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人類絶滅への7章−サイアスの世紀末遊び 98.12.07
  






 これまで月に2回発行されていたサイアスScias(大昔の科学朝日、最近科学雑誌はどんどんと消滅中=絶滅寸前?)が月1回の発行になった第一号の特集が、「人類絶滅への7章」であったのは象徴的か。あとがきによれば、担当者が長い間暖めていたテーマだそうだ。週刊誌やテレビと違って、この雑誌を読む人はいわゆるインテリだろうから、まあ一言で言えば遊びだが、もう少々ひねっても良かったのでは。


C先生:今日は、知的遊びだ。人類が絶滅する理由を記述しているサイアスの記事を訂正し感想を述べてみよう。まず、記事の紹介を頼む。

A君:はいはい出番ですよね。まず、7章からできていますが、それぞれについて簡単に説明してみましょう。
(1)ノストラダムス:1999年7月に起きるとされている破滅的な状況が何か。1万2千年前に最後の激変があって、地上の生物が絶滅しかけた、とするネオカタストロフィズムを紹介している。
(2)環境ホルモン:2120年における予想物語。なんと、化学物質の汚染がない月面に健康なカップルを選んで月面で子どもを作る話。
(3)プリオン病:例の狂牛病。近代畜産サイクルが生む文明病だそうだ。もともと人間にもあった。それは食人種の病気だった。
(4)隕石衝突:大火の玉は、過去100年間に2回(あるいは3回)起きている。これは、隕石の衝突であって、明日にでも起きても不思議はない。
(5)核の冬:核爆発によって大量に発生するチリとススが太陽光線を遮ることで、25°も寒冷化する。
(6)地球温暖化:800年前から気温は低下中。結局寒冷化によって滅亡する可能性が高い。しかし、人類を本当に滅ぼすのはヒューマニズムだ。
(7)廃棄物:阪神大震災における死者の9割が圧死だった。家具やマイホームの下敷きになった。廃棄物に埋もれて人類は消滅する。

 以上ですが、それぞれの章には担当者がいます。
(1)ノストラダムス:SF作家 南山 宏氏
(2)環境ホルモン:科学部 村山 知博氏
(3)プリオン病:東大名誉教授 山内一也氏
(4)隕石衝突:科学ライター 金子史朗氏
(5)核の冬:外報部次長 吉田文彦氏
(6)地球温暖化:東工大教授地球惑星科学 丸山茂徳氏
(7)廃棄物:編集部 松井 潤氏

B君:第一印象だけれど、まずまずそんなに悪くないね。なぜならば、例の環境NGOや例の環境関連大学教授達のように、一般市民に恐怖感を植え付けて自分の存在意義を主張するという手法を使っていないから。むしろ醒めている。人類が滅亡することは、地球レベルの視点で現象を眺めている人々(我々環境科学者を含めて)にとっては、いつか必ず起きることで当然なのだが、そういった把握をしている。

C先生:一般市民がこの雑誌を読まないことを十分に考慮してのこととは言え、かなり多くの示唆、しかもテレビなどでは言えないことを含んだ文章を書いていることは評価できるだろう。一部、雑誌でも反則ぎりぎりの文章もある。例えば、温暖化のところでヒューマニズムが人類を滅ぼすと言っているが、これは醒めている人々の間では常識になっているのだが、それを敢えて言わないという暗黙のルールを破っているところなど、勇敢だ。ご立派。
 「愛と言うことの根源を考えていくと、これはDNAの遺伝子の中に記入されています。ようするに、自分の子孫だけを残したいという心があり、非常に利己的です。しかし、個のレベルの愛が発展していくと、ヒューマニズムという観念になります。豊潤な時代の物質的豊かさが生み出した思想です。本来生物が優秀な遺伝子を残すための方法論を我々は放棄して、ヒューマニズムという観念を生み出しました。ヒューマニズムは人間をどんどん増やしてしまいました。今や毎年約1億人ずつ増えています。」

A君:そんなに結論を急がないでくださいよ。一項目について最低でも一言ずつはコメントすべきでしょう。違いますか。

C先生:分かった、分かった。

A君:それではノストラダムスから。ここでは、氷河期終焉も縄文海進も1万2千年前ということについて。でもこの歴史理解はおかしいのでは。この特集の温暖化のところにも過去1万年の温度変化が書いてありますが、縄文海進は6千年前頃の話で、今よりも気温が2°ぐらい高く、海面が数メートル高いという話ですが、そもそも氷河期が終焉したときには、海面は130mも上昇したという説があるし。
 細かいプラスマイナスを除けば、この節の最大の収穫は、まとめの文章ですね。
 「世界破滅や人類絶滅の予言にいたずらに恐れおののくのは愚かなことだ。特定の宗教の教訓的警告としてではなく、科学的にも現実の問題として考えられるようになった他天体の衝突やニアミスの可能性に対する心理的警告と受け止めて、環境破壊や人口過剰や資源枯渇の問題と同様、結局のところ解決の手段は、将来の科学技術の発展いかんにかかっていることを悟るべきである。」
 
B君:次節の環境ホルモンの書き方は、A君が評価しているそのような姿勢ではないね。化学物質が人類を滅ぼすという口調だ。しかし、自分の見解では、環境ホルモンが人類を滅ぼす可能性は極めて低い。なぜならば、人口がある程度減少すると、それは人類のとって持続可能性が高まることと同義だからだ。環境ホルモン問題が、たとえ精子減少などを引き起こしている本当の重大問題だとしても、それは人類全体の問題ではなくて、個人的な問題だ。有る特定の人に子供ができないという問題なのだ。

C先生:環境ホルモンを避けるために、要するに「遺伝子を守る」ために月面に行くのは、愚策だ。なぜならば、宇宙線の暴露が遺伝子レベルの損傷を増やすから。地球は大気というシールドで守られている。

B君:個人的な見解だが、精子の減少は、都市生活が原因なのでは。フランスあたりの研究でも、都会における精子の減少が見られるものの、田園地帯では減少が見られないらしいから。

C先生:その意見も真剣に検討する必要があるだろう。大気汚染、特に、ディーゼル排気中の微量有機物質、微粒子物質、バイクからの排煙など。さらに温度。都市はヒートアイランド現象で高い。温度と精子量は負の相関がある。ファッションもその一つ。最近都会の男のファッションが女性化しているのが気になる。女性化すれば当然精子は減少する。常時コンビニなどで食事を調達していれば、そこで環境ホルモンを摂取するチャンスが増えるかどうかは別として、亜鉛などの精子生産に必要不可欠の微量金属元素不足になるだろう。という意味で、都市化というのは精子減少を説明する良いキーワードだと思う。

A君:次のプリオン病ですが、これは、恐い話ですね。羊のスクレイピー。ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病とクールー、牛の狂牛病。クールーというヒトのプリオン病は、パプアニューギニアの食人儀式(葬儀の際に行われ、これは死者に対する敬意と感謝の表現だった)によって伝染して、ある葬儀に出席した60名のうち53名がクールーで死亡したという例もあったそうだ。潜伏期間はなんと40年にも及ぶとのこと。さすがに、1960年には食人儀式は行われなくなった。

B君:牛の狂牛病にしたところで、羊の脂肪をとったあとの脂カスや骨の有効利用ということで、牛の飼料に混ぜたことが原因。そもそも草食動物である牛の成長を早めて儲けようとする工夫の一環で、「牛を肉食動物に変える」といった馬鹿なことを考えた人間が作り出した病気だ。自然の摂理というものをちゃんと考えれば、こんなことにはならない。山内先生は「プリオン病は21世紀の重要な研究課題になるだろう」と結んでおられるが、プリオン病が本当に重要な研究課題になるようなことが起きたら、それは人間が作った文明は馬鹿げたものだったという証明になるだけだ。

C先生:次だが、「隕石衝突」。これはいつかは絶対に起きる。スペースガードを作って、衝突を事前に検知して巨大隕石をミサイルで爆破すべしという議論もある。まあ、それをやるだけの資金があればやってもよいが、当然リスク評価の対象だ。隕石衝突で何人死ぬか、人間一人の命を幾ら(¥)と見るか。それだけの金を払う正当性をどうやって証明するか。どうやって各国で資金分担をするか。議論百出だろうね。

A君:そういえば、中西準子先生のHPに、しばらく前ですが、面白い話が出てましたね。先生の研究室に高校の社会科の先生数名と生徒が来た。中西先生は例の調子で水道水の発癌リスクをなぜゼロにしないか、それは人間の命の値段を数億円と評価しているからだと言った話をしたら。社会科の先生は、「人間の命に値段を付けるなどとんでもない。そもそも命の価値は無限大だと教えなければならない。」といって譲らない。これは平行線だなあ、いくら時間があっても終わらないなあと思ったその瞬間、ある生徒が「自分は中西先生の考え方の妥当性が分かるように思う」と発言した。中西先生も驚いたが、もっと驚いたのは社会科の先生達だった。あっという間にその会談が終了したそうで。
 この社会科の先生達だったら、スペースガードに幾ら自分の懐から金を払うだろうか。

B君:その次。「核の冬」の話は昔からあって、人為的原因なら、やはりこれが本命なのでは。でも数100発の核兵器が爆発するとも思えないのだが。

C先生:さらにその次「地球温暖化」の話は、丸山先生の個性。まともな環境NGOなら目を向くような話。グリーンピースの感想を聞きたい。皆様のご感想も伺いたい。

A君:廃棄物が最後の節。でも固形廃棄物では人類全体は滅びない。なぜならば、そこまで大量の固形廃棄物を作る資源がないから。資源不足で人類は滅びるかもしれないが。
 でも、最後のまとめにある文章は面白かった。「恐竜は絶滅したのではなく、姿を変えて今でも生き延びている。巨大になった種類はたしかに6500万年前に滅んだが、省エネ型の小さな肉食恐竜は空という新たな世界を求めて飛び立った。鳥、としていまも悠々と飛び回っている。」

C先生:さて、結論だが、なんだかこのサイアスのシナリオでは、人類は滅びそうもないね。一番可能性が高いのは、次のような説ではないだろうか。なぜか寒冷化、飢饉、難民増加、局地戦争、全面核戦争、核の冬でますます寒冷化、このループ。これだと思うけどね。

B君:温暖化は100年後に2度までなら余り怖くない。もしもどうしても温暖化が恐いというシナリオを書きたかったら、「細菌の変身による新規感染症と使い尽くした抗生物質」という題材が比較的恐いと思う。だから細菌の変身をほう助する抗菌剤反対。

A君:ここでそんなことを言って良いのかな。そこで言い訳です。しかし皆様、温暖化して良いという訳ではないのですからね。温暖化は世界の一部地域に決定的損失を与えます。ダイオキシンも無視はできません。人類に対してはそれほどの害はないかもしれないが、他の生物に対しては恐らく甚大なる被害を与えるのは事実だから。僕って、ヒューマニストかな。

C先生:そろそろ結論だが、先ほどのA君が引用した文章が最後にもう一度書かれてしかるべきだな。
 「環境破壊や人口過剰や資源枯渇の問題と同様、結局のところ解決の手段は、将来の科学技術の発展いかんにかかっていることを悟るべきである。」
 でも本当は、追加が必要なんだ。曰く「その科学技術を選択できる市民の存在が必須である」、「すべての科学者はインパクトファクターなどという人口の0.5%以下(以前は0.01%としていたがもう少々多いかと考えを変えた)しか理解できない学術の価値基準を早く脱却し、自分のやっている科学の意義を市民と共有すべく、市民の言葉で語るべきである。」