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諫早干拓と長野ダム問題  03.10.2001




 日本における最近の環境問題の一つの特徴が、自然保護への動きだろうか。諫早干拓の現場、有明海では海苔の色落ちが漁民の生活を脅かしている。何か関連がありそうな感じではあるが、因果関係を科学的に証明することは不可能な問題だろう。田中知事のダム反対では、国土建設省などのダム推進派との今後の厳しいせめぎ合いが予想される。
 実際のところ、自然破壊の是非は極めて難しい問題である。人間の生存というものが何なのか、どこまで自然の改変を許すことができるか、その議論から始めなければならないからだ。この議論は、大里さんとおっしゃる方のご要望にお応えして、若干、躊躇しながらのHP化である。

 滋賀県の三和さんから解説をいただきました。大分時間が経ってしまいましたが、掲載いたします。


C先生:このところ環境汚染問題がなんとか治まっていて、むしろ自然保護問題が話題になっている。われわれは、この問題に対して敢えてコメントをしないで来た。本音を言えば、この手の問題は、本HPの対象外としたいぐらいである。それは正解が無いからである。しかし、「他の問題についても、正解は無いのに議論しているじゃないか」、と言われれば、確かにそうなんだ。

A君:いやいや、余りちゃんと状況を調べてないので、話ができない。海苔がなぜ色が薄くなってしまったのか。

B君:調べたって本当のところは分からないのだから、同じだろう。この手の問題は、科学的な因果関係を証明するのは不可能だと思った方がよい。だから、ここでは、あの手の潮受け堤防を建設する意味があったのか、無いのか、といった議論しかできない。

C先生:多くの疑問点が解明できないまま議論していることは事実。ということで、様々な方々からの情報提供をお願いします。恐々進めてみよう。

A君:諫早湾からですが、まず個人的な疑問点から。現地を見なければ駄目だ、と言われそうですが。まず、調整池から水の放出は行われているようですが、あの水の汚さ、BODなどが知りたい。テレビなどを見ていると、外側の有明海側は青いのに、堤防の内側の水は汚く見えるのですが。

B君:良くは知らないが、どうやら生活排水なども流れ込んでいるようだ。

C先生:水の色で判断するのは難しい。しかし貧酸素状態になっていても不思議ではない。単に泥が混じっているだけならまだ良いのだが、生活排水が入っていれば、有機物が過剰になっていて、酸素を消費しているだろうからね。

A君:もうひとつ疑問。あの堤防ができる前には、あの水は、例のムツゴロウの干潟で浄化されていたと考えられるのでしょうか。

B君:例の干潟の浄化能力がどのぐらいのものか、と言われてもなかなか分からないが、確かに浄化にはある程度利いていただろう。

C先生:干潟には、様々な生物が存在している。だからある程度の浄化能力が有るには決まっている。ムツゴロウが生息していた場所は水が多すぎて、当然植物は無かったろう。だから、狭い範囲内で循環系を形成していたか、それは疑問。しかし、写真などを見ると、その周辺に水性の植物はあったように見える。

A君:それは生態系として定常的に存在するには、エネルギーが回り、物質が回り、そして、エントロピーが若干低減されることが必要ですから、循環に必須な植物資源は周囲のものを使っていたのでしょう。

B君:いずれにしても、有明海に注ぐ水の状態は、今の状況よりも浄化されていたと思って良いのではないか。すなわち、適当量の有機分を含む水が定常的に流れていた。しかし、今は、干潮時にだけかなり高い濃度で有機分を含む貧酸素的な水が水門からどっと出てくる。そうだとすると、あの堤防の近くに有機物を好気的に分解する細菌などが、満潮時には貧栄養状態になって休んでいるが、干潮時に栄養分が放出されと、それを一気に食い尽くそうとして活動。そして結果的にはもっと貧酸素状態になる。恐らく、海水中の酸素濃度が大きく振れているのでは無いだろうか。こんな状態では、生態系としては苦しいだろう。どんなものも適合できないのではないか。

C先生:そんな状態が起きていそうな気がする。しかし、全く自信がないので、専門家の方のコメントをいただきたいところだ。

A君:そんな状態であれば、食物連鎖の上位にある生物、例えば、貝などは生きることが難しいでしょう。

B君:海底の様子をどこかで見たことがあるが、どうも貝は生存してなかったように思うが。

C先生:そんな状況を改善すべく、堤防の内側の水を浄化するために、なにやら浄化用の船を浮かべるらしい。そんなことで、生態系のリズムを無視した状況が直るとも思えない。

A君:何隻浮かべるのでしょうか。

C先生:今のところ3隻?

B君:ちょっと甘いのではないか。

C先生:生態系とつきあう最大の原則が、変化の速度だろう。人間が生態系をいじる速度が速すぎるとかならず問題を起こす。今回の潮受け堤防のギロチンは、その象徴だった。有明海のように干満の差が大きいところでは、人間側の都合としては、一気にやらないと工事が旨くいかない。しかし、生態系側はたまったものではない。

B君:将来は、堤防の外側に干潟ができるという話もあったように思うが、干潟ができてもこんな状態だと生態系ができるのだろうか。

A君:今回の干拓事業で、農地が不要なのに作ったということは絶対的な事実で、馬鹿げているのですが、この潮受け堤防で、伊勢湾台風なみの高潮でも防ぐことができて、防災上大変に重要ということは、どこまで本当なんでしょうか。

B君:それは、あり得ることだが、それなら水門を閉めておく理由はない。高潮が予測されるような事態になったときにのみ閉めれば良い。

A君:それは無理という話があるじゃないですか。干満の差が大きすぎるから、水門を流れる流速が速くなって、危険すぎるという。

C先生:いや、それなら現在の排水だって旨く行かないはず。適当な速度で行うように制御が不可能とも思えない。ただ、外から流れ込むのは設計の想定外の事態だから、調整池の底がえぐれて堤防が壊れるという噂もあるようだが。

B君:例え現状では駄目でも、もっと水門を増やせば解決する問題だろう。

C先生:防災に関して、推進派の主張をまだきちんと整理していないのだが、余り合理的な理由があるとも思えない。最近、防災というものについても、特に、河川の治水についても考え方を多少変えつつあるのも事実。河川の氾らんを無理矢理押さえ込むのではなくて、なるべく無害な形で氾らんが起きるようにすることが、より賢い方法だと考えられるようになった。コンクリートの護岸だけが万能だとか、また、直線的な河川だけが良いという考え方でもなくなりつつある。

A君:長野県のダム問題はどうなんでしょうか。これは特定のダムが問題というよりも、むしろ一般論として、ダムというものの効用と生態系破壊といった悪影響とのバランスような気がするのですが。

B君:洪水の防止にダムが利くというのは、ある程度歴史的に証明できていると思われる。しかし、洪水を本当に抑え込むべきかどうか、と言われる、ナイル河は洪水を起こしながら、農地を肥沃にしていたという歴史的な事実もあって、これまたなんともだ。うまく共生できるように、という対処法が本当は賢い。

C先生:人間側の問題だとも言える。都市生活をしてしまえば、洪水などは迷惑以外の何者でもない。だから力ずくで抑え込むという方針が採用される。農地を肥沃にするには、化学肥料で良いという理屈になる。これが20世紀流だった。21世紀流がどのようになるか、それがこれからの議論だろう。

A君:長野県のダム問題で、田中行政にもっとも反発しているのは、国土交通省でしょうが、それは当然ですよね。

B君:それはそうだ。河川をどう変えるかは俺達の権利だと思っているからね。省庁間でもっとも問題になるのが、省庁の権限争いだ。これは我らがテリトリーだ、という争いだ。自治体が、そんなものに口を出すな、だろう。

C先生:そろそろ土木工事の意味について議論をしなければならないようだな。ときどき、このHPでもちょっとだけ出てくるが、現代日本というものは、完全なる土建国家になってしまっているのだ。それは、農業政策の失敗とも言えるが、日本の農業就業者数は、1960年1273万人、1995年340万人と35年の間に7割減だ。この7割、ほぼ1000万人がどこに行ったのか。それが土木工事だ。現在、土木工事を止めたら、食えなくなる人が多いということだ。

A君:その土木工事を発注するのが、補正予算という訳ですね。

B君:確かに。

C先生:我が東大生産研の新しい建物ができたのだが、これだって補正予算のお陰。3月末までに全部引っ越すことが決まっているが、まだ、A棟という事務・教育棟ができていない(予算が認められない)。したがって色々不便だ。しかし、これだって、補正予算が無ければできないだろう。

A君:だとすると、諫早湾の潮受け堤防工事、干拓工事も、雇用対策だということになりますね。

B君:最近、ITだ、ITだ、e−社会だ、と騒がしいですが、実は、ITでは雇用の確保は難しい。若年層で、しかも特殊な技能がなければ、IT関係に職を得るのは困難だから。

C先生:その通り。最近の製造業は、国内に雇用を確保することよりも、資本の論理に従って営利を追求するだけの組織に成り下がっている。ユニクロを賛美する人がいるが、あれは大間違いだと思う。

A君:我が社も、やはり海外の安価な労働力を使って色々な製品を作っていますから、なんともなんですが。やはり、日本における雇用を確保するという意義をもっと企業として考えるべきようにも思います。

B君:最近、米国流の企業観、すなわち、「企業でもっとも重要なことが株主に対する貢献だ」、とか言うことが一般的にも言われるようになった。昔の終身雇用制度は崩壊したとか、格好の良いことが言われる。しかし、日本という場で雇用が確保できないような企業は、存在価値が無いのではないだろうか。

C先生:日本コミュニティーへの貢献という考え方が重要。しかし、この話、別のところでやろう。土建国家日本はどうすべきか、という議論に戻ろう。

A君:やはり農業を国内産業として復権する。

B君:それは難しい。ちょっと農業関連の機構が肥大しすぎていて、農業を復権すると、無用な金が掛かりすぎる。一旦農業を全滅させてから、再構築しないと。

C先生:過激だな。しかし、国立の研究所などが、この4月から独立行政法人化するが、そのうちで最大の人員を抱えているのが農水省関係の試験所・研究所などなんだ。そんなに居てどうするのだ、という人数であることは事実だ。

A君:となると、やはり、土建国家は仕方がないということですか。それなら、自然の改変を行うしかない。

B君:農業と自然の改変でちょっと一言。人間の生存にとって、自然の改変をもっとも行う必要があるのは、食糧の生産だ。とにかく面積が必要なんだ。農業関係者は、それを環境保全だと言うかもしれないが、食糧生産のために米国だって、ほとんどすべての地面が農地・酪農用地になっている。

C先生:農業を復権しても、それによる自然の改変は止まらない。すでに、開発されたところにさらなる改変を持ち込むのはあり得るのか。あるいは、地下工事だけに限定することはあり得るのか。

A君:東京湾トンネルみたいな工事は、自然の改変では無いのでしょうかね。

B君:あれだって立派な改変ではあるが、もともと地下は人間の目に見えないところだから、改変に見えないだけではないか。

C先生:地下50mに住んでいる生物は少ないから良いとされているのではないか。

A君:それなら、すべての工事を地下工事に向ける。東京都の電柱をやめて、全部地下に埋設する。

B君:いやいや。それは駄目だ。誰がその利益を得るかだ。日本の政治構造からいって、土木工事は票になる。これが自民党政治。一票の価値が大きいところ、すなわち、非都市部に利益が落ちなければ意味がないのだ。過疎地帯で地下工事をやってどうなるのだ。誰にも利益が無い上に、票にもならないから、実施される訳がない。

C先生:確かに東京都の地下をいくら掘っても、雇用確保には限界はあるからな。現在、地下に高速道路を作る工事が、駒場キャンパスの近くで行われているが、あんな工事を地方でやる理由は無さそうだ。

A君:諫早湾に戻りますが、あの堤防をもう一度壊せば、それは土木工事になりますね。

B君:それは面白い。作ってすぐまた壊す。なるべく有明海に影響を残さないように、潮合いが良いときを狙って一瞬で元に戻す。そんな逆ギロチン方式を発明するのなら、新土木工事として技術的にも面白い。

C先生:冗談としては面白い。しかし、それをやるには、絶対的な無理がある。作ってすぐまた壊すとしたら、それは誰かが行政的責任を取らなければならない。誰も責任など、取らないだろう。

A君:米の軍隊と同じですね。何をやっても責任を取らない。

B君:結局、解決不能か。

C先生:根本的解決策は無い。ただ言えることは、「自然を雇用確保のためのおもちゃにすることは、馬鹿げたことだ」、ということ。やはり、静脈産業の確立による雇用確保が、当面の最善の策のように思える。場合によっては、製造業の日本国内復帰による雇用確保

A君:製造業の日本国内復帰をやったら、ビデオ・テレビが昔の価格に戻りますよ。普通のビデオが10万円。買う人が居ますか。

B君:まあしょうがない。車の値段は昔と余り変わっていないのだから、電機製品だって価格が不変でも当然だ、とも言える。

C先生:それには、まず、デフレスパイラルをなんとかして防止だ。金融機関をいくつか潰すようなリスクを冒すことによる経済再生が必要。ハードランディングが結局近道のように思えるが。それにしても、やはりユニクロ的ビジネスは存在自体が悪のようだ。


HPに関する私見をお送りいたします。

>海苔がなぜ色が薄くなってしまったのか
 植物プランクトンが異常発生した結果、海苔を養殖している海域の栄養塩分が不足したことによると言われています。
 植物プランクトンの異常繁殖の原因が諫早湾干拓工事と関係があるのかどうかが焦点となっています。

>あの水の汚さ、BODなどが知りたい
 潮受け堤防の締め切り直前から毎週農水省が水質調査をしています。(データは翌週に公開しています)
 現在は、COD:5〜7、T−N:2、T−P:0.2〜0.3(いずれもmg/l)程度です。ちなみに、潮受け堤防の内側の水域は調製池と呼ばれ、干拓完了後は農業用水の水源となる予定であり、アセスの目標水質はCOD:5、T−N:1、T−P:0.1となっています。
 堤防外でも調査が行われていますが、締め切りの前後で水質項目に大きな変化はありません。(これをもって工事が影響ないと考えるほどみんな馬鹿ではないと思いますが・・・)

>どうやら生活排水なども流れ込んでいるようだ
 諫早市をはじめ、周辺の町の生活排水が流入しています。
 ただし、流域が狭い(諫早市の生活排水の一部は大村湾に流入しているのです!!)ので、流域人口は約5万人です。締め切った部分の面積は3550ha、うち調整池は1710ha、調整池の面積だけでも諏訪湖(流域人口約18万人)の1.3倍くらいあります。
 長崎県は諫早湾干拓調製池水質保全計画を策定し、流域内の生活排水の大部分を下水道3次処理する計画としています。(アセス時は全量3次処理もしくは外海放流の約束だったが一部後退)

>貧酸素状態になっていても不思議ではない
 調製池は水門付近の最大でも水深が2m程度しかなく、岸からゆるやかに傾斜しています。(干潟だったんだから当たり前か)この地方は風が強いこともあり、水は比較的混合・拡散しやすい物理的条件にあります。汚濁は進んでいますが、それほど貧酸素状態にはなっていないのではないかと思います。また、排水されても、軽い淡水は海水の上を拡散するので、底層の酸素を消費するということも考えにくいと思います。(ただしヘドロの堆積はあるかもしれない)

>あの水は、例のムツゴロウの干潟で浄化されていたと考えられるのでしょうか
 そう考えてよいと思います。
 干潟の浄化能力については東京湾の盤洲干潟モデルなどいくつかありますが、干潟ごとにさまざまな条件があり、汎用的なモデルはありません(というかできない。この辺は、諫早湾干拓調製池等水質委員会の委員でもある広島大学の岡田光正先生がお詳しい。)
 また、諫早のアセスでは、通常の水質予測シミュレーションと違い、「海を締め切って淡水池にする」という条件であったため、調整池の水質の初期値が不明なまま将来水質を予測しています(つまり極めて不確定要素が多いということ)。このため、アセス書の提出時に環境庁は、工事中の適切な時期に再度水質予測を行うなどの検証(レビュー)を行うよう、農水省に意見を述べています。農水省は平成12年度よりレビューを実施しているはずです。
 諫早湾は干満差が6m以上もあり、嫌気、好気を繰り返す非常に大規模な天然の浄化槽だったと考えられます。実際、予想をはるかに超える干潟に棲む生き物の豊富さは、閉め切り後多くの人を驚かせました。
 諫早の干潟は、阿蘇の火山灰です。有明海を渡り、一番細かい粒子が湾の奥の方から徐々に堆積していったのが諫早平野の姿そのものです。

>あの堤防の近くに有機物を好機的に分解する細菌などが・・・・
 排水門直近ではそういうメカニズムも考えられないことはないと思います。ただ、一回あたりの排水量は実はそれほど多くはありません。先に述べたように背後地が迫っていて、流域面積が小さいので、雨がそれほど降らなければ、干潮時でも水門を開かないことだってあるほどです。逆にこういう地形だからこそ大雨が降るとすぐ水害が起こると言うことにもつながるのですが。

>浄化用の船
 以前には、アオコの回収装置を船に積むことなども検討したようです。
 今回の浄化用の船の詳細を承知していませんが、単なるポーズのために平気でこういうことをやる神経が私には理解できません。

>生態系とつきあう最大の原則が変化の速度だろう
 その通りだと思います。
 反対派のリーダーで、昨年亡くなられた山下弘文さんは、この地域が数百年前から少しずつ干拓を進めてきた(地先干拓という。そうして今の諫早平野ができた。)ことを引き合いに、自分は地先干拓には反対しない。こんなに思い上がった大規模干拓だから反対するのだということをおっしゃっていました。
 なお、諫早の干潟は阿蘇の火山灰が運ばれてきた結果出来上がったものなので、百年単位くらいの長い目で見れば堤防の外側に干潟が再生する可能性はあると思います。
 
>農地が不要なのに・・・
 本当にそうなのかどうか、私には実のところわかりません。
 ただ、長崎県という土地が、広い平野を求めているところ(県下最大の平地が諫早平野であり、これに次ぐのがどこかの離島の平野部らしい)であるのは事実で、「大規模な平たい農地で農業を展開したい」というのは、ある意味長崎県民の「悲願」ではないかと思います。
 HPの後半のB君の「人間の生存にとって、自然の改変を最も行う必要があるのは、食糧の増産だ。とにかく面積が必要なんだ。」は、まさに農水省および長崎県の主張そのものではないかと思います。

>防災上大変に重要ということは、どこまで本当なのでしょうか
 堤防が、防災効果を持つことは理論上は疑いのないところです。
 かつて水害を起こした、諫早市内を流れ、諫早湾へ流れる本明川は、普段は水量が少ない小河川ですが、大雨が降ると様子は一変します。諫早に限っては、「堤防じゃなくて上流にダムをつくればいい」という声が多いのも不思議な気がします。
 諫早湾周辺の農民にとって最も恐ろしいのは排水不良と塩害です。大雨と満潮が重なると海水が農地につかり、今まで多くの被害を受けてきました。堤防も、徐々に押し寄せる阿蘇の火山灰である潟土で、補修や排水路の確保が大変な負担となってきました。
 周辺農民の方にとって堤防の完成はまさに悲願でした。そうした方の「事業推進」の声は切実です。
 なお、堤防完成後も農地が冠水した、だから防災効果は疑問だという声もありますが、海水ではなく淡水による冠水であること、調整池の水位調節が適切であれば、比較的早期に水を排除できることなどから、堤防完成前と比較して、実際の被害は減ったと聞いています。(効果を定量的に評価する必要有り)

>それなら水門を閉めておく理由はない。高潮が予測されるような事態になったときにのみ閉めればよい
 それができない理由その1・・・大雨、高潮の予測を具体的にどのようにして行うのか困難です。排水できる時間は限られており、その操作マニュアルをつくるだけで相当時間がかかりそうです。
 それができない理由その2・・・堤防の内側は干拓し、農地になります。農地にするには土壌中の塩分をできる限り抜くことが必要です。したがって、農地利用という前提がある限り、堤防の内側に海水を入れることはできないのです。
 それができない理由その3・・・排水門の構造(正確には排水門周辺の水底の構造)が外部から水を入れられない構造になっています。
それができない理由その4・・・排水門周辺の流れが増すことにより、外海の排水門付近の漁場にあらたな被害を及ぼすおそれがあります。
 ・・・以上、農水省の回し者??的解説でした。

 いろんな意味で、現時点での工事中断には問題があります。
 この諫早問題に関しては、もはや「point of no return」を大幅にすぎた事業というふうに私はとらえています。もし、事業をやめるという選択肢があるとすれば、「干拓地の縮小」「潮受け堤防の道路としての利用」だと思います。でも、実はこれ、反対派がずっと前に示していた代替案なんですよ。

 さて、今回の騒動がどのように収束するのか見当もつきませんが、そこに果たす科学の役割を見極めたいと私は考えています。
 海苔と工事の因果関係なんて科学的に証明できないという前提の上で、どのような議論が成立するのか、密かに楽しみでもあります。