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科学的迷信4 水添加燃料編 12.17.2000




ガソリンに水を加えたらエンジンの出力が上がった、というような迷信もある。熱力学の法則は、そう簡単には破ることができない法則なのだが、そういう理解はなかなか浸透しないようだ。


C先生:もう一つ、水の話。先日、ある知人から「歴史を変える大発見かもしれないら、ちょっと話を聞いて欲しい」、ということで、断りきれずにお会いした。その話は、こんなものだった。
 燃料1に対して水を4倍量添加しても燃えるようなバーナーを開発した。このバーナーを使って、燃料だけを燃焼したときの温度と水添加燃料を燃焼したときの温度を比較すると、水添加燃料の方が遙かに高い。しかも、バーナーから出てくる炎も元気だ。水の添加によって、油だけのときよりも発熱量が高くなったと思われる。水がイオンに解離して、再結合するときにエネルギーを生み出しているのではないか。
 そこで、質問した。「熱力学の第一法則が破られたとお考えですか?」。回答:「現状を見ると、そうとしか思えない」。
 さて、どう思う。

B君:「熱力学の第一法則が破られた」、という主張はしばしばあるようだが、これが破られたら「地球の存在そのものが否定された」、と言えるぐらいの大原則なんだけどな。

E秘書:熱力学第一法則ってそもそも何ですか。

A君:「エネルギー保存の法則」、というものです。エネルギーは色々な形を取ります。例えば、熱エネルギー、運動エネルギー、ポテンシャルエネルギー、電気的エネルギー、などなどですが、エネルギーは消え失せることなく、総量としては保存されているということです。

E秘書:それで、そのバーナーの話がどのように解釈されるのですか。

A君:この場合、発熱量は、燃料油の持っている化学的なポテンシャルエネルギーが供給元です。油が燃えて、二酸化炭素と水になるときに、その熱量を放出する訳です。すなわち、化学的なポテンシャルエネルギーというものは、物質が変化しなければ供給されないのです。燃料に水を加えても、水は途中で蒸発したりしますが、最後はまた水ですから、化学的には変化していません。ですから、水が水に戻る限り、エネルギー源にはなり得ないというのが、熱力学第一法則の意味するところなんです。

B君:それどころか、水は加熱されて水蒸気になって、そのときに熱量を吸収する。バーナーからは水蒸気の形で外部へ出るから、バーナー内部だけで勘定すれば、他の物体を加熱するためのエネルギーが水を加熱することに使用されているので、むしろ、発熱量は落ちるはずだという推測も、やはり熱力学第一法則から出てくる。

E秘書:それなのに、水を加えた方がバーナーの温度が高いから、熱力学第一法則に反する現象が起きている、という推論なんですか。

C先生:まあそうだ。厳密にいえば、「バーナーの温度が高いことは発熱量が高いことだ」、と一対一の対応にはならないのだが、今回の場合には、そう考えても良いのだろうな。

E秘書:だとすると、水を加えた方がバーナーの発熱量が増えている。となると、やはり熱力学第一法則が破られたという解釈が出ても不思議ではない、と思いますが。

C先生:ところがそんなに簡単に破られてしまっては困る法則なんだ。これまでに、熱力学第一法則が破られたという例は無い。

E秘書:科学というのは、そんなにも例外が無いものなんですか。テレビなどを見ていると、超能力とかUFOとか、ミステリーサークルとか、色々と科学では説明ができないということがいくらでもあるような番組が多いですよね。

C先生:科学が信頼されていない時代だから無理もない。しかし、熱力学第一法則にしても、第二法則にしても、100%信頼しておいて間違いはない法則だ。そのぐらい基礎的な法則であって、これが破れたら、それこそ地球の存在そのものが疑わしくなる、といったぐらいのものだ。

B君:「地球が本当に存在している」、ということを皆さんはどうして確実なことだと考えているのだろうか。

E秘書:それは、シャトルなどで宇宙に行った人が目で見て、テレビカメラで写して放映しているからではないですか。

B君:それなら、「月面に人が行った」ということは。

E秘書:宇宙から地球を見た人に比べれば、月に行った人は少数ですから、全員が嘘をついているということを否定するのは難しいかもしれませんね。しかし、信用できますね。一応画像でアームストロング船長が歩いているのを見ていますからね。

A君:最近、明石屋さんまとマライアが競演しているコーヒーのコマーシャルとか、映画の中のオードリーに紅茶を飲ませるものとか、カップヌードルのコマーシャル、あんなものはどう思います。

E秘書:あの月の画面が嘘だというのですか。

A君:いえいえ。別に。偉そうなことを言わせていただければ、科学というものは、「目で見えないものを、知性で見て、信じられるものは信じ、疑わしいものは信じない」、という行為なんです。

B君:今回の場合、「水を添加した燃料を使った方が温度が高い」、ということは目で見えること。だから、それがすべての場合に成立すると信じることが、非科学的だということになる。

C先生:科学も勿論、目で見ることが基本。いろいろな条件で、様々な観点から見る。むしろ「観る」という字を使うべきかもしれないが。そして、その観察結果に対して、共通の支配原則はないのか、という考察を行い、そしてもしもそれらしき原則が見つかれば、その原則に反するような観察結果に対しては疑問を持つ。なぜならば、人間の目も誤魔化されやすいから。さらに、測定器を使うと必ず誤差がある。しかも、本当に測定すべきことを測定しておらず、どうでも良いことを測定している場合もある。

E秘書:むずかしいですね。でも、なんとなく分かったような気がします。今回のバーナーについては、温度が高いとか、炎が元気だ、だから発熱量が大きいとかいったことでは「観察が駄目」だということですね。発熱量の絶対値を測定しなければ駄目。

C先生:そう。それが正しい推論。燃料だけで燃やした場合に、すべての燃料が完全燃焼しているという仮定が間違っている。この条件で理論的に計算できる発熱量が得られていると仮定するなら、確かに、水を入れた場合に、理論を超す発熱量になっているという推論になる。しかし、この仮定が全く間違っているのだろう。

A君:なにやらバーナーの出口の形が重要らしくて、自由空間に炎を作るのでは駄目で、耐熱材料で作った燃焼室を作り、そこで油を燃やして狭い出口から炎を吹き出すような方式なんですが、大体、こんな妙な燃焼器を作ったら、かなりの部分がその燃焼室の加熱のためにエネルギーが使われてしまう。外に取り出せるエネルギーは少なくなる。だからその燃焼効率を測定するのが当然なのに、それをやらないで、同じ装置で、燃料だけと水を加えた燃料の比較をすることが、どれほど意味があるのでしょうね。

B君:なるほど分かった。そういう仕組みか。その燃焼室の温度が、油だけで燃やした場合には高くて、外にはエネルギーが出てこない。すなわち、吹き出す炎の温度が低い。しかし、水を加えると、水が蒸発して気体の体積を増やすから、外に吹き出す炎が元気になる。多分、そのかわり、燃焼室内の温度は下がっている。

A君:その他にも多分要素があって、空気と油との混合状態が悪いことが、水を加えることによって改善され、不完全燃焼状態だったことも改善されるという可能性もありますね。

C先生:まあ、どれが正解かは分からないが、いずれにしても、熱力学第一法則のように、これまで破られたことのない法則が、簡単な装置でしかも「水」などという本来なら逆効果でしかないものを燃料に加えることによって「破られた」と考えることは、科学的迷信を信じることだとしかいえない。

A君:熱力学第二法則は、永久機関ができないという法則でもあるのですが、この方が、さらに誤魔化しがあるようですね。エントロピーなる量を計算しなければならないが、その概念がわかりにくいから。

C先生:熱力学は、すべての工学者にとって必須なんだが、熱力学で論文が書ける状態ではないもので、少なくとも応用化学の分野では、まともに熱力学を教えることができる大学の先生がいない。困ったものだ。