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井口泰泉先生と化学物質削減
          01.21.99







 1月20日 朝日新聞夕刊科学面
 21世紀序奏と題する記事に環境ホルモンが取り上げられ、「自然の営み、謙虚な姿勢で解明を」と井口先生がコメントされている。若干気になったのが最後のまとめの部分。「化学物質に対しては”本当に必要な物質しか使わないように”って企業も消費者も考え方を変えるしかないんですよ。」「これまでは、ある物質がやり玉にあがったら関連業界が安全性を調べる、結論がでたかと思えばまた別の物質が、といったいたちごっこの連続でした。これからは問題になっていようがいまいが化学物質の総量を減らす努力をすべきです。」
 この考え方に必ずしも全面反対という訳ではないが、何をどこまで減らすか、少々議論しても、そう簡単に結論は出ない。


C先生:化学物質という言葉自体が妙な言葉なのだが、それを医薬品、農薬などを含めて全ての化学薬品ということだとすれば、確かに、無用に多種多用なものが生産されているという理解も有りうるだろうね。そこで、何を減らすことができるか、となるとこれはいろいろと議論があるだろう。

A君:企業にとっては、常に新しいデバイスを作り、それを製品に組みこんで魅力的な商品にしなければならないから、新しいデバイスを作ることにつながる新しい素材なり、新しい物質は極めて魅力的。これまでの日本製電気製品のいくつかが世界を制覇できたのも、新しい素材が実現した新しいデバイスのお影だった。

B君:C先生が今使っているポータブルパソコンの液晶にしたって、どんな物質が使われているか分かったものではないですよね。

C先生:液晶の組成は企業秘密だろうね。組み立てている製造者も知らない。液晶の製造者に、廃棄まで責任を取ってもらうしかないと思うね。

B君:今日の話、化学物質という言葉が何を意味するか。これがまず問題だ。多くの人々にとっては、化学物質は恐らく化学薬品を意味していると考えられる。液体のイメージがまず強くて、そして、気体あるいは固体をある程度含まれるといった感じか。そこで、まず問題になるのが、天然物は含まれるのか含まれないのかということ。「化学物質の種類を減らす」の意味が、「大量に使用されている化学物質」を減らすのか、それとももっと特定の概念、石油化学製品を減らすということなのだろうか。

C先生:そのあたり、Webをお読みの皆さんに聞いてみよう。
 そこで皆様に質問です。化学物質とは何を意味する言葉なのでしょうか。少なくとも、専門辞書には無い言葉でして、恐らくマスコミが使い始めたためか、定義がはっきりしない。お考えをお知らせください。
 ポイントはB君が述べたように、化学物質とは、石油化学製品なのか、それとも、天然物も含むのか、発酵法などで作ったものは入るのか、微生物が作った物質も含むのか。農薬、殺虫剤(家庭用を含む)などはどうなのか。接着剤は、あるいは粘着テープの粘着剤などは? 紙おむつなどに使う高分子吸収材はどうなのだろう。あるいは、化学物質とは時代の概念をも含んだ言葉であって、例えば50年前から使われている物質は含まれないというような意味なのでしょうか。御意見をお寄せ下さい。


B君:”アセトアルデヒド”というと化学物質という感じがするが、お酒を飲むとできるエチルアルコールからの代謝物質だから、体内で発生した場合にはどうなのだろう。

A君:電機業界でも、化学物質という言葉は余り使わないですね。環境汚染物質とか、もっと具体的に表現しないと役に立ちませんから。

B君:化学業界については一つ言えることがある。それはすでに化学業界の研究者との議論などでも本HPに掲載されているが、化学業界はいつでも新しいものを作らないと生き延びれない体質があるのだ。家電やコンピュータなどの組み立て産業との決定的違いなのだ。
 その一例だが、ガラス瓶が塩ビボトルに置きかえられ、そして今はPETになった。この理由も実は製品コストが低かったということが最大の理由であって、PETボトルとガラス瓶とでは、機能的にはまだまだガラス瓶が優れている部分がある。例えば、通気性がまったく違うから、PET中の飲料は日持ちしないとか、また、どうしても有機物だからPETにはかびが生えることがあるとか。

C先生:「利便性の良いものが使われる」と良く言うが、容器のようなものは「製品コスト」が使うか使わないかを決めている最大の条件だろうね。だから、井口先生に「本当に必要なものが何か」と言われたら、その製品の存在価値が”コストの低さだ”というものは、本当に必要とは言えないかもしれない。だからといって、コストを無視した製品が流通することは有り得ない。政府が課徴金を設定するようなことが無い限り、必ずコストが安い製品が市場に流れる訳だ。それは消費者がそれを選択するからだ。

A君:ポリカーボネート(PC)製品がビスフェノールAを含むからといって、すべてのPCが危険だということでは無いですよね。例えば音楽用CDやCD−ROMですが、これらの大部分はPCで出来てます。だからといって補乳瓶の場合とは事情がかなり違いますよね。

B君:井口先生の話を読んでいて感じたのだけれど、環境ホルモン問題のかなりの部分は実は生態系に影響を与えたということで問題になった。ヒトに対する影響が分かって問題になったというものはまだ無いに等しい。例えば、ワニにしても魚にしても、水中に住んでいる訳だから、水に妙な物質が入ったら、嫌でもその物質に接触することになる。ヒトの場合には、知識さえ有れば、その物質への接触を避けることができる場合も多い。例えば、ビスフェノールAが嫌ならPC製の補乳瓶を買わなければ良い。PC製の給食器は使わなければ良い。スチレンダイマーが気になるなら、ポリスチレン(PS)容器のカップ麺は買わなければ良い。

C先生:そう考えるのが正しいだろう。となると、「本当に必要な物質しか使わない」というよりも「本当に必要な製品しか買わない」という考え方でよいことになる。そして、殺虫剤とか農薬とかいったものが、生態系に与える影響が環境ホルモン問題でもまず最大の問題だ、ヒトとホルモンという問題に重点を置くべきだろうから次は医薬品かもしれない、ということになる。
 いずれにしても、井口先生の本意はどのあたりにあるのか、これまで議論を進めたぐらいでは、良く分からないね。なかなか線が引きにくい。しかも、線を引くのは、企業ではない。消費者でも多分ない。それは政府の役割かもしれない。環境負荷が高い材料・物質には課徴金を決める。これが今の環境庁にできるだろうか。通産省にはできないだろうね。省庁再編で環境省になれば多少期待できるだろうか。井口先生はPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)に期待しておられるようだが、もともと環境汚染物質を対象とする規制だから、対象物質数も限られていて、とても使用する物質の種類を減らすといった動きを加速する役には立たないだろう。
 結局は、賢い消費者になることで自衛、特に不必要なものを買わない、包装材料は減らす、こういったことを心掛けるべきだろう。
 それはそれとして、個人的には、郵便で送られてくる紙を減らしたい。読みもしないレポートなどが多くて、捨てるにも処理が大変だ。無駄だ!