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企業側(製造側)と交わしたプラスチック論議

       98.11.12






 某化学企業のO氏と塩化ビニルや塩化ビニリデンなどについて、また、ポリカーボネートの食器について、メール上でいろいろと議論をいたしました。このような議論をできることは、大変に有用なことだと思いますので、ここに記録を残しておきます。
 同様なことが再度できますことを希望しております。


O氏自己紹介とイントロ:
 現在、私は某化学系企業の生活製品事業部に所属しております。
塩化ビニリデンのラップを製造しております。以下に意見を少々述べたいと思います。

話題1「焼却問題と塩ビ、塩化ビニリデンについて」

O氏のご意見:
 先生のご意見では、プラスチック(特に塩ビ系)は分別、生ゴミはコンポスト化して、その他の燃えるものは,焼却するというのが基本姿勢と思います。つまり、ゴミの全体量を減らすことになり、全体の方向は賛成できます。しかし、このようなシステムを確立することは,非常に困難なような気もします。むしろ、厚生省の方針でもある、焼却炉を完全に整備する(塩ビを燃やしてもOK)する方が市民も分別などの手も掛からず、早いような気もします。いかがでしょうか。
 ところで、ダイキオキシンの人間への毒性は、低いのではないかという話を私もそのように考えていたので、我が意を得たりという気がしました。もともと、人類は、火を制して真の人類となったと言えるわけで、物を燃やすと必ず発生するダイオキシンへの耐性が人類には備わっているような気がします。

安井回答:
 非常に困難かどうか、現時点の行政を見ればそう思えるのですが、例えば、スイスなどはこれに近いことを現実にやっておりまして、それがなぜ日本でできないのか、という問題だと思ってます。
 実は、市民に手が掛からないという発想そのものを否定したいと思っているのです。20世紀後半というのは、日本では利便性が最優先された時代だったと後世では評価されると思うのですが、地球の限界が見えてきたことを実感してもらうには、市民レベルで手が掛かることが現実に実施されることが、非常に重要だと考えてます。
 さらに、塩化ビニル、塩化ビニリデンは別途脱塩化水素処理をしてから燃やすことが良いという(私の)主張ですが、これは焼却灰を普通のセメント原料にしてしまうのが合理的ではないかと考えていることによります。ダイオキシンのヒトに対する急性毒性は恐らく大したことはないと思うのですが、他の生物や生態系に対しては依然として猛毒かもしれないと考えておりまして、塩素の入ったごみをもやしてできた灰に含まれる分解性の悪いダイオキシンをどこかに地面に最終処分するよりは、灰をセメントの原料にしてしまえば、完全解決だと考えられます。セメント製造プロセスの中で塩素を抜くことも実は不可能ではないので、少量の塩素の混入は実は大した問題ではないのですが、やはり大量に塩素が入りますと、セメントへの混入が起きてやはり品質上問題がでるようです。

O氏の反論:
 たしかに、スイスではPVCボトルの禁止などを法令化しています。しかそれは、自国にPVC製造メーカーがなく、PVCボトルが混入するとリサイクルシステムが複雑になることから禁止を決定したようです。これは、むしろ他の欧州諸国から批判されているようです。その他の国で、PVCを法規制している国はないと思います。もちろん、地方自治体での規制や業界の自主規制は有るようです。また、このような規制も徐々に緩和されているようです。ご存じとは思いますが、三協化成さんのHP http://sankyo.cup.com を覗いてみて下さい。また、全世界のPVC生産量は増加に転じております。PVCのライフサイクル分析(LCA)を行うと、他のプラスチック類より、エネルギー消費量が少ないという報告もあります。 
 (市民にも手を掛けてもらうことについて)私もこの考えを否定しているわけではなく、むしろそのほうが理想に近いと考えています。ただ、先生の考えをさらに引き出したいと考えて、あえてこのような質問を致しました。市民のみなさんへの啓蒙、行政への働きかけなど今後も続けていただきたいと思っております。
 (含塩素プラスチック処理ですが)なにも塩化ビニル、塩化ビニリデンを別途脱塩酸処理しなくても、現在の混入量で有れば現在の技術で、そのまま燃焼してから、後処理することで対処可能と思われます。確かに、生態系へのダイオキシンの毒性は、ヒトよりも高いと考えて間違いないと思いますこの点は、なるほどと思いました。

安井再反論:
 議論のための議論になりそうですが、一応反論を。
 塩ビは、コストが安いということで使用されておりますが、スイスの主張の意味するところは、塩ビの存在によって社会的コストが高くなるなら、むしろ、止めてしまおうという話で、その合理性には同感しております。
 自国内にPVCのメーカーがあるか無いか、これは、産業保護上重要問題ではありますが、その考え方を余りにも強く主張されることは、かえってPVCが社会的アクセプタンスを失う速度を上げるだけでしょう。
 LCAの件ですが、そのLCAは廃棄過程の設定に問題があって、社会コストを平等にするシナリオを設定するといったことにはなっていないものだと考えます。
 (わざわざ含塩素プラスチックの脱塩酸処理を別途行う必要はないというご意見ですが)塩化ビニリデンについては、そうかもしれませんが、塩化ビニルはいつでも同じ量が入る訳ではなく、一挙に大量に入る可能性があるからどうしても問題です。平均値で議論をしてはいけません。可能性のある最大投入量で議論すべきです。やはり、基本は分別処理だと思います。

O氏最終反論:
 (スイスが自国に生産企業がないために塩ビ容器を禁止していることに関し、けしからんということについて)これを余り強調するつもりはありませんが、自国のことしか考えないのも問題でしょう
 (LCA的に塩ビは環境負荷が低いという主張に関し)この辺は、私も勉強不足ではっきり分かりませんが、今のLCAに問題があるのは事実だと思います。
 (塩ビ類の分別処理についてですが)分別処理が基本でいいと思っています。



討論2「ラップの利便性と塩化ビニリデンラップの特性について」

O氏ご意見:
 また、先生は、塩化ビニリデンラップは、やめてポリエチレンラップにすることを言われていますが、塩化ビニリデンラップのメリットについても少々述べさせていただきます。冷凍、電子レンジの両方に使える、密着性がよい、切り易いなどの使いやすさは、もちろんありますが、最大のメリットは「食品保護作用」です。塩化ビニリデンは、食品保護に重要な酸素と水蒸気のバリア性が両方とも優れた素材であり、この特性は、ポリエチレンなどその他の素材にはない特性であります。中国など塩化ビニリデンが普及していない国では、食品の腐敗による損失がかなりあるとも聞いています。従って、塩化ビニリデンは,人類の食料問題にも貢献すると考えています。ちょっと企業よりの発言ですが、こういうメリットもあることを是非知って頂きたいと思います。

安井回答:
 中国の話は別として、日本の場合ですが、まあ、食品も今のような買い方ですと、何をやっても無駄になるでしょう。この辺りも、ポリエチレンラップで十分な程度の生活に戻すことが重要なのではないでしょうか。


O氏反論:
 発展途上国での、食品保存のことを言っているのであって、毎日の食品の買い方の問題を言っているわけではありません。しかし、食べ残しを保存して、また食べられることは環境保護に貢献していると思いますが。ポリエチレンはゴミよけ程度、塩化ビニリデンは保存、電子レンジ用と使い分けることが大切だと思います。なお、塩化ビニリデンには。環境ホルモンといわれる可塑剤は一切使っておりません。
 しかし、全てとは言いませんがポリエチレンにも実は塩素が入っているのをご存じでしょうか いわゆるチーグラー・ナッタ触媒で重合しているからです。(ポリエチレンラップに入っているがどうかは確認していませんが。)
 また、塩素が存在すれが、ポリエチレンでもダイオキシンが発生します(下記論文参照) 能登隆他、第14回全国都市清掃研究発表会講演論文集、p172、1993.2.


安井再反論:
 日本ではポリエチレンで困らないと言いたいだけです。
 塩ビ類が存在しなくてもダイオキシンが発生することは、十分に承知しております。

O氏最終反論:
 使い勝手を含めて、食品保存の効果を余り認めてくれないのは残念です。



討論3「ポリカーボネート食器と環境ホルモンについて」

O氏ご意見:
 先日NHKで、ポリカーボネート(PC)の給食食器を環境ホルモン問題のため、やめるかやめないかで、市町村が非常に苦労しているという番組がありました。この番組の中で、PC給食食器は1960年代から使用されていると報道されていました。そこで、その年代にPC給食食器を使っていた人と使っていいなかった人の追跡調査(子供の数や性別、ガンの発生率など)は、できないものでしょうか。厚生省に是非やってほしい調査です。これで、PC食器の安全性も議論しやすくなるのでは。また、その他の環境ホルモンについても,似たような調査はできないものでしょうか(例えばカップヌードルをよく食べる人と食べない人など)。安井先生などのような権威有る人が,厚生省に働きかけると効果があると思いますがいかがなものでしょうか?

安井回答:
 PCの話ですが、これも環境ホルモンだからどうのこうのというような問題でもなくて、なぜ落としても割れないPCが良いのですか、重たい磁器で落とせば割れるということが教育上むしろ有用なのでは無いですか、といった問題かと思ってます。ほ乳瓶にしても同様です。ビスフェノールA=環境ホルモンの話は、調査をするまでもなく、まず間違いなく無害でしょう。しかし、給食がプラ食器である必要性は、全く無いと思うのですが如何でしょうか。普通の家庭でも、大人は通常の食器を使って、幼児がプラ食器というのは何故なのでしょうか。これは大人の都合では無いでしょうか。

O氏反論:
確かに、教育上はその通りかもしれません。大人の都合とも言えます。しかし、先生はその番組はを見ておられないかもしれませんが、問題は取扱量で、毎日2億食も作る業者のことも考える必要があります。重い磁器を使えば、運搬作業する人は一度に少量しか運べず、食器倉庫も広いスペースが必要になります。また、破損も増えるでしょう。汚れも落ちにくいそうです。このような社会的な問題も同時に起こるのです。
 私は、別にPCに肩を持つわけではないが、無害と思えるものをあえて経費をかけて、磁器に変える必要はないと思っているだけです。税金の無駄遣いがまた増えます。
 先生が無害と思っておられるなら、厚生省にPC食器の安全性にお墨付きを与えるよう働きかけることが大事なのです。厚生省のお墨付きが有れば、PC食器の切り替えをやめる自治体も多くなると思います。

安井再反論:
 この業者は磁器を使って運搬している訳ではありません。業者などが困ること、これを社会的問題だとは思いません。むしろ、食器の文化を若年層から破壊することがより社会的問題だと認識しております。
 私は、「無害」ということが則「無害なら使うべきだ」にはならないと思います。 (この文章は分かりにくかった原文を若干変更)
 ただし、上記PC食器無害説は私の個人的見解です。それを私が理論的に証明するのは無理でしょう。平成10年度の国費を127億円も使う専門家におまかせします。

O氏最終反論:
 給食食器で、食器文化が破壊されるとは思いませんが、家庭の問題でしょう。大量に使用される給食食器が、取り扱い性の悪い磁器に変えられることによる現場作業員の苦労の増加が懸念されるのです。むしろ、給食をやめて、手作り弁当or家に食べに帰るのが一番いいかもしれません。私の故郷ではそうでした(25年ほど前まではそうでした、今は分かりませんが)。でも、これは現在では受け入れられないとは、思いますが。
 (PC食器を強化磁器などに)代えるときには、どのくらい経費がかかるかということも市民に知らせて、行政・市民が納得してから代える必要があるでしょう。
 (PC食器の安全性については)完全な証明はできませんが、前回の質問で提案した追跡調査(PC給食食器使用者と非使用者)は、それほどお金をかけなくてもできるのではないかと思います。これで、両者に差がなければかなり安心だと思います。これなら、市民も納得しやすいのではないでしょうか。

安井最終コメント:このような疫学調査でも、サンプル数はやはり莫大になって、実は大変な作業です。本当にやれるのならば意義はあります。



討論4「化学屋の特性と義務」

安井個人見解:
 最近、私も元々は化学屋なもので、(財)化学技術戦略機構なるところで、化学企業の未来戦略を考えているのですが、汎用の樹脂、汎用化学品あたりから如何に早く脱却するかを考えないと、日本の化学企業の将来は無いような気がしております。やや極端な意見だとは思いますが、21世紀の日本の化学産業のためにも、今、若干痛いかもしれないが、切るところは早目に切る決断が必要だと思っております。職務上様々な企業とお付き合いがあるのですが、他の産業と比較しますと、現在の化学産業は自己防衛的すぎるように見えます。

O氏反論:
 うーん、やはり素材産業は大変です。一番利益が出るのはやはり汎用品でしょう。特殊品だけでは大きな利益はでないので。まあ、得意分野に特化する必要はあると思います。