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湖水は水道原水に適すか 04.29.2001




 国立環境研の研究外部評価委員会の話はすでに、「今週の環境」で紹介すみ。そのなかに、「霞ヶ浦からの水道水は飲めるか」に関係する研究があったのでご紹介したい。

 平成9年度から11年度の3年間にわたって実施された特別研究の成果である。問題意識としては、このところ、流域の発生対策が行われているにも関わらず、湖などでCOD(化学的酸素要求量)が徐々にではあるが増加傾向にある。すなわち、最近の汚濁対策によって細菌が簡単に分解することができる有機物量は確実に減っているのだが、それ以外の難分解性有機物が増えているということ。これはある種の水質汚濁なのだから、原因が何かを明らかにする必要があるし、対策が必要になる可能性もある。


C先生:「湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究」という難しい名前の研究。報告書も出ているが、これを読んで分かる人は何人いるか、という状況。専門家向けの報告書の中にも、1ページで良いから、市民向け解説記事が欲しいところ。

A君:ちょっと解釈をしてみましょう。汚染の程度が中程度の琵琶湖も、かなり汚染が進んでいる霞ヶ浦でも、流域からのCODの流入が急増しているというわけではないのですが、なぜか湖水のCODは、流入量からの推定値を超えて増えているようです。湖の水質が問題になるのは、水使用量の増大があります。日本全体での話ですが、1997年には、1965年の3.5倍の150億立方メートルの水が使用さており、これは、淡水資源の10%にもなります。そのため、水道水源として、河川を流れている水よりも、湖水からの水の寄与率が高くなっていることを意味します。

B君:有機物が多いと、塩素消毒をしたときに、トリハロメタンができる可能性がある。トリハロメタンは、水道水の健康リスクでは恐らくヒ素に次いで第2位を占めるから、どのような物質が存在していると、トリハロメタンができやすいか、という情報が重要。

A君:その結果ですが、難分解性有機性物質を、フミン物質、疎水性塩基物質、疎水性中性物質、親水性酸、親水性塩基物質、親水性中性物質の6つに分けています。

B君:そんな分類になってしまうらしいね。溶けている物質がどのようなものか分からない、というのがここまで分析技術が上がったのに不思議ではあるが、それが限界らしい。

C先生:様々な物質が混じっている。比較的簡単なものでも、分子量が数100レベルらしい。このぐらいの物質であれば、もしも純粋なものが分離できて、結晶にでもなるようなら、どんなものかといった解析はあっという間というほど簡単ではないが、できることはできる。しかし、水に溶け込んでいて、しかも様々な物質の混合物ということだから、物質の同定は難しいのだろう。

A君:それで、様々な種類の水について、分析がなされているのです。霞ヶ関の湖水、流入河川水、森林渓流水、畑地浸透水、田面流出水、生活雑排水、下水処理水、ヨシ・アシの繁茂する池水、など。

B君:なるほど。それぞれの水がどのような特性をもっているかを調べる。直接問題にするのが、トリハロメタンだとしたら、どのぐらいその生成に利くかということを調べる訳だ。

A君:その通りでして、トリハロメタンを発生する能力みたいなものが測定されていまして、それによれば、田からの水、生活雑排水、ヨシ・アシのある池の水は、トリハロメタンの生成に利く。それに対して、下水処理水は、それほどでもない。

B君:それで、実際にトリハロメタンの原料になるものは、なんなのだ。

A君:具体的な物質名は不明ですが、フミン物質と親水性物質が原料として重要ではないかと述べています。

B君:となると、霞ヶ関のような湖水を水道水につかおうとするのなら、その両方を処理しないと問題ということか。

A君:そうみたいです。今の処理法である、凝集沈殿・ろ過だけでは難しいという考え方もあるようです。この方法では取れそうも無い親水性の酸の寄与は大きい、と述べていますので、活性炭などの高度処理が必要ということになるかもしれません。

B君:そこでの重要なポイントだが、親水性物質の起源は、河川なのか、それとも湖の内部での現象なのか。

A君:冬には、親水性酸の主要発生源は、湖内部だとしています。恐らく、底泥由来ではないかとのこと。もうひとつのフミン物質の方は、河川水由来で、それは、田からの流入が大きいのではという推論です。

B君:そうだとすると、湖の水質は、余り改善は期待できないということになる。農業活動と自然現象ということなのだろうから。

C先生:田からの流出水が、昔のように土の水路を流れてから河川に入るようになっていない。もっと土に接触させてから、出すかといったことが必要なのだろう。これは、田の構造を変えることによって改善が可能だ。
 そして、最終的には、どのような流域管理をすべきかという総合的な議論になる。下水処理場の処理をどのように高度化するか、といった問題を含めて。

A君:それに関して、まず、冬季のように河川水の流量が下がっている状態だと、霞ヶ浦の湖水がほとんど下水処理水になってしまう、と危機感を述べています。

B君:それは大変だ。ますます、水道水のイメージダウンになりそう。となると冬季は高度処理ということになるのだろうか。

A君:吸着法などの処理法が必要になる可能性があるとのことです。

B君:当面のリスクがトリハロメタンなら、塩素処理をしなければ、トリハロメタンはできない。ということは、オゾン処理などによって殺菌をする高度処理が徐々に必要になるということもあるのか。

C先生:そうなのだろう。大阪でも琵琶湖の水を飲んでいるためもあって、オゾン処理が導入されている。さらに、昔は感染症の防止が最大の目的だった塩素消毒だったので、多く入れれば入れるだけ良いということで、過剰の塩素を入れるということが通例だった。このところ必要最小限の塩素でと言うように発想の転換も行われている。

A君:今回のような研究を見ても、水道水の質について真剣に検討されていることが分かります。

B君:しかも、水関係者というのは、環境関係でもメジャーで、日本だけでもすごい研究量があるのだ。

C先生:そろそろ、結論に行くか。まあ、ミネラルウォータを含めてだが、絶対的に純粋な水などはない。蒸留でもすれば別だろうが。いかに綺麗な渓谷の水であっても、難分解性有機物は若干入っているし、もともとそれ自身が有害という訳ではない。
 機会があるごとに最近述べていることであるが、水というものが持続型社会にとってすごく重要な役割を果たす。熱を逃がす媒体(例えば汗)、汚れを洗うための水、さらに、食糧生産にとって必須の水、これが人口の増加が続く世界における生存の限界を決めそうに思う。日本という国は、世界でもっとも水に恵まれた国の一つだ。この国で水質の管理ができなかったら、世界中でできない。この国で水道水が飲めなくなったら、それは、世界中の水道水が飲めなくなることを意味するだろう。日本では、「水道水は飲むものだ」、という理解で行きたいし、実際に飲んでいただきたい。これが環境を適切な状態に保つためにも必要なことだ。