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カップめん容器と環境ホルモン&週刊宝石
            5.17.98   rev. 5.18.98





 平成10年5月15日の各朝刊紙に、「カップめんの容器は、環境ホルモンなど出しません」なる全面意見広告が掲載された。出したのは、(社)日本即席食品工業会。
 webページもあるそうだ。 (http://www.inter.co.jp/instantramen/)。
  ここまで「環境ホルモン」なる造語が普及したのかと感心したが、市民が何をどのように考えるべきなのか議論をしたい。



C先生:この広告は結構インパクトがあって、環境関係の連中でも話題になった。諸君も見たよね。

A君:当然見ました。なんだか、いじめにあっている子供が突如反撃に出たような印象でしたね。

B君:いじめといえば、「環境ホルモンだ」と言って、ある業界をいじめるのが簡単にできるからね。環境ホルモン問題も、本当のところは良く分からない部分があるにも関わらず、マスコミは断定的に記事を書いてくれる。

C先生:また原則論からいくか。環境問題にどう対処すべきか、と言われれば、「注意をすべきことは、多少でも可能性があったら対策を考慮する必要がある」、これが第一の方針。第二の方針が「環境問題には必ずトレードオフがあるから、その問題の重要性を評価し、適切な対応を取る必要がある」、となる。第二の方針、これが難しいのだ。要するに、ほとんど危険性のない問題に対策を取りすぎると、その対策によって逆に環境問題が起きる。例えば、すべての水道水を高度処理したら、それに掛かるエネルギー消費によって、温暖化を加速することになりかねない。だから、正しく評価し、適切な対応を取る必要がある。
 第一の方針に関する作業だけすれば良いのなら、これは楽なのだ。「告発」だけやっていれば良いから。これが大部分のマスコミの姿。第二の方針についても、「適切な対応についても、マスコミは正しく主張をすべし」、これが我々の主張でもあることは本Webページを通じて行ってきた。

A君:最近のマスコミ関係では、いろいろな記事がありますからね。ちょっと探してきました。週刊宝石の5月28日号、緊急警鐘レポート「キレる食品、危ない水から、あなたの脳を守れ!」。議論の種としては、ちょっとレベルが低いかも知れませんが。

B君:(読んでみて) 典型的なものだ。しかし、上手いねえ。さすがにプロが書く記事だ。徐々に論旨がずれていくのだけれど、これを批判的に読むことができる人は、相当知識と経験のある人だろう。普通の人が読んだら、水道水などを飲む気にはならないだろうね。

C先生:ちょっとポイントがバラバラになったから、議論の進め方を整理しよう。まず、カップめんの容器は発泡ポリスチレンだが、これと環境ホルモンの話をやろう。それから、「キレる食品」記事の批判に行こう。

A君:発泡ポリスチレンですが、これはスチレンというベンゼン環が入ったエチレンの親戚みたいな化合物を重合させて高分子にしたものです。スチレンそのものは、融点−30℃、沸点145℃ですから、常温では液体の物質です。安定な物質かといえばそうではなくて、水分の存在や熱・光などで、自然に重合を始める性質があります。ですから、完全に保存するのならば、空気に接触しないようにアルゴンなどの不活性ガスで置き換えて、さらに、光の無い場所、いわゆる冷暗所に保存し、さらには重合防止剤を添加する必要があります。

B君:スチレンそのものは、環境ホルモンとしての性質(しばしばエストロゲン性と言われる)は無いとされてます。スチレンの分子構造は、合成女性ホルモンのDES(ジエチルスチルベストロール)をいくつかに切ったような構造ですので、スチレンが2つあるいは3つ結合したスチレンダイマー、スチレントリマーは、エストロゲン性があってもおかしくはないでしょう。ダイマーとトリマーの2種は、環境庁の環境ホルモンリストには入っているが、OECDのリストには入っていないと、その意見広告が主張してます。

C先生:環境ホルモンの概念がまだまだ確定していないのは事実。有罪が決まっている化学物質だけではなくて、まだ灰色の物質までリストに掲載しているという状態。これは、環境問題の第一段階としては仕方が無い。このような「十束一からげ」状態で、迷惑を色々な業界に掛けているのも事実。ただし、灰色と真っ白とはやはり違うので、これから精力的に検討をする必要があるという段階だ。
 まず、カップめん業界の主張だが、「人体に影響を及ぼさない微量のスチレンモノマーを環境ホルモンの疑いのあるスチレンダイマー、スチレンモノマーと誤認しているところから発しています」としている。しかし、スチレンモノマーがあれば、光・熱の効果などでダイマーにならないとも限らないので、このような主張を続けると、可能性を完全に無視した一方的な主張だと告発型マスコミなどに指弾されて、このような広告自体が逆効果になりかねないね。

B君:僕は多少ならば無責任な態度をとることが許されるので、環境ホルモンの個人的解釈をしましょうか。まず、化学物質の内、本当にやばいのは残留性の高い物質で、生体濃縮性の高い物質。そして、体内代謝が遅いもの、要するに、いったん口に入れると体外に排出されにくい物質。
 PCBだとか、ダイオキシンとか、DDTみたいな例はすべてこの条件を満足する。これらの物質は、そうでなくても毒性が高いから、環境ホルモンが問題になる以前から問題になている。これらの物質に対する対策は、絶対必要。
 ジエチルスチルベストロールのような合成女性ホルモンは、環境中で分解されなければ、当然環境ホルモンになる。これは当たり前。本物の女性ホルモンもし尿処理で分解されず、河川に入るという説もある。ここまでは環境ホルモンの本格派。
 船舶の底にフジツボなどの貝類が付くと、抵抗が増えてスピードもでないし、燃費が悪くなる。そこで防汚剤とよばれる毒物を塗料に混ぜて塗ってある。以前は、トリブチルスズなる毒物が使用された。これが環境ホルモン作用があって、なんと1ng/リットルという量で、貝に異常を発生させるという。これは、現在日本では、全面使用禁止になっている。これは貝以外にもホルモン効果があるかどうかの確認が必要。しかし、分子構造から見て、女性ホルモンの効果とは少々違うような気がする。
 今日の問題になっているスチレンダイマーや、ポリカーボネートというプラスチックから出るとされているビスフェノールAなど、これらはまだ灰色状態で、本当に悪いかどうか、これからの検討が必要、というのが実態なのでは。西川洋三氏の情報によれば、(“アロマティックス、50巻、3・4号、p100(1998)”)、ビスフェノールAの場合には、なんと、1936年から弱いエストロゲン作用があることが分かっているという(E.C.Dodds, et al., Nature 137, 996 (1936))。原著をまだ探してませんが。

C先生:この灰色状態になると結構厄介だ。今回の環境ホルモンの場合の研究の困難さについては、すでにWebページを作った。公害・環境問題では、これまで業界が大丈夫といって実は大丈夫でなかった例もいくつもあって、また、「現実に被害が出てからでは遅い」ということが環境問題の本質という理解も一般的になり、業界にとってはさらに困ったことだろうが、消費者の超健康・超清潔指向をマスコミが煽るものだからねえ。
 このあたりで、「キレる食品」記事に行こうか。環境ホルモンとは無関係に思えるかも知れないが、根っ子は同じかなと思えるので。

A君:週刊宝石の記事の要点をまとめると、次のようです。
(1) キレる子供は、炭水化物・糖類過多のバランスの悪い食事をしている。=「現代型栄養失調」
(2) 糖類過多だと、低血糖状態になって、情緒不安定、イライラ、集中力なし、発作的などといった状態になりやすい。
ここまでは、極めてまともな記事。引用されている権威も「まとも」。

B君:よしタッチしよう。
このようなまともな記述から入って、徐々に記者の独断的論理に入るのが特徴的。
(3) 囚人の調査では、体内女性ホルモン濃度が高いものが凶悪犯には多い。環境ホルモンが犯人?
(4) 農薬も同様に「キレる」犯人の可能性が高い。
とここは、記者がこれまで蓄積してきた決まり文句を使って「恐怖を煽る手法」を披露する。
(5) 食品添加剤・保存剤のリン酸塩も子供の影響がある。
(6) 合成着色料もだめ。
という形で、まさに良くある論調に入る。そして、これだけだと、バランスのよい食事を作っている母親などが無関係と思うからだろうか(週刊宝石を読む母親は居ないかも)、最後の最後に、
(7) 水道水では競馬馬すら下痢をする。
(8) そして、脳を守るためにすぐにでも実践すべきだろう、と結んでいる。

A君:一体何を実践すべきだと言っているのだろうか。まあ週刊誌だから、まともに喧嘩をするという相手ではないのだが。

B君:読み方次第では、水道水を飲むなに読めるが、本来の趣旨は、子供にはバランスの良い食事を提供すべし。インスタント食品や炭酸飲料などで満腹にするような子育てをするな、なのだろうね。この主張ならば、すごくまとも。こんな文章を作るまでも無く、前半の(1)、(2)だけで十分なのだが。。。。なるほど、このあたりで、「カップめん」が繋がってくるのか。

C先生:私の愛読書じゃなくて、愛好番組にNTVの「特命リサーチ200X」というものがあるが、5月17日の放送は、たまたま「キレる」がテーマだった。食事のことも同様に指摘されており、質の良い日本食的な献立がバランスの良い食事だとのこと。それだけでなく、最近の子供達はストレスに対する慣れがない。少子化もその原因。テレビゲームで遊んでいて、「社会」から隔離されるのもその原因。これは、私の持論、「子供を作るのなら3人」と一致している。

E秘書:(お茶をもってきて)先生のところは子供は2人でしょ。失敗の経験からできた持論なのですか。

C先生:(E秘書を無視して)放送では余り明確には述べられなかったのだが、栄養バランスの悪い食事をしている子供がキレやすいのは、確かに食事も原因だろうが、それ以外にも、そのような食事をさせている親の教育が悪いこと、特に、「我慢をさせる」という教育が行われていないこと、これが相当に大きいと思う。
 カップめんは業界の主張のように、確かに環境ホルモンを出していないのかもしれない。だからといって、「安心して子供に食べさせる」のは、「ときどき」にして欲しい。「カップめん」を子供の常食になどという状態は、日本を滅亡に導くようなものだ。栄養バランスのよい、親の愛情のこもった、手を掛けた食事を子供に食べさせたい。
 それに、カップめん業界としてこのような意見広告を出すのならば、容器の廃棄過程まで責任を取って欲しい。そもそも、どのように廃棄されることを前提として容器を作っているのか。さらに、環境ホルモン関係だけでも、ポリスチレンが焼却過程でもスチレンダイマーやトリマーにならないといえるのか。ほかのPAH(多環芳香族炭化水素)を出している可能性はないのか、残っためんの汁中の食塩が不完全燃焼したスチレンとの反応でダイオキシンになっていることは絶対にないと言うのか。このあたりに対しても意見広告を是非とも出して欲しい。
 環境問題は、ある一面だけを取り上げて無害です、だから「安心して食べてください」という安易な結論を出すことを拒否するような性格を持つのだ。これがライフサイクルアセスメントの根本思想でもあり、製品の廃棄に至るまでの責任を取るのが、現代環境流なのだ。
 清涼飲料業界は、ペットボトル問題などを見ると、なかなかこのレベルにならないが、カップめん業界も同類なのか、それとも、そうではないのかじっくり見守ろう。