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特殊な恐怖本「お役所からダイオキシン」 01.06.99
  






 恐怖本も様々有るが、東京大学理学部ご出身の、しかも、通産省工技院の研究所で主任研究官まで勤められた方が書いた恐怖本が出版されていた。その「でき」はと言えば、普通の恐怖本を書くという意識が無いためか、いわゆる恐怖本としては余り恐ろしくはない。
 しかし、この本を書いた意図が何なのか、ひどく考えされられた。後記によれば、30年近くも国民の税金で養われたので、その返礼として、日本国民のために書いたという雰囲気であるが、余りにも重大なる事実誤認があって、実際には、日本国民を欺く内容となっている。そこになんらかの意図があるのか、あるいは、無作為でそうなっているのか、若干不気味であると同時に表現しがたい恐怖を覚えた。だから特殊な恐怖本という表現になっている。決してお買いにならないようにと、本ページで取り上げます。どうしてもお読みになりたい方には、お貸しします。お知らせ下さい。


C先生:ちょっと自慢して良いかな。

A君:余りやり過ぎるとみっともないですよ。

B君:まあ、新年早々だから特に許可。

C先生:それではちょっとだけ。実は、中西先生に我が本の書評をお願いした。出たのは、学燈という丸善の広報誌だから、皆様の目に触れることはまずないと思う。そして、次のような評価をいただいた。全文は、別に掲載。

 「この本の特徴を一言で言えば、環境問題をできるだけ全体的な視野から読み解説、かつ、具体的な解決策を提示した本となろう。圧力団体の陰が見えないというのも、もう一つの大きな特徴である。全体的な視野で書かれたものも、自由な立場で書かれたものも、わが国の環境問題の本では稀である。」 (中西準子・横浜国立大学教授)

C先生:この「圧力団体の陰が見えないというのも、もう一つの大きな特徴である。」という所が実は大変気に入っている。

A君:だからなんだと言うのですか。今日の話題とは相当ずれてますね。

B君:いや。読めたぞ。後で徐々に分かるから。

C先生:それでは、先に進もう。諸君、この本の欠陥をまず、事実誤認の点から指摘してみようか。

A君:簡単な話です。ダイオキシンの発生源が塩化ビニールと塩化ビニリデンだけに限定したこと。これがまず一つ目であり、そして最大の事実誤認。

B君:もう一つは、ダイオキシン猛毒説を平然と引用していることだけど、第一の誤りにしても第二の誤りにしても、宮田先生も同様の記述をしているし、この本だけの問題ではない。

C先生:まあ、そうなのだが、だからといって許容できない事実誤認であることは諸君達も分かるだろう。本書の言い分の一つは、塩化ビニール工業会を守るのが通産省の役割で、そのために塩化ビニルだけがダイオキシン発生の原因ではないという実験結果は、意図的にご用学者が出した結論だ、と決めつけることだからね。塩化ビニル以外にダイオキシンの原因があっては困るのだ。本当に塩化ビニルだけがダイオキシンの原因なら、解決法もこんなに簡単なことは無い。単に塩化ビニルを燃やさなければ良いのだから。そうでなく、日常的な他のゴミに含まれる塩素もダイオキシンの原因だということが問題を厄介なものにしているのだ。

A君:引用されている、その実験結果、すなわち、焼却炉への塩化ビニルの投入量とダイオキシンの発生量に明確な相関は見られないというものは、恐らく正しいのですよね。なぜならば、食塩からも、酸性酸化物が存在すれば塩化水素が発生して、それが触媒となる銅などの存在といった条件を満たすとダイオキシンの原料になる訳です。しかも、一般に焼却されるゴミ中の塩素の含有量は0.1%以上はあるから、いずれにしても焼却炉の内部はもともと塩素が大過剰に存在している状態で、そこに塩化ビニルを入れても、大過剰な状態であることには変化はなくて、だからダイオキシンの発生量は増えず、塩化ビニルの投入量とダイオキシン発生量とは相関が低いという結果になる。

B君:そう。この実験の解釈としては、「塩化ビニールはダイオキシン発生の原因ではない」という解釈が誤りであると同様に、この本のように「実験事実ではなくねつ造である」という解釈も、実はとんでもない解釈で、全く意図的な解釈だと言わなければならない。

A君:もしも、食塩からのダイオキシンの発生を認めると、この本が何を主張しているか分からなくなるので、意図的に知らないフリをしたのでしょうか。

B君:巻末のQ&Aに、食塩は融点がどうのこうの、だからダイオキシンの原因にはならないとまじめに議論しているから、本当に知らなかったのでは無いだろうか。

A君:B君にしては、同情的見方ですね。

C先生:話が少々変わるが、塩化ビニール・塩化ビニリデン以外のゴミ中の塩素に関して、最近ちょっとショックなことがあるのだ。それは、当研究室で現在やっている実験の結果によれば、紙に含まれている塩素量が予想以上に多いのだ。再生紙でかなり白度の高いものには、なんと0.1%もの塩素が含まれているようなのだ。これは、木や草の0.2%に匹敵し、場合によっては、可燃ゴミ中の塩素の含有量と大差が無いのだ。
 もう少々実験を詰めなければ何とも言えないが、紙は塩素含有量が少ないから燃やしても大丈夫と言いたかったのだけれど、今分析しているような紙ばかりが売られているとすると、紙を燃やすのも不適切かもしれない。自分としては、ご存じのように完全分別焼却方式を未来のゴミ処理法として提唱している訳だが、この結果から見ると、この処理法が成立しないかもしれないのだ。うーん、困ったなあ。

A君:焚き火擁護派としては、紙や木などの構成物であるセルロースは、プラスチック類とか、生ゴミのように水分含有量の多いものとは燃え方が違って完全燃焼しやすいから、ダイオキシンはできにくいと思っているのですが。

C先生:それは有るかも知れない。ある企業の研究所からの情報によれば、紙を使った模擬ゴミだけを燃やしていると、ダイオキシンはほとんど出ないが、塩化ビニルを入れるとさっと出るということだから、紙の中の塩素は存在していても問題が少ないのかも知れない。いずれにしても、当初の予想では、恐らく紙中の塩素量はもっと少ないだろうと思っていた。ところが実験結果は、まあ予想の10倍は多いのだ。もちろん、無漂白の紙にはほとんど塩素は存在していないし、新聞紙には非常に少ないという結果も出てはいるのだがね。

B君:最近の紙の漂白には、次亜塩素酸は使わないと思っていたのですが、どこに塩素源があるのでしょうか。

C先生:それは分からないが、多分漂白剤に使われているClO2では無いだろうか。本当にオゾン漂白をしているのなら、塩素は含まれないはずなのだがね。いずれにしても、もう少々研究を続けてみよう。

A君:やはり白度の低い紙を使うしか無いのでは。

B君:本の話題からかなりずれましたね。

A君:そうだ。そうだ。議論している内に、やっと分かってきましたよ。どうもこの本は、意図的に現体制の批判をするために書いたとしか言えない。もしも、食塩もダイオキシンの原因だとすると、現体制批判が弱くなるから、わざと知らないフリをしたとも考えられる。そこで中西先生の書評の言葉、「圧力団体」が生きてくるということですか。

C先生:まあ、そういうことだ。本当に意図的かどうか、単なる無知が結果的に意図的になってしまったのか、といった議論は我々にとっては無意味だし、また、どこに圧力団体があるのかとか言った発言は自粛したい。
 ただ、この本を多少弁護すれば、同意できる指摘も多いのだ。例えば、エネルギー消費型”ゴミプラントさん”との腐れ縁が切れないのが役所だ、とか。工技院のどこぞでやっている「ダイオキシンの超臨界流体による分解」といった研究は意味がないとか。塩化ビニル産業の保護が一つのキーワードだとか。これらは実際その通りだと思う。エネルギー回収型ゴミプラントにならない限り、私も意味がないと思うし、超臨界流体による分解処理などは「全く何を考えているのだ」、だしねえ。実際、塩化ビニル工業会もそろそろ包装材料は諦めるべきだと思うし。
 しかし、本書のように他人の行動を「作為的だ意図的だ」と批判しながら、無作為だったのかしれないが結果的に極めて意図的な本を発行し、それにもかかわらず自分の発言が「日本国民のためなのだ」といったと欺瞞的態度をとることは決して許されることではない。許さんぞ!