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 電磁波は本当に危険か
これまで、本HomePageにばらばらに掲載してきたものを、一ヶ所にまとめました。








97年7月24日

電磁波問題新展開 

 週刊文春やりましたね。大朏博善(科学ジャーナリスト)&同誌取材班の署名記事ですが、米国国立がん研究所の新しい研究について4ページ記事を載せました。7月31日号でした。国立がん研究所の研究成果「急性リンパ性白血病に関して、磁場との関係は証明できなかった。」7月3日に米国では報道されたようです。7月22日の朝日新聞朝刊に「磁場推定無罪」なる記事がでましたが、これに次いで、今度は大々的です。

 この私的HPで、電磁波問題の本質について述べてきたつもりですが、それを補強する報道がこのところ若干見られるようになりました。嬉しいことです。これまでのマスコミの報道で、ずいぶんと多くの人々を不安に陥れたと思いますが、マスコミはその責任を感じて、上記研究について詳細なる記事を掲載すべきです(などと書くと、ますますマスコミから反撃が来るかも)。

 大体、50〜60Hzの電磁波が有ると言うこと、それ自体が間違っているのです。磁場、電場を別々に取扱うべき周波数です。

 米国では、物理学会を始めとして、電磁波無害論を主張しているところが多いのですが、日本の状況はなんとも不思議でした。これで、一気に解決と行きたいと思いますが、さて、どうなるでしょうか。電磁波危険論者からの反論が始まるのでしょうか。ただし、皆様もう一度ご注意を、「ある種の電磁波、例えば、X線、紫外線、それに多分マイクロ波も人体に悪影響があります。電磁波は、その周波数によって全く違った性質のものなのです。」









危険性の認識

 最近、もんじゅ関連で、色々と発言をせざるをえない状況であったことは、先日発行しましたニューズレターNo.15でご紹介しました。その後、関係する本を乱読した結果、近藤宗平先生(大坂大学名誉教授)の「人間はなぜ放射線に弱いか」ブルーバックスB860なる本を発見しました。すでに識者の間では有名な本なのかも知れませんが知りませんでした。内容は各自お読みいただくとして、その本のまえがきに、寺田寅彦の言葉が引用されておりますが、その言葉に心底から感心してしまいました。

 ものを怖がらな過ぎたり、

 怖がりすぎたりするのはやさしいが、

 正当に怖がることはなかなかむずかしい。

                    − 寺田寅彦 −

環境問題を考える最高の指針が、この言葉の中にあるのでは、という感じです。環境全体を適格に把握することは非常に困難ですから、何を語っても、どうしてもある断面だけの話になりがちである。そこで、商業主義的な環境の書物や記事では、一般市民がもっとも陥りがちな恐怖観念を刺激するような話題が多くなるというのが現状です。それは環境問題を報道する人々の立場がいつでもそうだからです。商用周波数の電磁波の人体影響を恐れる人、雑菌を余りに怖がって抗菌商品を使う人、残留農薬を心配するあまり有機野菜などを愛好し自分の健康のためには何でもする人、このような現代の一般市民はマスコミによって作り出されたと言えます。これらの人々には寺田寅彦の言葉を熟読玩味してもらいたいという感じです。

電磁波は本当に危ないか

 少々電磁波について思うところを述べてみたいと思います。電磁波が一つの典型のように思うからです。現在特に問題になっている商用周波数の電磁波の人体影響に関しては、その科学的な証拠が極めてあやしいにも拘らず、上述のように、一部のマスコミの商業主義、すなわち、一般市民に恐怖を与えることによって関連する本と商品を売り込むという悪どい手法によって、OL層などに不安を与え、その結果として、本当に体調が悪くなる被害者を作り出し、また結果として自らの懐を肥やしているのが実態ではないかと考えております(このような著者に儲けさせるのはいやなのですが、ずいぶんとそんな本を買ってしまいました。ある本などは、1年間で6版までいっており大変なものです。その著者は医事ジャーナリストということになっておりますが、電流をボルトという単位で計る程度の科学知識の持ち主です)。

 一口で電磁波といっても、それこそ、X線、ガンマ線あるいは紫外線も電磁波ですから、ある種の電磁波が人体に悪影響を与えるのは誰でも知っている話です。そのような本では、電磁波の質の違いを十分に説明しないで、不安感をつのらせるように仕組むやり方が共通の手法です。例えば、電子レンジも携帯電話もマイクロ波を使うから、携帯電話の電波で脳の中の水分子が加熱される、といった言い方です。大体、ここで記述が終わってますが、厳密には以下のような議論をしなくてはならないはずです。電子レンジの周波数は2450MHzです。一般には1000ないし3000MHzの電磁波は、水分子に吸収されやすいから、水分子を加熱できるとされております。携帯電話の周波数は通常800MHzですから、上述の範囲を外れており、まず大丈夫。しかし、最近では、電波の割り当てが不足しておりますので、1500MHzの携帯電話も存在しております。PHSは1900MHzです。確かにこれはグレーゾーンかも知れません。ところが、このような周波数の違いの説明が出ている本は、まだ見たことが在りません。

高圧送電線の場合のように健康に本当に悪い可能性も0ではないかもしれないという主張もヨーロッパを中心としてまだあります。しかし、50あるいは60Hzの電磁波ということが問題であるとしたら、そもそもそのような周波数が電磁波と言えるのか、という根本的な問題があります。なぜならば、電磁波とは、電場と磁場が一体として作用するような場合を言うからです。50Hz程度であれば、むしろ、電場と磁場が別々に作用すると考えるべき周波数のように思えます。

 高圧線は、高いものですと50万ボルト送電をやっておりますので、真下では、電場は結構高い値です。磁束密度はたいしたことがないでしょう。実際に、人体などに電場がかかっているだけで、影響があるのでしょうか。これまでの医学では、交流の電場・磁場によって人体の一部に熱が発生するという解釈で実験を行っているようです。熱になるのであれば、人体のある部分でなんらかの位相の遅れが生じなければならない(誘電体のtanδに相当)のですが、50あるいは60Hzの電場・磁場にある程度追従し、ある程度遅れてしまうものとは、どんなものがあるのでしょうか。血液でしょうか。それとも三半規管の中の液体でしょうか。

 しかし、いずれにしても熱が原因であれば、上述の本が主張するように「見えない電磁波の恐怖」ではないはずでして、人間は熱を感じる能力があると思います。しかも、熱には比較的強くできているのが人体であるという気がしますが、皆様の感想はいかがでしょうか。とはいっても、高圧線からは、放電現象によって様々な周波数の電磁波をまさしく出していますから、完全にすべてを否定することは困難です(この程度の記述も、それらの本に出ているのを見たことがありません)。

 熱以外に何か未知の要素があるという言い方は、最近のオカルト的反科学の常套手法の一つです。そのような記述が、これらの本には共通してみられます。まあ、このあたりを言い出すときりがないのですが、先端科学が進みすぎると、必ず、反科学的な動きがでることは仕方のないことでしょう。

 電磁波の恐怖などの本で、スウェーデンなどの先進国に比べて日本の電磁波対策の遅れが指摘され、政府関係者ならびに”御用学者”が批判の対象になります。スウェーデンでは、どうして、電磁波の規制ができたのでしょうか。

 スウェーデンなどでパソコンディスプレイからの電磁波の問題を取り上げているのは、確かに政府の基本姿勢の違いで、誤っているかも知れないが、いささかでも可能性があるものは規制してしまおうという思い切りの良さがあるということも一因である思っております。しかし、全部が全部、そういう方針では有りません。例えば高圧送電線に関しては、というよりも、一般的な環境問題に対するスウェーデンにおける対策の基本的な姿勢は何でしょうか。ある問題のリスクを定量的に十分把握し、限られた地球資源と対策資金の中で、それに対してどのような対策が有りうるかを考え、それに要するコストとそれから得られるベネフィットとの比較において、十分意味がある対策であれば実施するということが、基本的姿勢なのです。パソコンディスプレイにおいては、電磁波発生を防止することに要する費用は、もともとそれほどのものでは無いですから対策をとっても、地球資源や資金面では問題は出ないと考え、規制が行われたものと思われます。高圧送電線の場合には、何がなんでも地中に埋設せよ、という話になっている訳ではありません。電磁波本の著者が主張に、「健康に対する危険性が疑われているからには、徹底的に危険を避けるべきである」というものがあります。これは、非常に耳障りが良いので、強力な主張になります。しかし、環境リスクには、明確であっても対策が十分に行われていないものもあります。例えば、水道水(ミネラルウォータを含む)中のヒ素の濃度は、他の発ガンリスクと比較すると、かなり高いレベルで制御されています。これは、10万人に60人が発ガンするというリスクと、対策コストとのバランスを考えてのことです。電磁波のように、まず、危険性は有ったとしても非常に低いこと場合には、その対策のために、巨額の社会的資源を消費することは有り得ないのです。

 要するに、現在、「電磁波の恐怖」なる本を書いている人々は、先ほど述べたように、電流をボルトという単位で表現するような人々ですから、電磁波の影響という物理的な現象をどのように捉えるかといった基礎的分析能力が全く無い人であると言えます。そこで、電磁波に関して日本政府が規制に乗り出さない、これは、エイズにからむ血液製剤の場合と同様で、色々とデータをもっていながらそれを隠しているのだという、まさに一般市民に受けるジャーナリズム的正義論の論理構成だけで押しまくるタイプの人々です。しかし、この論理が、現代日本ではもっとも雄弁に聞こえてしまうのは、大変残念ながら事実です。われわれは科学者の端くれとして、何かしなくてはいけないのではないでしょうか。一つは、確実では無くても、自分の見解を発表することだと思います。

 そこで、以下が私見です。現時点では、責任ある発言というよりは、推測ですが、電磁波問題はいくつかの例外を除いて問題ないと思っております(どなたか、より確実な情報・信念をお持ちの方は、電子メールでご連絡下さい)。例えば、パソコンのVDT関連の問題は大体次のような実態ではないかと考えます。電磁波がでるVDT作業に従事している妊婦は流産の可能性が高いということですが、これは、パソコン操作のような精神的ストレスの高い作業をやらせる結果であると思います。VDTの電磁波の影響で角膜に傷がつくというある大学の研究結果が引用されておりますが、これは、高電場によって微細なゴミ(多くの場合には土ほこり)が加速されて眼球にぶつかるためだと思っております。

 例外的にいやな感じがするのが、携帯電話、特に1500MHz=1.5GHzのもの、それに、高圧線の真下に住むことが多少問題かも知れない、特に心理的な効果が重大、といった程度で、後はそれほど問題にならないと思うのですが。また無責任発言的ですが、本当に人体に悪影響が無いことの証明は、悪影響があることの証明に比べて難しいので、多少推測的発言になるのは、仕方が無いと思います。いかがでしょうか。

当研究班にも磁場・電場の人体影響の専門家がおられますが、マスコミに対して積極的な発言をすることが求められていると思います。一般に、環境分野の専門家には、本当のところは無害であると感じていても、科学者の良心として、100%確実でないと発言しないということが通例ですし、やや悪どい場合には、自分の分野の研究が継続することを狙って、なかなか本音を言わないという人すらいるように見受けられます(人間地球系以外の話です、これは)。そのようなことにならないように、各研究者の倫理感が問われているように思います。








推薦図書

大朏博善著「電磁波白書」  アスキー出版 1997年5月
 電磁波の危険性を論じている本の中で、本当に信用できるという感触のもの。

 特に、電磁波対策を一種の環境対策と見たときに、この本の「リスクとベネフィット」の記述は、本物である。中西準子先生の「環境リスク論」岩波も同時に読まれることをお勧めします。