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  放射線と健康 (単位編)  09.30.2001




 先日、「今週の環境」でご紹介した本(舘野之男著 岩波新書745、ISBN4-00-430745-7)をやや詳細にご紹介してみたい。一般人にとって、放射線の理解、特に、放射線の健康影響をきちんと判断することが何故難しいか、これに焦点を当てたい。
 まず、今日は、単位の話だ。これが分からないから分からない人が多いと思う。


C先生:この本は、実は1974年に岩波新書の1冊として出版された「放射線と人間−医学の立場から」の改訂版として書き始めたものが、結局全面的に書き直しになり、題目も変わってしまったもののようだ。最近、本屋を歩いていたら、新書でもう一冊、放射線影響の本がでていることを発見。
 "放射能"は怖いのか − 放射線生物学の基礎  文春新書 177 佐藤満彦著
 帯のキャッチコピーが、「正しく知って、正しく怖がろう」、だった。近藤宗平先生の本が寺田虎彦の「正当に怖がることはなかなかむずかしい」、を採用しているが、その2番煎じみたいな感じだった。

A君:ちょっと目を通しましたが、どうも言葉にむやみに拘泥している感じでしたね。要するに、放射性物質と放射能はどこが違うのか同じなのか、といった感じの議論が多くて、ちょっと辟易しました。

B君:そんな感じだ。メディアが間違った用語を使って、間違った報道をすることなど、それを一々問題にしていたら、それこそいつでも怒っていないとならないからな。

C先生:というわけで、申し訳ないけど、この佐藤満彦氏著の文春新書は紹介しない。

A君:それでは、舘野氏の岩波新書をご紹介します。
 この本の構成ですが、第一章が「放射線とは何か」という章でして、α線、β線などの様々な種類の放射線が、どのように発見されたか、その歴史的記述から始まっています。これは勉強になりました。第二章が、「放射線の量を測る」となっていまして、特性がばらばらの各種放射線を、どのようにして測るか。すなわち、危険性を議論するにしても、異なった特性のものに対して同じ尺度が使えれば便利で、どのような仕組みになっているのか、この記述です。

B君:放射線が分かりにくいのは、その第一章、第二章が分からないからだな。特に、第二章の単位が苦手だ。

A君:それでは、単位を一応ご紹介しましょうか。僕だって分かっている訳ではないのですが。まず、放射線をがん治療などの医療現場で使おうとすると、ある適切な量を照射する必要があります。多すぎると、当然障害が出ますし、少なければ利かないからです。どんな量だとがんが治って、どの量だと障害がでるのか、この単位を求めて当時の医師達は、ものすごく苦労をしたようです。1916年にドイツのエルランゲン大学の婦人科の人たちが、まず、「殺がん」に必要な「量」を決めました。そして、副作用が出る「量」を決めて、「殺がん」に必要な量を照射したのですが、多くの患者にはなはだしい副作用がでて、悲惨なことになりました。その原因は、当時の測定器が放射線の「量」をきちんと測っていなかったからでした。

B君:交代。1923年になって、デュアンという人が、新しい電離箱型の測定器を作った。これは、それまでの壁からでる二次線の影響を除外することができて、かなり完璧だった。この単位はRと表記され、レントゲンと呼ばれ、ドイツ・レントゲン学会公認の量になった。ところが、フランスでは、別の方法で測定することが多かった。詳しくは省略。やはり、フランスの単位もRと表記され、レントゲンと呼ばれていた。その後、国際的に統一されて、小文字のrが単位になる。いずれにしても、電離箱が原理だから、空気が放射線でイオン化する量を基準にして作られた単位だ。

A君:次に、ラジウムをどのように測るかという問題。ラジウムは元素ですから、当然のことながら、mgで測るのは当然です。しかし、危険な物質の重さを測るよりも、むしろ出てくる放射線の量を測って、標準のラジウムと比較するのが便利です。そこで、1912年にM.キュリーが作ったガラス管入りの21.99mgの無水臭化ラジウムが国際標準になりました。

B君:それにしても、歴史をたどるとものの理解が素直に進むねえ。やはり歴史的発達が人間の知識の発達とよく適合しているからだろう。
 それはそれとして、ラドンなる気体の場合にはどうしたか。ラドンはラジウムからできるようで、1gのラジウムと平衡状態にあるラドンが出す放射線、これが実はα線なんだが、その強さを1キュリーとした。キュリーは、当初cと表記したが、今では、Ciと記される。

C先生:ラドンだけに使う単位だったキュリーだが、これは便利だということで、同じα線を出す放射性物質については、ラドンと同じ量のα線を出す場合にやはり1キュリーとした。これはなかなか妥当な考え方だ。すなわち、α粒子の数にして、1秒あたり3.7×10**10個であるとき、それを1キュリーとした。
 ところが、それからも混乱が続くのだ。それは、α線を出す放射性元素ばかりではないからだ。ある人たちは、当然のように、電子線であるβ線の場合にも、3.7×10**10個を1キュリーと定義した。これは全く違った能力を持つ放射線を同じ量だと定義することになる。

A君:勿論、少しずつは、合理的な方法に決まります。まず、キュリーという単位が決まった。それは放射線の強さではなくて、1秒間に起きる3.7×10**10個の原子が崩壊する量を1キュリーとしました。

B君:1960年、あらゆる分野において世界的な単位の統一が行われた。それをSI単位と呼ぶ。SI単位では、放射能は、1秒間に原子核が何個崩壊するかによって定義される。1秒あたり何回というような単位として、周波数を表現するヘルツというものがある。放射能の場合に、これをベクレルという単位で呼ぶ。すなわち、原子核が毎秒1個崩壊するときの放射能が1ベクレルである。

C先生:長くなってきたな。しかし、ここまででは不十分。なぜならば、キュリー、ベクレルは出る方の量の話。健康影響は動物が放射線をどのぐらい吸収するか、これが問題だから。医療に使う場合には、吸収される量をドーズというが、このドーズをどのように定義するか、それが次の問題だ。

A君:色々な放射線、例えばγ線、高エネルギーのX線、β線といった異なった性格の放射線の吸収を標準化する単位が1953年に決められています。比較的最近のことですね。その単位がラド。その定義は、照射される物質が何でも、その物質1gについて100エルグのエネルギー吸収が起きる線量を1ラドとした。

B君:ところが、またまた単位が変わるのですな。SI単位系に組み込まれた際、1gという単位では駄目で、1kgが基準になってしまった。そこで、1kgの物質について1ジュールのエネルギー吸収が起きる線量を1グレイ(Gy)とした。1グレイ=100ラドである。

C先生:これで大体のところは決着したように思うが、実はまだ足らない。中性子線を医療に用いようという試みが出てきた。こうなると、また新しい概念が必要になるのだ。生物学的にどのぐらい効くのか、それを表現できる単位が欲しくなる。また、1942年8月、アメリカの原爆開発プロジェクトが秘密のうちに始まると、その中でも、放射線障害防止のための単位の整備が急速に進んだのだ。
そこで、レムという単位が作られたのだ。細かいことは、実はちょっと勉強したぐらいではよく分からないぐらい難しい。それが、SI単位に切り替わってシーベルトという単位が生まれた。

A君:現在、放射線防護の分野では、この生物効果の比に相当するものを放射線荷重係数と呼んで、次のような値を使っているらしいです。X線、γ線、電子線は1。陽子線は10。中性子線はエネルギーによって違うが、5〜20。α線は20。

B君:それが発がんを考えたときの有害性の比ということになるのかな。

C先生:まだある。ヒトの場合、体のどこに放射線が当たったかで、その影響は大きく異なるからだ。そこで、実効線量という考え方を入れている。この単位も紛らわしいのだが、シーベルトという単位を使っている。このあたりも複雑すぎて理解していない。
 ここで一つ常識を、「人間は宇宙線や地面からの放射線を1年間に1ミリシーベルト浴びている」、と覚えておくべきだ。

A君:やはり、よく分からないですね。これで一般市民に放射線の影響を明確に説明するのは至難の業でしょうね。

B君:原子力関係者は、いまだに、100%無害だからと主張しているから、実は単位はなんでも同じなんだよ。

C先生:そんな評価もしばしば聞く。実際、日本に残っている村組織の中では、もっとも強固なものの一つだ。