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  国立環境研の研究レポート 12.23.2002
    PM2.5と環境ホルモン



2002年秋に発表された国立環境研のレポート2題のご紹介。

ディーゼル微粒子の本当の害?

平成11年から13年度にかけて、国立環境研究所で行われた研究が、平成14年9月に報告書になった。その題目は、「空中浮遊微粒子(PM2.5)の心肺循環器系に及ぼす障害作用機序の解明に関する実験的研究」(特別研究)という長いものである。

さて、その結論はどうなのか。ディーゼル車からの微粒子が、なんと心疾患に影響するというものである。これまで、「微粒子=肺がん」だったが、それもどうやら変えなければならないようだ。



C先生:ディーゼル微粒子は、ある意味で、日本に残った環境汚染による健康被害のもっとも重要なものだ。その人体影響はいろいろと検討されていると思っていたが、どうも、やはり新知識があるようだ。

A君:ディーゼル車公害=NOx=ぜんそくという短絡的な関係を、メディアも、市民も、また、弁護士なども信じてきました。それがディーゼル車の排気対策を間違った方向に導いてしまったようにも思えるのです。

B君:日本のディーゼル排ガスは、NOx減少だけを目的として推進されてきた。しかし、NOxの人体影響は、疫学的にみても濃度的に余裕がある状態で、NOxは、光化学スモッグの発生原因で、光化学スモッグが人体影響を持つと考えるべきだ。NOxが直接的に人体に悪影響を出す濃度は、もっと高い。

C先生:ディーゼル微粒子=PMも、これまでは肺がんの原因ではないかと思われてきた。それはそれで事実なのだろう。年間1000人近い人がディーゼル排気によって肺がんで死亡しているのではないか、という可能性が指摘されてきた。しかし、今回の研究は、その常識も覆すものになっているようだ。

A君:PMの概要から行きますか。PMも環境基準を満足していないものの一つです。東京都内の自動車沿道排気測定局という、大気汚染を測定しているところがあるのですが、そこでの達成率は9.3〜63.4%しかないそうです。

B君:石原都知事がディーゼル車規制をやるときに、手のガラス瓶に黒い粉を入れて振り回したが、PMの年間総排出量は、ディーゼル粒子以外を含めて、東京都内だけで1万トンにもなる。そして、その約半分が2.5μ以下の粒子であるディーゼル由来のPM2.5がその半分を占めている。

C先生:粒径に関する研究というものがあって、都会における粒子状物質の粒径には、2つの山があって、小さいほうが0.5μ、大きい方が4μ。そして、小さい方がディーゼル由来だということになっている。

A君:これまでそのPM2.5の大気汚染が心臓循環系に及ぼす研究はこれまで全くといってよいほど無かった。ところが、アメリカやイギリスの研究者がこのような可能性を指摘してから、この分野が重要な研究分野だということになったようです。

B君:PM2.5は、もちろん微小粒子なのだが、多くの有毒な物質を含んでいるようだ。分析はなかなか難しいようだ。例えば、ベンゾ[a]ピレン、ニトロアレーン、といった発がん性や内分泌かく乱性をもった物質だ。

A君:先日の東京大気汚染裁判では、道路から50m以内の人の被害を認定したのですが、実際には、PMは遠くまで届いているようです。道路から5mのところと55〜140mのところを比較すると、PMでは、15〜18%しか減っていないようです。ですから、この間の裁判も妙だといえば妙で、本当のところは、面的な被害を認定すべきだったのかもしれません。

B君:実際には、室内にまで侵入しているようだ。居間におけるPMの濃度は、外部の濃度の大体70%程度。ただ、NOxの場合には、室内にも燃焼器具があると発生源があることになって、外部の濃度との相関がない。

A君:こんな事実も、先日の東京大気汚染裁判で幹線道路から50m以内の居住者の被害を認定することが難しいということを意味します。台所からかなり大量のNOxが出ているのですから。

C先生:それはそうとして、今回の研究の概要をまとめて。

A君:ディーゼル排気をラットに暴露して、心電図を記録し臓器の病理組織学的検討をして、その結果、心電図に不整脈という異常が出た。

B君:ディーゼル排気を暴露したラットの臓器の重量や心室のサイズが変わった。

A君:肺および気管支の組織が変わった。

B君:ディーゼル微粒子のうち、どのような成分が作用をもつか検討するために、ヘキサン、ベンゼン、ジクロロメタン、メタノール、アンモニアの5種類を用いてディーゼル微粒子を抽出し、それぞれ、A、B、C、D、Eと名前をつけて、作用を調べた。
 その結果、B、すなわち、ベンゼンで抽出した混合物質について作用が強かった。

C先生:などなどといった研究を行って、結局のところ、ディーゼル排ガスは、ガス交換障害を起こして、呼吸機能が低下して、それにともなって動脈血液中の酸素濃度の低下と二酸化炭素濃度の増加が起こる。これは明らかに心臓負荷が増えて、循環機能も低下する。そして、右心室が厚くなったり、不整脈がでる。

A君:さらに、生体の免疫力を低下させ、細菌感染を起こりやすくすることも分かった。

B君:結局、ディーゼル排気中の微粒子による循環器障害は極めて大きくなる可能性があって、死亡率を高める重要な要因だろう、というのが結論

C先生:もしも、これが本当ならば、PMの減少を最大の目的として環境対策を講じなければならないだろう。NOxのみを対象と考える時代は終わったようだ。

A君:ディーゼル排ガスによる損失余命ですが、蒲生さんが最近Webに出しているデータだと14日ぐらいのようですね。ダイオキシンの1日程度と比べると、やはり圧倒的に悪いようです。

B君:ダイオキシンは、急性毒性物質としてはもちろん全く問題にならない。発がん物質としても、損失余命が1日だし、しかも、すべての日本人が平均して摂取しているからまず問題にならない。母乳を摂取している乳児は、かなり大量のダイオキシンを摂取しているようだが、これも体内濃度から見れば、問題になるとも思えない。

C先生:ということがディーゼル排ガスの位置づけになる。ただし、タバコの煙による損失余命は、蒲生さんの推定によれば、1000日にもなるというから、はっきり言って、タバコを退治しないと、環境問題をいくら頑張っても駄目だという結論になってしまう。


環境ホルモンの環境中の濃度

 国立環境研究所による研究結果である。環境中といっても、水中を意味するのだが、霞ヶ浦、多摩川、諏訪湖などの水中の環境ホルモンを分析できる方法を確立し、その測定を行ったという研究論文である。検出方法などの分析手法に関しては、それこそサイエンスなので、その道の専門家でないと分からない(私にも分からない)。その結論は、しかしながら、市民社会と共有すべきもののように思える。


C先生:国立環境研が特別研究として平成11年から13年の3年間に渡って研究を続けてきた環境ホルモンの環境中濃度の測定法の開発とその実際の測定値に関する報告書が発行された。
 「環境ホルモンの新たな計測手法の開発と環境動態に関する研究」
  (内分泌撹乱化学物質総合対策研究) 平成11年〜13年
    SR−46−2002  平成14年9月

A君:目次はこんな風です。細かい項目は無視していますが。

1.研究の目的と経緯
2.研究の成果
2.1 内分泌撹乱物質の分析法に関する研究
2.2 内分泌撹乱物質の評価法に関する研究
2.3 環境試料への応用
3.まとめ

B君:この研究の概要は、と言えば、分析法を開発したこと。分析法とは、どのような物質が入っているかという定性分析と、どのぐらい入っているかという定量分析があるが、この研究では、微量な物質を定量的に分析できるようになった。しかも、分析対象が環境試料なだけに、いろいろと妨害をするようなほこりとか砂とかが混入しているが、それでも分析が可能な方法論を作った。これが、2.1の内容。

A君:2.2の内容は、評価法を作った。これは、アッセイと呼ばれているが、環境ホルモンの作用の強さを評価する仕組みを確立したということ。必ずしも定性的な記述はできないが、どのぐらいの強さの作用があるかを評価できるようになったということ。これは、結構重要で、全部を分析しなくても、環境の状況が危険な状況なのかどうかといった判断ができることを意味しますから。

B君:分析法のところの詳細は、省略が可能のように思える。ただ、その中で取り扱われている免疫化学的分析法、一般には、ELISA法と呼ばれている方法は、実際には定性分析ができるわけではないので、2.2の評価法と中間的なところに位置する。

A君:何をどう分析できるようになったのか、ということは重要なのでは。

B君:まあ、そうだ。今回の分析法の対象物質で、もっとも重要な分析対象は、実は、女性ホルモンである17βエストラジオールとその関連物質だ。17βエストラジオールいう物質が人体の中で作られて、それが体内で女性ホルモンとしての作用の弱い物質に変化して、体外に排出されるが、それを代謝物と呼ぶ。この代謝物の分析と、この代謝物が環境水中で、再び分解して、もとの17βエストラジオールに戻る可能性がある。このあたりの関係を解明するためには、代謝物、分解生成物、もともとの物質などを分けてきちんと分析できる必要があるが、それが可能になったということだろう。

C先生:これがなぜ重要か、といえば、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった界面活性剤起源の、別の言葉で言えば環境ホルモン作用をもつ人工物質よりも、ヒトが排出する本物の女性ホルモンの方が、環境影響が大きいということだ。

A君:分析対象物である17βエストラジオールの代謝物ですが、ジオールのジは2を意味し、オールはOHを意味します。2つのOHを持っているために、E2と省略して書かれる分けです。エストリオールのトリは3を意味し、E3と省略されます。

B君:E2−3Sは、代謝物の一つ。抱合体と呼ばれることもあるが、硫黄酸化物がホルモン作用の基本的な要素であるOH基のところにくっついて、ホルモン作用を失わせている。E2−3Gも同様で、糖のアルコールがカルボン酸になったような構造がくっついてホルモン作用を消している。

A君:これらを酸抱合体というわけですが、下水処理の過程で、それが取れてしまう。となると、もとの17βエストラジオールの活性が戻ってしまう。

B君:その女性ホルモンとしての強さは、ノニルフェノール、ビスフェノールAなどの1000〜1万倍はあるから、環境水全体としての評価をすれば、圧倒的に、本物の女性ホルモン関係の作用が強いことになる。

C先生:もちろん、有機物だから分解はする。分解菌がいるようで、数日以内には分解をするようだ。ということで、環境ホルモンがもしも問題になるとするのなら、それは生態系への影響で、その最大の原因は、と言われれば、それはヒト由来の女性ホルモンだということが再確認された

B君:まあ、終わった話だとは思うものの、1970年ごろに環境中に放出されたダイオキシンとPCBが人体に蓄積されて、当時出生した男児に環境ホルモンとして影響を与えたかもしれないという問題がある。

A君:1970年ごろ生まれの男性がなんとなく女性っぽいということ?

C先生:終わった話だというのは、母乳中のダイオキシンやPCBの濃度は、まずまず低下しつつあるから、ということだが、まだ、完全には安心できない。それは、PCBはまだまだ保管されていて、分解処理がなされていないからだ。法律はできた。早く分解事業を実施すべきだ。