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高分子学会夏季大学で 07.25.2001




 高分子学会の夏季大学に講師として招かれた。「リサイクルと環境負荷」の話をした。最近、この話に対する要求が多いのは、武田先生のお陰かもしれない。講演は無事に終わって、まともな質疑応答が行われた。喜ばしい限り。
 この夏季大学の最後の講演を締めくくったのが、某化学企業からの講師で、リスクアセスメントの専門家だということなので、かなりの期待をもって聞いた。題目は「廃プラスチックの環境安全性」というものだった。期待に反し廃プラスチックの安全性の話はほとんど無しだったのは、そもそもデータが存在しないからしょうがないとして、非常に驚いたのは、化学物質の安全性について、話のトーンが環境運動家とほとんど同じだったことだ。


C先生:なんだあれは。意外な方向からボディーブローを食らったような感じだった。怒るというより、本当にがっかりして体から力が抜けた。

A君:カッカしないで下さいよ。血圧が上がりますよ。

C先生:世の中の環境運動家が、若干の誤解と知識不足に基づいて、化学物質関係の危険性と予防原則の話をする。これは、商売柄仕方がないことだ。しかし、化学企業から、恐らく企業を代表して来ている講師が、環境運動家と全く同じトーンで話をしてどうするのだ。化学業界には、自分たちの商品があらぬ疑いを掛けられて苦戦している企業が結構多い。勿論、あらぬ疑いではなくて、正当な指摘を受けている場合も多数あるが。いずれにしても、そのような事情を知ってか知らずか、化学業界が行っている市民社会における誤解を解こうという努力を無に帰すような講演を、しかも、次世代の化学を支える若者の前でするとは何事だ。

B君:ご本人は、自社を代表して出ているという意識は無いのでは。

A君:もしも自分が講師をやるとしたら、自社を代表しているという意識を持ちますよ。

C先生:この程度の知識量と見識で、製品のリスクアセスをやっているということが世の中に知られてしまったら、それこそ、その企業の信用失墜だよ。

A君:それはそれとして、何がそんなに腹が立つのですか。

C先生:要するに、知識が中途半端なのだ。内分泌攪乱物質の説明で、例の英国におけるコイのメス化の話がでてきたが、その原因は化学物質です、で終わる。この話は、勿論、さらなる展開があって、原因は化学物質なんですが、人工的な物質であるノニルフェノールではなくて、女性ホルモンそのもの、すなわち、下水処理場から出てくるエストラジオールが原因でした、というところまで話さないと、なんの意味もない。「奪われし未来」を重要文献として引用していたから、それ以後の話はフォローしてないと見えた。

B君:それは勉強不足。講師の資格なし。

A君:高分子学会に、どういう経緯で講師が決まったか、問い合わせをしたらいかがですか。

C先生:それに、最近の内分泌攪乱物質の核心の問題点である、低用量作用があるかないか、ということの説明も皆無だった。勉強不足以前の問題だろう。最新の情報を得ようという努力すらしていない。

A君:とすると、内分泌攪乱物質問題では、母胎内における受精卵・胚への影響がもっとも重要だという指摘もなかったということですか。

C先生:その通り。

B君:聞いていた若手研究者に対して、誤解を助長するような知識を与える講師を選択してしまったことについて、主催者には責任を取って貰いたい、という怒りなんだ。

C先生:その主催者が同級生なんだな。
 それはそれとして、DEHPの環境ホルモン性のために、塩ビ製の手袋が問題となっている。こんなものは製造中止にするのが当たり前という論調だった。大企業は世界的な責任を取らなければならないから、というご立派な理由で。

A君:塩ビの手袋が問題になったのは、実は特殊なケース。コンビニ弁当などを作るとき、除菌のためにエタノールにときどき浸して、おにぎりを作るからだ、という説明も無かったのですか。

C先生:「奪われし未来」から知識が進歩していないんだよ。説明も無くて当たり前だろう。ヨーロッパでは、口に入れる塩ビ製玩具が予防原則という立場で禁止されていて、大変ご立派というような表現だった。

B君:玩具は暫定的に禁止にしていて、最終的にはどうなるか分からない、という状況の説明も無かったということですか。期待する方が無理か。

C先生:そして、ダイオキシンの話になって、塩ビは焼却するとダイオキシンを出す。ダイオキシンは史上最強の毒物だから気を付けなければならない。ベトナムではダイオキシンを枯葉剤としてまいた(最近、環境運動家でも、ここまでの間違いは言わない)。そして、現在、日本におけるTDIが4pg/kg/日だが、WHOは、これをそのうち1pgにする予定だ、といった調子だった。日本はプラスチックの処理が焼却に偏っているが、これは良くない、と言いながら、最後には、焼却炉が進歩したので、発熱量の高いプラスチックをうまく燃やせば850度以上になるからダイオキシンの防止にもなる、ということだった。そんな単純な話ではない。ものごとを全く整理していない。

A君:当然のことながら、現在我々が魚から摂取しているダイオキシンの大部分が、実は、焼却炉起源ではなくて、PCB起源であるという説明も無かったのでしょうね。当たり前か。

C先生:受講生からダイオキシンの評価が厳しすぎるのではないか、というまともな質問が出たが、きちんと回答ができなかった。ダイオキシンの体内蓄積量が問題となって規制値が決まったという話はなんとか説明できたが、その対象となった「望ましくない作用」が、性行動の変化などといったどちらかと言えば、内分泌攪乱物質としての作用であるという説明は無かった。だから、これは想像だが、受講者はダイオキシンの急性毒性が問題となって決まったと思ったのでは無いか。

A君:さらに、ダイオキシンの場合、その決まり方から判断すると、4pg/kg/日という値を1ヶ月ぐらい超したところで被害がでるとは思えないということに対する説明も無かったのでしょうね。

B君:当たり前のことを聞くな。しかし、それにしても、そんな考え方で化学企業で良く勤まるな。

C先生:最後に、当社は世界的責任を考えて、化学物質への対応を取っているとのご立派な言葉で締めくくられたので、実は質問をした。それなら、「貴社では、ビスフェノールAを売るのを止める」、ということか、と。そうしたら、「我が社は作っていない」、というのが答えだった。自分の会社が作っていなければ、それで良いと言うのか。化学系企業にとって、不確実な知識に基づく化学物質への規制は、協調して排除すべきだと思うが。それならと、DEHPについても質問をしたが、何も知らないようだったので、追求は止めた。うーーん。
 いずれにしても、非常に考えされられた講演だった。今後、自分自身の中で、内分泌攪乱物質などに対する対応が変わりそうだ。「化学業界自身がそう思っているのか。えーーい面倒だ。何が何でも全部禁止だ。まず農薬だ。農薬を全面的に禁止せよ」、などと怒鳴ってしまいそうだ。