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水道水中で鉛中毒?  02.29.2000






 しばらく前(2月14日頃だったか)になるが、フジテレビ系のニュースジャパンで、水道水中の鉛の健康影響、というよりも、規制値を超えた水道水がまだあること、さらに、日本の鉛規制値は諸外国の5倍も高いことを中心に置いた、「反水道水キャンペーン」とも言える放送があった。
 このような放送を見た人の何%かが、またまたPETボトル入りのミネラルウォータに切り替えたとすると、ますますゴミの発生が増えて、この放送のおかげで減少する健康リスク(もし有ればという程度?)を、遥かに上回る環境リスクが生ずることになる。
 大体、ミネラルウォータだって完全に安全だとはとても思えない。食品としての規制しか受けないミネラルウォータよりも、飲料水としてのより厳しい規制で管理されている水道水の方が、健康リスク上からもむしろ良いのではないかと考えられるのである。
 水道水には、しばしば反対キャンペーンが行われる。かなり前に、本HPでも取り上げている。(97年の8月11日の記事、水道水は安全か? 表紙へリンクを張ります)
 とうことで、今回は鉛中毒と水道のおはなし。
 

C先生:またまた反水道水キャンペーンの出現だ。反水道水で食っている専門家(今回は、有田一彦氏。元大阪市水道局勤務。彼いわく「日本の水道には色々問題が有りますが、もっとも深刻なのは鉛汚染だと思います」)がいるが、彼らが生きていられるということは、それだけ反水道水キャンペーンが行われている証明だろう。
 さて、まずは鉛の毒性の報告をたのむ。
 
A君:はいはい。鉛の毒性ですが、急性毒性で死に至ることもあるとされていますが、半数致死量LD50は分かりませんでした。以前は、鉛中毒患者というものが、主として職業病として存在したようですが、このところ、鉛中毒患者はほとんど存在していないようです。一般に、職業環境というものは、通常の環境に比較してかなり曝露のレベルがかなり高いですが、それでも、職業的鉛中毒患者はほとんどいないらしいです。ということは、まず、環境からの鉛曝露で中毒を起こすことは考えにくいことになります。鉛中毒の症状としては、仙痛、貧血、腎障害などがあるようです。

B君:今、鉛で問題になっているのは、小児の知能発育遅滞じゃないの。

A君:どうもそのようです。神経系には影響を与えるようです。鉛が環境ホルモンの一つとしてリストアップされていますが、どうも、それが理由のようです。

B君:どのぐらいの量で影響があるの?

A君:血中濃度でしか情報がないのですが、以前には、30μg/血液100mlという濃度以下ならば問題はないとされていたのですが、最近では、その1/3〜1/2でも影響があるとされているようですね。

B君:鉛はどうやって体内に入るんだい。

A君:主として2種類。呼吸器からと経口摂取でして、経皮による摂取は余り無いらしいですね。

C先生:もはや「伝承」になったかもしれないが、江戸時代から明治時代には、「おしろい」が鉛だったために鉛中毒が多かったとされている。化合物としては、塩基性炭酸鉛なんだが、これが顔や首などに塗られて、それが体内に入って、と言われているよね。その真実は如何に?

B君:皮膚経由で体内に入らなければ、それはおしろいをパタパタと顔に叩いたときに、その粉が口から入るという経路だろう。

C先生:どうもそうではないようなんだ。おしろいを塗った乳首を乳児が舐めたという経路は有りそうなのだが、それ以外には、実は、「おしろい」をキセルにつめてタバコと一緒に吸ったという史実があるらしい。多分、甘味があるのではないだろうか。どうも、花柳界での話らしいが。

A君:なるほど。そうかもしれない。なぜなら、呼吸器経由の鉛は、すぐさま血液に入るようですから。経口のものは、排出されるものが多いし、血液に到達するのに時間が掛かるようですが。

C先生:「鉛と甘味」に関連して、ローマ時代には、酸っぱくて不味いワインに酢酸鉛の溶液を加えると、甘くなって美味しいということで、鉛中毒が広がったようだ。

A君:そういえば、アメリカで鉛中毒が問題になったのは、白色の塗料として使われていた鉛による中毒のようですね。やはり鉛は甘いのですね。廃墟になった家で遊んでいる子供達が、壁に塗られた白いペンキを食べると甘いことを発見して、それで中毒になったようです。

B君:色々と原因があるようだけど、知識があれば、確かに防止可能のようだな。ところで、鉛中毒患者の見かけ上の特徴はどんな様相なんだい。

A君:鉛中毒患者は、激しい腹痛に襲われ、貧血のために青白く、神経系の麻痺のために手はたれており、歯が青黒くなるようでして、いわゆる幽霊の姿そのもののようです。

B君:なるほど。なんだか、鉛中毒のイメージが沸いて来た。

C先生:さっき、A君が言っていた血中濃度だが、人体の血液は、大体体重の8%とすれば、大人で体重60kgとすると、約5リットル。100mlあたり、ざっと100μgで急性中毒になるとすると、50倍して、5000μg=5mgか。かなり少ないなあ。確かに、キセルに入れて吸ったら、あっという間に中毒かもしれない。体重1kgあたり0.1mgで相当な悪影響がでるとするのならば、相当な毒性だよ。あのヒ素でも半数致死量が数mg/kgだから。ただし、A君が言うように、経口摂取の場合には、体内に入る量が多く無いとすると、直接比較はできないのだが。
 そろそろ水道の話にしよう。
 
A君:飲料水としての水質基準ですが、現時点では、50ppbが規制値です。1リットルあたり50μgです。本来ならば、10μg/リットルになるはずだったのですが、鉛が水道管に使われている限り、そこに長期間溜まっていた水には、それ以上の濃度の鉛が溶け出すために、守れない。ということで、50μg/リットルになったという経緯があり、これが今回ニュースジャパンで叩かれた訳です。

B君:鉛は、生体の必須微量元素なのかい?

A君:どのような生体でも鉛をある量含んでいますが、どうも必須元素では無いようです。体内に取り込まれた鉛で、体外に排出されなかったものは、最終的には、骨にとり込まれるようです。水銀などのような生体濃縮というものは、甲殻類が例外のようですが、それを除いて余り無い様ですね。

B君:だとすれば、すべての食品には鉛は含まれていると考えても良いのだろ。

A君:そのようです。もしも、水道水中の鉛の濃度が50μg/リットルだったとすると、1〜5歳児の場合に、水道水からの摂取量が34%、それ以外の食物(ごく普通の食物)からの摂取量が63%、大気からの摂取量が3%となるようです。大気中にも鉛を含む粉塵などが有りますから。

B君:昔は、ガソリンには四エチル鉛がオクタン価を上げるために添加されていたから、鉛粉塵は有ったろうが、最近でもあるのだろうか。

A君:鉛は、銅合金の切削性を上げるために添加されるようです。切削加工された機械部品が、磨耗すれば、鉛を含んだ粉塵を出すことになります。とはいっても、大気から摂取量は、食物からの摂取量の1/20ですから、そんなに重大だとは思えないですが。

B君:もしも、水道水の基準が10μg/リットルになったら、鉛の摂取量はどんな様子になるんだい。

A君:水道水からの寄与の割合が10%以下になって、大部分が普通の食物からということになります。このあたりの数値は、中西先生の「水の環境戦略」岩波新書からです。

C先生:以上で鉛中毒と水道経由の鉛摂取量の大体の様子が分かったと思う。これを基礎知識とすれば、今回ニュースジャパンで報道された水道水がどのぐらいの危険性をもっているか、大体分かるだろう。鉛のような毒性は、どちらかと言えば慢性毒性に近い。このような特性の毒物については、たまたま規制値を超した水を一度や二度飲んだからといって、急にどうこういう問題は起きない。常時その濃度の水を飲むことによって影響がでるという濃度、すなわち、厳しい数値が規制値になっているからだ。

B君:鉛管と水道栓に使用されている鉛入りの銅合金が鉛汚染の原因で、朝一番の水には、丁度鉛に接触していた水が混じっていて、規制値を超す場合もあるというのは、常識だった。しかし同じ水道でも、昼間の水は、10μg/リットル以下らしい。となると、朝の水を捨てるだけで対策としては十分。「朝の最初の水を捨てるように」、ということは、大分前にはこれまた常識だった。

C先生:今回の放送でも、そんな分析を行っている。朝一番で口にすることを想定したサンプリングで、6件中1件が黒。その1件は100μg/リットルを超していたようだ。それに対する有田氏のコメントは、「鉛汚染の場合、粒子状の鉛がゴロっと出てくる場合がある」。他の分析値は5μg/リットル以下だった。
 そして、この放送のまとめは、「本当の意味で鉛汚染に対処するには、鉛管の汚染が存在することを消費者に伝達しなければならない。現実を知るところから始まる」。
 最後に安藤優子さんが言ったコメントは、「WHOの基準に比較して5倍も緩い。東京都は鉛管の80%変えつつある。そういうことを知った上で、朝一番の水を口にしない、あるいは、浄水器を付けるといった対応で現在のところは十分ではないでしょうか」、だった。

B君:最後にそんなコメントをするぐらいなら、「こんな番組を作ってわざわざ放送するな!」だよ。最後の最後の一瞬まで、最大限に視聴者を脅かしておいて、その結論は無いよ。

A君:最近工事された水道ならば、朝一番の水を捨てなくても全く問題はない。もしも、どうしても心配だったら、保健所に分析を頼むと良いようです。

C先生:大体、この種の汚染のように、以前の状態が悪かったというものについては、実はそんなにもあせって対応する必要はないものが多い。安藤優子さんは、大変に知能指数が高そうだが、恐らく幼年期には、かなりの鉛を水道水から摂取していたはずだ。もしも、40年前の水道水中の鉛で知能発育が遅れた人が多いのであれば、現在、40歳前後の人はどうなんだ。全員、知能が低いのか。
 徐々に鉛を減らす対策でもまあ十分だ。

B君:今回は鉛が対象だったが、ヒ素、トリクロロエタン、ホウ素、カドミウムなどなど、いくらでも有害物質や元素はあるから、これらを多少含んでいる水道水が、いろいろな場面で槍玉に上がる。水道水は公営だから、テレビ局としても正面切って批判がやれる。ところがミネラルウォータになると、スポンサーの関係があるから、テレビ局としても攻撃対象にはしにくい。だから、今回のような役所批判的な情報公開は「正義」として行われるが、その裏には、放送できないことが多々有るのだろう。

A君:全く別の話なんですが、鳥の鉛中毒の話は悲惨ですよね。散弾銃で鉛の弾を打つから、例えば、エゾジカの体内に残った鉛弾を鳥が食べて鉛中毒になって死ぬ。この他、釣りのときにも鉛はオモリに使うからそれが原因の鉛中毒も有りそう。このような例こそ、鉛を使わないようにすべきだと思いますね。

B君:それは当然だ。鉛弾でないと多少殺傷力が低くても、なんとかなるだろう。

C先生:最後に、毒物の個人的評価。直感的な話で恐縮だが、現在の日本で危険な有毒物を「広めの環境という観点」から拾い出すと、ヒ素、カドミウム、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、ホルマリン、メチル水銀といったところがベスト5〜6か。この次あたりのランクに、ごくごく普通の食品類が来るのではないだろうか。また、同じぐらいのランクに、すべての人が対象とはならないだろうが、各種医薬と化粧品。医薬類はかなり危険ランクが高い。しかし、治療目的だから許容される。そして、かなり局所的なケースとしては、硫化水素や、火山性ガス炭酸ガスなどもあるだろう。ダイオキシン、鉛、残留農薬、その他の環境ホルモン、食品添加物類のリスクは、どんなものだろうか。ヒトに対するリスクはそれほど大きくはないだろう、と考えるが、皆様はどう思われるだろうか。