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ウラン臨界事故:基礎編1 10.02.99 10.03一部訂正






C先生:今回の事故も無事収束に向かったようで、本当に良かった。しかし、その本当の重大性をマスコミも結局理解できなかったのではないか、という感触を持った。諸君たちの感想は。

A君:絶対あってはならない事故です。これまでの原子力事故とはレベルが違う。それが余りにも簡単に起きたので、唖然呆然。街中にこんな工場があるとは知らなかった。

B君:日本人そのものが変質していること、それがこんな形で現れたと思う。

C先生:B君は妙なことを言っているようだが、本当はそうかもしれない。この議論は、次の解決編でしよう。これは基礎編と考えて、E秘書の質問に答える形で進めたい。

E秘書:私には本当のことがまだ分かりません。放射能、放射性物質、なにが漏れたのですか。新聞、テレビが色々なことを書いたり、言ったりしていますが。

C先生:まだ、確実なことは報道されていない。NHKが言っているような「放射性物質の漏洩事故」が起きたのか、それとも「放射線が出ただけか」。このあたりが混乱していて良く分からない。マスコミにこれを区別して報道する能力がないからだ。しかし、これまでのテレビ、新聞の報道を総合的に解釈すると、多分、「わずかの放射性物質の漏洩と、考えられないぐらい相当大量の放射線の放出が起きたという理解」で良いのではないかと思える。

E秘書:放射性物質と放射線、放射能とはどこが違うのですか。

A君:放射性物質とは、放射線を出す能力をもつ元素を含む物質。物質だから、実態があって重さで測れるものです。まあ、液体、固体、気体のいずれかの形を取ります。それに対して、放射線は物質ではありません。詳細は後で。
 元素には安定同位元素と放射性同位元素があります。例えば、炭素ですが、一番普通にあるのは、質量数12という炭素で、これはいつまでたっても安定です。化合したりは当然するのですが、炭素はいつまでたっても炭素です。ところが放射性同位体という炭素もあって、それらは、放射線を出して別の元素に変わります。

B君:ウランの場合でも、ウランの大部分である質量数238も、また余り天然には存在しない質量数235のウランも、放射線を出します。ですから、放射性物質です。特に、ウラン235は、熱中性子との核分裂反応断面積の大きい。すなわち、余り速くない中性子と衝突したときに、核分裂を起こ確率が高い。そこで、このウラン235の濃度を高くしたものが、濃縮ウランと呼ばれる。今回の作業していたウラン燃料は、高速増殖炉の常陽のためのものだったようで、濃縮度が通常の軽水炉用の4倍だったらしい。(この文章は、国立環境研のU氏からのご注意によって、書き直しました。間違っていたのは、ウラン238の特性に関する記述で、238を安定核種だと記述してありました。実際には、放射性であり、中性子線を照射したときに核分裂を起こす可能性もゼロではないようです。もっともどのような元素でも、質量数が大きいものならばゼロではない?)。

E秘書:核分裂というのは何。

C先生:ウラン235の場合であれば、中性子を一つ吸収すると、重さが一つ増えてウラン236になる。これは非常に不安定で、原子核が2つか3つに分裂する。そしてより軽い質量数が70から160ぐらいの複数の原子に変わる。そのとき、質量数95付近と138付近がもっともできやすい。そうやってできる原子はいずれも放射性元素で、放射線を出しながら、安定な原子へと変わっていく。これを分裂生成物といって、いわゆる「死の灰」。なかなか安定な原子にならないものとして、ストロンチウム90とセシウム137がある。これが長期間に渡って放射線を出しつづけるのだ。
 さて、これがなんで原子炉や原子爆弾に使えるのかといえば、それは、分裂するときに、トータルで見るとほんのわずかだけれど軽くなる。その重さの減少分だけのエネルギーを出す。要するに熱を出すのだ。
 
E秘書:「臨界」ってなんども今度のニュースで出ましたが、あれは何ですか。

A君:それは、ウラン235が中性子を吸収すると核分裂を起こしていくつかの原子に変わりますが、その際同時に中性子も出ます。もしも、中性子がウランにぶつからなくてどっかに行ってしまえば、核分裂は続きませんが、別のウラン235があれば、そのウラン235にぶつかってウラン236に変化させ、核分裂を起こすことになります。要するに、ウラン235がまとまって存在していると、核分裂が連続して起きることになります。これを連鎖反応とよび、その限界の量を臨界量、その状態を臨界状態と言います。今回、ウランを16kgを沈殿槽に入れたから、臨界状態になったわけで、原子炉がごく普通の部屋にできたことになります。

B君:原子炉というのは、当然原子炉用として作られているから、そこで核分裂がおきるように作られている。また、何か起きても、かなり安全に作られている。今回の事故は、本来原子炉の中で起きるべき核反応が全く普通のところで起きた。だから本当に怖いのだ。

C先生:原子爆弾というのは、臨界量以下に細かく分けておいたウラン235を、爆薬の力で一気に一塊にして臨界量を超すという非常に簡単な仕組みのものなのだ。それが、今回、沈殿槽のなかで起きたのだ。原子炉だけでなくて、原子爆弾の卵みたいなものが普通の場所にできたとも言える。今回は爆発はしなかったし、する可能性も無かったのだが。

E秘書:その割には、なんだかマスコミも冷静ですね。

C先生:だからマスコミには本当の怖さが分かっていなかったのでは、と疑っている。

E秘書:中性子とか放射線ってなんですか。

B君:中性子は原子核の構成部品の一つ。重さがある粒子です。放射線には、α線、β線、γ線などがありますが、α線はヘリウム原子核(陽子2、中性子2からなる)の流れ。β線は電子の流れ、γ線は電磁波の一種です。中性子線も放射線の一種。いずれも、荒っぽく言えば、直進すると考えればよい。(この部分、α線と中性子線の混同のミスがありました。M氏のご指摘によって誤りを修正しました。10.03。何も調べないで30年前の知識で書いていると、脳の老化による勘違いが起きるのです。陳謝!
 ものを通り抜ける能力ですが、α線、β線はほとんど無い。だから、ちょっと離れておれば問題はない。中性子線は、その速度にもよりますが、まあ結構なんでも透過します。γ線は非常に透過能力が高い。それでもどんなものにでも多少は吸収されますが、その吸収量は重さに比例します。だから、重たいものの後ろ側は、比較的安全。

E秘書:γ線は電磁波なんですか。だから電磁波は体に悪いのですか。

C先生:早とちりであせらせないでよ。電磁波にも色々あって、光も電磁波だし、テレビの電波も電磁波。電磁波で周波数の高いものは人体に悪い。X線も体に悪い。γ線も悪い。しかし、光はどうだ。紫外線は余り体に良く無い。赤外線はむしろ体に良いとされていないか。可視光線は我々にとって必要不可欠。地球が存在している理由だな。植物が光合成をするから、生態系があるんだし。一般に電磁波に害があると騒いでいるのは、50Hzとか60Hzの商用周波数で、これは99.9%安全。

E秘書:では、「放射能」というのは

A君:本当の定義は何なんでしょうね。

B君:放射能という言葉が日本の原子力の元凶かもしれない。いろいろな意味に使われていて、本当の姿を分かりにくくしている。

C先生:そうだね。マスコミは「放射能」という言葉をもはや使うべきでないだろう。もともと放射能とは英語で言えば、radioactivity。要するに放射線を出す能力、といった意味だ。決して、放射性物質を意味する言葉ではないのだが、どういう訳か、そんな意味に使われることもある。また、放射線の意味にも使われる。
 テレビでは、超一流のプロである原子力資料室の高木仁三郎氏も「放射能」という言葉で放射性物質を表現していたように思える。このあたりの厳密な記述を行わないと、正確な情報が伝わらない。木氏は、一応事態が終焉したと思われる10月1日の夜に、「放射能漏れ不安はまだ消えていない」とテレビで発言した(実際の発言時間は不明)。しかし、それが具体的に何を意味し、何が問題なのか分かった人が何人いるのだろうか。こんな発言をするから、また不安を感じる人が出る。
 
A君:高木さんの真意は、原子炉もどきになってしまった沈殿槽の中には、核分裂生成物であるストロンチウム90やセシウム137が相当あって、強いγ線が出ている状態だ。これらの物質がなんらかのきっかけで、外部に飛び出さないとも限らない。要するに、核分裂生成物である放射性物質が外部に出てくる可能性が、まだ皆無ではないという意味だと思った。

B君:正解だろう。核分裂直後には、他にも半減期の短い核種がいっぱいあるから、その沈殿槽の周辺では、すごい大量の放射線が飛び交っているだろう。しかし、放射線の強さは1ヶ月後には14分の1に、そして1年後には、約100分の1になる。だから、しばらく放置して人間が入れるような状態になってから、作業場内部を除染処理することになるだろうね。

E秘書:10km圏の人々ですが、なぜ屋内に退避している必要があったのですか

C先生:それは、放射性物質が外に漏れる可能性があったからだ。爆発が起きて、ストロンチウム90やセシウム137、ヨウ素131、ウラン235などが外に飛び出せば、これが大変。何がもっとも大変かと言えば、放射性物質をヒトが吸入するのが怖い。体の中に入った放射性物質は、放射線をどんどん出す。近いところから出た放射線は、絶対的な強度が低くても、影響が大きくなる。しかも、一旦体に入ってしまうと、なかなか抜けないから。

E秘書:それで外気をいれないようにエアコンを運転するなとか言ったんですね。でもエアコンだって、室内の空気だけ循環させる運転なら問題ないでしょ。

B君:その通り。意味が分かっていれば、適切な対応が取れる。

A君:「放射性物質が漏洩した事故だ」とNHKが何回も何回も放送していましたが、もしもそれが本当だったら、10km域の室内避難がまだ続いているでしょう。NHKは恐らく間違っています。放射線の相当強いものが外に出た、これが現実でしょう。

B君:中性子線が外に出ると、放射化という厄介なことも起きる。γ線では起きないが。安定同位元素が中性子線を吸収して、放射性同位元素に変わることです。中性子線がどのぐらいの距離を飛んだか。これが問題ですが、距離の2乗で弱くなるように広がり、さらに途中で吸収されますから、距離の3乗か4乗で弱くなると考えて良いと思います。まあそれが350mという避難地域の根拠でしょう。原子力資料室の誰かが、350mは根拠が無いと言っていましたが、厳密な根拠は無いと思いますが、大体こんな感じなんでしょう。中性子線が届いたと思われる最大の距離といった感じです。そこで、350m以上離れてしまえば、放射化でできてしまった放射性元素がまあ無いでしょう。

E秘書:それならNHKは間違いを訂正すべきですね

C先生:当然だ。大間違いだから。しかし、多分訂正しない。なぜならば、関係者に大間違いだったと思っている人は居ない可能性が高い。要するに放射線漏洩と放射性物質漏洩の差が分かっている人が居ない。
 他のテレビ局は、「放射能」漏洩事故だといっている。これも怪しい表現だ。本当なら、「臨界事故」が正解。「原子炉、原子爆弾を普通の部屋に作った事故」という意味だが。(今=10.02の13:50、テレビを見ていたら、NHKが「臨界事故」という表現に変えた。昨日の夜中までは、「核燃料加工会社で起きた放射性物質が漏れ出した事故」と言っていた。)

E秘書:農作物への影響や水道への影響は

A君:今回の事故では問題はないですね。NHKの言うように放射性物質が漏れた事故であったら、農作物、水道への影響が出るはず。そうではなかった。

E秘書:放射線ってどうして体に悪いのですか。

C先生:それは、DNAに傷をつけるからだ。成人の場合、細胞の核に存在するDNAの情報によってつぎつぎと新しい細胞を作っているのが骨髄や生殖細胞だ。だから、大量の放射線を浴びると、これらの細胞ではDNAに傷が付いているから、間違ったたんぱく質を合成することになって、間違った細胞ができることになる。リンパ球・白血球が減少するのは、骨髄部分のDNAが壊されたから。今回極めて重大な被曝をした作業員2名には、恐らく骨髄移植が不可欠だろう。もしも完全に回復したとしても、生殖細胞は回復しないで、無精子になっている可能性が極めて高い。

E秘書:放射線関係の知識も結構難しいですねえ。

C先生:このあたりの基礎情報を誰にでも分かる形で伝達しないから、妙な不安が残るのだ。「怖いものを正当に怖がり、怖く無いものを怖がらない」、これが意外と難しい。そのための用語や概念、原理などのひとまとまりをリテラシー(=読み書き能力)と呼んでいるが、市民社会における環境リテラシーも不足。原子力リテラシーも不足だ。今回の事故だが、マスコミの対応を見ていると、もっと怖がるべき状態だったのに、その意味が分からなかったために、余り怖がらなかったように思う。
 以上で基礎編前半終了。基礎編後半と解決編へ続く。
 
A&B君:(ヒソヒソ話)今日の問答で、E秘書が全部分かったら、それは異常な能力の持ち主か、そもそも知っていたのに知らない振りをしたか、どっちかだ。

E秘書:(ヒソヒソ話を無視して)マスコミ関係者には、環境リテラシー・原子力リテラシーなどを含む科学リテラシーの有無のテストをしたいですね。すべて署名記事にして、そのテストの成績も著名の下に掲載してほしい。

A&B君:超過激だ!

基礎編後半の予告:放射線は蓄積されるのか。ヨード剤の意味。風評被害。その他。
プラス解決編が明日(10.03)に掲載予定です。時間が有ればですが。