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日経の官製リサイクル論  06.06.2000






日本経済新聞 2000年6月4日 日曜日の朝刊 (スクープ取材班)
「官製リサイクルに拙速のつけ−−早くもほころび」

 記事に曰く、「食品や容器包装、家電などを再利用する仕組みづくりが官主導で動き出した。リサイクルが軌道に乗ればゴミを減らせるとの期待が高いが、子細に検討してみるとどうやら「役所の描いた絵のようにはうまく回らない」との声も聞こえてくる。再生品の使い道がないケースや、かえって環境を汚す恐れさえあるという。背景にあるのは、拙速な法案作成や官民の調整不足。ここままでは21世紀に向けた循環型社会の実現はおぼつかない」。なる書き出しで始まるこの記事、ちょっと読むともっともと思わせるが、実際には余りにも読みが甘い。スクープ取材班の任務が何か知らないけれど、少なくとも、この手の報道スタンスで環境問題をいくらスクープしたところで、真実は見えないし、もちろん語れない。日経も、官庁の縦割り批判をするのは大変結構だが、貴社内でも分担を少々考えたらどうだ。スクープはスクープらしく、そして、環境問題には、その道のプロを育成して。


C先生:何を言いたいのだろうか。これが日経のスクープだそうだ。スクープとページの上の方に書いてあるから、スクープなんだろうが、こんな記事がスクープだとしたら、余程本物のスクープをする能力が無いことの証明だ。

A君:なんだか、最初から過激発言ですねえ。

C先生:当然だ!

B君:なんだか、怒ってますね。

C先生:当たり前だ。こんな読みの甘い記事を書いて、何がスクープだ。ちょっと出てくる。

A君:怒ってばかりいる人を相手にしてもしょうがないので、記事の概要をちょっとまとめますか。
 「循環型社会形成推進基本法をはじめリサイクル社会を目指す一連の法案がすべて国会で可決・成立した」、で本文は始まるのですが、たしかに先の国会では、「循環型社会形成推進基本法」、「改正廃棄物処理法」、「改正再生資源利用促進法」、「食品循環資源再生利用促進法」、「建築工事資材再資源化法」、「グリーン購入法」、という法律が全部成立してしまいました。従前から存在している「容器包装リサイクル法」、「家電リサイクル法」と併せて一連の法律ということになりますが、いろいろと問題のあるのも事実ですから、日経がこう書くのもまあ、ある程度は当然なんですが。

B君:でもなあ。すでに動いている容器包装リサイクル法が駄目だということを書くのは、それは駄目が証明されているからしょうがないが、それ以外の法律は、まだこれから施行されるのだから、本当に駄目かどうか、それは、もっと深い意味があるという場合だってあるから、そう簡単には決めつけられない。

A君:確かに。「早くもほころび」、が施行前の法律に対して言う言葉か? という疑問はありますよね。

B君:日本が循環型社会システムを構築してみよう、という決意表明として今回の一連の法律を眺めれば、まあ、全体としては良いことだ。これからより良い方向に向けようというのが、見識ある新聞としてのコメントであるべきだ。

A君:やっと日本も循環型社会構築に向けて走り出したところですからね。

B君:まだ走っちゃーいない。歩いてもいない。這い始めたとも言えない。這うべき方向に頭が向いたぐらいのところ。こんな赤ん坊に向かって、「早くもほころび」という言葉は、余りにも大人げない。

A君:段々、C先生がなんで怒っているのか、分かって来ましたね。

B君:大体、最初にやり玉に上がった「食品循環資源再生利用促進法」だが、この法律をこれまでの容器包装リサイクル法の枠組みで見るのは、恐らく間違いなんだ。

A君:どういう意味です。

B君:容器包装リサイクル法は、リサイクル法なんだ。「リサイクルをすること」そのものが目的なんだ。ペットボトルにしたところで、リサイクルをすれば、それで法律の目的は果たしている。ところが、その次の家電リサイクル法は、ちょっと別の要素が組み込まれた。それが、廃家電から自治体は外し、そして、「拡大製造者責任」の香りぐらいを組み込んだ。
 そして、「食品・・・・法」も、リサイクル法の形を取っているが、食品をゴミにしない方向へ社会を誘導する仕組みを内在させたのではないか。すなわち、使われないコンポストを作ってもしょうがない、金が掛かるだけだ。それなら、食品がゴミにならないような企業になろう、と流通とか外食産業に思わせるための法律だと思う。
 例えば、今の日本には、食べ残しを客にもって帰ってもらうドギーバッグというシステムが無い。保健所あたりの指導でできないようになっているらしい。ところが、あの責任に対して厳しいアメリカではドギーバッグは健在。客の自己責任が原則だから、もって帰ったもので食中毒になっても、店も保健所も「知らないよ」、なんだ。ところが日本は客を甘やかせているから、それ故にドギーバッグが成立しない。こんなところがそのうち変わるだろう。

A君:だとすると、食品をすべてコンポストにすると日本中が窒素過剰になるといった問題は、百も承知だということですか。

B君:当たり前だ。そんなのは、常識以前だ。マスバランスというものを考えれば、すぐ分かる。日本は、エネルギーベースで食糧の自給率が40%。ということは、60%の食糧は輸入されていることになる。田畑に窒素肥料が必要なのは、窒素はアミノ酸の原料としてすべての生物にとって必須だし、なおかつ、植物というものは、豆類などの例外を除けば、大気中の窒素を利用できないからだ。となると、その田畑で取れた作物分の窒素を、翌年は補う必要がある。ところが、60%もの食品が輸入されていれば、その食品が含む窒素は、外国の田畑から取り出したものだから、それを全部日本の田畑に戻せば、窒素過剰になるに決まっている。だから、全部を戻すことは、最初っから考えてはいけない。

A君:なるほど当然ですよねえ。ひょっとすると、その常識以前をこの日経のスクープ取材班は知らなかったということですか。

B君:そうに違いない。記述に大局観が感じられない。

A君:農水省の末松食品環境対策室長の「もともと、廃棄物として処理する場合もある程度費用は掛かっている。メタンガスを使った発電など、肥料・飼料以外の用途にも目を向けるべきだ」という発言が、無責任だと評価されていますが、ひょっとすると、末松氏は、この法律の本当の狙いが別のところにあることを理解している、とか。

B君:そんなことワカラン。

A君:東京農業大学の牛久教授の「せっかくリサイクルしても、用途開拓や物流・販売体制の整備を早急に進めないと、かつての古米、古々米のように、堆肥を保管するための貯蔵庫が近い将来必要になるのではないか」と言っていますが。

B君:この発言は、滅茶苦茶読みが甘い。この法律がコスト負担に耐えられない状況を作るのが目的だ、という理解は無いようだな。牛久先生は、それを税金でやれとでも言うのだろうか。本末転倒。法律の趣旨が分かっていない。

A君:それから、4月から施行された容器包装リサイクル法の話になって、包装・その他プラの収集の原則が混乱を招いているとの攻撃ですね。

B君:それは法律が悪いからしょうがない。どんどん攻撃して欲しい。もう容器包装リサイクル法は、限界に来ている。もともと、理念が違う。この法律も、他の法律のように、リサイクルが大変だから、「その包装・容器を使うのを控えようと」、事業者が判断する方向へ誘導すること、これを目的とすべきなんだ。事業者も、製造者だけがリサイクルの費用負担の義務を背負って、リサイクルのための分担金を容器包装リサイクル協会に払う。そして、使用する事業者は、リサイクルが回るようなシステム作りとそのシステムの運用の義務を負うだけでよい。すなわち、使用する事業者が、今の自治体の役割を背負う。費用は自己負担し、容器包装リサイクル協会に分担金は払わない。

A君:そして、容器材料には、ペットも含めて、リサイクル率だけを強制する。例えば、ペットなら50%のリサイクルを義務化する。もしも回らなくて、リサイクル率の達成ができなければ、それは、恐らくシステムを作れない「容器を使用する事業者」が悪いのだが、しかし、製造する事業者が罰則金を払うことになる。この形にすると、恐らく、両者で協議が始まる。そして、回る材料を使った回るリサイクルだけが生き残る、というのがAB&Cの提案ですからね。

B君:そういうことだ。このシステムのメリットは、容器包装リサイクル協会などが運用コストを余り多くの企業から集めないで済むということ、リサイクルシステムを作り・運用するコストは、どうせ、使用する事業者が自分でお金を払うのだから、他者は関知しないで済むこと、など、お金の流れからも合理的。

A君:今回の循環型社会法全体についての批判だと思いますが、明治学院大学の熊本一規教授「役所主導で拙速な仕組みづくりが先行し、国民的議論はほとんど無かった。制度がどこまで消費者の理解を得られたか疑問が残る」、という発言はどうですか。

B君:これは、事実をそのまま記述している。ただ、このような方が絶対に駄目だとは思わない。今回のようなある意味での大転換は、国主導で行うことが、拙速といわれようと、独断だと言われようと、恐らく必須であって、下手な議論を吹きかけると、流通・外食産業のような利に賢い企業は、反対ばかりする。最終的には、消費者の利益、といっても、現世代の消費者の利益では無いかもしれないが、になるのだから、こんなやり方も時には良い。

A君:しかし、その考え方は、少々危険思想ですね。民主主義的ではない。

B君:自自公ないし自公保連立政権は、かなり右向きにハンドルを切ったからなあ。このやり方で。そう言われたら、その通りと答えるしかない。

A君:それに加えて、日経の記者は、リサイクルの環が回らなければ、かえって環境にもマイナスだと主張していますよ。

B君:家電リサイクル法へのいちゃもんが、不法投棄の恐れ。これは、本当に心配なんだ。不法投棄を見張るための非政府組織NPOなどが構成できないものだろうか。そして、定地観測ができないだろうか。警察任せにはできないだろうから。だから、家電リサイクル法も、早めに改正して、これから作られる製品については、リサイクル費用は製品価格にONしておいて大部分はこれで負担し、手数料・輸送費のみを一律価格で消費者が排出時に負担するという制度にすべきだ。

A君:次の話題が堆肥(コンポスト)で、土壌・水質汚染に繋がるとも言っています。

B君:これも事実。土壌・水質汚染を防止するには、化学肥料を適切に使うのが一番。有機系は、一般に土壌・水質汚染を加速しやすい。なぜならば、有機系肥料は遅効性なので効き目を適切に判断するのが難しいから、ややもすると、過剰施肥になる。これは、有機農法の欠点なんだ。そこは、農家の工夫を期待。

A君:有機農法の基準がきつくなりすぎたという声もあって、この「食品リサイクル法」の枠組みでできたコンポストを使えば、何か別のラベルを張っても良いという形にして、後は、農家に慣れてもらうのでしょうか。

B君:まあ、そんなところか。

A君:そして、最後。「リサイクル法を作成した官僚達からは、ある種の逃げとも受け取れる発言も聞かれた」。行政改革に詳しい東洋大学の松原聡教授は、「本気で循環型社会を作るつもりなら、もう一度省庁再編をやり直して縦割り行政を改める覚悟が必要ではないか」。なんだそうで。

B君:それも事実。例えば、リサイクル法で規定された廃棄物は、もはや廃掃法にいう廃棄物ではない、という取り扱いをする必要があると思うが、結局、厚生省などの反対で実現できない。というよりも、清掃事業に関わる利権構造があって、それを壊すことに反対する黒い人々が多いことが、本当の問題かもしれない。

A君:しかし、兎に角やれるところからやった、という評価は絶対に必要で、もう一度省庁再編をやらないと循環型社会へ移行できないというのは、余りにも非現実的。

B君:その通りだ。松原教授の発言は、まさに評論家としての発言である。実社会は動いている。動きながらもなんとか改善する提案できないと、こんな空疎な発言になる。

C先生:ただいま。ちょっぴり、散歩をしてきた。やっと腹の虫がおとなしくなってきた。日経もよく考えて欲しい。では、今日はこれで終わり!!!!