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   京都議定書の意味論 05.25.2002




 5月21日、衆議院で京都議定書の批准が承認された。参議院を通らなくても、条約条件については衆議院が優先されるので、これで日本が京都議定書の枠組みである1990年基準で6%の温暖化ガスの削減をするということを正式に宣言することが確定した。

 もしも削減ができなかった場合に、国際的にどのような立場になるか、それはかなり微妙である。すでに、米国が京都議定書の枠組みから離脱し、さらに、オーストラリアもどうやら離脱しそうな気配である。

 となると、枠組みの内部に残りながら、努力はしたができなかった、という国だけが国際的な非難を受けるとも考えにくい。しかし、排出権取引が実際に行われて、ロシアに多額の金額が動く可能性も否定できない。日本という立場からみたら、単なる無駄金のようにも思える。

 さて、京都議定書をどのように見るか、さらに、米国の離脱をどのように見るか、そんな議論をしてみたい。


C先生:いよいよ2002年の最大の環境問題のテーマが動き出した。実は、本年はそのスタートを切るという意味で重大なだけで、実質的に重大になるのは、第一目標期間が始まる2008年からである。

A君:2008年に、省エネ型の機器にすべてが切り替わっている必要があって、となると、自動車だと使用年数が10年、電気機器でも12年といった年月が掛かりますから、もう実は遅いのでは無いですか。

B君:今年から自動車税制のグリーン化などが始まったが、この観点から言えば、本当に実効の無い税制だ。これがまだ2年間続くことは、困ったことだ。

C先生:その通りで、すでに遅いものもある。冷蔵庫なども、消費電力は下がってきているのでまあよいのだが、エアコンでも実はチャンピオンデータはよいのだが、実際に売れるものはインバータなどを使っていない比較的安価なものだそうで、省エネ商品は売れにくいようだ。

A君:となると税制が必要ですね。

B君:その議論がかなり遅れているのが気になる。税制の長期的な展望を明らかするのが理想なのだが、それが不可能だとしても、2008年からは、かなり厳しい環境税制を作るぞ、という宣言だけでも最低限必要だ。

C先生:京都議定書批准の意味を再確認して、そのような方向に向けて舵取りをしなければならない。

A君:その意味ですが、京都議定書があれば、地球温暖化問題が解決するのか、と言われれば、それはNoです。米国が枠組みから落ちたし、残っている先進国が多少二酸化炭素放出量を削減したとしても、大気中に残留する二酸化炭素濃度が下がる訳ではないのです。

B君:IPCCの報告書によれば、550ppmという濃度になんとか抑えたい。それには、しばらくは地球上での二酸化炭素の放出量が増えてしまっても仕方が無いが、2050年ぐらいからは、化石燃料に依存しない人類社会にしなければならない。はたして、そんなことが可能か?

C先生:今のまま放置しておくと、大気中の二酸化炭素濃度がかなり高くなる。それをビジネスアズユージュアルケースと呼ぶが、それだと、気候変動が起きる確率が高いだろう。このあたりの報告は、IPCCの3次報告書を引用している次のサイトを参照して欲しい。
http://www.jca.ax.apc.org/~kikonet/2001/change-c/term.html

A君:2001年の報告書では、たとえ2100年までに大気中の二酸化炭素の濃度が安定したとしても、温度上昇が止まってある一定温度になるには300年ほどかかり、海面上昇は、その後1000年間近く、上昇しっぱなしという計算結果が出ています。

B君:まあ、1000年間での変化であれば、なんとか対応は可能かもしれないが。

C先生:京都議定書の通りに締結国が行動をしたとしても、確かに地球温暖化が止まる訳ではない。しかし、これまで通りのやり方、やりたい放題のエネルギーの使用と二酸化炭素の放出という形では、長期的に見てかなり厳しい状況が予測されている。せめて、考え方を変えること、エネルギーの消費、資源の消費を増やさない限り経済的な豊かさは実現できないという考え方を変えて、多少でも資源・エネルギー消費量を下げても、経済的になんとかなるのだ、ということを実証する必要がある。

A君:要するに方向性だけは決めよう、ということですね。

B君:資源エネルギー効率、すなわち、同じ消費量で稼ぐことができるGDPを増やす必要がある。世界的にどんな状況にあるのだろうか。

C先生:手元にあるデータがちょっと古いが、それは次のようになる。


     図をクリックすると拡大図(85kB)

C先生:日本、スイスが上位を占め、先日来取り上げているデンマークもグラフに出ていないのだが、現在では、日本に迫っている。

A君:よくよく見ると、米国のは順位が低いですね。トルコ・タイと同程度。

B君:トルコ、タイを馬鹿にする訳ではないが、米国も発展途上国なのかもしれない。

A君:そうか、米国が今回京都議定書から離脱したのも、実は米国自身が発展途上国だから、と気が付いたからなのではないか。

C先生:米国という国は、その所得・雇用などを考えると、まだまだ途上国的ではある。元祖クズネッツの所得格差の大きな国は発展途上国であるということが当てはまるからだ。要するに、ヒスパニック、ブラックといったマイノリティーの上に、アングロサクソンが胡坐をかいて座っているという状況がある。

B君:それでは、米国が途上国であるという他の証拠を探してみよう。

A君:見つかりました。女性の平均寿命。先進国と思われる諸国は、いずれも80〜85歳。しかし、米国だけ79歳。

B君:見つけた。乳児死亡率(1歳未満の死亡率)。日本やスウェーデンだと、1000の出生に対して3.7程度。ところが、米国は7.8と倍もある(以上1998年データ。2000年データでは、日本の乳児死亡率は3.2)。

C先生:どういう事情なのか、本当のところは知らないが、米国は健康保険が極めて高価。だから、マイノリティーに健康保険が行き渡っていない可能性が高いように思う。

A君:ブッシュ大統領がオイルメジャーの利益を代弁しているために、京都議定書の枠組みから抜けたという解釈は分かりやすいのですが、それはそれとして、米国はまだ途上国だから、京都議定書の枠組みを我慢できなかったのだ、と考えるとあまり腹も立たないようで。

B君:京都議定書を批准できる国は、本当の意味での先進国日本もその資格を持ったと考えると、さらに腹も立たない

C先生:日本のような資源が無い国は、できるだけ資源を消費しないで経済的な高い経済的な価値を付加するような物品製造を行うという考え方が必須だ。そのためには、適切な税制が必要だろう。

A君:デンマークは環境税制で成功して、エネルギー消費量を下げたということですが、日本の場合には、製造業のエネルギー消費量がもともとかなり低いですから、これから国全体のエネルギー効率を高めようとすると、民生部門や輸送部門のエネルギー効率を高くすることが必要です。

B君:だから、それには、その企業が作る全製品のライフサイクルでのエネルギー消費量、もしくは二酸化炭素放出量を算出し、その削減に対して環境税の払い戻しを行うといった方法を採用すべきだ。

C先生:そうすれば、メーカーとして省エネ製品の開発と販売に熱心になって、結果として二酸化炭素放出量も減り、さらには、先進的な製品によって国際競争力も付くというシナリオ。

A君:うまくいくかどうかは分からないですが、少なくとも、排出権取引によって、辻褄を合わせるという方法はあまり賢くないように思います。それだと、なんらプラスの効果はないので

B君:IPCCの報告書によれば、削減コストが大変なら排出権を活用すべし、という計算結果が出ているが、これは一時的な利点はあっても、新省エネ技術を開発するといった効果は一切無いので、長期的に見たときには、メリットがあるかどうか疑問だ。

C先生:いずれにしても、京都議定書を批准するという意味は、これまでのエネルギー使い放題、資源使い放題という経済の枠組みを放棄し、エネルギー消費・資源消費を削減すると同時に経済的な成長を目指すという、これまでの日本流の経済シナリオからの脱却を意味する。

A君:言い換えれば、米国流からの脱却でもある。

B君:むしろ、米国流のグローバリゼーション経済モデルからの離脱を意味すると言い切った方が良いのではないか。

C先生:米国流の経済システムは明らかに20世紀型だ。今後、21世紀型を目指すのであれば、米国も京都議定書の枠組みに戻るべきだ。次の大統領に期待しよう。ブッシュ大統領の米国は「発展途上国」だ、と考えよう。