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二酸化炭素削減率日本政府案が決まりそう

−環境庁と通産省の対決が激化






二酸化炭素削減:環境庁vs.通産省

  各紙 1997年10月5日 朝刊 

 政府が検討している二酸化炭素削減案に「差異化」が盛り込まれることになった。差異化とは、国の状況によって基準と計算式を選べる方法。(1)国民一人当たりの排出量、(2)国内総生産(GDP)あたりの排出量(3)人工増加率の3基準。日本は、GDPあたりの排出を選べば、実質的な削減目標は5%から2.5%へと半減する。米国も2%台になるという。


C先生:実はこれまで、二酸化炭素削減策については、しばらく発言を控えてきた。何か言えば「唇寒し」という感じになるから。でもそろそろ我慢も限界だ。少々議論をやろうか。

 

A君:この問題は、われわれ製造業にとって、非常に重要な問題なのですが、日本国内と米国とのなんだか姑息な妥協案探しと、ヨーロッパ各国の一律削減15%との大きな違いがどこに収まるのか、まあ心配しつつ見守っているところです。

 

B君:この問題を語るには、いくつか考えなければいけないことがある。(1)二酸化炭素と温暖化との関係、(2)環境政治学としての二酸化炭素削減、(3)日米vsヨーロッパvs途上国、(4)国内対立などなど。だから簡単ではないですね。

 

C先生:その通りなのだけれど。まあ、基本まで戻ると大変なのだけれど、一応ちょっとだけ復習しておこうか。B君。

 

B君:承知しました。まず、(1)ですが、二酸化炭素だけが温暖化の原因ではないことは、環境に関心のある人ならば誰でもご存じのことです。二酸化炭素の温暖化への寄与率は約半分。残りがメタン、フロン類、一酸化二窒素などの温暖化ガスが原因。発生量は、二酸化炭素が現時点で、炭素換算で60億トン。二酸化炭素としては、200億トン。温暖化対策として考えたときには、このとんでもない量を処理することは無理。だから、放出削減しかない。一方、フロン類は、その気になれば処理できる程度の量。メタン、一酸化二窒素は発生源対策が難しい、といったところ。

 そこで、(2)に行きますが、削減するには、使用する化石燃料を減らす必要があります。しかし、これまでの歴史を見れば経済成長と使用するエネルギー量とは比例していたことは事実。だから、化石燃料削減は、経済成長も「削減」することになる。だから、経済成長によって現在の政治体制を維持しようとする政治家にとっては、重大なこと。橋本政権にとっても、現在失速しかかっている経済が二酸化炭素削減でますます減速するようだと、墜落間違い無しの状態だから大変だ。

 (3)ですが、ヨーロッパ各国には、日米が経済の主導的立場を握っていることに、もともと反発がある。エネルギー使用量を足かせにして両国の経済が減速すれば、ヨーロッパ諸国にとって、再びチャンスが出てくることは確実。

 (4)日本国内でも、通産省のように産業界の現状を最優先に考えるところと、環境庁のように国際的な反発を相当意識しているところででは、考え方に差がある。

 

A君:環境保護団体、例えば、WWFやアメリカならシエラクラブなどは、二酸化炭素削減をしないと大変だ大変だと言いますが、その基本的な発想がどのあたりにあるのか疑問になることもあります。というのは、人類が生存することは、どうしても地球に負荷を掛けていることで、どこまでの環境負荷は許容するのか、全く駄目だというなら、人類は滅亡を選択すること以外に無いのですが。どのような解決が行われれば解決だと言うのか、これが分かりません。一方、日本と米国の産業界は、ここ数年から10年程度の経済的な減速がおきることは是非とも避けたいということで、環境問題を解決しようというスタンスではないように思えます。

 

C先生:何を解決すれば、それで解決なのか。これは環境問題を議論するときに、もっとも重要な前提条件なのだけれど、それを議論してから結論を求めることは行われないね。基本的考え方が違ったまま、議論をすることが普通だが、これは余り効率的な議論の方法ではない。しかし、それで仕方が無い、基本的考え方が一致することは無いと考えているのだろう。

 我々としても、基本的な考え方はここでは避けて、通産省と環境庁の主張の差を議論してみよう。

 

A君:朝日新聞によれば、両者には次のような意見の差があるようです。

目標年は2010年を含む5年間

 

          通産省            環境庁

自動車の燃費改善 1台あたり15%      1台あたり40%

粗鋼生産量       1億トン           8725万トン

炭素税          導入せず          炭素1トン当たり3万

省エネ型エアコン    CO2を151万トン減  CO2を330万トン減

CO2総排出量     1990年レベル      1990年の7%減

 

 さて、現状はどうなのかと言えば、1995年には、1990年レベルの+8.3%になってしまった。これをどのようにして、2010年までに減らすのか大問題という状況。

 

B君:いまから13年後を考えることになるが、まあ、画期的な技術の出現は望めないだろうから、社会体制を改善するという方針で対策を考えることになるだろうと思う。炭素税を掛けることは効果があるのだけれど、本当のところは、エネルギー税でなければならない。違いが無いように思えるかもしれないが、炭素税だと原子力発電は非常に優遇されることになる。

 

C先生:炭素税が良いか、エネルギー税が良いか、あるいは、ある製品に標準的なエネルギー使用量を定めて、それを上回る製品には課税をするのが良いのか。例えば、車なら現在排気量で定められている税金を燃費によって差を付けるといった方法も面白い。燃費向上というように産業活力にとって刺激になるような税制が望ましい。法人税も現在のように利益に対しての課税だけではなくて、非製造業であれば、その企業の使っているエネルギー(社員1名あたり)も基準に入れるとかいった方法も面白い。一般家庭の住民税などにもそのような要素を入れないと、例え炭素税が1トンあたり3万円かかったとしても、ガソリン1リットルあたりにすれば20円にすぎないから、自家用車に関しては、余り消費が押さえられるとは思えない。

 

A君:B君のように画期的な技術は無理といってしまっては、経済減速を認めるようなもので、面白くない。車の燃費についても、環境庁は4割削減といっているが、それにはこの秋にトヨタが売り出すハイブリッド型にするしかない。通産省の15%削減程度ならば、三菱GDI程度の技術で良い。2010年には、現在存在している車はもう寿命だろうから、全部ハイブリッド型にするぐらいのつもりなら、4割削減も可能。産業の将来を考えるという意味からいえば、むしろ環境庁案の方が面白い。通産省案は保守的すぎるように思える。

 

B君:A君は電機会社だから、ハイブリッド車が普及すると電池などの部品が売れて良いし。まあこれは冗談、冗談。しかし、環境庁は、産業界の生産工程の電力需要の12%を太陽光発電で補えば120万トンのCO2が削減できるとしているが、これは難しいかもしれない。太陽光発電は、基本的には民生用だと思う。夏には太陽発電で作った電気でエアコンを駆動するのが良い。冬にはお湯を沸かすことが良いかもしれない。売電を前提としないで、高品位な電気の発電を考えないことによるコストダウンと、品位の悪い電気で駆動できるエアコンの開発が必要になるように思える。この点に関しては、通産省の見方が正しいかもしれない。

 

C先生:粗鋼の生産量などの見通しは、まあ環境庁案だろうな。ますますリサイクルが要求されるようになるだろうから。通産省は産業構造を変えることには余りにも消極的のように見える。このままいくとじり貧になりそうに思うがね。粗鋼生産などで韓国の追い上げがあったのは事実だが、現時点ではそれほど恐れることは無いのではなかろうか。むしろ、画期的な改良を目指すぐらいの心意気がないとね。日本サッカーも防御に入ると全く駄目だが、日本産業も防衛型になると「じり貧」になるだろう。

 

A君:省エネルギー型エアコンはわが社にとっても重要な課題です。さらに、建築物の断熱化を進めないといけませんが。となると、換気とのバランスが重要になりまして、熱交換型の換気を考えないといけません。まあ良い開発課題です。個人的には、多種多様な二酸化炭素削減策に炭素税からの補助が使えると良いと思います。むしろ環境庁案を個人的には支持したいです。

 

B君:でも、この案では、ヨーロッパや途上国からの支持は得られないですね。もっと徹底的な議論をして、一気にやらないと。昭和53年ごろに行われた自動車排気ガスの規制もかなり限界ぎりぎりといえるようなものだった。しかし、各社はそれに向かって努力してクリアした。エンジン燃焼技術には格段の進歩が見られた。ある種の産業革命だと思って取り組まないと。

 

C先生:二酸化炭素がもたらす温暖化がどのようなものか、それがどのような悪影響を与えるか、実際のところその予測はIPCCや多くの研究者が努力中ではあるが、まだまだ確実とは言えない。政策を決める担当者も、実は完全には信じていないのが実態だろう。私も個人的には75%ぐらい信用している。

 私個人の基本的思想は次のようなものだ。有限な資源である化石燃料はいずれ枯渇するだろう。そして、特に石油や天然ガスは21世紀中には危機的状況になる可能性があるから、化石燃料の消耗をできるだけ防ぐ手段として、二酸化炭素問題を有効活用できないだろうかと思っているのだ。すなわち、化石燃料延命策として有効に利用できるだろうと考えている。温暖化よりもエネルギー供給不足の方が、人類生存に対するリスクが大きいと思うからだ。

 世の中一般の人は、そんなに遠い未来のことを考えて何になるのだ、と言うが、有限なものは有限なのだ。とはいっても高速増殖炉などの有効活用によって、恐らく化石燃料と原子力で向こう500年間ぐらいはまずまずの状態でもつだろうが。

 その間に、核融合や太陽発電衛星など今とは全く別のエネルギー供給方法を人類は開発できるかどうか、これが人類に未来があるかどうかの重大な岐路だと思う。

 

A君:どのぐらいの先を見るか、これがこの問題に対する態度の違いを決めているようですね。

 

B君:C先生が良く言うように、現在生きている人間にとっては、まず悪影響を与えないであろう二酸化炭素放出の問題は、いわゆる世代間調停の問題だから。未来をどのぐらい考えるか、これがまさに基本の基本なのだ。環境庁よ、通産省よ、どのぐらい先を考えているか、その議論から始めるべし。

 

C先生:世代間調停の問題では、自己の生活を少々不自由にしてでも未来世代の利益をどのように守るかが重要。現在の日本人のように健康問題が最大の関心事のようでは、個人にこの問題を解決しろといっても無理。健康問題は、現世利益型(ゴリヤク型)環境問題であって、日本人の思想を反映したもの。霊感商法と同じ(エコマネジメント研究所、森下 研氏による表現)で、政治家が現世ゴリヤク型で票を集めるのも同じ。一方、会社という組織の寿命は、人間の一世代よりも長い。だから、会社とは、本来より長期的なものの見方をすべき組織なのだ。これを管轄する通産省も当然そうあるべきなのだ。今を若干犠牲にしてでも、将来のために備えることを考えるべし。現在の会社が一社でもつぶれてはならないという護送船団方式は時代遅れだ。つぶれるところはつぶして、将来に備えるのが正しい通産行政のあり方だ。