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ウラン臨界事故:推理編  10.10.99




 この1週間、ウラン臨界事故は、当初、余りにもマスコミの感度が低かったもので、本HPでも大いに煽ってみたつもりである。やっとマスコミも、その意味に気づいて、かなり”活躍”をしてくれるようになった。ところが、マスコミの情報源が、グリーンピースや原子力資料室になってきて、さらに「例の記者達」の活躍が始まって、再びマスコミ報道のバランスが悪くなってきた。これが、10月7日頃の感想である。
 そんな状況なので、ここでは、様々な議論を再開してみたい。まず、その1として推理編から行きたい。


追加: 本記事をアップしたのが、昼すぎだった。その夜、すなわち10月10日の9時からNHKスペシャルで、この事件が放送された。良くできた番組で、臨界を止める作業について、どのような議論が誰によってなされたか、放送された。ややキレイ事になっていたようだが。一部の疑問は解けてきた。しかし、まだ大部分が残っている。

追加2:臨界事故に対する理解がどうも不正確のようです。多少修正しました。


C先生:今日の議論は、「ウラン臨界事故」の実体の推理なのだが、まだすべてが分かったわけではない。ここまでで、何が分かっていないのか、その整理からやるか。

A君:そうですね。一番重大なのは、どのぐらいのウランが核分裂をしたか、これでしょうか。まだ、解明されていませんが、この結論はそのうち、明らかになると思います。

C先生:残念ながら我々は、原子力について常識の範囲内の知識しか持たないので、放射線関係データからのこの解析をする能力がない。あとで全く別の考察はするつもりだが。週刊朝日(10月22日号、発売日10月9日)記事中で上沢千尋氏(原子力資料室)は、1〜10グラムのウラン235が核分裂を起こしたと言っているが、一方、国の原子力委員会などでは、はるかに少ない量を想定しているようだ。これは、そのうち明らかになることを期待したい。ちなみに、原子力資料室が、今回の事故はレベル4ではなくて、レベル5だと主張している見解の中では、ウラン0.1gが「燃焼」したとしている。どうも原子力資料室内部でも見解の不一致があるようだ。なぜだろうか。

B君:それが分かると、核分裂生成物の気体がどのぐらい外部に放出されたかが分かりますね。気体はクリプトン、キセノンなど。それにヨウ素131は固体ですが、昇華しやすいもので、高温になって気体状で外部に出た。逆に、ヨウ素131の量を測定することによって、どのぐらいのウラン235が分裂したのか分かるといった方が正しいのかな。

C先生:中性子線の強度などのデータからも分かると思う。中性子線がどのぐらい強かったかは、放射化した元素の分析で分かるが、放射化した金198やナトリウム24の半減期が短いので、これらは急がないと消えてしまう。

A君:市民の関心事としては、これらがどのぐらい健康に影響するかですね。

B君:それについても、どうも情報がまだ確定していないように思える。既出の原子力資料室の上沢氏は、「現場近く人が放射化された食塩を使ったりすれば、わずかに放射能を体内に取り込み被曝する可能性もあるのです。当分、安全宣言は出せるような状態ではありません」という見解ですが、これは、「そう言うのが彼らの立場だ」という理解で良いでしょう。
 なぜならば、放射化した物質からの放射線強度は、350m以内の近隣すべての家について、測定されたはずだから。しかも、たとえ多少残っていたとしても半減期が短いので、例えばナトリウム24の場合の半減期15時間だから、15時間後に半分、30時間後には1/4、45時間後に1/8、とどんどん減っている。150時間後であれば、1000分の1になっている。この発言が掲載された週刊朝日の発売日にはもっと減少していたことになる。要するに、この記事を読んだ人にそこまでの情報を与えないと、単なる「センセーショナリズム」になってしまう。
 
C先生:今回の事故についていえば、市民レベルが心配すべき放射線被曝としては、@臨界事故で発生した中性子線への被曝、A中性子線による放射化された元素からの放射線、B漏洩した核分裂物質からの放射線、の3種類を考えなければならない。
 Aについては、今のB君の説明でよいと思う。@、Bについてはどう考えるかね。
 
A君:@ですが、これが良く分からない。原子力資料室によれば、公表データからの推定ということで、中性子線の現場からの距離依存性を推定し、1時間当たりの中性子線強度が、100m地点で4.5ミリシーベルト、350m地点で0.2ミリシーベルトだった。350m地点では、5時間で一般人の年間線量限界1ミリシーベルトを超す。だから、350mという避難要請では不充分だった、行政の不手際だ、という見解ですね。

B君:そのデータだが、距離の何乗に比例して減衰しているかな。距離が3.5倍で、強度が22分の1として、距離の2〜3乗の減衰か。2乗減衰なら空間的広がりだけだが、まあやはり何か吸収源があるということだな。妥当かもしれない。

A君:もうひとつのデータが、グリーンピースが立教大学の佐々木研一教授の協力で測定したとされているナトリウム24の放射化分析の結果。それによれば、「1時間当たり1.6ミリシーベルト」の中性子線を浴びたとのこと。これも週刊朝日など。

B君:それ妙だな。放射化分析なら、そのナトリウムが浴びた総中性子線量のデータが得られるはずで、それをわざわざ「1時間当たり」に直したのはなぜ。そもそも人体への影響で問題なのは、総中性子線量なんだし。その記事の信頼性に問題ありだ。

C先生:またこの取材をやったのが、北島重司記者(週刊朝日)なんだな。この人は、週刊朝日きっての「センセーショナリズム人間」。同氏は、同じ週刊朝日で次の様に結論している。
 すなわち、東海村事故対策本部によって4日後に行われた中性子の被曝調査の結果、「調査できたのは、付近の住民10人について、幸い全員被曝は確認されませんでした」に対して、北島氏は、放射線医学総合研究所の見解「ナトリウム24の半減期は15時間ですから、4日後では当時の中性子線被曝量を推定するのは困難です」を引用して、「つまり4日後に調査しても、あまり意味がなかった」と結論している。
 この本当の解釈は次のようなもので有るべきだ。4日後、すなわち、1/50に減衰したと考えられるが、自然放射線と区別ができない程度だったのから、人体への影響が深刻なレベルだったとは考えられない、という結論にすべきなのだ。
 別にHPを作って、人体への放射線の影響について、もう一度整理しなおそう。
 その中性子線だけど、臨界事故の間、同じ強さで放出されていたという感じの記事が多いのだが、その点については?
 
A君:原子力研究所の中性子線検出器が、丁度臨界事故が起きた午前10時35分に多少の中性子線の増大を観測しているようですね。原子力研究所の担当者は、バイクのノイズかあるいは携帯電話の影響によるノイズだと最初は思ったようですが。なぜならば、一瞬の増大が観察されただけで、その後は科学的に有意な増加とは言えないようなデータに見えましたが、中性子線が一気に増えるなど、誰も考えない訳ですから。それに、データそのものも、カウント数が低いデータだったことも影響しているのでしょう。

B君:とすると、何なんだ。臨界事故の状況はどうだったのだろうか。
 
C先生:それを議論するのは、もう少々後にしよう。なぜならば、なるべく多くのデータを頭に入れておいた方が良いから。
 さてさて、残った課題がBだ。漏洩した放射性物質がどのような状況だったかだ。
 
A君:それは、いくつかデータがあるようです。例えば、旧動燃の施設による放射線モニタリングシステムによれば、当日の夕刻以降すなわち、発生から10時間程度経過した後に、γ線のデータがピークを示しています。これは、放射性物質がそこに到達したことを示します。他の場所からの放出が無かったとすると、10時間掛かって、その場所に到達したことになります。
 
B君:放射性物質として考えなければならないのは、クリプトン、キセノン、ヨウ素かい。

A君:ヨウ素はどうなんでしょう。もともと固体ですからね。ガス状から固体にもどったとき、微粒子状で空気中をただようものなんでしょうか。
 クリプトン、キセノンですが、週刊朝日の北島氏の記事では、クリプトン91、キセノン138とされているのですが、少々調べた範囲では、クリプトンには91という質量数の同位体が多少でも安定なのでしょうか。質量数84が普通の同位体に中性子7個も余計に付いたものですからね。クリプトン85の間違いか。しかも、不思議なことには、クリプトン91がβ崩壊してストロンチウム91になるとの記述がありますが、クリプトンがβ崩壊すれば、ルビジウムになります。北島氏はもともと何が専門なのでしょうか。科学の素養がある人なんでしょうか。キセノンも138なんでしょうか。キセノンなら133ぐらいだと思うのですが。誠にすみませんが、原子力の専門家の方、正しい情報の提供をお願いします。
 脱線しましたが、クリプトン、キセノンなのか、それともそれが崩壊してできた固体なのかで感じが違うと思うのです。それは雨です。テレビ放送では雨が降っていました。丁度雨の降り始めにモニタリングシステムのカウントが高くなったのか。それとも、雨は前から降っていたのか。気象データが見つかりませんので、分かりません。これも専門家の見解をうかがいたい
 
C先生:このあたりの情報が解析されるのを待つことにしよう。しかし、臨界状態がその10時間後ぐらいに、再度激しくなったということが有るのかどうか、これも問題なのかも知れない。
 ということで、以上の情報を基に何が起きたか、推理小説だと思って臨界の真の姿に迫ってみよう。
 
A君:それでは、共通認識の整理です。この範囲内での推理を始めるということですね。ところが、手持ち情報では、沈殿槽に入れられたウランが16kg。ウラン235の濃縮度18.8%。このぐらいしか分からないのですよ。

B君:A君も言っていたが、まず、ウラン235の核分裂量がどの程度だったか、これが鍵だ。

C先生:それでは、一つの事実を。ウラン235による1Wの出力とは毎秒3.1×10**10個の核分裂を意味する。1000kWの熱を1日出し続けると1.3gのウラン235が失われる。

A君:計算計算!
 1.3gで1000kW×24時間=24000kWh=24000×3600kJ=24000×3600/4.18kcal=20700Mcal。

B君:20℃の水100リットルを沸騰させて完全に蒸発させるのに必要なカロリー数は、
 100×1000×(80+540)cal=62Mcal。
 A君のように1.3gのウラン235が核分裂を起こしたとしたら、32トンの水が蒸発したはずだ。さてさて?
 
C先生:その沈殿槽の大きさだが、良く分からないが、バケツで溶液を入れることができる程度だとすると、おそらく直径100cm×高さ100cmと仮定しておけば、それより大きいことは無いだろう。これでも800リットル近いからね。バケツレベルではなくて、バケツリレーレベルだな(古い)。800リットルの水の完全蒸発には、約500Mcalの熱が必要。この熱を出すのに必要なウラン235の分裂量は0.024gだ。

A君:とすると、原子力資料室が言う様に0.1gのウラン235が分裂したというのなら、あのタンクの中身は完全に蒸発・乾固しているということですか。

B君:いや、そんなことはない。周囲に冷却水が回ってたはずだからね。沈殿槽だが、冷却水のジャケットの厚さを考えると、個人的見解では、沈殿槽の内容積は200リットルぐらいだったのでは。どこかにデータはないのかな。

A君:関連記事が出ている週刊現代、週刊ポストなどを買い集めたのですが、データ皆無でした。また、内容的にも両誌の記事とも完全に無視して良さそうです。「単なるセンセーショナリズム」そのものでした。まあ、予想されたことですが。

B君:見つけた。朝日新聞の10月6日。作業は前日からやっていて、29日にステンレスバケツ4杯分(ウラン9.2kg)を入れて、翌日に、バケツ3杯分(ウラン6.9kg)を入れたら臨界が起きたらしい。バケツは18リットルらしいから、15リットル×7杯=105リットルの水と考えれば大体良いのでは。

C先生:沈殿槽の大きさも、B君の推理が正しそうだな。さて、発生した熱量だが、JCOがその装置のデータを発表すれば良いのだが。普通なら冷却水の温度データなどから、どのぐらいの熱量が発生したか分かっているはずなのだ。
 10月7日の朝日新聞には、日本原子力研究所の中島氏の推定として、最大でも1mg、すなわち、最大でも1000分の1gだとしている。この推定にどのようなデータが使われたか大変に興味があるところだが、1mgだとすると、発生熱量は、100リットルの水を蒸発させる熱量に満たないから、臨界は、溶液状態のまま起きたことになる。
 
A君:冷却水を抜いて、中性子線を外に抜いたのは、ひょっとしたら却って危険かという印象を持ったのですが。発熱量から計算して、大丈夫と判断したのでしょうかね。

B君:まあ、永久に分からないだろうな。どんな議論が行われたか、なぞのまま残るのでは。
 
C先生:このあたりの情報こそ、マスコミよ、集めて欲しい。当事者がどんな議論をして、何を考えたのか。相談に乗っていたのは誰なのか。これがヒューマンアスペクトの議論をする際に、必要不可欠なのだ。
 さて、事故を起こした部屋は今どうなっていると思う?
 
A君:硝酸溶液が液体のまま沈殿槽内に残っているのなら、キレイな状態ではないでしょうか。

B君:いーーや。違うな。水が全部蒸発はしなかったとしても、沸騰しかも突然沸騰状態(突沸状態)にはなったのだろう。だから、溶液のかなりの部分は、容器ののぞき窓、ここから溶液を注ぎ込んだところだが、ここから外に飛び出した。だから、臨界超過状態がやや緩和されて、臨界状態に戻った。そして、冷却水を抜くまでその状態が続いた。

C先生:その考えに同意。なぜならば、原研の中性子線データが、10時35分に一瞬だけ高くなったことを説明するには、そんな機構が不可欠だ(どうも事実誤認。最初に臨界になったときには、このようにバースト状態になるらしいです=訂正10.31。以下の文章も信用しないで適当に読んでください)。だから、室内には、かなりのウラン水溶液が飛び散った状態だったろうと推理する。しかも、その後、徐々に水溶液からの水が蒸発して、だんだんと溶液が濃くなった。そのために、また臨界超過の度合いが、また高くなったのでは無いだろうか。事故発生後数時間は、中性子線が測定されていなかったこともあるが、この時期に当事者が落ち着いていたのは、臨界状態のウランがかなり少なかったからなのではないか。それが、水が蒸発して徐々に臨界に関与するウランが増加した。それと同時に放出する熱も、放射線も増加したのではないだろうか。

A君:有りそうですねえ。

C先生:9月30日の夜のニュースでまだ臨界超過状態だと聞いて、一番心配したのは、今後、どんな事態になるかということだったのだ。何かと言えば、その容器が密閉状態であると思っていたもので、どんどんとエネルギーが供給されて水が蒸発し、高圧状態になって、一気にドンと容器が破裂することだった。これが、ウラン臨界事故暫定版に述べた「物理的爆発事故」の実体がそれだ。もっとも、これが起きれば、臨界状態も一気に解消して未臨界に戻るが、建物を壊すほどの爆発力があれば、近くにウラン溶液が飛び散ることになったろうからね。
 もっともウラン溶液そのものからの放射線は、臨界状態にならない限り、抱いて寝ても大丈夫な程度のものらしい。なぜならば、ウラン235も238もα線を出して崩壊しているが、α線は、紙一枚で止まるとされているので、容器の外には出てこない。当然、同時にγ線は多少出ているが、半減期が数億年と非常に長い分、分裂そのものが少ないために強度が低いのだろう。勿論、ウランを体内に入れるとこれは問題。
 しかし、しかし、なのだ。一旦臨界状態になったウラン溶液は別問題。「死の灰」入りのウラン溶液になっているのだから。これがばらまかれたら、それは大変だった。

B君:そうすると、週刊朝日の10月15日号の表紙に「死の灰が降った」というのがあって、余りのことに大笑いをしたのですが、事故発生後半日ぐらいたってから物理的に爆発したら、「死の灰」が本当に降る事態になったかもしれませんね。
 
A君:なるほど、考えなかった。でも、臨界の話ですが、色々と状況を考えると臨界状態が続いたのは、非常な偶然からだったのでは。

B君:そうも考えられるね。最初に臨界状態になったときの発熱量がもっと多ければ、液体の飛散がもっと起きて、沈殿槽内が空に近くなり臨界状態は続かなかったのかも知れない。

C先生:基礎編1に「原子爆弾の卵ができた」という、おどし文句を書いた。これはマスコミを煽るためだったとは言え、センセーショナリズムだなあと自覚していたので、その後に、「今回は爆発しなかったし、爆発する可能性も無かったのだが」、と続けた。それは、両君がいま議論しているそんな状況も考えていたからだ。
 それに、原子爆弾を爆発させることは、結構技術的に難しいらしい。構造そのものは簡単だと書いたがね。まず、ウランが違う。235の濃縮度が普通の軽水炉だと4%程度まで、今回の臨界事故で取り扱っていたのは、高速増殖炉の常陽のためのものだから、濃縮度が18.8%と高かった。原子爆弾に使うのは、兵器グレードで、濃縮度も95%ぐらいあるらしい。そして、ウラン235の周辺には、中性子線が外に漏れないで一気に臨界に達するように、ウラン238の層が置いてある。なぜならば、どこか一部で臨界に達すると、そこだけで高温になって、爆弾そのものを壊してばらばらにして、ほとんどすべてのウランが臨界にならないということになる。こうなると爆弾としては失格。
 
A君:原子爆弾でも、ウラン235の場合とプルトニウム239で、構造に違いがあるようですし、まあいろいろあるのでしょうが、余り知りたくもないですね。
 
C先生:今回の事故で、今後心配するようなことは何かあるかね?
 
A君:まだ影響が継続しているとしても、それはあの部屋の中の話ですね。外部への影響はもう「無し」でしょう。

B君:まあ終わった。しかし、終わったというのは、影響が皆無だった、ということと同義ではない。

C先生:確かに終わった。でも疑問点が一つ残っている。臨界状態になった瞬間の中性子線の放出量がどのぐらいだったのだろう。一瞬のことだったと思う。しかし、相当な強い放出が起きたと思うのだ。これが量として(強さ×時間という意味)少なければ心配無い。多分少なかったのだろうと思う。しかし、確認をしたい。
 避難の妥当性についての議論を読むと、原子力資料室もグリーンピースも、臨界状態が均一にずーと続いていたと仮定しているようだが、これは違うのではないだろうか。彼らの避難が不充分という議論も不充分のように思える。
 さて、人体影響という観点から、どのような影響を心配すべきか、これは後で考えよう。これにて、休憩。