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大妻女子大被服学科3年生諸君への手紙
     98.10.21






 最近思うことの一つ。「環境問題は女性に真剣に考えて貰うのが良い」。ということで、大妻女子大中村邦雄先生にお願いして、家政学部被服学科の3年生を対象に、1駒の講義をさせていただきました。身近な環境問題を取り上げ、そのなかで、どのような原理原則に基づいて環境を眺めるべきであるかというものです。中村先生に感謝。ご丁寧なことには、学生さんからレポートをいただきました。それも、なんと「原稿用紙に手書き」ですよ。そのレポートに対するC先生からの返信です。


大妻女子大における特別講義「身近な環境問題」のレポートを読んで

 今回、大妻女子大被服学科で講義ができましたことは、大変有意義だったと思っています。それは、環境問題に関しては、女性が大きな責任を負っていると考えるからです。環境問題の解決には、適切な科学技術、適切な社会システム、市民の意識と行動の3つの要素が「協働」する必要がありますが、最後の市民の行動に関しては、家庭生活をどのように行うかということとほぼ同義だからです。

 さて、レポートを読ませていただきました。その結果、4種類に分類してみました。(1)恐らく講義中に寝ていた人(15、6名)、(2)講義を聞いて、多少の意識が変わった人(37、8名)、(3)私の言いたいことを90%以上正確に理解した人(27、8名)、(4)私の講義そのものを100%正しいとは限らないと判断した人(2名)、の4種です。この4番目は、なかなか鋭い方です。顔を拝見したいぐらいです。
 実際のところ、私自身、自分の知識が毎日いまだに増えています。発言することも徐々に変わっています。その時点で自分なりに最良の知識を提供しようとしているのですが、自分でもそれが100%正しいとは思っていないのです。環境屋を副業として始めてもはや12、3年になるのですが、いまだにそんなものです。環境の総体を理解し判断することは困難なのです。
 これが私が講義で断定的な表現を避けている理由です。私の講義の口調から疑問を抱いたX子さん、貴女はなかなか鋭い人です。


反論や質問を書いてくれた方に、追加説明をしたいと思います。

 Y子さん:合成洗剤と石鹸の件です。石鹸の方が環境負荷は低いはずだということを、小学校時代の夏休みの研究課題をもとに反論が有りました。その実験とは、石鹸、合成洗剤を含む水で発芽実験をやったところ、石鹸では正常に、しかし、合成洗剤では異常だったからだそうです。
 実は同様の実験は多数行われています。例えば、みじんこ、いとみみずなどが石鹸水だと生きているのに、合成洗剤だと死ぬといった実験です。そして、これらの実験を根拠に、いまだに石鹸の環境負荷を低いと信じている石鹸派と呼ばれる方々が居られることも事実です。
 私自身は合成洗剤派というわけではないのですが、合成洗剤派からの反論をご紹介しましょう。ひとつは、石鹸は硬水に溶かすと石鹸かすになってしまって、界面活性剤としての作用が弱くなるから、このような実験は、界面活性剤としての能力を同等にして比較しなくてはならないというものです。確かにこれらの実験は、必ずしもそのように行われないようです。合成洗剤派の反論その2は、日本中の水が軟水であれば、確かに石鹸だけで困らないかもしれないが、硬水でも洗浄力を持たせるために、ゼオライトなどを添加した合成洗剤でないと困る地域もあるでしょう、というものです。
 私自身が考えている「大差ないという理由」は次のようなものです。まず、合成洗剤を含む水で植物を育ててしまうような状況は、現実には起きないことです。我々は東京周辺に住んでいて、この地域は下水道が完備しています。今の合成洗剤は分解性が上がりましたので、処理場で処理され分解されています。その分解は微生物(活性汚泥という)が行っており、分解生成物も一応チェックされています(まだ完璧でないという指摘はあり得ますが)。昔のように川に直接流す場合であれば、私も石鹸を使う方が良いと思います。しかし、人間の排泄物も一緒に流しているような下水システムを使っている都会では、下水に入った石鹸と合成洗剤の環境負荷に有意差があるとは到底思えないのです。バックグラウンド原則の一種かも知れません。それに、石鹸はかすが多くでますから、それがマンションなどのパイプを詰まらせたりすれば、その除去のために使うパイプクリーナ(これは強力な洗剤)が環境負荷を高める可能性すらありそうです。
 要するに、石鹸、合成洗剤の話は、「自転車か自動車か」のような問題です。すべてが自転車だけで済めばそれでも良いのですが、人によってはどうしても自家用車が必要と思い、それを選択する人がいます。私自身も車を所有しています(プリウスですが)。これを現代社会は認めざるを得ないということに似ているように思います。


Z美さん:「電磁波は危なく無い、環境ホルモンも心配ないといったことを信じられない。学者、医者の言うことを信じて薬害エイズが起きたから.....」
 ビスフェノールA・スチレンダイマーなどの環境ホルモン性は避けることが可能だし、心配が少ないと確かに言いました。しかし、ダイオキシンが心配ないとは言ったつもりはないのです。ダイオキシンの急性毒性、発ガン性、催奇性は比較的心配が少ないといいましたが、環境ホルモン毒性は、「いまだに不明」ですから、誤解しないで下さい。しかも、ダイオキシンは他の生物には猛烈な急性毒物であることは事実ですから、それを無視しないでください。自然保護を考えたら、人類はダイオキシンを出すべきでは有りません。
 さて、学者、医者を信じられない根拠として薬害エイズを議論に持ち出すこと、これは、まあ妥当でしょうね。ただし、もう少々深くものごとを読む必要もあります。なぜ安部某が非加熱製剤の安全性を主張しつづけたか、2つぐらいの要素があるように思います。まず、日本におけるエイズ発見第一号の栄誉を奪われたという複雑な思い、製薬会社の利益代弁、この2つです。一方、厚生省は製薬会社の利益代弁という動機で、決断をしないという犯罪を犯したと思います。要するに、彼らは専門家としての「良心(あるいは魂)」を誰か(何か)に売ったのです。
 「ある意見の表明や著作などをした人間がどのような動機でそれをしているか」、これを考察することは大変に重要です。それは、良心や魂を売るほどの動機があるかどうかの判断材料になるからです。ジャーナリストがセンセーショナルに報道するのも、自分の社内での立場を守るために、社の方針に従っているのかも知れません。独立系のジャーナリストは売れる文章を書くことが、自分の職業を維持する唯一の方法ですから、市民を驚かして本を売るために、センセーショナルな表現をしている可能性があります。電磁波・環境ホルモン研究者が、電磁波・環境ホルモンはそれほど重大な問題ではないと決して言わないのは、自分の研究が無用だと言わないのが研究者の存在意義確認と研究費獲得のための本能だからです。
 環境ホルモンについては、現時点で確かに良く分かっていないのですが、何が分かっているかといった考察を一所懸命行うと、100%確実は難しいものの、リスクについてある程度の判断は付くものです。さらに、すべての環境汚染のピークは今から25〜30年前だったことを考えれば、今後の方針として、当然避けるべきこと(生ゴミ・塩ビの焼却など)は徐々に止めて、あとは騒がず冷静に行動すること、これが正しいと信じています。
 自分で言うのも変ですが、良心や魂を売る動機の無い人は、事実に迫っている可能性が比較的高いということは覚えておいても損は無いです。


「所沢のごみ焼却問題について」
 産業廃棄物の処理場が、しかも、必ずしも適切に処理しているとは思えない処理場が所沢周辺に多数存在している問題は、即刻解決を必要としていると思います。なぜならば、講義では話さなかったのですが、焼却場から出る環境汚染物は実はダイオキシンだけではないのです。不完全燃焼をしていると、ベンツピレンなどの発ガン性芳香族化合物が出ているに違いないのです。煙の中にどんな化合物が含まれているか、いまだに解明不能なぐらい複雑なようです。さらには、重金属のうち蒸気圧が高いもの、水銀、鉛、亜鉛などといった有害物も同時に放出されているに違いないのです。ダイオキシンの発ガン性は、それほど高いものではないようですが、PAH(PolyAromaticHydrocarbon)とわれわれが呼んでいる化合物は、成分の詳細が未知であるだけに、未知の危険性を含んでいます。そこで、焼却場の数を減らすことは、必要不可欠だと思っています。これは、家庭から出る一般廃棄物の場合も同様で、なんでもかんでもまとめて焼却は最悪。焼却場の数も多すぎる。生ゴミはコンポストに、塩ビ類は別処理、良く燃えるプラスチックと紙を効率良く燃やして発電、といった社会システムにするこ とが必要だと考えています。各区内に1処理場という考え方は、これまでのしがらみで決まっていることで、適性なゴミ処理を考えた答えではないのです。
 ダイオキシンについてもう一言。ダイオキシンでは死者は出ていないということを言いました。それで安心した人が多いようです。それは本講義の本意ではありません。上にも述べたように、他の生物には猛烈な毒物であることも事実です。モルモットが最も弱いようです。ですから、リスやウサギなども余り強くないように思います。ダイオキシンは人間には急性毒性・発ガン性の点からは問題が少ないとしても、やはり出してはいけない物質なのだと考えています。「共生の原則」を主張していますように、人間だけが生き残れば良いというものではないのですから。


「電磁波の健康影響について」
 電磁波がある程度の発ガンリスク(小児白血病)を持っていることは、先日米国の国立環境衛生科学研究所で、投票によって認められました。だからといって、すぐ危険であると考えないで下さい。一方、しばらく前になりますが米国科学アカデミーは、電磁波の発ガンリスクを否定しました。要するに、専門家が議論しても、約半数は無害だと言うぐらい、有るかどうか分からないぐらいの弱い発ガンリスクだということです。定量的に見れば、10万人に1人という通常の発ガンリスクのコントロール値をはるかに下回る程度だろうと思っています。水道水の発ガンリスクも10万人に1人の発ガンリスクで、汚染物質の濃度規制がされています。それでもわが国ではヒ素濃度が制御しきれないために、10万人に3人程度のリスクになっているようです。ちなみに、講義でも言いましたが、ミネラルウォータは、食品の規制(年がら年中ミネラルウォータを飲み、これで料理をし、ご飯を炊く人は居ないという前提)になっているために、水道水よりもヒ素含有量が多い商品が存在していても、規制にはパスします。しかもヒ素含有量やそのリスクは発表されていません。元に戻って、要するに、環境の 専門家の誰もが認めている水道水の発ガン性に比べて、電磁波のリスクは確実に低いです。もっとも、紫外線やX線も電磁波ですが、その発ガンリスクは非常に高いです。覚えておいてほしいことの一つですが、可視光線よりも波長の短い電磁波は危険です。マイクロ波も多少怪しいです。
 パソコンから出る電磁波は紫外線でもX線でも有りません。光はもとよりマイクロ波よりも、また、携帯電話用電波よりも波長の長い成分です。妊婦に影響を与えているという仮説は、したがって現実に起きているとは考えにくいのです。ちなみに、電磁波防止グッズはほとんど詐欺に近い製品です。あんなもので、何も防御できません。リスクが無限小なのに防御というのも変ですが。何かあるとするのならば、苦手なパソコンを操ることによる心理的ストレスがあり得ます。そのような状態なら妊婦には絶対的に悪いのでしょう。ちなみに、精神的ストレスによる発ガンリスクは相当に高いと考えるべきものだからです。ストレスと言えば、それを避けるために「コーヒー一杯」はまだしも、「たばこを一服」は、逆効果でしょう。たばこの発ガンリスクの高さは証明済みです。特に女性は将来の妊娠の可能性を考えて、少なくともその3〜5年前程度からは禁煙すべきだと考えています。
 どうしも電磁波がいやなら、(1)携帯電話を止める、危険性は1.5Gが最悪、800Mは中間、PHSは安全(2)東京タワーのようなテレビ塔に近づかない、テレビ電波は強力ですよ、(3)コタツに入らない、(4)電気毛布を使わない。 まあ、冗談です!!!


「最後に」
 今後、どのように生活していくか。これが今回の講義の「究極の目的」でした。その答えは、まず、「実像・虚像を判断する力を付けることです」。相当勉強する必要があると思います。
 方法は、単行本を読むことです。環境問題に関しては、「サイエンスライター」「科学ジャーナリスト」などの肩書きの著者はいささか危険です。立花隆氏を含めてです。それ以外の著者の本を買いましょう。そして、感動できた著者を信じてみて下さい。ただし、信用するのも85%程度にして、15%ぐらいは別の意見があるのではと、考えてください。
 民放テレビの情報はまず信頼できません。NHKは例外で50〜70%はOKです。週刊誌も非常に怪しい。
 新聞もかなり怪しいです。ことダイオキシンに関しては朝日新聞ですら相当怪しいです。記者の「環境総体の理解度」が疑問です。ただし、朝日の社説を書いている論説委員は信頼できます。日本経済新聞は、記者に聞きますと、「センセーショナルな報道をしない」という方針があるようです。しかし環境の記事が少ないのが難点です。
 インターネットを見るのも有効です。しかし、情報の質(ウソとホント)の判断能力が付いてからにするのが良いかもしれません。ちなみに、私自身、インターネット上に環境時事批評を出しています。見てコメントをいただけるとうれしいです。

                                                      安井 至