかし、冷蔵庫の冷媒フロンのように、環境に影響を与える物質、あるいは、塩素や臭素を含有する場合には、焼却条件が不適切であれば、ダイオキシンやPAH(多環芳香族)などの物質を非意図的であるとはいっても生成する可能性がある。
 より具体的に言えば、冷蔵庫に使用されている断熱材は、発泡プラスチック(ポリウレタン)であって、その発泡剤にはフロン類が使われていた。冷媒としてのフロンとことなりこのフロン類を回収するのは極めて困難である。閉鎖空間で破砕するか、あるいは、高温にしてプラスチックを分解するといったプロセスが必要となるため、フロン回収の対象となっていない場合が多い。このようなプロセスはすでに開発されてはいるが、実際に使用されるかいなかは、もっぱら採算性が決めることになる。後述するように、これらのシステムを使う方向に社会的な仕組みを作り上げる必要があるだろう。

4.家電製品の回収・リサイクルに経済性はあるのか
 2章、3章に述べたように、廃家電製品の正の価値は、極めて限定的である。一方、負の価値はかなり大きい。となると、リサイクルシステムが経済的インセンティブでうまく回ることは考えられない。しかし、環境の観点から適正処理を行うとしたら、そのための管理費がこれまた相当にかかる。さらに、使用者から処理業者への輸送コストもばかにならない。
 要するに、現在の日本においては、回収・リサイクルが経済性を持っているとはとても思えないのである。しかし、一方で最終処分地不足といった状況があり、社会全体の利益のためには、回収・リサイクルを行わざるを得ない。このような状況では、誰かがコスト負担を行うシステムを作る必要がある。
 誰がコスト負担をすべきであるか。答えは簡単で、それは消費者である。なぜならば、受益者負担がこの場合にも原則となるからである。現在の廃棄物処理費用は、場合によっては地方自治体負担しているように見えるが、その財源はといえば住民税であって、結局のところは消費者が負担をしている。
 そこで、問題となるのは、どのような形式で消費者がコスト負担をするのか、ということに尽きる。

5.消費者のコスト負担の方法
 消費者がコスト負担をすることは良いとして、どのような金額をどのように負担すべきであるか、となるとこの問題に関する合意はまだ何もない状態である。まず、どのような方法があるかによって分類をしてみよう。

(1) 廃棄時に消費者が負担する方法
(2) 購入時に消費者が負担しておく方法
(3) 2の方法の拡張として、デポジット制も導入する方法
(4) 1、2を組み合わせた方法

 以下、それぞれについて、検討してみる。

5.1 廃棄時に消費者が負担する方法
 現時点では、大型テレビ、大型冷蔵庫、などの例外を除いて、電機器具の廃棄は自治体がその責任において行っているため、無料である。それを引き取った自治体がどのような方法で処理処分を行っているか、これは、まさに自治体に任されている。
 廃棄時に消費者が負担する方法の基本的な枠組みは、現時点の枠組みの延長線上にある。今、地方自治体に無料で引き取ってもらっている代わりに、引き取り時に若干の手数料を支払うことが消費者から見た違いである。しかし、処理側から見れば、かなり異なる。すなわち、処理の責任が、これまでの廃掃法の枠組みとは全く異なって、製造者がその責任を背負うことになる。すなわち、地方自治体は収集に義務は残るかも知れないが、処理責任は持たなくなるだろう。となると、もしも地方自治体が処理をした場合には、製造業の責任を代行したということで処理料を受け取ることになるのだろうか。それとも別の仕組みを考えるのだろうか。
 消費者が処理費を払うのであるから、その処理が適正に行われることをなんらかの方法で保証する必要がある。そのためマニュフェスト制が採用されることになるだろう。消費者は、マニュフェスト伝票を購入し、それに記入して処理を依頼する。そして、最終処理が行われるまで、この伝票が着いていくことで、適正処理を保証しようという方法である。しかし、これで適正処理が本当に保証されるか、まだ多少の不安はある。となると、別の方法によって、最終処理業者が自らの正当性を常に主張することが必要になり、ISOの14000を取得するような業者がでてくることになるだろう。
 この方法によって、それぞれの製品の処理料がやり取りされることになるが、どこに頼んでも料金が同じという方式は、恐らく独占禁止法の観点から見て、問題視されるであろう。となると、最終処理の内容によって、処理料が異なるという状況になるかも知れない。先日発表された家電製品協会の試算によっても、リサイクル率を高めれば高めるほど、処理料が高くなると主張されている。これは恐らく事実であろう。特に、プラスチックのリサイクル率を高めない限り、全体としてのリサイクル率が高くならないから、手分解と手分別をどこまでやるか、これが鍵になりそうである。しかし、サーマルリカバリーをリサイクルと定義することが行われれば、状況はかなり異なるだろう。
 となると、面白い商売のやり方が有りうる。すなわち、当社に依頼してくれれば、他社よりも高度な処理を行い、その結果総合的な環境負荷を下げることができます、といった広告を打つことである。このような広告に敏感に反応する消費者は未だ少数であろうが、徐々にそのような消費者も増えることが期待できる。

5.2 商品購入時に消費者が負担をしておく方法。
 廃棄時に消費者が処理料を負担する方法で、すべてが上手く行くのだろうか。多少問題が無いわけではない。まず、第一に、不心得者による不法投棄が増える心配がある。どの程度の不法投棄が行われるか、これはやってみないと分からないが、確かに心配な要素である。第二が現在アンダーグラウンドで行われている第三国への中古品の輸出が止まることである。これがデメリットであるのか、そうではなくて、トータルな環境負荷を下げている行為なのか、異論はいくらでもありそうではあるが、マニュフェストが完全に施行されれば、中古品の適正利用はできなくなる可能性がある。第三の最大の問題点が、廃棄による環境負荷を下げる製品作りに対する製造者へのインセンティブが無くなることである。すなわち、廃棄時に必要な金額が消費者から確実に取れるのであれば、廃棄による環境負荷が高い製品でも高額な処理費を取れば製造者にとって問題はないから、使用部品や化学品のスクリーニングなどもいい加減になる可能性がある。すなわち、消費者としては、買うときにその商品のライフサイクルコストに対する不安をもつことになる。極端な話、売価が1万円のテレビでも、廃棄時に2万円 払う可能性があることを否定しきれないのである。
 上述の3種の問題点のうち、第一と第三の問題点を解決するには、製品購入時にすべてのコストを支払ってしまうというやり方がある。この方法によれば、少なくとも消費者側としては、完全に清算がすんでいる訳で、安心である。
 しかし、無条件にこの方法が最良であるとは言えない面がある。すなわち、購入時に処理費の清算が終わっているということは、他の処理事業者の参入が難しく、可能であるとしても、製造メーカー・輸入業者からの下請けという形を取らざるを得ないことである。これは、現在すでに操業を行っている優良な処理業者が存続できるかどうか、という問題を生ずることになる。
 さらに製造メーカーや輸入業者が、その商品の寿命の間、安定して存在しているかどうか、という問題である。家電製品の製造業者は、一般に大企業だから問題は少ないが、輸入業者は必ずしもそうとは言えない。もしもある輸入品のテレビを消費者が購入し、不要になったときに処理をしようとすると、処理費を受け取ったはずの輸入業者がすでに消滅しているという事態を招いていることも可能性として皆無ではない。となると、第3者機関によって、ある程度の保証を行うことが重要になる。このような保証機関を作ることは、管理費の高騰を招きがちであり、結局消費者の負担が増える可能性がある。
 この方法を採用した場合に、税制上の問題も生ずるとの指摘もある。処理費を消費者から預かっていることになるが、これを所得と見なすのか、あるいは預り金だと見なすことが許されるのか、多少微妙である。
 この方法を製造業者が採用したくない第一の理由は、万一社会的な変化が起きて、ある製品の処理に莫大な費用がかかることが分かったとき、その負担を製造者だけが背負うのはおかしいという考え方があるからである。例えば、フロンは、その初期には、環境的にも全く無害で、こんなにすぐれた化学製品はないという理解であった。それが、余りにも安定性が高い故に、オゾン総の破壊を招く要因になった。そして、その処理に要する費用を負担すべきだという議論が起きたとき、製造業者は当初考えてもいなかった事態に直面することになる。廃棄時に必要な費用を諸費者から負担できるという原則にしておけば、このような事態は回避できることになる。
 製造業者側にとっても、不利な点ばかりがある訳でもない。例えば、製品を販売するときに、5000円の処理費用を見込んでおき、実際に処理をするまでの技術的な改善によってコストが削減できたとしたら、そのコスト削減分は、すべて製造者の取り分になる。すなわち、より合理的な処理方法を開発することへのインセンティブがある支払い方法であると言える。
 社会全体として見れば、不法投棄のような事態を招くことはなく、また、消費者がその機器を不要だということになった時点での負担もないので、比較的欠点の少ない方法であるように思える。
 とはいっても、このような方法は、製品を使用を止めたときには、メーカーに戻すという合意契約が存在している方法であるとも見ることができて、ユーザーは、ある種の使用権を買い取っただけで、ものの所有権は使用中にも製造者型にあるという解釈も可能である。すなわち、資産の所有に関して、新しい枠組みを提案しているとも理解できるため、現実にこの方法によって処理を行うには、かなり広範な議論が不可欠でもある。

5.3 購入時と廃棄時の両方に支払う方法
 基本的な処理にかかる費用と、管理費などの費用を、購入時に負担しておき、廃棄時には、輸送費と購入時以降に新たに生じた社会的な変化や義務で追加的に負担すべき費用を負担する方法というものも有り得る。
 すなわち、社会的な状況に大きな変化がなければ、この商品に含まれている金額で処理を行いますという宣言を製造・輸入業者にやってもらうことに相当する。このような宣言が難しいという議論がある。「廃棄まで5年から12年もかかる。将来のリサイクル費用は算定できない」というのである。しかし、その論拠となっていることが、実はすでに述べたように、フロン回収を念頭において時代的・社会的要請が変化するということなのである。したがって、時代的・社会的要請の変化に関しては、別途判定基準を設けて修正を可能にしておけば、製造側にとっては論拠が無くなる。
 廃棄時に消費者が負担するという、現通産省案を採用した場合でも、販売時には、処理費用の目安を売価を並べて示すことが求められるだろう。そうでなければ、消費者としては、安心して買うことができないからである。その処理費用があくまでも目安であるとするのか、そうではなくて、ある程度の強制力を持たせるのか、これが主たる違いであるが、購入時&廃棄時負担の優れた点は、強制力と同時に、やはり上に述べたリサイクルプロセス改善のインセンティブを両方持たせることができる点であろう。
 当然のことながら、廃棄に際して消費者がある部分を負担するのであるから、廃棄しても費用がかかるなら、修理をしてもう少々使おうという考え方を持つようにもなるだろう。
 この方法は、廃棄時あるいは購入時だけに消費者が負担するという方法と比較すると、比較的欠点が少ないように思える。しかし、両方の欠点を持っているという解釈も有りうるし、また、「2回も」ということ、すなわち「面倒である」という欠点を有しているとも言える。

5.4 デポジット制の併用 
 製造業にとって、確実に手元に製品が戻ることを保証したい場合には、デポジット制を採用することがベストである。不法投棄などの不適正処理を防止するにもデポジット制が最良である。
 しかし、一般に製造業側にまかせておくと、デポジット制採用しようという動きには決してならない。やはり、100%製品が手元に戻るよりは、多少でもどこかに流れた方が楽であるとの考え方があるからだろうか。

5.5 地方自治体をどうするのか
 これまでの廃掃法によれば、地方自治体が廃棄物の処理に責任を持っていた。しかし、このようなリサイクル法ができれば、製造業者・輸入業者が責任を持つことになる。地方自治体がこれまで費用負担をしてきたものが、これからは消費者の費用負担によって、製造業者・輸入業者が責任をもって実行するとしたら、地方自治体に住民税の形で支払っていた処理料がそのまま残れば、消費者にとっては、処理料の二重払いになる。消費者は、住民税の割引を請求できるように思える。
 さらにいえば、地方自治体としては、廃電気製品リサイクルによって、最終処分地の延命が可能になって、メリットが出る。
 家電リサイクル法案ができたらば、消費者が次に取るべき行動は、地方自治体はどうするのかという問いを発することであろう。


6.処理方法の違いとその特徴・欠点
 処理方法を体系的に論ずるのはなかなか難しい。リサイクル率をどの程度に設定するかによって、処理法が異なる。ここでは、手作業をどのぐらい必要とするかを中心にして、議論を進める。

6.1 製品別のリサイクル適否
 四品目を同じ土俵で議論するのは、余りにも大胆すぎる。それぞれの製品について、特に注意すべきことが異なるからである。50%のリサイクル率を確保することを目標にして考える。
(1)テレビ
 まず、テレビであるが、現在のリサイクル率はわずか7%程度とされている。テレビ最大の部品がブラウン管で、ガラス製のため重く重量の50%程度を占める。ブラウン管用のガラスは、鉛やバリウムなどの重金属を含むため、通常のガラスのリサイクルルートとは全く異なった取り扱いを行う必要がる。ガラスを100%古いガラス(カレット)から作るのは不可能である。いくらがんばっても品質を確保しようとすると、カレット使用率70%程度になると思われる。現時点で、テレビの生産拠点がかなり海外移転したために、日本には相当数のテレビが輸入されている。そのため回収されるブラウン管用ガラスををすべてリサイクルすることは不可能である。まず、50%リサイクル程度と考えた方がよいだろう。となると、ガラスを除く他の材料で50%のリサイクル率を確保する必要がある。ところがテレビは、金属製品の使用率が10%以下である。すなわち、プラスチックをリサイクルする以外に50%をリサイクル率を達成する方法はない。
 プラスチック材料は、古くなると特性がかなり変化する。となると、テレビの場合には、50%のリサイクル率を確保しようとすると、サーマルリカバリーを考えないと難しいだろう。

(2)エアコン
 エアコンには、アルミニウムの放熱器、冷媒を送る銅製のパイプ、コンプレッサーといった金属部品が多く使用されている。そこで、現在でもリサイクル率が32%程度になっている。しかし、これ以上のリサイクル率を達成しようとすると、やはり、プラスチックの再利用が鍵になる。

(3)洗濯機
 洗濯機の場合には、構造材料が鉄板であって、それにモーターがあるだけと言っても良い構成である。現時点におけるリサイクル率は27%程度である。問題になるのは洗濯槽であろう。2001年に廃棄に回る洗濯機は、おそらくガラス繊維強化の槽を使用しているはずで、この材料のリサイクルはほとんど不可能で、エネルギーリカバリーがせいぜいである。ここ数年で、ステンレスを洗濯槽に利用することが始まったが、この材料は高価であることもあって、リサイクルに回るであろう。ステンレス製洗濯槽を使用されたものがリサイクルに回る時期になれば、リサイクル率50%は、比較的容易に達成可能であろう。

(4)冷蔵庫
 冷蔵庫のリサイクルは、外板の鉄、放熱器のアルミ、コンプレッサーの鉄、パイプの銅、というところである。これらが大体30%弱含まれており、リサイクル率は現在25%程度である。冷蔵庫の最大の問題は、断熱材に使用されている発泡ウレタン系の樹脂と、その泡の中に含まれるフロンである。リサイクルを推進する以上に、フロン対策をどのように考えるかを重点課題とすべきであるように思える。


6.2 処理方法による違い
 分別をどの時点でどのように行うか、これが取り組み方の方針を決める最大の要素である。
(1)シュレッダーによる粉砕を主力とする方法。
 分別を自動的に行う場合には、磁力選別によって鉄を分け、誘導電流によってアルミと銅を分け、比重の違いによって風力選別を行うといった方法を選択することになる。そのためには、同じようなサイズに切りそろえなければならない。
 このような方法を採用するからといって、なんの手作業も行わないでシュレッダーに掛ける方法では、ブラウン管のガラス、配線基板の鉛をどうするかといった問題の解決ができず、そのままシュレッダーダストとして最終処分場へということになる。 
 そのため、ブラウン管、配線基板は手作業で取り外し、コンプレッサーはフロン処理のために別途処理をするといった方法が最低限必要となる。
 このような方法で選別される鉄、アルミ、銅などには、どうしても他の材料が混じるが、それでも金属精練のプロセスでなんとか処理が可能である。しかし、プラスチックが一体になってしまうために、このプロセスではサーマルリサイクルに回すしかない。

(2)手作業を主とする方法
 手作業で、可能な限り分解を行って、細かく選別する方法を取れば、95%を超えるリサイクル率を達成することが可能ではある。金属類の選別には、それほどの問題はないが、プラスチックの選別が大問題である。プラスチックには、表示がないものが多い。例え有ったとしても、選別過程はまさに一瞬で行う必要があるから、表示をよくよく探すといったことをやる暇はない。そこで、なんらかの自動判別装置を導入する必要がある。

(3)ガス化をまず行う方法
 高温で蒸し焼きにして、プラスチックなどの有機成分をガスにして、燃料にする方法である。金属のすき間などにプラスチックを流し込んであるような場合などでも、この方法によれば処理が可能である。しかし、プラスチックのマテリアルレベルでのリサイクルはまったく不可能な方法である。金属製品の分別は、その後、シュレッダーに掛けても可能ではあるが、蒸し焼き状態になった家電は、塗料のほこりにまみれているような状態だから、手作業をそれから行うことは不可能のように思える。

7. まとめ
 廃家電のリサイクルの最大の意義は、大量消費・大量廃棄時代に終わりを告げる宣言だということである。実際に行うための仕組みをいろいろと考えてみても、これならば完全だという方法はないように思える。だからといって、現時点で何もやらないよりは、何か行動をすべきである。市民に環境に対する意識を持ってもらうには、知識を幾ら伝達してもそれだけでは駄目で、ある種の体験をしてもらいながら、次を考えることがもっとも重要である。法案には、5年後には法の見直しを行うという言葉が追加されるようであるから、日本の法案としてはめずらしく「歩きながら考える」タイプの法案になりそうである。環境問題のように多体問題では、最適な解が僅かな条件の変更によって異なる可能性もある。「歩きながら考える」ことは、重要な知恵の一つである。


追加:04.22.98

表を追加します。

コスト負担の優劣比較

リサイクルコストや輸送費、管理費などをいつ消費者が負担するか、による優劣比較表。

現在の法案のままだと、廃棄時に消費者が負担する方法になるが、その方法は、地方自治体にとってはプラスであっても、消費者にも製造者にもプラスにはならない。
廃棄時 販売時 両方で支払 デポジット併用
消費者側
ライフサイクルコストが分る ×
永く使う気になる ×
不法投棄を考えさせない ×
自治体側
現在の制度の維持 × × ×
コストの削減
最終処分地の延命
住民税の低減 × × ×
製造者側
改善インセンティブ ×
負担額の限界が見える ×
消費者の管理 ×
処理業者
適正処理による適正収入
優良業者の育成 ×
社会全体
制度の維持が可能
再利用による総負荷の減少 ×