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櫻井よしこ氏「これでよいのか環境汚染行政」批判 
08.23.99






週刊新潮8月26日号 p50〜54 に掲載された。

 「いつの間にか日本は「ダイオキシン実験国」と言われるようになってしまった。それほど環境汚染が進み、私たちのごく身近に環境悪化によるとしか考えられない健康被害が続発するようになった」と始まる櫻井よしこ氏の環境告発記事である。続「日本の危機」と称するシリーズの第7回目であるが、第2回目ぐらいだったと思うが、教育問題についての告発を読み、まさにその通りと100%以上の同意をした。櫻井氏はそのやさしそうな風貌とは似合わず、なかなか切り口するどい記事を書く人である。
 今回の環境汚染行政では、96年4月にできた東京都の不燃物中間処理施設「杉並中継所」周辺のいわゆる「杉並病」がまず、取り上げられている。次に埼玉県所沢のダイオキシンは、新生児死亡率を高くしているとの棚橋氏の主張と取り上げた。そして、今回の主張は一貫して、「行政資料の嘘」である。
 櫻井氏が指摘しているように、「日本では形を変えたイデオロギー闘争と化している環境問題は、様々な思惑で利用されて来た」。これは事実だ。だからこそ、科学的な視点からの再検証が必須なのである。今回の櫻井氏の記事は、このような自ら行った指摘に対して、新しい提案ができているのだろうか。
 結論的には、櫻井氏の今回の結論も、現在日本において、もっとも一般社会に受け入れられ、かつ無害である「行政批判」という形で終わっている。そこには、科学的視点は完全に欠落している。そして、自ら指摘した「イデオロギー闘争」の域を出ていないどころか、その片側に完全に加担した文章となっており、恐怖本の著者の域を出ていない。大変残念である。


ダイオキシンが所沢で新生児死亡率を高くしているという棚橋氏のデータの検証は、所沢赤ちゃん死亡率急増データ new09.03所沢赤ちゃん死亡率の実像 new09.08の2回に渡って行った。結果は、棚橋氏のデータの多くには科学的妥当性が無いことだった。しかし、なぜか所沢の平成元年から4年の新生児死亡率が異常に高いことは事実。理由不明。しかし、ダイオキシンのためではないだろう。


C先生:櫻井よしこさんの「日本の危機」論のうち、先日の教育論は、全くその通りだった。日本に数多く存在する危機のうちでも、教育起源の危機は、治療に即効性が無いため、本当に危機だ。大変な危機だ。いますぐ教育システムを変えたとしても、危機的状況を脱するには、今の小学校低学年の子供が大学卒業まで、すなわち、15年ぐらいはかかる。しかも、教育システムをすぐ変えるなどということは、不可能。例え制度的に可能だったとしても、先生のレベルの向上も同時に図らなければならないから、実現には相当の長期間を要す。
 前回の教育論が良かったから、今回も期待して週刊新潮を買ってみた。さあ、どうだった。感想を。
 
A君:うーん。典型的ジャーナリストの環境観ですね。昔の公害時代の環境観を見事にひきずっている。すなわち、ある局所的な問題を取り上げて、「こんなにもひどいぞ」、とまず言う。そして、「人ごとではないぞ。一般市民もまもなくこんな被害を受けるぞ」、と脅かす。そして、その責任は、行政が悪い、その情報隠匿が悪い、と一番無難な対象をこき下ろして終わる。
 
B君:その通りだな。櫻井氏においてすらこの程度だ、と極めて暗然たる気分。われわれも、局所的な問題が数多く残っていて、現在の環境問題は、概ね最終処分地不足を含めてのゴミ問題、しかも、不公平性に基づく精神的問題が重大であるとの認識を共有している。だから、今回取り上げられている、「杉並病」、「所沢ダイオキシン」は、それぞれ重要問題であると考える。しかし、それは明らかに局所的問題なのだ。ここで述べられているような、「杉並や所沢に居住していようがいまいが、現代日本人の多くが、同じように崖っぷちに立っているのは間違いない」、との断定は間違いだ。 

A君:ただねえ、日本人は危機音痴だから、櫻井氏のように「危機有り」と言っておく方が無難ということは無いですかね。大体からして、現代日本の環境問題は、大量生産・大量廃棄の物質文明が崩壊する寸前というところに真の原因があるわけで、その改善のためには、櫻井氏のように「危機、危機」といって煽っておくことが一つの方策ではないですか。少なくとも、櫻井氏個人はそう信じているのでは無いですか。

B君:それならそれで、「環境問題を嘘で塗り固めてよしとする行政サイドの感覚こそが、いま問われているといえるだろう」、という結論は無いだろう。この感覚は勘弁してよ。

C先生:分かった。まあ、いまさらとは思うが、今回の櫻井氏が述べている問題が、いかに「環境総体の原則やトータルリスクミニマム原則」から外れているか、実証的に批判してくれ。
 ちなみに、環境総体の原則・トータルリスクミニマム原則とは、「そもそも人類の生存は環境破壊を伴う。だから、個々の小さいリスクをゼロにすることを目的としても対策としては不適切。トータルリスクを最小にすることによって、始めて持続的な社会が実現できる」というもの。

A君:そうですね。まず、杉並病のところで津谷裕子氏が指摘していること、「排水中に1リットルあたり0.2ミリグラムのシアンが検出されました。水田に流す水であれば即日停止処分を受ける濃度です。シアンは体内で細胞が血液中の酸素を取り込む能力を破壊し、呼吸困難をひきおこしかねません」、ですが、たしかに単なる中継所でありながら何でシアンがでるのか。これは不思議です。しかし、このシアンは排水中に出ているのであって、杉並病の患者がこれをどのようにして体内に入れるのか、すなわち、大気中にもシアンが多いのか(シアンは青酸HCNですから、気体としても存在は可能)といった分析が必要。排水中のシアンだけを指摘して、それだから危険というのは、危険連呼症候群。

C先生:現地調査がやはり必要だということだな。

B君:シアンは、ポリアクリロニトリルから出ているのではないか。アクリル繊維。いわゆるアクリル樹脂はメタクリル酸メチルだからシアンは含まないが。中継所が何をやっているのか、調べる必要有りだな。圧縮時にどのぐらいの温度になるのだろうか。

A君:続いて、同じく杉並ですが、津谷氏が「中継所が稼動しはじめた96年の調査では、実に200種類もの化学物質が中継所付近の大気から検出されました。都はそれらをまとめて毒になる物質はありませんと言うだけです」。一方、都側は、「確かにそうです。しかし、離れた地点の大気も調査しました。個々のケミカル物質の濃度は異なっていても、全体で測定すると化学物質の総量は同じでした。東京全体の大気が汚れているのであって、中継所付近だけではないのです」。
これに対して、櫻井氏の意見は、「双方の意見を客観的に聞いてみても、都側の説明はいかにも苦しい」。

B君:ふーーん。一般的には、都側の見解に妥当性が高い。しかし、「個々のケミカル物質の濃度は異なっていた」、に本当の問題が潜んでいるのでは無いだろうか。やはり情報公開はすべきだ。

C先生:例えば、ディーゼルから出る黒煙を分析すると、それだけで、訳の分からない物質が多数出るらしい。大気をサンプリングすると、当然、そんなものが入ってくるから、200種だろうが、500種だろうが、単にどの濃度まで分析できるかで決まることだ。無限に感度と分解能が良い分析機がもしも存在していたら、1万種類の化学物質がでてくるかもしれない。

A君:続いて、なぜか大気中のダイオキシン濃度の話になるのです。高千穂商科大学教授 勝木渥氏が、「都の大気中のダイオキシン類の調査結果には疑問あり」、「98年8月に調査を行ったものの、杉並が約1ピコグラム/立米(0.94、1.1、0.96と3つの測定値の平均)だったのに、参照地点は0.48ピコグラム。これを都は、都内の典型的濃度の範囲内だと言ってその差を無視した」。これに対する櫻井氏のコメントは、「どう読んでも、東京都の説明はなんの意味も無い。東京全体が汚染されているのだから、杉並の汚染も当然と言っているように聞こえる」。

B君:杉並病なのに、なぜダイオキシン濃度の話が出てくるのか、良く分からん。もしも、不燃ゴミの圧縮だけでダイオキシンがでるのであれば、メカノケミストリー(摩擦などの機械的エネルギーが化学反応を誘起する現象の総称)に関する我が不明を恥じる。ダイオキシンが発生するには、単に何かが分解されてその原料となる物質がでるだけでは条件を満足しない。不燃ゴミの中身は不明だが、ポリスチレンのように、ダイオキシンの骨格構造になりそうな物質はあるだろう。塩素も塩ビ、食塩があるし、両方の要素を含む防虫剤、パラジクロルペンゼンなども多少は含んでいるだろう。だからといって、圧縮しただけで、ダイオキシンが出るとは思えない。本当は高温加熱圧縮機という名称の焼却炉があるのではないか? 勿論、冗談!
 
A君:しかも、勝木教授は続けるのです。「東京都のダイオキシンの大気環境指針では、基準値は0.8ピコグラム。杉並の値はこれを超えていると、都ははっきり言うべきだ」。最近になって報道されましたが、環境庁が実施した環境物質分析機関の比較調査によれば、ダイオキシンの分析値のばらつきはかなり大きい。様々な分析機関によるできるだけ均一と思われる試料についての分析結果を比較したところ、3倍ぐらいの違いがあったということです。勝木氏は、0.8という基準値に対して、測定値1.0がどのぐらい意味があると考えているのだろうか。自然科学の基本的な常識、測定誤差をどのぐらい考えているのだろうか。
 その後、櫻井氏は、最近決まった日本のTDIが4ピコグラム/kg/日が高いと主張する。アメリカなどは0.01ピコグラムだ、と最近では非専門家でも知っているアメリカの無謀な暫定基準を取り上げて、行政は如何にもダイオキシンを許容しているといった記述が続きます。例の「日本ダメ型批判」を櫻井氏もやるわけです。

C先生:こんな記事を読まされると、大気中のダイオキシンが平均的日本人のダイオキシン摂取の大部分であるかのごとき錯覚に陥る人もでるだろう。この件、すでにまとめたので、再度議論しないが、大気からの寄与率は決して高いとは言えない。大部分は、食品から。日本なら、魚、肉、牛乳、卵などを気にしていれば良い。
 それなら、所沢の新生児死亡率が何故高いか。これがもしもダイオキシンが原因だとしたら、それは大変なミステリーだ。周辺住民のダイオキシン摂取量も蓄積量も、恐らく日本の平均値とは余り違わないから。だからといって、このデータが嘘だとは思わない。不完全燃焼をしている焼却炉からでる毒物は、決してダイオキシンだけではない。ダイオキシンは悪影響の面から言えばむしろマイナーな要素かもしれない。黒煙は多環芳香族(PHA)を含む。毒性が分かって化合物もあるにはあるが、黒煙全体としては不明だ。同様のことが、ベトナムの枯葉剤由来のダイオキシンについても言える。本体の枯葉剤の毒性が無視されている。セベソ事故も同様。
 
A君:いよいよ櫻井氏個人の理解に基づく文章がでてきます。「大気や水や食物を通して、私たちは予想以上の化学物質にさらされ、多くを摂取している。私たちの体は化学物質で膨れ上がっていると言っても過言ではあるまい。このような枠組みの中で杉並病問題を考えることが大切だ」。
 何を言っているのだ。うならざるをえません。うーーーん。
 
B君:そんな理解か。WHOがタバコを規制しようとしている。これまでも、いろいろと警告をしてきたが、各国政府は税収の源としてのたばこだけに、積極的に動かなかった。400万人がたばこを原因として死んでいる。まあ、今回の櫻井氏の視点の外だろうが。こんなタバコをどう思うか、また、食品添加物についても書いて欲しいね。どんな書き方になるのか見たいから。週刊金曜日「買ってはいけない」型になるのか、それとも、全く異なったスタンスになるのか。ついでに、化粧品、特に、外国製の化粧品あたりもついでに告発して見てほしい。

A君:というわけで、次の専門家の登場。北里研究所の宮田幹夫氏「私の化学物質過敏症の患者さんが中継所ができてから急に検査データが悪化し、自覚症状も激しくなりました。状況証拠的には杉並中継所が大きな原因だと思います」。こういうことはあると思いますね。ただ、問題は、次の発言、「大気汚染の問題がベースにあって、だめ押しをしたのが、中継所ではないかと思っています」。これには学問的な飛躍があると思います。なぜならば、次の宮田氏の発言、「化学物質を長期にわたって慢性的に暴露したり、一度に大量に暴露して一度過敏症になると、後は、非常に微量でも反応がでてしまいます」、は全くその通りですが、その大量暴露が大気汚染で起きるのか、これが問題。杉並病だったか、あるいは、別の場所だったか覚えていませんが、ある女性がひどい化学物質過敏症らしいのですが、やはり、以前に職業上の理由で有機溶媒への暴露が相当あったので、そのために過敏症になったようです。

B君:勿論、体質も問題で、過敏症もアレルギー症の一種だから、本HPが主張するように、日本人の体質の変化も見逃せない。繰り返しにはなるが、感染症を表面上克服し、寄生虫を駆逐することに成功したが、その代償としてアレルギー症の多発を招いた。

A君:化学物質過敏症の原因についてですが、櫻井氏によれば、「化学物質過敏症の患者数は、都下がもっとも多い。その原因は大気汚染であると、宮田氏は断言した」。宮田氏の認識は本物ですかね。都下と都心とでは、大気汚染が都下がひどいということは考えにくい。なぜならば、大気汚染の主犯はいまや車。特にディーゼル車だから。もし、都下がひどいとしたら、有りうる原因は、やはりなんらかの産業公害による局所的問題でしょうか。いずれにしても、櫻井氏、宮田氏の発言も推測の域を出ませんね。

C先生:科学的に立証すべきことが、いくつかある。まず、化学物質過敏症の発症条件を明らかにすること。ある種の化学物質への大量暴露がどのぐらい大量である必要があるか、あるいは、慢性的な暴露の場合なら、どのぐらいの量にどのぐらいの期間暴露されることが条件となるかを明らかにすること。これによって、通常の生活をしている日本人が、化学物質過敏症になる可能性がどのぐらいあるか、分かるようになるだろう。
 現時点でそれが明らかでない以上、軽軽に言うべきではないが、直感的発言を許していただければ、環境汚染が原因で、化学物質過敏症になるとはまあ思えないのだ。やはり職業的な大量あるいは継続的暴露か事故による暴露が必要条件なのではないだろうかと思えるのだ。ただし、環境汚染とはちょっと違うが、日常的生活で、事故的に大量暴露になる可能性は否定しない。その最たるものが、マニュキュアのリムーバ。これは有機溶剤そのものだから。同一メーカーの商品の習慣的長期間使用は避けるべきかもしれない。

E秘書:お茶をもってきました。
 実は、私もマニュキュアリムーバ過敏症です。アセトンを含んでいないものは大丈夫ですから、アセトン過敏症なのでしょう。あるとき、油汚れをアセトンで落とそうとして、相当吸ったのが原因だと思いますが。もともと、私はアトピー症です。最近はほとんど直っていますが、体質的には有資格者ですよね。そのアトピーですが、「清潔さ」を余り気にしなければ、そのうち直るものですよ。だから、超清潔症候群がアトピーと関連があるという説には賛成。だからといって、不潔だとは思わないでくださいね。

C先生:そろそろまとめに入ろう。まず、一言ずつ。

A君:公害問題と環境問題、あるいは、労災問題と環境問題、この区別が櫻井氏はできていないのでは、と思います。所沢の件、これもはっきり言って、公害問題です。地域性が非常に高い問題です。だからといって、軽視してよいというものでは勿論なくて、その地域の改善は不可欠です。しかし、だからといって日本人全体に対して、「崖っぷち」という認識は誤っています。
 今回の記事から得られたことで期待できることは、杉並区の山田区長がおもしろそう、ということですか。

B君:同じようなことになるが、化学物質過敏症は、文字通り「症」である。個人的なアレルギー的資質+大量暴露が発症の条件なのだ。大量暴露は、多少注意することで避けることが可能だし、普通の生活をしている限り、余り心配は無い。勿論、フードファディズムのように、同じものを毎日食べる、あるいは、大量のケミカルを使用するといったことを行わないことが必要。

C先生:いずれにしても、櫻井さんの今回の告発は、残念ながら、いわゆる恐怖本を書く自称科学評論家と全く同じ間違いをしている。環境関係のデータを集めているブレイン(そんな人が居ればですが)の質が悪いのではないだろうか。我々で良ければ、お手伝いしましょうか。日本に、立花さん以外にも数名、良質な科学技術評論家が欲しいので。
 また、途中でも指摘したが、「外国は正しい、日本の行政ダメ型告発」は、ある部分真実だが、なんでもかんでもこの論調に持ち込むのは間違い。ここ2年間ぐらいで、行政の対応の中には良いものも見られるようになってきた。何回か問題にした遺伝子組み換え食品の表示問題は、良い方の例だろう。また、ダイオキシンのTDI4pg/kg/日も、合格範囲だと思う。ゴミ問題関係で行政の対応が怪しいのは、広域収集と、ガス化溶融炉への転換かな。この問題の正解は別にあるように思う。


早速同日中に追加:個人的メール(ご本人ではない)による情報によれば、津谷氏が気にしているのは、漂白剤などの「混ぜると危険」製品が、中継所で非意図的に混ぜらることが、妙な物質の発生原因の一つではないかということのようだ。また、殺虫剤などのようなものが、中継地で放出される可能性も問題にされているようだ。
  確かに、これらは可能性としては高い。ただ、シアンが出る反応を思いつかない。しかし、しかし、チェックを要する問題ではあるようだ。
 そこで、とりあえず、皆様、特に、杉並区の皆様には、お願い。「そのような薬品類の容器を不燃ごみに出すときには、中を洗ってから、スプレイなら中身を全部放出してから、出してください。これがモラルです」。