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科学的迷信1 解説編 12.09.2000




 科学的なら迷信ではない? それはそうだろう。 「科学的迷信とは」、一見科学的な用語を用いた迷信という意味である。これが結構罪深い。
 いつも主張していることだが、環境問題の解決には、「地球と人間」についての基礎科学を理解している人が増えないと、なかなか難しいような気がしている。メディア、特にテレビ関係者に責任を感じて貰いたい。なぜならば、新聞をきちんと読む人は、それなりの情報を把握し、選択できる人だが、テレビからだけ情報を得る人はテレビが間違った情報を流すと、そのまま思い込んでしまうからである。特に、耳慣れない科学的用語を用いた誤った情報が「口コミ」で伝播するようで、この実例は多いように思う。
 今回の「あるある大事典」による「マイナスイオン」は、単なる迷信ならまだまし。むしろ、詐欺まがいなのではないか。「あるある大事典」を見た影響で詐欺に巻き込まれる人が増えるとしたら、フジテレビは詐欺幇助罪(大体、そんな罪があるのか?)にならないのだろうか。 一度、告訴してみようか。
C先生:このところ環境関係の話で、腹が立ってしょうがない、という怒りをぶつける対象が不足気味。色々と内情を知りすぎたのが、どうやら理由らしいが。中では、容器包装リサイクル法とCOP6か、というところだが。

B君:あれはひどかった。日曜日の「あるある大事典」(フジテレビ系)が余りにひどかったので、自分は怒っている。酒を食らいながら見るという訳でもなく見ていたが、余りに馬鹿馬鹿しくてメモも取らなかった。

A君:僕も見てましたよ。といっても、全部ではなくて、なんと非科学的な、かつ基礎的化学知識の欠落した医学博士がいるものだと感心はしましたが、まあ環境ネタではないので、無視していましたが。

E秘書:私も見ていましたが、まあ怪しいとは思ったものの、本当の間違いは分からなかったですね。よく、主婦向けの昼番組で出てくる健康常識のテンコモリでしたから、あれを真剣に見た人が多くいそうに思います。

C先生:見逃したのが残念だな。怒る対象ができたかもしれないのになあ。

A君:僕も余り確実には見ていないのですが、大体のストーリーはこんな風でしたよね。
 まず、静電気がたまって、バチッと火花がでる季節になりましたが、どうやら人によって静電気をためやすい人と、ためにくい人が居るらしい。そこで、静電気の電圧がどのぐらいの速度で低下するかを測定し、その時間と、血液中の赤血球の凝集状態を調べると、凝集の激しい人、すなわち、いわゆるドロドロ血の人が静電気をためやすいことが分かった。

E秘書:そのドロドロ血の話は最近の流行ですね。魚にあるというDHAなどによって、血がサラサラになると言われると、なにか健康に対する影響が大きいような感じを受けてしまって。

B君:例の赤血球が固まっている写真か。やはり見た目にインパクトが大きい現象は、どんな話にでもつなげるという商売人根性がすごいな。さて、A君の見ていた部分と、自分が見ていた部分では多少違うみたいだな。その血液ドロドロの話と、なんだかマイナスイオンがどうのこうのと言っていたような。

E秘書:それはね、こんな関係だったようですよ。まず、静電気たまる人=ドロドロ血=血液のミリボルトを計って、ゼロに近いとドロドロ血、マイナスの値だとサラサラ血=マイナスイオンというものがあって、それを吸収すると血液がマイナスの電圧になって、健康によい

C先生:なんか、話を聞いていると、全く連関の無い話が続いているようだな。なんの話だったのだろうか。

A君:少なくともミリボルトの話は、渡辺先生(渡辺正教授、東大生産研、C先生の同僚)の電気化学に近いような気がしました。その電圧というのは、恐らく、酸化還元電位。ちょっと聞いてきましょう。

B君:その「マイナスイオン」という話は、もともと怪しい言葉なんだ。どんな使われ方をしているのか、ちょっと調べてくる。

C先生:それでは、午後にまたやろう。

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A君:話を聞いてきました。渡辺先生もお酒を飲みながら「あるある大事典」を見ていたようですね。やはり、「酸化還元電位だろう」ということでした。放送では、なにやら、マイナス60mVよりもマイナス側だとサラサラ血だと言っていたようです。

E秘書:酸化還元電位というのは何を計っているのですか。

C先生:血液の酸化還元電位ねえ。単純な溶液なら意味は分かるが、血液だと何を計っているのやら。まあ、若干の原理を言えば、酸化還元電位というのは、測定した液体に含まれる分子や原子が、電子を受け取りやすいのか、それとも電子を放出しやすいのか、という傾向を示している。イオン化傾向というものがあるけど、金属について、酸化還元電位の順番に並べたものだ。Aという物質が酸化されるということは、Aが持っていた電子が奪われること。還元されるということは、Aに電子が与えられるということ。そして、「酸化還元電位がマイナスであるということは、還元性の物質、すなわち、電子が奪われやすい物質が含まれている」ことを意味している。ただ、血液は、相当色々なものを含んでいるだろうから、そんな単純な意味づけで良いかどうか。

E秘書:最近、カテキンだとか、ポリフェノールとか、ビタミンCとか、還元性の食品が健康に良いことになっているのですよ。なんだか、活性酸素というものを消してくれるようで。

C先生:サラサラ血というものが、もしも還元性の物質を含んでいるという意味だとしたら、動物にとって最大の毒物である原子で存在している酸素(活性酸素)と先に結合してくれて、細胞がやられるのが防止できることになるから、それは良いことかもしれない。

E秘書:それでマイナスイオンをとれば、血液がそのマイナスの電圧になるのですか。

C先生:それは全く関係無い。還元性の物質というのは、自分自身は酸化されて、相手を還元する。電子のやりとりで言えば、還元性の物質は電子を放出して、暴れ者の原子状の酸素を陰イオンにして安定にしてくれる。安定になれば、無害になる。血液の酸化還元電位がマイナスだということは、そんな還元性の物質を含んでいるかであって、マイナスイオンというものは、B君がその実体を調べてきたようだが、電荷のある物質を摂取したところで血液が含んでいる物質が変化する訳ではない。だから無関係だ。

B君:インターネットで調べた限りでは、マイナスイオンというものが、どうやら科学的迷信用語の一つのようだった。そもそも、イオンというものの本当の定義を、「原子あるいは分子で電荷を持つもの」だとすると、そのサイズは、原子・分子のサイズだということになるが、そんなイオンは、普通の空気中では存在できないのが普通。非常に高温だとか、非常に低圧といった極端な場合には存在できるが。
 マイナスイオンが、滝の近くに多いなどというが、そこは、普通の空気中の話だから、そんなところに本当の意味のイオンなどは存在できない。マイナスイオンという場合のイオンは、したがって、普通のイオンではない。恐らく、微粒子にマイナスの電荷がくっついたものを意味しているようだ。例えば、非常に細かい水滴だ。数にすれば、何兆個といった水分子からなる水滴がマイナスの電荷をもったものをマイナスイオンと言っているのではないか。

E秘書:なんだ。水なんですか。それがどうして、マイナスの電荷を持つのですか。

A君:それは、水滴が激しくなにかにぶつかって割れるときに、摩擦で静電気が起きるからでしょう。分割されるときに、どちらかに電子移動すればマイナスの電荷をもって、もう一つの方にはプラスの電荷が発生することになりますね。

E秘書:それが本当なら、マイナスイオンとプラスイオンは滝の回りで同じ数がなければいけませんよね。しかし、マイナスイオンが多いらしいですが、なぜですか。

A君:なるほど、鋭いご質問。本当のところは分かりませんが、恐らく、分裂したときに大きな方の水滴がプラスの電荷をもって、それは重いので落ちてしまうのではないですか。

E秘書:テレビからプラスイオンがでるというのは本当ですか。

C先生:その場合のプラスイオンの実態は、空気中に漂っているホコリだろうな。テレビは、電子銃と言うものが電子の流れを作るが、それを数万ボルトで加速して、画面側に塗ってある蛍光体にぶつけて色を出す。その加速をする電圧は、当然電子のマイナスを引っ張るために、プラスの数万ボルトだが、ブラウン管の側面に掛かっている。そこに引きつけられたホコリは、そこのプラス数万ボルトによって、電子を奪われてしまって、プラスの電荷をもつことになるだろう。室内のホコリとしてはダニの死骸があったり、あるいは、テレビの中のススのようなものがプラスの電荷を持つだろうから、まあ、アレルギー性の人が、プラスの電荷をもったホコリを吸うのはおすすめできない、ということになりそうだ。

A君:そのススにはダイオキシンが含まれている可能性が結構高いですね。はははは! 冗談だけど、多分本当では。

B君:そのマイナスイオンの効果だが、動物実験で、マイナスイオンを与えると精神的に安定した状態になって、プラスイオンを与えると交感神経が刺激されて不安定になるというけど、それって本当に電荷のためなのか。それとも、ホコリの化学的な成分のせいなのか。プラスイオンがアレルゲンらしきものなら、化学的な効果で、これは単純な話だが、電荷が利くとしたら、それはなにか新しいメカニズムが無いとなあ。

A君:そのあたり、本物の科学者はまじめに研究しているとは思えませんね。

C先生:まあ、このあたりで一つまとめを。化学の授業で勉強するイオンと、科学的迷信用語のイオンとは、実は全く違うものだ。これから先、我々は、用語を統一しよう。

マイナスイオン:科学的迷信用語=マイナスの静電気を帯びた水の微粒子
プラスイオン:科学的迷信用語=プラスの静電気を帯びたホコリ、ダニの死骸、炭化粒子

陰イオン:化学で勉強するイオンのうち、マイナスの電荷をもつもの
陽イオン:    同上、 プラス ...........


E秘書:マイナスイオンは、やはり怪しい迷信普及業者のような人がいろいろと研究しているようですね。商売になるようですから。大体、マイナスイオン発生器というものの値段が高すぎるのですよ。原価がそんなに掛かっているとは思えないので、どうせインチキでしょう。あるいは、単なるボロ儲けかもしれませんが。

A君:鋭い指摘ですねえ。ここに一つの法則ができましたね。「異様に高い商品はインチキだ」。

B君:異様に高い商品が科学的迷信に近いことは事実だろうな。やはり、思いこみで買うわけだろ。だから安いと買った人も利かないような気がするだろうからな。

A君:ところが、最近、東芝なる大メーカーが、マイナスイオンを発生するというエアコンを販売しているのですよ。余り高くは無いけど。

B君:それなら、松下だって、マイナスイオンを発生する空気清浄機を売っているぜ。これは高い。

C先生:それって、オゾンを発生していないか。高電圧でどうせそのイオンを作っているのだろうから。

B君:オゾンを発生して、脱臭などに使って、その後、分解しているみたいだ。

C先生:オゾンは、活性酸素の元みたいなものだから、有害。その有害性故に、悪臭分子を分解できるとも言えるが。

E秘書:さっきから、考えていたのですが、マイナスイオンは、静電気といいながらも、やはり電子を貰うのですよね。それなら、やはり酸化還元反応ではないのですか。

C先生:一つの原子なり、一つの分子が、一つ以上の電子を授受する場合には、酸化還元反応だが、マイナスイオンなるものの場合には、恐らく、何兆個の分子の集合体が一つから数10個の電子を受け取っている。だから、酸化還元などは起きていない。単なる帯電状態なんだ。

E秘書:帯電状態ねえ。余りピンと来ないですね。

C先生:なんと説明すれば良いのかな。一つの原子を人間だとしようか。一つの電子を1億円だとするか。本当のイオン化の場合には、一人に1億円を与えるようなものだから、その人の本性まで変わる可能性があるが、マイナスイオンの帯電の場合には、1兆人に1億円を与えるようなもので、一人当たりの性格は全く変わらない。こんな説明かな。

E秘書:なるほど。それから、サラサラ血になるには、ミネラルを含んだ水を飲むとよいということでしたが。

A君:最近、ミネラルも科学的迷信用語的になっていますね。ミネラルが「鉱物」という意味だということを知っているのでしょうかね。みなさんは。

B君:ミネラルだ、ビタミンだ、などというと、大量に摂取した方が良いと思いがちだが、全くそんなことはない。不足していれば、困ったことにはなるが、最近のように食糧が豊富な状態だと、過度の偏食をしていなければ、問題はない。
 ミネラルは確かに本当のイオンで存在しているな。だから誤解をさせるのに有効なのか。同じイオンという名前でも、滝の「マイナスイオン」と、水に溶けている本当の陰イオンとでは、全く違うものだ。

C先生:マイナスイオンは健康によいと思いこんでいる人がいたとする。それなら同じイオンという名前が使われているから、陰イオンも健康に良いと思ったら大間違い。例えば、NaCNという化合物は、Naイオン=ナトリウムイオン:陽イオン、とCNイオン=青酸イオン:陰イオンになる。さて、これが健康に良いのか? 猛毒さ。 要するに、マイナスだから良い、プラスだから悪いなどということではなくて、同じマイナスでも、どういう化学種からできているか、これが重要なんだ。

A君:サラサラ血にするのなら、水を飲めば、血液量も多少増えるだろうから、どんな水でも同じでしょうね。ミネラルウォータである必要はないでしょう。

B君:あの番組のスポンサーはどこだっけ。これは調査を要するな。メモしておこう。

E秘書:そうそう。もう一つ訳の分からない言葉が出てくるのですね。それが、pHなんです。ドロドロ血の人の血液のpHは酸性だそうで、そのために、血液が凝集してしまう、という説明だったと思うのですが。

C先生:pHは、水素イオン濃度。水溶液は必ず多少の水素イオン:陽イオンを含む。どのぐらいの濃度の水素イオンが含まれているか、これを対数を使って表示したものだ。こんな説明をすると、「難しい」、と言われるようだが。ところで、その血液が酸性になるという話だが、もしもドロドロ血が本当に酸性だったら、死んでしまうのではないか。

E秘書:先ほどの休憩時間に、「あるある大事典」のホームページを見つけて、数値を調べてきました。サラサラ血の健康人の血がpH=7.39〜7.40、ドロドロ血の不健康人だとpH=7.35〜7.38、となっています。

A君:酸性、中性、アルカリ性とpHの関係ですか。ご存じですか。E秘書さん。

E秘書:忘れたけど、7とかいう数字が...

B君:7が中性。それよりも少ない数字なら酸性。

E秘書:そんなものだったような気がします。 エッ。だとすると、不健康なドロドロ血でも立派なアルカリ性ではないですか。

C先生:そんなものさ。血液のpHがそんなに動いたら、死んでしまう。そう簡単には動かないようにできているのが人間の体だ。

E秘書:最後に一つ質問ですが、珊瑚とかトルマリンがマイナスイオンを出すというのは、本当ですか。

C先生:トルマリンか。これは電気石といって、確かに電気を帯びている。だから、他の物体を帯電させることができる。しかし、それは、まさに静的な話で、大量にできるという訳ではない。珊瑚は、全く関係ないだろう。まあ、科学的迷信の一つだろう。

E秘書:なるほど、では最後の最後の質問。しかし、プラスイオンが、ハウスダストなどのホコリだとしたら、いやですね。何か対策は無いのですか。

C先生:加湿あるいは霧吹きは効果的だろう。加湿器も、超音波によるものは、以前にかなり流行ったが、水に繁殖する細菌をばらまく可能性があって、止めた方が良い。最近、抗菌式というのがあるが、論外だ。かえって悪い。加熱式加湿器か、あるいは、霧吹きがもっとも良いだろう。お湯を沸かしても良いだろう。

E秘書:これこそ最後の質問。どんな電化製品でもプラスイオンを出すのですか。

C先生:いや。テレビだけ。数万ボルトという高電圧を使っているものだけ。テレビでも液晶ならでない。うーん、待てよ。モーターからも出ないとも限らないな。なぜなら、放電させると出る可能性ありだから。モーターの摺動子が古くなると、そこで、スパークをすることもあるからね。

E秘書:素人を騙すには、健康と科学的迷信カタカナ用語のコンビネーション。まさに、これですね。

A君:我々を無視した対談がいくらでも続きそうですが、先ほどE秘書がダウンロードしたあるある大事典のホームページですが、あまりにもひどいので、その間違い直しをやりませんか。

C先生:分かった。それを科学的迷信その2、でやろう。