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   免疫力をつける  10.27.2001




 今週の環境の10月4日に取り上げた、「免疫力をつける」の考察である。このHPでは、上野川先生の一般向け著書である「からだと免疫のしくみ」入門ビジュアルサイエンス、日本実業出版社、ISBN4−534−02413−4から、「免疫力をつける」に関わるところを抜粋してご紹介。


C先生:最近の健康ブームの中で、一つのキーワードになっているのが、免疫力を高めるということだ。あるキノコで免疫力を高めたらガンが治ったとか、という新聞広告が結構でているが、そんなことが果たしてあるのか、ということ。

A君:それには多少、免疫というものの実態を知る必要がありますね。

B君:われわれの専門からもっとも遠いところの話だから、相当いい加減なものにならざるを得ないが、まあ、知識として無いよりはまし、といった程度のところを目標にして、協力して説明してみるか。

C先生:免疫の話は、実際かなり複雑だし、専門用語も多い。だから、専門用語は、その都度短く説明して、さらに文末にでもまとめよう。では頼む。

E秘書:はいお茶です。免疫については、色々と疑問がありますので、後で質問しますから、分かりやすく説明してくださいね。では失礼。

A君:まず、免疫は、外部からの敵に対応するためにできた防衛システムですが、その敵を抗原と言います。本来なら敵でもないようなものも敵になる例があります。例えば、”そば”などの食品中のたんぱく、花粉などですが。

B君:敵が病原菌やウィルスだという場合が、もっとも重大な事態だ。病原菌が入ると、体は、抗体なるものを作る。これは侵入者の働きを抑えるタンパク質だ。どうやって対抗するかは、後ほど多少詳しく。

A君:敵がウィルスだと、抗体では対抗できないので、これらを破壊する細胞、すなわち、リンパ球が動き出す。リンパ球は総称であって、様々な名前をもった、異なった機能のものがある。

B君:免疫には、実は2種類あって、抗体やT細胞と呼ばれるリンパ球が作用するようなものを獲得免疫系と呼び、これらは、侵入者にあわせた特別部隊のようなもの。それ以外にも、警察のようなどんな侵入者にも作用する免疫があって、体液に溶けるような物質群とマクロファージとかナチュラルキラー細胞とかいった白血球がその実態。これを自然免疫系と呼ぶ。

A君:以後、大部分の話は、獲得免疫系の話になりますが、これは”おたふく”や”はしか”のように一度かかると二度と掛からないという免疫システムです。経験によって獲得するで、「獲得」という表現が付いているのです。

B君:獲得免疫にも2種類あって、「液性免疫」と「細胞性免疫」がある。抗体という物質が作用する場合を「液性免疫」と呼び、T細胞などが活躍するタイプを「細胞性免疫」と呼ぶ。

A君:まず、抗体とは何かですが、抗原の刺激を受けるとB細胞なるものが作るもの。分子構造はY字型をしていて、Y字の下の部分は、一定の構造をしているが、開いた部分は、ある特定の物質だけを対象にすることができるような構造になっているようです。しかし、ある特定といいながら、その対象は、ありとあらゆる抗原を対象にすることができるのです。
 抗体は、免疫グロブリンと呼ばれることもあって、Igで表記されますが、形が少しずつ違った、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEなどがあります。

B君:抗体は、いくつかの細胞が協力して作る。まず、抗原が体内に入ると、それを他の細胞に示す細胞=抗原提示細胞がその抗原の情報を探る。そして、その情報を元に、T細胞が抗体を作るべきかどうか、判断を下す。そして、実際に抗体を作るのがB細胞。

A君:抗体は、抗原に対して特異的に結合ができるような構造になっているのです。いわゆる鍵と鍵穴の関係ですが、それが不思議なところなのですね。ある毒素が入ってきて、それに対して抗体が作られると、その抗体は、その毒素にがっちり結合をするのです。そして、その毒素をマクロファージと呼ばれる体内の掃除屋のところに連れて行って、抗体自身と一緒に処理をします。以上が細菌を主たる対象にした抗体の作用でした。

B君:ウィルスが入ってきた場合は、多少違う。細胞性免疫というものが働く。ウィルスは、自分自身で生きることはできないから、ある細胞をホストにする。ホストに近づいて、ホストのDNA、RNAにウィルス自身の成分を打ち込む。ウィルスに感染した細胞は異物だから、これは排除しなければならない。そこで、キラーT細胞がウィルスに感染した細胞を、その細胞の表面に出ている分子で見分けて、そして攻撃する。

A君:このように免疫に寄与している細胞は、どこで作られるのか、というと、それは骨髄です。リンパ球の元になる幹細胞は、骨髄で作られ、胸腺などで様々な変化を与えられて、T細胞になります。そして、色々な機能を果たすようになります。

B君:ところで、白血球が骨髄で作られるというが、リンパ球、T細胞などとの区別はどうなっているのか。この答えは、白血球というのは広い概念で、リンパ球(B細胞、T細胞)、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞などの総称だ。

A君:胸腺の重要な役割として、T細胞が訓練されて、自分以外のもの=非自己だけを攻撃するようにする、というところがあるのですが、これは難しいので省略。

B君:結果的に、訓練されたT細胞は、3種類になる。キラーT細胞、炎症性T細胞(Th1)、ヘルパーT細胞(Th2)で、それぞれ機能が違う。Th2細胞が出す物質であるインターロイキンIL−4という物質が、アレルギーの原因となる。

A君:アレルギーにも様々なものがあるのですが、典型的なT型アレルギーというものは、何か抗原が入ってくると、抗原提示細胞によって、ヘルパーT細胞(Th2)に情報が渡されると、Th2はIL−4なる物質を出します。これがB細胞を刺激して、アレルギーの原因となる抗体である、IgEという免疫グロブリンが出るのです。

B君:IgEという免疫グロブリンは、もともとは、回虫などの寄生虫に対応するために存在していたと言われている。ところが回虫がいなくなってしまって、自分の体に対して作用するようになってしまったということ。要するに、アレルギーは、藤田紘一郎先生の言のように、清潔が起こした病気とも言える。

A君:もしも、ヒトが感染症などに掛かるような状況、すなわち、細菌をある程度受け入れている状況だと、Th1細胞の方がTh2細胞よりも多いので、抗原が入ってきたときに、抗原提示細胞が情報をTh1に示す確率が高くなり、その結果放出される物質は、B細胞に作用してIgEを出さないようにするため、アレルギーが出ないのです。だから、細菌にかなり親しんでいる状態だと、Th1がTh2よりも数が多くなって、その結果、アレルギー体質ではなくなります。余りにも清潔になって、雑菌が口に入らない状況だと、Th1がTh2よりも少なくなって、アレルギーになる。要するに、藤田先生の「清潔は病気だ」、が成立するわけ。

C先生:大体終わったかな。アレルギーの話まで来たから。後は、ガンの話あたりをちょっとやって終わろう。

A君:ガンを攻撃する免疫細胞は、キラーT細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージです。これらの細胞の活力が高ければ、ガンにはなりにくいのです。

B君:そのような細胞の活力を高めるには、特異療法というものと非特異療法があって、特異療法とは、ガン抗原を投与して免疫系や抗体を刺激しようというもの、非特異療法とは、生体の免疫を全般的に高めるような物質を投与するもの。

A君:非特異療法としては、細菌由来のものや、植物の多糖類などを与えるもので、レンチナンという多糖類は、”しいたけ”に含まれているらしいです。

B君:栄養状態が免疫系に大きな影響を与えるのは事実のようで、栄養状態が悪くなると、補体と呼ばれる成分が消えて、第一次防御が弱くなる。そして、T細胞も減ってくる。一方、栄養が良過ぎると、免疫が過剰反応をするようになってくる。だから、アレルギーに対処するには、ある程度栄養を抑えた方が良い。

A君:その他、食品微生物も重要で、ビフィズス菌や乳酸菌といった腸内微生物の一部は、免疫を強化する作用があるようです。特に、アレルギー体質を改善する可能性があります。

B君:そして、免疫システムの最大の敵、それが実はストレス。ストレスのシグナルが神経系だけではなくて、免疫系にも働き掛けているということが分かりつつある。逆に、免疫系から出る物質は、神経系にも作用することが知られている。ということで、免疫系と神経系はそれぞれお互いに相互作用をしていると考えられる。

C先生:大体、ここまでの知識で免疫力をつけるということの意味が分かったようだ。いずれにしても、免疫システムをバランスよく保つこと、これが免疫力の実体だ。免疫過剰な状態になれば、アレルギーになるだけだし、低反応な状態になれば、ガンや感染症の餌食になる。

A君:となると、まず、適切な栄養を取ること、それにはバランスのよい食事をすること。有用菌類を取ること。ある種のキノコなどは良いかもしれないこと。といった程度。

B君:ストレスを軽減することを心がけること。体力を消耗しすぎないこと。睡眠をとること。

C先生:というような生活をすることが、恐らく免疫を強化するということなのだろう。しかし、ちょっと考えれば、何も特別なことは不要で、「極めて普通のことをすれば良い」ということでもある。


免疫用語辞典:
抗原:細菌、ウィルス、空気中の塵、花粉、食物などの外部からの侵入者
抗体:病原菌などの侵入者を攻撃するタンパク質
リンパ球:
獲得免疫系:侵入者に対して特別に作用する免疫で、抗体、T細胞などが機能。
自然免疫系:警察のような常設の機能で、物質や白血球が対応。
T細胞:Tは胸腺の頭文字をとったもの。キラーT細胞、炎症性T細胞(Th1)、ヘルパーT細胞(Th2)などがある。
B細胞:最終的に抗体を作る細胞。
免疫グロブリン:抗体のこと。Igで表記され、IgGなど様々な種類がある。
抗原提示細胞:抗原の情報を獲得して、その情報をT細胞に渡す。
マクロファージ:貪食細胞とも呼ばれる、体内の掃除屋。
胸腺:心臓の上の部分にある。老化すると、機能を失う。
インターロイキン:細胞の出す物質の一種。


第2部: E秘書質問編

E秘書:質問があるのですが。「免疫」という言葉で思い出すのは、母乳です。「産まれた赤ちゃんに最初にあげる初乳には、母親が獲得した免疫情報が沢山含まれているので大事」というようなことを聞きますよね。

A君:それは、多分ですが、初乳には抗菌作用、整腸作用などをもったラクトフェリンなどたんぱくが含まれているということでしょう。だとすると、これは非特異型で何にでも対応しますから、母親が獲得した免疫情報ではないことになります。母親が備えている免疫システムが作るIgAなどの抗体が初乳に含まれていたとしても、初乳は消化管に入るのですね。消化管は体外ですから、腸管表面で多少利くにしても、本格的に利くには、そこからなんとかして血液中に移行しなければならないので、本当に効くのかどうか。なにせ、IgAは分子量39万という非常に大きな分子なので、腸の粘膜を通過するのでしょうか。

E秘書:その話は、飲むコラーゲンが利かないのと似た話のようですね。

A君:コラーゲンは皮膚に入らなければ何にもならない。しかし、腸管からはコラーゲンは吸収できません。となると、どうせ分解されてしまうので、利くとは思えないのです。

E秘書:最近では、乳牛に免疫情報を与えてつくった「免疫ミルク」というものが体質改善のための健康食品として売り出されていますよ。

A君:それはなんですか。

E秘書:こんな記述を見つけました。

腸内より得られた人に感染する26種の細菌を加熱により無害化し、ワクチンとして乳牛に継続的に接種することで乳牛の体内にこれら26種の細菌に対する特異抗体を産生させる。このように免疫した乳牛より得られた牛乳を「免疫ミルク」と呼ぶ。「免疫ミルク」には炎症を抑制させる因子をはじめ、様々な生理活性物質を豊富に含んでいる」。

A君:これは怪しいように思います。抗体を腸から吸収できるとは思えない。まあ腸壁に付いているだけでも、多少の効き目はあるかもしれませんが。

E秘書:もうひとつ思い出したのはエイズ(AIDS)です。あれも「ヒト免疫不全症候群」でしたね。

A君:エイズウィルスは、ヘルパーT細胞に取り付いて、その機能を破壊するようです。T細胞が免疫システムを動作させるかどうかの判定をする訳ですから、その機能が破壊されると免疫システム全体が駄目になります。

E秘書:花粉症の季節になると、体内の受容体を花粉が来る前に塞いでしまう薬品のCMなどが流れますが、これは獲得免疫系の話だったのでしょうか。

A君:あのシャンパンのコルク栓のような形は、どうもIgEを表現しているような気がします。だとすると、IgEはマスト細胞上のレセプターと結合しますから、あのなんとかブロックという薬が先回りするのは、マスト細胞のレセプターではないかと想像しているのですが。これが本当だとすると、獲得免疫系の話だということになりますね。

E秘書:難しいですが、多少分かった気になりました。


第3部  がんと栄養 (「今週の環境」にも掲載)

 10月26日にベイエリアの科学未来館で行われた科学ジャーナリスト会議でお会いした、東北大学講師の坪野先生の「がんと栄養」サイトのご紹介。http://www.metamedica.com/

 どうやら、食物などでがんが抑えられるという話の大部分が証拠が無いようだ。

 例えば、食物繊維、カロチン、くだもの、野菜、緑茶、カテキン、このような食物が活性酸素の発生を抑え、発ガンを防止するというようなテレビ報道・雑誌報道が多いのだが、どうやら根拠がないようだ。

 これらの記事の中で、特に興味を引いたのが、「がんはどこまで予防できるか」というもので、喫煙者と非喫煙者とに分けたデータが示されており、喫煙者は、たばこを止めれば60%の予防ができるが、非喫煙者の場合だと、感染症(肝炎、ピロリ菌など)に掛からないようにすれば5%、アルコール、日光、大気汚染、職業的要因、運動不足がそれぞれ1%ずつ、そして、肥満が10%。そして食生活が10〜30%ということ。すなわち、何をやっても、半分程度は予防不可能。

C先生:がんにならない秘密の方法などは無いようだ。となると、どうやら色々なものを食べて、太らないようにして、運動を適当にやるといったことしかないようだ。