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ウラン臨界事故:基礎編2 10.02.99




10.02夜現在の新しい情報は、放射化によるナトリウム24が事故現場から300mのところで検出された。予想通りだ。

C先生:基礎編1でかなり多様な質問に答えたつもりだったが、1日経ったら、まだ質問があるとのこと。それでは行きますか。どうぞ。

E秘書:放射線は蓄積されるのですか。何を聞きたいのかと言えば、放射線を浴びた体には何が残るのか。放射線を浴びた野菜はたべても大丈夫か。などなどです。

A君:それは、浴びた放射線の種類によりますね。中性子線を浴びると、放射化という現象が起きて、安定同位体が不安定な放射性元素に変わるものが出てきます。今回の事故でも10.02の夕刊に報道されたように、放射化によるナトリウム24が検出されました。中性子線を大量に浴びれば、勿論それだけで命に直接関わりますが、同時に体内に大量に存在するナトリウムの一部がナトリウム24になるとか、その他、さまざまな放射化が起きても不思議ではないです。
 しかし、今回、中性子線を浴びた人は、それこそごく近傍にいて被曝した人だけでしょう。そして、その人々は放射線検出器で検査をすれば、そのような放射化による放射性同位元素が体内にできたかどうか、すぐ分かります。ナトリウム24の半減期は15時間です。すでに臨界が終息してから45時間以上を経過していますから、放射線の強度は最初の8分の1になっているでしょう。これからどんどん弱くなります。

B君:交代。γ線を浴びた場合、これが多くの放射線事故の大部分ですが、この場合には、放射化は起きない。だから、その時点でDNAに傷が付くといった変化が起きていなければ、それ以後何か悪いことが追加されることはありません。蓄積は「なし」です。
 野菜に対しても全く同様のことが言えて、野菜が中性子線を大量に浴びた場合には、放射性元素が放射化によって作られることはあっても、γ線の場合には有り得ません。γ線照射でDNAに傷が付いている可能性は、勿論野菜の場合にもあるのですが、ヒトがDNAに傷が付いた野菜を食べても、何か害が出る可能性はゼロと考えて良いでしょう。なぜならば、そんな野菜を繰り返し食べることは考えられないから、例え馴染みの無いたんぱく質ができていても、1回だけならアレルギーが起きる心配はない。有害なたんぱく質が偶然できる可能性は完全にはゼロではないが、被害がでる確率はまあゼロ。流れ星にぶつかって死ぬより確率は低いでしょう。だから、野菜も現場から350mより遠いところのものなら、全く問題ない。
 野菜の場合、もっとも問題なのは、恐らく放射性物質の付着だが、今回の事故では、これは考えにくい。まず、大丈夫だ。万万が一だが、もし若干あったとしても、洗えば取れる。
  外に干してあった布団を使って良いか、という質問が来るとテレビが言っていた。今回はまず大丈夫だろう。中性子が届くような距離に干してあったら、いささか注意を要するが、そんな布団があっただろうか。現場を見ないとなんとも言えない。
  しかし、原子力関係の事故は千差万別。その中身を科学的に把握できることが、自衛の方法でもあるだろう。

E秘書:良く分かりました。しかし、ジャスコなるスーパーが東海村近くで作られた野菜を仕入れていませんといった風評被害をわざわざ作るような広告をするのは何故ですか。

C先生:それは、一般市民の反応がその程度のレベルで、加えて、ジャスコの経営者の科学リテラシーのレベルがその程度だということだ。東海村の農家がジャスコの経営者を訴訟してみると面白いのだが。今回のことで、風評被害がでるような判断を下したということは、ほとんど犯罪行為だから。
 LCA仲間の某氏から質問があって、近くのカレット工場からのカレットを普通に取り扱って良いかということ。JCOの現場から100m以内だったら、もう1〜2日待ったほうが良いかもしれないが、それ以外なら全く問題無い。

E秘書:テレビを見ていたら、放射線検出器を赤ちゃんののどのところに当てて何やら測定していましたが、あれは何か意味が有ったのですか。

A君:するどい質問。当然の処置では有ったが、結果的に無意味だった。本当に良かった。
  恐らく、甲状腺からの放射線を測定しているつもりだったと思いますが、今回の事故で、ヨウ素131のような核分裂生成物が外部には漏れなかったようです(追加:10.05の新聞報道によれば、外部で若干のヨウ素131が検出されたらしい。しかし、無視できる程度の量のようだ)。もしもヨウ素131が外部に漏れて、それをヒトが吸飲すると、ヨウ素は甲状腺に入るとされています。もしも甲状腺に放射線を出すヨウ素131が溜まると、これはホルモンの分泌などに影響がでる可能性があって、大変です。そこで、ヨウ素剤を飲むのです。ヨウ素過剰の状態に体をしておいて、放射性のヨウ素を間違って吸飲しても、「もういらないよ」と体外に排出されるように。
 保健所関係の職員は、チェルノブイリ的な事故による核分裂生成物の放出があったと判断して、あのような測定をしたと思うのです。当然の処置なのですが、今回は、そのような事故では幸いにして無かったので、結果的に無意味でした。しかし、繰り返しますが、当然の処置なのです。

E秘書:ヨウ素131は、中性子線による放射化ではできないのですか

B君:鋭すぎる。原理的にはできますが、その原料となる質量数が130前後の元素が存在していなかったでしょう。事故現場の周辺にも、体内にも。ヒトを構成している元素は、どちらかといえば、質量数の軽い方ばかりでして、例外的にヨウ素という重い元素を含んでいるようなものですが、ヨウ素はそんなに大量に体内にある訳でもない。放射化によるヨウ素131の生成は心配ないでしょう。
 核分裂の際には、質量数95前後の元素と138前後の元素ができやすいのですが、質量数95前後の元素というと、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、そして、138前後の元素というとヨウ素、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムなどといった元素でして、生体に関係しそうな元素としては、ヨウ素ぐらいなものですね。それ以外の元素は体内に入っても、排出されてしまいますから、ヨウ素剤というものが用意される訳です。

E秘書:半減期というのは何ですか。

C先生:半減期というのは、その期間を経過すると、半数が他の元素や物質に変化してしまう時間を言う。一般に、ある確率で他の元素や物質に変化するような反応の場合には、このような法則にしたがって物質量が変化する。
 放射性物質がその代表例で、極めて短い半減期をもつ放射性物質や、非常に長い半減期のものもある。実に千差万別。

E秘書:原子爆弾の卵になった沈殿槽ですが、なんだかホウ酸水と聞こえたのですが、それを注入して核分裂を抑えたとか言っていましたね。ホウ酸水といえば昔はモノモライなる眼病の薬だったようですし、今、ホウ酸はゴキブリ団子に使われます。核分裂というのは、眼病やゴキブリみたいなものなのですか。

A君:残念ながら、ホウ酸がどのようにしてゴキブリを殺すか知りません。眼病の薬は、殺菌効果だと思うのですが。
 核分裂を抑えるには、連鎖反応を起こしている中性子を吸収すれば良い訳で、なぜか、ホウ素10は非常に中性子を吸収する原子です。同じホウ素でも質量数11のものは中性子をほとんど吸収しません。なぜ? 困ったな原子核の構造が理由だと思うのですが(B君もC先生も知らん顔)。誰か教えて下さい。

E秘書:分かりました。昨日のお話ですと、DNAに傷が付くと問題なのは、骨髄とか生殖細胞だということでしたが、それ以外にも発ガンする可能性もありますよね。

B君:勿論そうです。50ミリシーベルトというのが放射線を職業的に取り扱う人の場合の年間線量限界ですが、この量の放射線に暴露されると発ガンリスクが0.05%上昇するということのようです。今回、非常に強い放射線を浴びた作業員2名の線量は、どうも10シーベルトぐらいのようですが、単純に計算すると、発ガンリスクが10%上昇するということに相当しそうです。しかし、発ガンは確率的なものです。まず急性障害が当然ながら問題なんです。命に関わりますから。

C先生:以上で基礎編を一応終了。