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人間地球系の「文部省学術審議会への最終報告」の報告  
98.10.23
  







人間地球系の「文部省学術審議会への最終報告」の報告

 文部省の科学研究費補助金を受けて動かしてきた「人間地球系」の研究も、昨年度で完了した。そこで、10月19日には、文部省の学術審議会のヒアリングを受け、最終報告を行った。同行して下さったのは、浦野紘平先生(横浜国立大学)、渡辺正先生(東京大学生産研)。
 「人間地球系」のような非常に広範な研究から、一言で言えるような結論を導くのは不可能ではあるが、この研究グループの最大の存在意義は、環境問題といった余りにもスペクトルが広く、人間一人の能力ですべてを理解することができないようなものを対象とするには、新しいタイプの学術研究法が採用されなければ駄目だということを明らかにしたことだったろう。さらに、この「人間地球系」で採用した研究方法も新規性の一つといえるだろう。すなわち、専門の異なる研究者10名から20名が常に議論を続けるような場を設定する、といった方法論を採用することによって、かなり正しい環境戦略が見えてくるということが証明できたと思う。逆に言えば、このような方法論でなければ正しい環境戦略は見えないということなのだろう。
 勿論、個々の研究の実例を説明も加え(主として浦野先生によって)、さらには、まともな(?)環境屋なら自分達の土俵を狭めないために、通常公にしない環境感(すでに説明済み)を用いて説明した。このような成果は、他の学問分野とは異なり、最終的には市民社会にどのように還元するか、これが最大の課題であり、我々としては、単行書の発行を中心に据え、インターネットの活用などで、なんとか多くの市民の方々に環境総体を眺める方法論を知って欲しいと考えている。さらに、今後とも環境総体を把握できる研究チームを文部省の範囲内に持つことが国家的義務だ、と主張してきた。少なくとも、そのように説明したつもりだった。
 ところがである。学術審議会の委員のひとり、今年から委員になったばかりのY氏は次のように反応した。「各研究者の業績欄に学会報告などが書いてありますが、こういう人々は論文は書くのですか。論文を書いて貰わなければ、我々として評価できない。」
 私を含め、我々3名は一瞬唖然としたが、とはいっても予想された反応なので、一応遠慮がちに、「我々は論文を出すことだけが、評価の対象になるとは思っていない。環境分野では、論文になりにくい部分を研究対象とすることが重要だから。」と答えた。実際には、「なんという分からず屋」と、はらわたが煮えくり返っていた。
 最近のバイオ研究、特に分子生物学をリードしている学者、主として医学者は、インパクトファクターというものを最重要事項だと考えている。これは、自分の論文が様々な研究者によって引用されて、はじめて価値があるという考え方であって、それなりの妥当性が無いわけではない。インパクトファクターは、雑誌ごとに大体決まっていて、NatureとかScienceとか言った雑誌に論文を出すことが良いことだと思われている。その委員の価値観はこういう考え方に凝り固まっていた訳で、そんな反応になったものと思われる。
 インパクトファクターが唯一無二の評価基準だと思っている学者は、実は学者の中でも特殊。しかし、これが現在の文部省の重要な委員会で、日本の将来の学術の方向を決める学術審議会の主流であることは確実。いずれにしても、こんな価値観を持っている人間は、日本人全体から見れば、0.01%にも満たないと思うのだが、その種の学者が日本の学術の今後を決めて良いのだろうか。相当に疑問だ。
 私個人の学術研究に対する考え方は、かなり違う。大学が社会に対して果たすべき責任のひとつは、多様性の確保であろうと考えている。今後、社会がどんな方向に進むか判然としないなかで、現世の価値観にとらわれない研究を行っている様々な学者連中が何人か存在していることによって、社会がどのような方向に進んでも、それなりに対応の取れる人材が大学の中に存在していること、これが大学のもっとも重要な役割であると考えている。しかし、この思想が危険思想であることも事実で、「ほとんど寝ている状態で的外れの研究をやっている大学教授・助教授・助手」も多く、自己の正当化(=保身)のために、私流の考え方を自己弁護のために使うという場合も多い。したがって、多様性を確保しつつも、なんとか大学に競争意識を持ち込むことが重要であることは認めざるを得ない。どうしたら良いのだろうか。
 Y氏と私とのやりとりを聞いていた主査、豊島先生は、これはまずいと思われたのだろう。社会的貢献と学界への貢献に関しては、いろいろとお考えもあると思いますが、ということで、その場は収まった。
 学術審議会の場で、このようなやりとりをしたのは、これで2回目だから、古くから居られる先生方は、ある程度分かって居られる。しかし、新人が入ってくるとそれが必ず「ごりごりのインパクトファクター主義者」ばかりだという現状をなんとかしないと、今後、環境研究のようなものが文部省では行われることはないだろう。

 これをお読みの皆様、文部省学術審議会に一言注文を付けて下さい。

 まあ、いずれにしても終わったものは終わった。これから我々の考え方をなるべく多くの市民に知って貰うべく努力をするしかないなあ、と再確認した次第。