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新聞記事採点の試み 10.24.99




 本HPの目的は、これから試行する予定の「新聞記事を採点してしまうプロジェクト」に対して皆様のご意見を伺いたいことにあります。
 適切と思われる方法により、いくつかの評価軸で新聞記事を採点する試みを、来年1月から本格的に行いたいと考えておりまして、そのプロジェクトに、採点者としてご参加いただく方の一部を公募したいと考えております。その前に、試行例として今回のこのHPを示し、皆様からのご感想をいただきたいと考える次第です。
 色々と問題があります。新聞記事は、どんどんと消えてしまう運命です。新聞社によっては、全記事がデータベースの形で保存はされるのですが、それを無料で提供することは行われておりません。また、著作権上の問題から、紙面をそのまま画像としてHP上で提供することは不可能です。となると、今回のような形式で要約を載せることになりますが、本HPのようなやり方であっても、市民にとって有用だと思われるでしょうか。ちなみに、要約を載せる形の著作権上の取り扱いですが、筆者が新たなる主張を行うために引用する場合であれば、どうも容認されているようです。 

今回の評価対象は、
日本経済新聞 10月18日月 夕刊 健康生活欄

見出し:「放射能漏れ事故、その時.....  まずヨウ素剤、影響軽減」

日経記事:序文
「@茨城県東海村の臨界事故は、放射能(放射性物質)漏れの怖さを浮き彫りにした。A事故を起こした核燃料加工工場から放射性物質が外部に漏れた。Bその量は少なかったものの周辺住民を含めて少なくとも69人が被曝した。C原子力関連施設で放射能漏れ事故が起きたとき住民はどう対応すればいいのか。D放射能による影響を減らす薬はあるのか。E自治体の対策を中心に有効な手立てを探る。」 注:番号は、本HPが付けた文番号である。

C先生:今回は、新聞記事の文章ひとつひとつに番号を付けた。

A君:@からしておかしい。今回の臨界事故が怖かったのは、放射性物質の漏れがたいしたことが無かったのに、中性子線というこれまで余り経験のなかった放射線による被曝が問題になったからだ。したがって、今回に限って言えば、放射性物質漏れの事故の怖さなど、ちっとも浮き彫りにされていない。

B君:ABまとめていこう。放射性物質が漏れたのは確かにその通り。その量が少なかったのもその通り。しかし、Bの少なかったものの周辺住民を含めて少なくとも69名が被曝したのは、主として中性子線への被曝であって、放射性物質に対する被曝ではない。だからヨウ素剤など飲んだら却って副作用がでるだけ。わざわざ誤解させて、ヨウ素剤の備蓄が必要という記事へ繋ごうとしているのではないか。

C先生:CDでは、「放射性物質」が「放射能」に切り替わっている。ところがどこにもその差が説明されていない。「放射能」という言葉は、まさに「能」。すなわち「どのぐらい強い放射線を出すかという能力」であって、「放射性物質の量×その物質1gが出す放射線の強さ」の意味で使えば正解。しかし、もしも使う人にそこまで区別して使う能力が無いのなら、「放射能」という言葉を使わないことをお奨めしたい。

A君:「放射能漏れ」という言葉は、ぎりぎりセーフか?

B君:放射性物質が漏れれば、確かに放射能を持つ物質が漏れたことになるから、まあセーフとも言えるが、個人的にはアウトにしたい。

C先生:アウトにしよう。この言葉は使わない方がよい。「放射性物質漏れ事故」に変えてほしい。もし起きれば、漏れた物質の放射線の強さによらず、深刻なんだからね。

日経記事:
「放射性物質を体外に(小見出し)」
「@放射能漏れによる人体への影響は、放射性物質から出る放射線を体の外から浴びる外部被曝と放射性物質が呼吸や食品などを通じて体内に入る内部被曝に分かれる。A外部被曝は一般に室内に待機していれば避けられるが、今回の臨界事故で生じた中性子線はコンクリートも突き抜けるため、事故現場から離れるしか防ぐ方法はない。B一方、内部被曝は放射性物質を体内に摂り込まないことが最大の防御になる。C摂り込んだ場合は、薬で影響を減らすしかない。」

A君:@で「放射能漏れによる人体への影響は」、と始まっていますが、今回の臨界事故は、「放射能漏れによる人体への影響」に含めるべきではない。放射能の定義は、すでに説明された様に、「放射性物質の量×その物質1gが出す放射線の強さ」だから、今回の事故で外部に漏れた放射性物質の量がほぼゼロだと言えるので、「漏れた放射能もほぼゼロ」。なんべんも繰り返すことになるが、今回「放射能」がほとんど漏れなかったのに、被曝による被害が出た。

B君:Aでその中性子線のことを述べているが、もしも、そのように述べたければ、@の文章の定義を「人体に対する放射線の影響は、」と始めて、外部被曝の定義はそれでよいが、内部被曝の定義の最後は「呼吸や食品などを通じて体内に入った放射性物質が出す放射線による被曝、すなわち内部被曝に分かれる。」とすべきだ。

C先生:Bになると、また放射性物質に用語が戻っている。C「摂り込んだ場合には、薬で影響を減らすしかない」、という文章だが、その本意は、「摂り込んだ場合には、その排出を促進する薬によって、すみやかに排出させ、それによって影響を減らすしかない」という表現にしたいところ。


日経記事:
 「@原発事故では通常、放射性ヨウ素がでやすい。A原口氏は「被曝の対策としては、まずヨウ素剤を飲むことが有効」と話す。Bヨウ素は体内に入ると甲状腺に蓄積する性質がある。一部略。甲状腺に十分なヨウ素があれば放射性ヨウ素は尿とともに体外に排出されるので、事故後、速やかにヨウ素剤を飲めば良い。C1986年のチェルノブイリ事故では、放射性物質が周囲約100kmに拡散した。この地域は内陸であるため、体内のヨウ素が不足している状態であった。そのため、事故後の甲状腺ガンの発生率が有為に(「有意に」の間違いか)高くなるなどの被害が広がった。」
 このあたりでかなりの部分を省略。以下も要約。
 「Dチェルノブイリでは、ストロンチウム90、プロトニウム241、など、また他の事故では、セシウム137などの放射性物質が放出された。これらの放射性物質用の薬は、茨城県や福井県でも備蓄していない。E一方、欧米では、核戦争を想定した放射性物質対策として、これらの薬剤も配備されている。日本でも自治体が対策を強化すべきだ。」 

 
A君:原発事故では、放射性ヨウ素が出やすいという@の表現ですが、確かに核分裂生成物としては、ヨウ素が固体でありながら昇華しやすいという性質があるため、その対策が必要というのは分かるのですが、原発の事故で放射性ヨウ素が出るような事故というのは、相当なものですよね。レベル6ぐらいにならないと出ないでしょう。

B君:日本の原子炉は「軽水炉」で、燃料であるウランは燃料棒の形で、ステンレス製の両端が閉じられたパイプに詰められている。だから、ヨウ素131などもそのパイプの中にはできる。だからこのパイプが破壊されるような状態にならないと、ヨウ素131は外へは出ない。
 今回の臨界事故は、燃料棒を作る前段階で、ウランを硝酸に溶解しているプロセスで起きた。使用前のウランそのものは、プロがきちんと取り扱えばそれほど危険ではない。そんな理解に基づいて比較的緩い規制だった。知らなかった(?)とは言え「意図的に」あんなことをすれば、核分裂がはじまって危機になることを証明したのが、今回の事故だ。
 もっとも、核燃料の製造工程でも、なんらかの事故が原因で危機的な事態が起きないとは言えない。例えば、なんらかの火災事故や爆発事故(何で爆発がおきるかは不明、都市ガスなどは使っていないだろうから)で、ウランが広範囲に飛び散ったら、それはそれで相当に大変。
 
A君:使用後の核燃料棒を処理するときには、当然ながら、核分裂生成物が燃料棒の中に含まれているから、事故が起きれば、ヨウ素も、またセシウムもストロンチウムも外に出るでしょう。これが、以前に東海村の核燃料再処理工場で起きた事故(レベル3)だったということです。

C先生:日本の原発事故で、核分裂生成物であるヨウ素131が外部に漏れるようなことになれば、それはもう大変。その確率をこの記者はどのぐらいだと予測しているのだろうか。

A君:Cで言われている通り、チェルノブイリでは大量の核分裂生成物が飛び散った。チェルノブイリの原子炉の構造は、黒鉛炉といわれるもので、日本には存在しないタイプ。もともと原爆の原料になるプルトニウムを効率良く製造するために作られた炉だと言われており、制御が難しい炉だとされている。中性子線の速度を制御するのが固体なだけに、爆発で固体が吹き飛べば、それは結構まずいことになるという特徴がある炉です。

B君:まあ、軽水炉では、チェルノブイリ的な事故が起きる確率は相当低いだろう。テロでもあれば別だろうが。そうだ、思わず言ってしまったが、欧米が薬剤を備蓄しているのは、実はテロ対策なのではないか。もっとも安上がりなテロ対策だ。この記事に、「テロ」は一言も出てこないが。

C先生:だとすると、この記事のような書き方は、通常のマスコミ的ではないことになる。Dのように、福井県や茨城県が、セシウム137とかストロンチウム90とかいった物質に対する薬を用意していないのは、「テロ対策を真剣に考えない日本という国の特性」からは当然だ、というのが、多分、現時点のマスコミ全体の理解だろうから。
 もしかすると、ポイントは、Eの欧米では備蓄されているという記述ではないか。すなわち、記者は、個人的に核戦争とテロに対処すべきだと言外に主張していて、そんな薬を日本のさまざまな所に用意すべきだといっている。核戦争が対象なら、原子炉の有無が問題ではないから、東京にも大阪にも用意すべきことになる。それに対して、原子炉施設、特に原子炉に対するテロ対策が必要ということならば、やはり、茨城県、福井県、福島県、などの原子炉の所在地に、そんな薬剤の配備が必要かもしれないということになる。
  でも、本当にそんな意図の記事だったのだろうか。


C先生:ということで、本記事の採点をしてみよう。採点すべき項目について何か意見があるかい。
 
A君:毎度マスコミ報道の場合に問題になる「センセショーナリズム」は是非評価の対象にしたい。記事の狙いが「センセーショナルな効果」を狙ったものかどうか。

B君:「科学的に正しいか」どうか、これが基本。
 
C先生:今回の記事は、「住民はどうしたら良いか」というスタンスのようだが、はっきり言って、市民に有用な情報を与えていない。むしろ、この記事を読んで、今回のような中性子線被曝の場合にもヨウ素剤を飲みたいなどという誤解する市民が出そうに思う。ヨウ素の過剰摂取が良いとは思えないので、そんなことになれば逆効果と言えるのではないだろうか。そこで、「市民に有用な記事か」という評価基準。

A君:うーん。他にまだあるだろうか。複雑になりすぎても無意味ですから、その3本の評価軸で良いのでは。

B君:レーダーチャートで行こう。「センセーショナリズム」−4〜0の5段階。「科学的な正さ」も減点主義で、−4〜0の5段階。「市民に有用」は、−2〜+2の5段階で良いと思うけど。

C先生:一応採用。さて、今回の記事の採点はどうなる。

A君:センセーショナリズムは、余り感じなかった。0か−1。科学的正さは怪しい。ロジックが狂うところからみて、本当に分かっていたのかと疑問に思う。そこで、−3か−2。市民に有用は、ほとんど不用でしたので、−2か−1。

B君:そんな幅を持たせるなよ。

A君:はいはい。センセーショナリズム=0、科学的正さ=−3、市民に有用=−2、と厳しい採点にします。

B君:それは厳しい。センセーショナリズム=−1、科学的正さ=−3、市民に有用=−2が我が採点。

C先生:A君より厳しいじゃないか。私はB君と同じでよい。

A&B:やはり厳しいじゃないか。

C先生:その理由だが、見出しだけを見てその印象を得てしまう人の存在を考えに入れるべきだから。新聞記事は細かく検証すると同時に、一目見たときの印象を採点すべきだから。
 最後に補遺。多分違うとは思うが、この記事を書いた記者が、日本のテロ対策の甘さを指摘する意図があったのならば、「市民に有用」の評価を+1まで上げたい。
 テロ対策を完全にやることは不可能だし、もしもテロ対策に真剣に取り組むと、電力にしても、水道にしても、また、化学工業、鉄鋼業にしても、何にしても相当なコスト高になる。まさに平和が一番。

本記事のスコアーは次の通り。

もしもテロ対策の充実を主張しているのならば、