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米国脱離後の京都議定書 03.31.2001




 予想されたことではあったが、温暖化防止に関わる京都議定書を批准しないとの意向が米国によって正式に発表された。昨年行われたCOP6で、アンブレラグループ(米国、オーストラリア、カナダ、日本)として、協調した形でEUグループと対抗してきた日本ではあるが、これからどのような対応をするのだろうか。


C先生:京都議定書は環境問題ではなく、政治問題である、ということがますます明らかになりつつある。とうとう米国が京都議定書を批准しないと宣言した。ブッシュ大統領は、「我々の経済を損ない、米国の労働者を傷つけるような計画を受け入れるつもりはない」、と言ったようだが、どうやら「我々」にはブッシュ大統領が死んだ後に生きる世代は含まれていないようだ。

A君:ゴア元副大統領は、環境派として知られていたのですが、大統領選挙では、あえてそれを強調しなかったようです。米国国民の環境意識は「ほぼ無い」、というと怒られるかもしれないが、環境は票にならない、かえって票を減らすという判断だったのでしょう。一般に、米国国民には「自然保護=環境」という意識しかない。エネルギー消費・資源消費は環境負荷ではない、という理解のように見えます。

B君:民主党のゲッパート下院院内総務は、クリントン政権が京都議定書には署名しているからだろうが、「新大統領はワシントンの空気を変えるといって乗り込んできたが、彼が変えたかったのが気候だとは思わなかった」、といって皮肉ったらしいが、ゴアが大統領になったって、結局同じことをしたのではないか。

C先生:ゴアも最初の任期内ではできないかったろう。しかし、2期目に入ったときあたりで、大変身するのではないか、という読みはあった。ゴアの方が、そういった政治的な動きができるだろう。ブッシュは、どうも頭の構造が単純で本音が露骨に出る。もともと石油業界とは深い関係にあるが、大統領選では、公約として火力発電所からの二酸化炭素排出を規制すると言って、その続きで3月までは排出規制をやると言っていたらしい。所詮下手な演技だったわけだ。

A君:しかし、これで京都議定書は完全に葬り去られる気配ですねえ。

B君:その可能性も高いが、そうとも言えない。例の55、55の条件だが、米国の二酸化炭素排出量は36%ぐらいだから、まだ9%のマージンがある。

C先生:そうだな。日本が8.5%。カナダが3.3%、オーストラリアが2.1%。この3カ国が落ちなければ、まだ55%は楽々と達成可能。例え、カナダとオーストラリアが両方ともコケたとしても、まだ可能性が絶無ではない。
 この両国の意向は良く分からないが、まあ、日本が落ちれば、カナダかオーストラリアは追従するだろうから、完全にアウトだということは確実だろう。

A君:日本がキャスティングボードを握ったということですか。

B君:そうかもしれん。その意味では面白くなったとも言える。

C先生:今後の方向を考えようか。まず、米国を説得して、もう一度考え直すように仕向けるには、途上国のこの枠組みへの参加が必要となるが、それは絶対的に無理だろう。米国を説得するのが無理だとすれば、「米国抜きで発効させる」、あるいは、「京都議定書を潰す」、しか方法は無いように見える。「京都議定書を残したまま、骨抜きにする」、という日本の国会ではしばしば使われる手法は、根回しが不可能な国際社会では通用しないだろうから。

A君:京都でやったCOP3でできたものですから、日本としては、まさか批准しないわけには行かないでしょう。だから、日本が脱離というシナリオは無い。

B君:しかし、COP6では、森林吸収だとか言ってゴネた。COP6.5がボンで7月16日から開催されるが、これがどうなるか。まあ、米国が落ちたので、日本への当りがかえって緩くなるのか、それともきつくなるのか。

C先生:緩くなりそうな気がする。だから、森林吸収がある程度認められるのでは無いだろうか。なぜならば、1カ国の重みが今回の米国の脱離で増したからだ。脱離をちらつかせる国のご機嫌を取るといった形になるのではないか。

A君:となると、日本としては「米国抜きで発効させる」ことを覚悟して、若干吸収量の計算式でプラスを得るという方針でいかなければならない、ということですか。

B君:京都でやったときから、日本にとって批准は絶対的条件。ただ、産業界がなんと言うか、これだけが問題。東京電力の南直哉社長の談話が出ていたが、「京都での世界の約束は非常に大事だ。好きなだけ化石燃料を使うわけには行かず、破局に進むことにブレーキをかけようとしているのに、人類文明にとっていかがなものか」、と米国を非難している。これが個人としての本音なのかもしれないのだが、これが集団になって、「経団連」になると融通が全くない「ゴチゴチ」の経済優先の議論になるからな。

C先生:ただし、米国抜きで批准すると、それはそれなりに面白いことができるかもしれない。世界的に米国包囲網を作ることができるかもしれない。化石燃料の価格は批准することで下がる。安価な化石燃料をジャブジャブ使えるという経済的に有利な条件で競争するのは不公正・不公平だという主張をして、これまでのWTOなどの議論を根底から変える可能性が出てくる。米国産にだけ関税を掛けるとかいった報復措置が世界全体で行われれば、それはそれで面白い。

A君:自国の現時点の経済的利益だけを追求しての脱離ですから、それが逆に作用して経済的に不利な状況になれば、ブッシュ大統領としての失点になる。これが実現できれば、地球全体としての正義が守られることになりますね。

B君:米国は、これまで世界の正義を守るためとして国威を保ってきた部分がある。周りから見れば身勝手にも見えるのだが。それが、今回の脱離によって、正義の味方とも言えないということを米国民が理解すればそうなるが、米国国民は、そんな考え方にならないのではないか。

C先生:京都議定書が批准されたときに起きそうなことで、これまで心配していたことがある。それは、エネルギーの価格、特に、石油の価格がどこまで下がるか、なんだ。石炭はさらに下がる。天然ガスは、単位発熱量あたりの二酸化炭素排出量が少ないので、恐らく需要が増えるだろう。

A君:そうか。価格が下がると、途上国が化石燃料をかなり買える。環境が悪くなるが、経済発展が可能になる。ますます化石燃料を買う。ということで、逆にエネルギー消費量が増える可能性があるということですね。

B君:それは先進国がそうやって経済発展をしてきたのだから、途上国からその権利を剥奪するのは公平ではない。しかし、インドでエアコンが普及ね。確かに途上国がどんどん化石燃料を使うようになることを考えると、「ぞーっ」とするのは事実。京都議定書批准と同時に、世界的エネルギー税の枠組みでも考えないと、化石燃料がかえって早く無くなるのかもしれない。

C先生:いずれにしても、COP6.5がどうなるか。それ以前に、どのような合意形成が各国で行われるかにかかるだろう。米国が抜けたために、一気に行けるということもありそうだ。
 この京都議定書というものは、地球と人類との関係にとって、ひとつの踏絵みたいなものだ。現世代の経済的発展を犠牲にしても、将来世代の利益を守るという意味だが。こんな考え方になることができれば、地球上の人類の寿命も多少延びるだろう。