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「食べもの情報」ウソ・ホント:ファディズムへの反攻
                                 99.01.04
  






高橋久仁子著、ブルーバックス、98年10月20日発行、「著書御寄贈感謝→高橋先生」。

 ファディズムのファドとは、「fad=一時的な熱中、気紛れな流行」を意味する。著者は群馬大学教育学部教授。フード・ファディズムという言葉を用いて、現代の食物にかかわる民間伝承を一気に切っている。先日取り上げたアトピーと同様に、ある種のビジネス(栄養食品ビジネス、健康雑誌ビジネス、栄養補填ビジネス)などと絡んで、色々な思いが交錯する中で、マスコミがこれまた軽薄な情報提供を行うことで、複雑怪奇状況を作る。極めて環境問題と類似した状況。



C先生:フード・ファディズムという言葉は知らなかったが、どうも1950年代にすでに米国で存在していたようだ。今日はこの話だが、例えば抗菌問題がこれに近い状況。日本では、明らかに抗菌ファディズムがはびこっている。

A君:ファディズムが蔓延するにはいくつかの条件があると思うのです。まず、その国が経済的に余裕のある状態で、さらに言えば飽食のレベルにあること。さらに、文化的な伝統が軽視される傾向にあること。そして、もう一つ、「科学的なカタカナ言葉」が氾濫しているが、その実態を理解できるレベルの教養人が少ないこと。こういう状況を具現している国というと、当然、米国、日本ということになる。要するに、文明病・都会病の一つなのでしょう。

B君:米国と日本というが、実際のところは、米国の状況を日本が追いかけて、そして、今では追い越したのではないだろうか。1950年に米国ではすでにフード・ファディズムという言葉があったそうだが、その頃の日本の状況を考えれば、米国が先行していたのは自明。しかし、現在の米国のテレビの番組を見ると、ファディズムとは程遠いものが多い。日本のファディズムの元凶であるワイドショー的な番組が極めて少ないのが米国の現状だ。それに、米国には、全国的な新聞が存在しないし、米国の田舎はまさに地域と伝統を守る社会だから、ファディズムは成立しにくい。日本のように、余りにも均一で、全国どこでも同じ情報が流れているという国はない。日本は、全国的にこれ都市みたいなものだから。

C先生:先に結論を述べてしまえば、この本にあるような科学的な情報が理解できるような市民ばかりになると、ある種の商売が成立しなくなる。それでは困る集団があって、その中に健康雑誌などを筆頭とするマスコミも入っている。怪しげな情報を提供することができないと、その手の人々は失業だからね。失業してはたまらないということで、新しいなんらかのfadの種を見つけたいと、毎日毎日探しているのだろう。そして、何か見つかると、雑誌で、さらにテレビやチラシでこれを無料提供する。一方、この高橋先生のような情報は、単行本だけでしか提供されないが、fadに乗る一部住民はこんな教養本は買わない。すなわち、情報ギャップが見事に存在し、決して解消できない構造になっている訳だ。
 だから、このWebページをお読みの諸氏・諸姉が、「こんなこと知ってる? ××などは全く根拠がない」と口コミでfad撲滅役と反科学指向の防波堤役をやって下さらないと、いつまでたってもこんな状況は変わらない。害が全く無ければ良いのだが、過信して「健康食品」・ビタミンなどを取り過ぎると健康被害も出る可能性がある。本人だけが被害者になるのならまあ自業自得だが、子供達がそれに巻き込まれることは是非とも避けたいね。
 それでは、両君、高橋先生が切り捨てた民間伝承のリストを作って行こう。

A君:はい。ではいくつか。
(1)「砂糖とカルシウム不足」伝説。 → 根拠無し。
(2)「炭酸飲料で骨が溶ける」伝説。 → コーラ飲み過ぎで牛乳を飲まないため。
(3)「コーラとリン」伝説。 → 根拠無し。
(4)「化学調味料は脳に悪い」伝説。 → ナトリウム摂りすぎにならない適当量なら問題なし。
(5)「化学調味料忌避」傾向。 → 「化学=人工品」は毒というバカげた思い込み。
(6)「超高温殺菌牛乳たたき」 → 「生」が良いという思い込み。

B君:交代。
(7)「ハンバーガー体に悪い」 → +フライドポテト+コーラでは確かに糖質過剰
(8)「インスタントラーメン」 → これだけなら確かにバンランス悪い。
(9)「天然酵母」 → 人工の酵母など技術的に不可能。「天然」崇拝の一変形。
(10)「有精卵」 → 栄養的には全く差が無い。
(11)「オリーブオイル」 → 特徴はあるが単なる油のバリエーション。
(12)「有機食品」 → 不安に付け込む心情的なもの。
(13)「天然塩」 → 食品衛生的にむしろ疑問。

C先生:これからは、健康食品類。
(14)「クロレラ」 → 効果体験談による誤魔化しが大問題。
(15)「核酸による若返り」 → 痛風患者には逆効果。ダイエットは無根拠。
(16)「キチン・キトサン」 → 食物繊維だと思えば良い。吸着剤。
(17)「レシチン」 → 通常の食品で十分。
(18)「プロテイン」 →  同上。
(19)「ビタミン剤」 → バランス良い食事からの方がよっぽど良い。
(20)「カルシウム」 → マグネシウム・鉄などとのバランスが崩れる。
(21)「酵素」 → 経口摂取してもねえ。
(22)「アロエ」 → 薬理作用があるから逆に注意を要す。
(23)「イチョウエキス」 → 過剰摂取は危険。
(24)「プロポリス」 → 食べ物とは言い難い。こんなものなんで食べるの。

A君:またまた交代。今度は、効くのか? がキーワード
(25)「飲むコラーゲン」 → 食べて効くものではない。エセ科学が問題。
(26)「お茶で痩せる」 → 下痢をするから痩せるかも? むやみな天然混合品は危険。
(27)「ダイエット食品」 → 単一食品ダイエットは危険。
(28)「牛乳で安眠」 → 乳脂肪で太るかも。

B君:ここは不安情報。これを上手く使うのが社会支配のコツ。
(29)「食品添加物」 → 摂取量を考える。
(30)「農薬や化学肥料」 → いつもの話。
(31)「水道水」 → 日本の水道水はまずまず。
(32)「重曹」 → 薬にはいっぱい入っている。
(33)「かいわれ」 → 被害者

E秘書(お茶をもってきて):ふーんそうなのですか。いくつか騙されたかもしれない。コラーゲンは食べればお肌に良いかと思っていましたからねえ。それにしても、折込で入ってくる広告の効果体験談はすごいですからねえ。あれって、経験者が本当に存在しているのかしら。経験者の口を借りれば、何を書いても違法ではないという考え方はおかしいですよね。

C先生:
 効果体験談の内容にも規制を被せることを検討してくれませんか。 これは、→厚生省、農水省かな?
 さて、これらの事例から何を結論にしているか、と言えば、
(1)病気を防ぎ、病気を直す食事は無い。
(2)健康雑誌では、話題性があれば事実かどうはは無視される。
(3)「一般に売られている食品には危険がいっぱい」という主張は間違い。
(4)効能主義ではなく、食べ物は食べ物として食べよ。

A君:それにしても、我々がイライラさせられる状況が、ここでも全く同じ構図で存在しているのが驚きですねえ。「皆さんの環境は危険がいっぱい」といって脅かすところなど。

B君:ある種の思い込みというものが、ファディズムの根底にあるものだとしたら、それを解消しなければならない。
 まず、(1)人工物危険思想がある。「自然とか天然とかは安全、人工物は危険」だと思っているらしいが、これは、公害時代の発想をいまだに引きずっているとしか考えられない。天然物のように中身が分からないものには、危険性もあるという理解をすべきだ。勿論人工物には、本当に危険なものが数多くあるが。
 次に(2)エセ科学への回帰傾向がある。自然科学が余りにも複雑になって理解しにくいと、そういう状況が出てくる。いくら自然科学がいばっても、超常現象のように、解釈できない問題があるでしょう、科学は万能では無いのですよという態度。これと良く結合するのが、「水」、「食べ物」なのだ。
 そして(3)「普通に提供されている食べ物や水には危険が一杯」キャンペーンは、ビジネスと結びつくと厄介ものだ。
 最後に(4)適量というものの存在を知らない。ビタミンというと健康に良いと思っているようだが、過剰摂取は危険でもある。
 これをどのように直せるのだろうか。

A君:やはり、金儲けを狙う人の攻勢に対抗するのは困難なのでは。

C先生:そうかもしれないね。それにしても無防備なのが現代人だ。天然物は安全、食品添加剤は怖い、残留農薬は怖い、しかし、市販の風邪薬は怖くない。そんな訳はない。正しい理解は、天然物は素性の分かった人工物よりも未知な危険性もある。風邪薬は薬だから利く、だから怖い、食品添加物は大量摂取は避けるべし、残留農薬は農家が正しく使っていればまずOK、といったところだろう。
 最近、自転車が信号無視と右側車道走行(特に若い男女と中年のおばさん)をしてヒヤヒヤする場面に良く出くわすが、現代人は、本物の自己防衛本能を失ったのではないだろうか。安全がタダの国=日本ならではだ。食べ物ファディズムの実態も、「通常提供されてるものが、多くの場合十分に安全なレベルである」を前提にして、「命にはかかわらない」、その代わり「効果もない」ことを、売る側も買う側もお互いに了解した上で、危険回避ゴッコ(死なない前提の戦争ゴッコの一種か?)をやっているようなものだ。しかし、一方で、真のリスクを忘れている。現在の状況は、21世紀前半にはいずれ起きる食糧危機までの、泡沫の夢に過ぎないだろう。