________________

環境ホルモンの脳への影響−立花版NHKスペシャル
 05.10.99







 かなり前の放映になるが、4月中旬(23日だったかも)に放送されたNHKスペシャルは、キャスターとして立花隆氏が登場し、米国五大湖のPCB汚染を中心とした環境ホルモン問題が報道された。人体影響としては、立花氏がその著書でも主張している脳への影響で、それが証明されたというもの。残念ながら、放送からデータの詳細を理解することができなかったが、五大湖ので取れる魚を妊婦が食べることによって、知能指数が5程度低い新生児が生まれるという。確かに否定できない。しかも、もしもあったら大変なことだ。あの報道をそのまま受け取ると、日本では、「環境ホルモンを考えた魚の食べ方」といった記事がまたもや週刊誌をにぎわすことになるだろう。しかし、本HPの結論は、次の通りである。「アメリカ五大湖と同じ状況は、幸いにして日本では起きないだろう推測できる。」立花氏は、どう結論されるだろうか。米国には悪いが、対岸の火事として冷静に対処しよう。
しかし、もう少々数値データが分かるような報道をしてほしい。

重要な御質問をいただきました。確かに、もっと明確に書くべきでしたので、追加をしました。


C先生:NHKスペシャルの放映があったのは、4月中旬だった。すでに数週間近くたってしまったが、連休ぼけとビデオの数回の見直しをしたもので、時間がかかった。諸君達も、しっかりとビデオを見たろうから、そろそろ議論をやる準備が整ったようだ。それでは、概要を頼む。

A君:はいはい。今回の環境ホルモン問題で取り上げられている主な物質がPCBです。その他多少ですが、ダイオキシンも取り上げられています。米国五大湖のPCB汚染が、一見綺麗になった湖の水とは裏腹に、いまだに相当高いレベルにあるらしくて、五大湖で取れた鮭や鱒などを常食とすることは、米国環境庁EPAも避けるようにとの指示を出しているという状況のようです。

以下は、ビデオからの要約です。


ビデオ: 例の「奪われし未来」の著者シーア・コルボーンが登場して語る。最近、環境ホルモン関連の論文が非常に増えている。WWFの科学顧問である同女史は、その論文のすべてに目を通して、事実の把握に勤めている。

ビデオ:五大湖では、くちばしの曲がった鳥、などが観察された。精子を作る機能がだけでなく、脳に影響がこれまで考えていたよりも重大。異変が今も続いている五大湖。

立花氏:「この問題は、脳が作られる極初期に影響を受けると、脳の働きに影響を与えるとの指摘だと読む。正常な脳の持ち主が社会を構成しているという前提が崩れる。」

ビデオ:最新研究が月に500通。脳神経系の結びつきをどのような観点から眺めているか。ニューロトクシック・イフェクト。奪われし未来を書いていた93〜95年にも、脳に何かが起きているという証拠はなかった。その後、新しい研究がどんどん進んで、新しい証拠が出てきた。見た目で分かる形態学的な脳の異常に出会っている。野生生物の脳に影響がある。脳がなかったり、肥大していたりしている幼鳥。ダイオキシンの濃度を測定した。脳に異常をもたらすのか。ダイオキシンを鶏の卵に投与したところ、鶏の脳の形が変わっていることが分かった。

ビデオ:五大湖のPCBに関するジェイコブソン博士の研究。五大湖の魚を食べていた母親が生んだ乳児の知能を15年前から研究。へその緒に含まれていたPCBと知能の低下に相関が見える。PCBはへその緒を通して胎児に移行した。その後の追跡調査し、11才の時点で、平均よりも6.2ポイントIQが低い。

コルボーン:「子供が体内に蓄積しているPCBと知能とは全く関係が無かった。すべては子宮の中で決まる。」

ビデオ:五大湖では、汚染された土を取り除く作業をいまでもしている。胎盤があってもPCBは通り抜ける。PCBのへその緒中の濃度と乳児の知能の高さと相関があり、133ng/g以上だと知能が2程度低い(データにはエラーバーは無かった)。

コルボーン:五大湖のPCB濃度は、一時よりは減少したが、現在の濃度でも知能は低下する。状況は70年代80年代と差はない。生産されたPCBの70%は今も使われている。

立花:知能指数にして5とか6とかの差にすぎない。この小さな知的レベルの差ではあるが、社会に与える影響は深刻である。

コルボーン:この深刻さがどうやったら世の中に分かって貰えるか。最初からウソだと思っている。妊娠している母親にPCBを食べさせる実験ができない以上、証拠の重さを積み重ねることが唯一できること。

ビデオ:ミシガン州は五大湖の鮭。EPAはミシガン州に鮭の食用に対し見直しをせまった。ミシガン州は釣り産業を保護したがった。EPAに強く言われて、やっとミシガン州は基準を作った。食べて良い量は、妊娠中は月に1回程度。

立花:なかなか恐ろしさに気がつかないことが、環境ホルモンの本当の恐ろしさである。しかしながら、現時点でも厳密、厳格な証明を求めたら、「まだ無い」と言わなければならない。

コルボーン:資金援助をしてくれる人がいない。米国では、お金を掛けて宇宙の研究ばかりやってきた。ようやく、子宮の中の研究がなされた。

ビデオ:ミズーリ州立大学、サール博士。妊娠中のマウスにビスフェノールAを飲ませたところ、生まれたマウスの前立腺肥大が見られた。わずか2マイクロg。大人のマウスなら50mgでも平然なのに。(体重1kgあたりのドーズ量かどうか不明)

コルボーン:エリー湖の鮭の甲状腺が肥大している。すべての鮭の甲状腺が肥大している。肉眼で見えるようなものではないが、エリー湖は見た目はキレイになったが、現在取れる鮭も甲状腺が非常に大きい。

立花:見た目はキレイだが、前よりも悪い状況になっている。脳神経系を侵すものが何かといえば、甲状腺ホルモンが重要。

コルボーン:甲状腺ホルモンは、記憶、知性、注意力を司る。甲状腺ホルモンは脳が形成される最初の段階から重要。

ビデオ:PCBをラットに与え、甲状腺ホルモンの影響をみた。ラットに与え聴覚を調べた。聴覚に悪影響。

ビデオ:ハウザー博士:ADHD(自分の感情をコントロールできない子供の病気)。環境ホルモンが甲状腺ホルモンの働きを阻害することで、ADHDになる可能性がある。マウスの卵子を取り出して、この卵子に突然変異遺伝子を導入し甲状腺ホルモンがうまく働かないマウスを作る。マウスの動きを記録する。脳の成長に影響を与えるホルモンは5万種ある。ADHDには、原因となりうる遺伝子が無数にある。しかし、研究者は疑い始めている。

立花:手遅れになる前に、社会的決断を下さなければならない。どのように政策に結びつけるかといった議論。孫の孫への影響を考えると、考え方が変わってくる。

立花:母乳を乳児に与えるべきかどうか、講演をするといつも困るのだが、若い女性がいて、母乳の問題の質問がでる。困る。どっちが良いか、自分で考えてくださいとしか言えない。

コルボーン:お願いだからその質問をしないで、という気分。

立花:問題の大きさに絶望的になるときもある。

コルボーン:1988年に、五大湖の野生生物の異常が示す兆候に絶望的になった。月に5通だった論文が現時点では、月に400〜500通になった。これが勇気の源。少しずつ変わりつつある。

立花:米国では、化学物質8万7千種全部の環境ホルモン性をチェックする。
 環境ホルモンを心配しすぎることも、体内のホルモン分泌に悪影響を与えるので過度に心配しすぎないように。

コルボーン:「このような研究をサポートする資金が無い」、「このような研究をいくらやっても、産業面で直接的利益がでないから」



A君:こんな感じのビデオでした。

B君:事実であるかどうかを疑う訳ではないが、このような汚染の状況が日本ではどうなのか、その判断材料が一切提供されない。このような報道はやはり問題なのではないだろうか。

C先生:ビデオを繰り返し見たが、実験に用いた量が、試験動物の体重1kgあたりなのか、それとも絶対値なのか、そのあたりが良く分からない。だから、判断がつきにくい。後で文献調査をしなければ。

A君:良く言われるように、専門学者は、自分の研究が意味が無いとは決して言わないので、第3者が正当な判断基準で判定をするようにしないと、何が本当に正しいか、これが分からない。だから、報道はより定量的でないと、判定が不可能。

B君:それにしても、11才の子供は兎に角として、乳児の知能指数が5とか6とか低いというデータが、どのぐらいの精度で言えるのか、このあたりの報道・情報伝達が同時に行われないかぎり、コルボーン女史が言うように、いくら危機的状況であると説明しても分かろうとしてくれない人々が大勢を占めてしまう。今回示されたデータでも、少なくとも統計的な処理がなされた場合に表示すべき標準偏差のデータが出てこない。これでは、「科学的にどういうことか」とやはり考えてしまう。

C先生:いろいろと問題のあるビデオだが、読者の皆様には、現時点では、極めて直感的な議論にならざるを得ないことをご了承いただき、どのようなことが言えるか、その議論をしてみようか。

A君:PCBにしても環境ホルモンにしても、生態系と野生生物に悪影響が出ていることは「ほぼ確実」。それについては、日本におけるダイオキシンの被害よりも確実に言えることかもしれない。

B君:多分そうだ。しかし、人間に対する影響は、必ずしも明確ではない。一部にそれらしき兆候が見えている。しかし、まだ仮説レベルか。五大湖の見かけがキレイになったため、そこで取れる魚を食べる人が増えたのだろうか。だから、影響が見えるようになった可能性あり。

C先生:ある種の環境ホルモンが胎盤を突破して胎児に到達していることも、「ほぼ事実」。これは衝撃的な話。しかし、以前からの指摘事項でもある。いずれにしても、胎児に対する影響は、極めて慎重に取り扱うべき。

A君:それに対して、男性の大人に対する影響は、まず絶対的に無いと考えて良い。妊婦以外の女性の大人も大丈夫だろう。

B君:最近、機会均等法などによって、ジェンダー間の差を無いと見る人が多くなっているようだし、若い女性でも「タバコ・アルコール両方ともどんどん」の人がいるが、次世代を再生産するという視点からは、もう一度考え直すべきかもしれない。体内に難分解性物質を蓄積する行為はやめるべきかもしれない。タバコは、ダイオキシンを生産して直接吸いこんでいるようなものでもあるから。

A君:喫煙の先輩格、インディアン。彼らの知恵の再調査か?

C先生:ビスフェノールAに関しては、体内の代謝速度が早いと言われているので、PCBやダイオキシンなどのような代謝速度の遅い物質とは違って、日常的にそれほど気にする必要はない。ただし、妊娠中の影響は可能性が皆無ではないようだ。慎重に。妊婦がポリカーボネート製食器を使う必要はない。電子レンジでチンした料理は、週に一回まで。きちんと調理をした食事をしよう。

B君:環境影響を与える物質の中でも、環境中での半減期の長い物質は、やはり要注意。有機塩素化合物の一部がそうだ。しかし、多くの物質はすでに禁止されている。これから現われる物質すべてについて、体内代謝速度、環境中の半減期の測定は義務化すべきだろう。また、分解性を予測する方法論を確立することも重要。
 それにしてもPCBは、日本ではまだ貯蔵するのかな。そろそろ強制的処理をした方が、トータルリスクが低いような気がするが。処理コストの問題がありそうだが。このあたり、専門家に聞いてみよう。

A君:母乳の話は、日本に関して言えば立花氏の見解は間違っている。母乳中のPCB量は、1970年代から半減している。だから、悪影響があったとしたら、現時点で25才ぐらいの世代に何かが見えるはず。だから、現時点での母乳については、結論が出ている。「母乳を与えるべし」。

B君:PCBについていえば、カネミ油症事件があったので、いろいろと追跡調査が行われている。日本では、知能に対する影響は無いとの結論。ところが、同じような油症事件が台湾であって、その追跡調査だと「知能に影響あり」。これは、予防的安全を考えて、「有り」という結論だと考えるべきだろう。

C先生:それにしても、カネミ油症などももう少々まともな追跡調査ができなかったのだろうか。また、もう一度やりなおせないのだろうか。いずれにしても、現存するものは、どうも信用しにくい。

A君:環境ホルモンと「脳、甲状腺ホルモン、ADHD」といった連関については、まだ、仮説段階あるいはそれ以前の段階だろう。否定できない可能性の一つとして理解すべきだろう。

B君:うーーん。もう少々重みを与えるべきだろう。ただし、ヒトレベルでの直接的証拠をどうやって取るか、これには知恵が必要だろう。

C先生:さて、そろそろ結論だが、ここでは次のように言い切ろう。「今回のビデオのような状況は、現在の日本で起きるとは考えにくい」。
 米国と日本の最大の違いは何か。それは、河川水の流れの速さ。勾配が急な国土構造のおかげで、多くの河川の汚れはキレイになる速度が比較的大きい。五大湖の特徴かつ問題点は、それが閉鎖性水域で、余りにも広大なため水の交換速度が遅いことだ。このような閉鎖性水域は、日本だと琵琶湖が代表的だが、琵琶湖の周辺は五大湖ほどの工業地帯ではない。というよりも70年代には、それほどの工業地帯では無かった。しかも琵琶湖で取れる魚を常食にしている人はまずいない。しかししかしだ。琵琶湖の水は京都大阪の飲料水になっている。だから、琵琶湖は日本の環境問題の指標として極めて重要。琵琶湖が大丈夫な状況を保てば、日本全体でもまず大丈夫。
 海はどうか。海は水の量が莫大かつ流動している。海全体が汚染されたら、ヒトの生存は危ない。しかし、汚染はまだ近海域が問題で、遠洋はこれからの問題だ。一部、そうとも言えない状況が、海生哺乳類に見えるようで心配だが。さて、汚染は近海だが、日本人で近海魚ばかり食べている人はまずいないだろう。
 母乳中のPCB汚染データが70年代から下がっていることを考えても、日本のPCB汚染は、全体的な視野では徐々に良くなりつつあるのだろう。 だからといって現状の日本について、「完全に安心して良いとも言いにくい」。まだまだ局所的なPCB汚染・ダイオキシン汚染が無いわけではないからね。この「局所的」に加え、「不公平」が現在の日本の環境問題の特徴。ちょっと、脱線したか。
 環境ホルモン問題について、日本では相当の国費、120億円以上を投じて研究を行ったはず。研究者の意識がしっかりしたものであれば、かなり正しい結論が得られるはず。しかし、「予防原則」、「ゼロリスク原則」、から「予測原則」、「トータルリスクミニマム原則」に研究者の頭が切り替えられていることが条件だ。「グレー」という結論をいつまでも出しているような研究者の存在を許すべきではない。皆様も、しっかりした結果がでるかどうか、要チェック!
 立花氏の最後の言葉、「環境ホルモンを心配しすぎることも、体内のホルモン分泌に悪影響を与えるので過度に心配しすぎないように」、は事実。精神的ストレスは発ガンのもとだ。理性的に状況を判断しよう。


追加:05.13

I氏からの御意見御質問:

立花版のNHKスペシャルについてのABC三方の話の中に、以下のA君のコメントがある。

A君:母乳の話は、日本に関して言えば立花氏の見解は間違っている。母乳中のPCB量は、1970年代から半減している。だから、悪影響があったとしたら、現時点で25才ぐらいの世代に何かが見えるはず。だから、現時点での母乳については、結論が出ている。「母乳を与えるべし」。

これが、小生には理解できなかった。25歳で何ともなければokという考え方が賛成できない。この手の影響は子孫に出る場合があるようなので、その世代の産んだ子供が問題ないとなって、ようやく言えるかなというのが私の理解です。

その世代に限定して見た場合でも、生殖能力異常があるかも知れない。25歳ではそれはまだ統計的には分からないでしょう。


C先生からの回答:
私には、お書きになっている理由が逆に理解できません。まず、胎児への影響、特に、何らかの知能低下などを含む発生時に由来する機能不全が、環境ホルモンの持ちうる最大の影響だというのが、私の理解です。しかし、環境ホルモンの人体への影響は、「遺伝子に損傷を与えるために影響がでるのではない」、というのが最大の特徴ですから、現在25才でその人が、万一、環境ホルモンが原因でなんらかの悪影響を受けていたとしても、母体中で受けたその影響が遺伝子異常として保存されてはいないので、次の世代に影響が出るということはあり得ないことだと考えます。ましてや、25才で正常でしたら、環境ホルモンの影響は無かったし、その人は次の世代に悪影響を与える能力すら持ち得ない。「この手の影響は子孫に出る場合がある」といった、環境ホルモン影響が遺伝/隔世遺伝するといったお考えは、まずあり得ない種のもので、私の感触では、過度に慎重すぎる考え方に分類される思います。

したがいまして、次のように結論できると思います。現在25才の方々が生まれたとき、母体には、現在の倍程度のPCBなどが含まれていた。そして、統計的に見て、現在の25才の知能・機能が低くなければ、その人へのPCB等の影響は無視できる程度のものだったと考えます。なぜならば、正常であることは発生時に環境ホルモンの妨害無しに遺伝子が正しく作用したことと示し、環境ホルモン類は遺伝子に損傷を与えるものではないから、その人の遺伝子も正常であるとの結論になります。勿論環境ホルモンとは無関係な、潜在的な遺伝子異常は当然のことながら議論の対象外です。

次に、現時点では、胎児は25年前よりも半分程度のPCB濃度の母体中ではぐくまれていることになります。環境ホルモンの特性として、ある濃度範囲の場合にのみ作用するという、逆U字型の感度曲線を仮定する場合がありますが、それは、かならずしも科学的に証明されているというわけではありません。となると、半分の濃度であれば、影響はさらに少ないと考えらるのが普通です。(この見解を余りに断定的に述べると、危険性が多少あるが、まず、大丈夫? より確実には、カネミ油症のフォローアップをきちんとやることで証明できるだろう)。

逆に、母乳にはメリットがあることは確実な事実です。それに対し、不確実な情報、かつ過度な慎重論で、判断を下すのは間違いだと考えます。したがって、「環境ホルモン、ダイオキシンなどの影響を考慮したら断乳すべし」はとんでもない結論だと思います。

アトピーなどがダイオキシンや環境ホルモンの影響だと主張する方々も多いのですが、私には、日本人の体が、余りの清潔環境のために変化してしまったと見ます。これは世界最高の長寿とのトレードオフとも言えますから、当然の帰結として受け入れるしかないとも思います。


資料編  
環境庁PCB混入機器等処理推進調査検討委員会中間報告:「PCB処理の推進について」97.10.30より
  全文は、これをご覧下さい

 PCBの環境濃度等については、我が国において、さまざまな媒体について、さまざまな調査主体によってモニタリングが行われている。 まず、環境庁による公共用水域の水質調査結果によると、1970年代後半には全国で0.1%程度、環境基準(検出限界0.0005mg/lとして不検出)を超える検体が見られたが、1985年以降は全て不検出である。また、海上保安庁が実施している主要内湾域の水質調査結果では、近年ほとんど不検出となっている。さらに、地方公共団体による内湾の底質の調査結果によると、例えば東京湾では1970年代後半に0.3mg/kg-wet程度であったのが、1990年代前半には0.03mg/kg-wet程度にまで減少している。
 国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)による魚に関する食品汚染モニタリングでは、開放系用途の使用禁止直後の1972年には0.03〜1mg/kg-wetであったのが1981年には0.01〜0.4mg/kg-wet程度に、また1994年には0.1mg/kg-wet以下にまで低下している。PCBの人体摂取量も着実に減少している。
 大阪府による母乳脂質中のPCBの含有量の測定結果は、1970年代から80年代のはじめには平均濃度で1mg/kg-wet(脂質当たり)を超えていたが、その後低下し、1990年代のはじめには0.3〜0.4mg/kg-wet(脂質当たり)にまで低下している。
 一方、環境庁の生物モニタリングの結果では、魚介類については1980年以降全体に減少傾向にあり、近年では内湾でも0.5mg/kg-wet以下であるが、減少傾向については近年明確でないものもみられる。また東京湾のウミネコの調査結果では1980年代後半以降あまり変化がない。
 このように、環境中あるいは生体中のPCB濃度は全体的に減少してきているが、一部のデータには減少傾向が明確でないものもあり、データの数・種類も限られているため、引き続き適切な監視が必要である。



米国データ いささか古いデータしか発見できず
Data collected in southeastern Lake Michigan provide insight into the history of PCB contamination. PCB levels in Lake Michigan lake trout increased from 12.86 ug/g in 1972 to 22.91 ug/g in 1974. Between 1974 and 1990, PCB concentrations declined by nearly an order of magnitude to 2.72 ug/g. During the period 1977-1990, PCB concentrations declined significantly in lake trout in the Lakes Superior,
Huron, Erie and Ontario (Figure 5), following the same general trend observed in Lake Michigan. However, these declines have not continued in recent years. Compared to the rate at which PCBs declined in lake trout and walleye over earlier time periods, concentrations have not declined significantly in lake trout from Lakes Superior, Michigan, and Huron since the mid 1980s, nor have concentrations declined significantly in walleye from Lake Erie since the early 1980s. While data from US EPA (De Vault and Hesselberg, 1994) (Figure 5) suggest that PCBs continue to decline in Lake Ontario lake trout but at a lower rate, Canadian data from DFO show that between 1985 and 1990 PCBs in lake trout in Lake Ontario actually increased.

PCB trends in coho salmon fillets from Lake Michigan differ somewhat from those observed in lake trout. PCB concentrations in coho fillets declined from 1.9 ug/g in 1980 to 0.38ug/g in 1983, after which they increased steadily to 1.09 ug/g in 1992. Coho salmon fillets from Lake Erie followed a similar pattern with mean concentrations of 1.07, 0.38, and 0.53 ug/g in 1980, 1984, and 1992 respectively. In both lakes, the decline in PCB concentrations in the coho was statistically significant, as was the increase in Lake Michigan coho PCB concentrations (Figure 6).


注:単位のug/gは、マイクロg/gを意味し、濃度としては、mg/kgと同じ。