________________

小渕首相「ミレニアムプロジェクト」  08.20.99






朝日新聞 平成11年8月7日
 小渕恵三首相が、2000年に迎えるのに合わせて提唱した「ミレニアム(千年紀)プロジェクト」構想が、来年度予算案編成の中で動き出そうとしている。このために用意されているのは、来年度予算2500億円の特別枠。首相自ら調整する構えだが、実現には時間もかかりそうで、まだ首相の掛け声だけが先行しているようだ。
 「米国のアポロ計画のように、夢のあるプロジェクトで明るい展望を示したい」と小渕首相が強調。自らが主宰する産業競争力会議で六月、官民共同で国家的な産業技術戦略をまとめるように求めたのが、構想の発端。
 
有力視されるプロジェクトの例  ◎は首相の自民党総裁選公約
情報化対応
 ◎大容量の情報通信回線「情報新幹線」の整備
 ◎インターネットの国内での定額料金制導入
 ●国への届け出、役所間の連絡調整などをコンピュータ網ですませる「電子政府」の実現
 ●コンピュータ網でやりとりする情報の保護のための暗号などの技術開発
 ●走行しながら料金の支払いができる高度道路交通システムの開発
高齢化対応
 ◎バイオテクノロジー関連予算を5年間で倍増し、老人性痴呆症などの予防・治療を推進
 ●遺伝子工学を応用した病気の発生メカニズムの解明
 ●生活支援ロボットの開発など自立支援
 ●高齢者も使いやすい情報機器の開発
環境対策
 ●二酸化炭素の排出削減など地球温暖化対策
 ●ダイオキシンの排出抑制
 ●内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)の排出抑制


C先生:ご存知の方はご存知だと思うが、1995年科学技術基本法なるものが成立し、96年には基本計画が動き出して、2001年までの5年間で、科学技術のために国家予算17兆円を投じることが閣議決定されている。この科学技術基本法の精神は、なかなか立派で、人類レベルへの貢献が可能なテーマや、人類共通知的資産として基礎科学を推進することになっているが、実は、その裏にはやはり産業競争力の向上という目的が厳然として存在する。後で述べるように、これは当然のことであって、今回数回に渡ってアップした遺伝子組み換え食品についても、これは米国の経済戦略の一部であると理解することが必要。お互いに経済競争力を如何にして強化するか、秘策を練っているのだから。
 その一環ではあるのだが、小渕さんに誰かが入れ知恵をして、2000年記念という名目で、「小渕ミレニアムプロジェクト」なるものが来年走ることになった。年度予算だと思うが2500億円だ。その中身が少しずつ新聞などから漏れてくるのだが、なんだか余り魅力的ではないのだ。
 朝日新聞の記事にあるように、環境も含まれるはずなのだが、その内容が、温暖化、ダイオキシン、環境ホルモン対策では、なんともどうしようもない陳腐。
 
B君:最初からそんな見方をすると怒られるけど、どうせ最終的には土建国家日本のための箱モノ行政だ。要するに理由を付けて建物を立てる。土木工事をする。だから研究成果には最初から期待すべきではない。

A君:それに、最近の国立研究所は、もともと研究バブルで有力研究者はお金を使いきれないぐらいだし。一部大学の一部教授連中も同様に研究バブルのようですが。

C先生:両人とも、品が無いといって本当に怒られるよ。誰に怒られるか? さて。でも、もう少々まともに議論してよ。
 
B君:まず、この話の根底に産業競争力の向上というものが有ることは事実。しかし、現在の日本の状況で産業活性化を実現するのはなかなか難しい。なぜならば、第一の条件であるべき、経営者のマインドがなっていない。現在社長業をやっている人で、後世に名を残せそうな人は誰かいるか。まあトヨタの奥田さんぐらいか。後は、まあすぐ忘れられるような人ばかりだ。余りにもサラリーマン的社長ばかりで、長期ビジョンが無いのが最大の問題だ。社長に長期ビジョンを持たせるにはどうしたら良いか。

A君:うーん。産業人の一人として、なかなか言えないなあ。

C先生:秘めたる名案が2つあるのだ。(1)社長(取締役)の退職金は退職時にすぐには出さない。5年後に、その時点の企業の業績を勘案して、株主が決める。(2)世襲社長を作る。ただし、2代限りという条件付。
 こんなシステムにすると、少なくとも自分が社長である期間だけなんとか凌いで、あとは振り逃げという社長の存在を消し去ることができるだろう。
 うーん、またまた話がずれている。ミレニアム構想に似合った科学技術の話が本日の課題。
 
B君:情報化対応技術としては、昔から、光ファイバーを家庭まで、という計画があるが、この枠組みからほとんど出ていない。しかも、光ファイバーを家庭に引いてどうするの、何に使うのというビジョンが無いままの議論だから、ほとんど無意味。

A君:光ファイバーだと、今我々が普通に使っているコンピュータネットワークよりも速いから、送れる情報量がギガバイト級にはなる。こんな情報は、ビデオぐらいか。

C先生:今の電話線だと、1メガバイトのファイルを送受信するのは数分かかる。だからビデオは送れなかった。ビデオの信号をデジタルにすると、数ギガバイトだからね。ビデオオンデマンドといって、3日前に放送したNHKスペシャルを見たいと思って、それを要求すると送ってくるといった形が可能にはなる。これは、私などには有り難いサービスではある。

B君:家まで光ファイバーが接続されれば、そんなサービスはできるでしょう。しかし、日本の場合には、通信網の幹線がパンクするのではないでしょうかね。その責任がどこにあるのか、よく分からないが、日本の技術で作られている光ファイバーでは、波長分散型の大量の情報を伝送することが不可能で、現時点で大容量幹線を作ろうとすると、米国のルーセントテクノロジーあたりからファイバーを買ってこないといけないことになる。一時期日本の光ファイバー技術は、世界一だと自認していたはずなのだが、いつのまにか、こんな状態になっている。誰の責任なんだろうか。

A君:それは、危機感の無い日本という国全体の責任。誰も、日本に食糧危機が来るとは言わない。誰も、日本の産業が20年度に海外に輸出するものがなくなっていると言わない。今回のミレニアム構想にしても、米国のご機嫌を損ねないように、なるべく基礎研究・基礎科学というニュアンスにしたがっている。しかも、福祉・環境といった口当たりの良いイメージの研究をやるように見せかけている。

C先生:小渕首相がいうような「国民に夢と明るい展望を与える科学・技術」と合意すること自体が、実は非常に難しい状況になっていることを私は大問題だと思う。科学・技術が「夢と明るい展望」を与えたこと、過去はそうだった。現時点のような成熟した社会になると、それが難しい。いくつも原因はあるが、「これ以上便利になってどうする」、「便利をささえる技術は実は非人間的なのでは」、といった科学・技術に対する反感がある一方で、科学・技術が商売と結びつけば、莫大な稼ぎの源になる。その一つの例が「遺伝子組み換え作物」。それに対する反発が当然ある。
 しかし、一方では、日本のような脆弱な体質の国、すなわち、エネルギー・資源の90%以上、食糧の59%を輸入しているような国は、その輸入を可能にするだけの輸出をしなければならない。現時点では、製造業がその役割を果たしていて、科学・技術を創らない、利用するだけでビジネスをやる国として非難を綿々として受けてきた。
目の前の受験・日々の遊興以外何も考えない若者が増えたが、20年後には、彼らが日本列島上に住む人々の生活を支えなければならない。これって可能なのだろうか。

B君:それは無理。「ゆとりの教育」の文部省のお陰で、自然科学の能力ががた落ち。分数計算もできない文系大学生が多数いるという噂。理系にしても、正解の無い問題には取り組むことができない。自分の好奇心で自分を動かすことができない。

A君:産業界も大変ですよ。これまでの教育は、「英才教育=悪」ということで来ましたが、「ゆとりの教育」のゆとりの時間で英才教育をやるしかないのではないでしょうか。今の英才教育は「受験技術のための英才教育」ですが、そうではなくて、好奇心を満足させるような本当英才教育が。要するに、自分の好奇心を満足させる面白さを経験させるような教育ですが。

B君:その「英才教育」という言葉が反感を買う基だぜ。

A君:英才教育といっても、狙いは受験技術からの開放ですから、上で述べたような英才教育をやったら、受験戦争では確実に敗者になりますから、別に反感を買うようなことは無いでしょう?

B君:それが甘い。現在の日本の社会は、悪平等主義なのだ。英才という言葉には過敏な反応をするから、言葉を変えて、異才教育にすればよい。

A君:分かった、異才教育で行く。

C先生:要するに、今の受験技術教育は、実は、「母親ためのお受験・お勉強」になっている。要するに、子供は自分の母親を満足させるために、一流大学に行って、危険性の無い一流企業に行くことを狙う。A君の主張は、将来、ベンチャービジネスを起こせるような個性をもった子供を育てるには、母親から切り離して、自分の好奇心でどんどんやれるような環境を作るべきだといっているのだろう。

A君:そうです。そうです。それが異才教育。

B君:確かに、21世紀の産業活力は、恐らく、どのようなベンチャービジネスが育つか、これが最大のポイント。日本にはその芽が無いのが最大の問題点。

C先生:小渕首相に言いたい。ミレニアムを考えるのなら、まず、日本のマクロな経済構造をどうするのか、食糧自給率は今の41%のままでよいのか。エネルギー・資源を海外に依存することを永遠に継続するしかないのか。こんな深刻な問題に解を与えないで、「夢を与えること」は無理だ。
 むしろ、異才教育を含めて、使命感(すでに死語か?)を若者に与えるような教育体制を早期に実現してほしい。もっとも全員が使命感をもったら、それはそれで気味が悪いから、それも考えないと。そのために2500億円のうちの1億でも使ってほしい。2499億円は土建国家日本のために使っても良いから。
 どんな環境研究をやるべきか、これは、次の機会にまた議論しよう。


 それから最後に、本HP読者の皆様へのお願いです。現在、科学技術会議が設置した「21世紀の社会と科学・技術を考える懇談会」というものをやっています。そのメンバーなどの詳細は、
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/kondan21/home.htm
をご覧いただきたいのですが、そこでは、皆様からのご意見を募集しております。
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/kondan21/comment.htm
ご意見をいただくと、それが科学・技術政策上決定的な影響を与えることも、少なからず期待できますので、苦言、夢、期待、なんでも結構ですからお書きいただければ幸いです。


添付資料
日刊工業新聞 平成11年8月6日
科技庁は小渕首相の提唱する「ミレニアム(千年紀)プロジェクト」として、「全地球的診断」プロジェクトの展開を決めた。

 地球診断プロジェクトは、地球を表面、内部、上空の3つに分割。地球環境の変遷の解明、二酸化炭素などの温室効果ガスの状態、気候変動の予測、二酸化炭素の削減効果などを明らかにする。これによって、温暖化を防ぐための経済活動のありかた、気候変動を先取りした災害防止などが可能になるとしている。
 全地球診断のため、科技庁は、参加の海洋科学技術センター、防災科学技術研究所、宇宙開発事業団などによる共同観測網を構築。さらに、文部、運輸、農水、優勢、環境などの関係省庁の観測基盤技術や観測網を結集する。同時に産業界に呼びかけて、大深度掘削技術などの最先端技術を動員する。
 地球表面では大気、海洋、陸上の気体構成量の変動を大規模・集中的に観測し、2005年までに温暖化などの影響分布図を作成する。地球内部では、海底堆積物の採取・分析技術により、過去から現在までの変化を明らかにする。このため大深度掘削や深海探査技術を開発する。上空では、成層圏プラットホーム技術などにより、温室効果ガスを観測。05年までに上空10〜15kmの滞空観測で二酸化炭素、エアロゾルなどを把握する。


日刊工業新聞 平成11年8月13日 
科技庁ミレニアムプロで3プロジェクトを追加。

 科技庁は、12日、ミレニアムプロジェクトに最先端生命機能解明、ペタコンピューティング、環境低負荷型新材料開発の3プロジェクトを加えることを決めた。「情報通信、科学技術、環境と経済新生特別枠」の科技庁相当分501億円の大半を充当する考え。これにより、高齢化・老人問題や食糧問題、高度情報化社会の構築、地球環境問題など、わが国および人類が21世紀に直面する課題の解決を目指す。
 生命機能解明は、国民が安心して暮らせる長寿社会形成が目標。3研究センターを新設し、同時に理化学研究所の脳科学総合研究センターなどを核に集中研究を展開する。予算は260億円。研究機関は、遺伝子と病気の関連を極める「ゲノム情報応用医科学研究センター」を国立がんセンターや東京大学医科学研究所に、「発生・分化・再生研究センター」を理研筑波研究センターなどに、「植物科学研究センター」を生物遺伝学研究所に設置する。
 新設のセンターは基礎から応用まで一貫して展開する。若手研究者の活用など新しい研究システムを取り入れる計画。同時に研究効果の活用拠点を整備し、迅速な産業化を図る。
 ペタコンピューティングは、ペタFLOPSの処理能力を持つ世界最速のコンピュータを2002年までに開発。化学反応や分子構造を一瞬にして計算する専用コンピュータを狙う。予算は60億円で、理研内に研究拠点を設置する。
 環境低負荷型材料はライフサイクルを通じて環境負荷の少ない材料や評価方法開発を目指す。ダイオキシンなどを除去する触媒技術、環境負荷の大きい物質の代替材料、二酸化炭素削減を目指した高効率タービン材料の開発などをターゲットにする。