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IT革命と環境 10.22.2000




 2000年10月19、20日に、国連大学のゼロエミッションフォーラム2000が開催され、今後のゼロエミッションについて議論が行われた。ゼロエミッションという言葉は、個人的には、20世紀の遺物のように思えるので、21世紀に連れていきたくない言葉である。普段から、「ゼロは無限に通じる。ゼロエミッションは恐らく無限のエネルギー消費を伴う」、と主張しているからである。21世紀は、「(トータル)リスクミニマム」を標語とすべきだというのが個人的考えだからである。
 それはそれとして、このゼロエミッションフォーラムから依頼されて、「ITのハードウェアの環境的問題点」という講演を行い、その後、パネルディスカッションを行った。そこで、その概要について、議論をしてみたい。


C先生:IT産業を支援することによって、米国がそうであったように、日本における産業振興をこれに求めようという動きになってきている。ITが何でも解決しそうな言い方までされているが、やや批判的にこれを眺める必要があるだろう。そこで、担当したテーマは、「ITハードウェアの環境的問題点」だった。

A君:しばらく欠席しました。本当は、電機屋としては、今日も休みにしたかった。

B君:攻撃対象になるのに、良く出てきたな。

A君:まあ、そんなにひどいことにはならないと読んで。

C先生:ITのハードウェアを製造するにあたって、どのような環境上の問題点があり得るかといった問題を述べたが、その概要をざっとまとめよう。
 問題にしたのは、
(1)半導体プロセスがエネルギー多消費であること。
(2)温暖化ガスである、HFC、PFCなどの消費が無視できないぐらいの量であること。
(3)待ち受け電力などがやはり無駄であること。
(4)液晶ディスプレイは省エネルギーであると言われているが、本当か。
(5)これまで使用されていない元素や化合物が多少心配であること。
などで、これらについて若干述べた。

B君:半導体プロセスというのは相当エネルギー多消費なのか、それとも、クリーンルームがエネルギー多消費なのか、本当はどっち?

A君:どうやら、クリーンルームのようですよ。全消費電力の2/3がクリーンルームによるものということですから。

C先生:データが余りきちんとしたものが見つからない。ちゃんと責任あるデータを業界として出して欲しいと思うところだが、非常に荒っぽい言い方をすると、1平方センチのLSIを製造するのに、大体1kWhの電気を使っているらしい。

A君:最近のLSIは、メモリーなどだとすごく薄い。0.2グラムあたり1kWhの電気ということは電気大食いの金属で知られるアルミニウムの3桁上では無いですか。鉄あたりだと4桁違うかもしれない。

B君:鉄が4桁違うとすると、LSIとしてのシリコンを1グラム含むパソコンが有ったとして、それが鉄を5kg+プラスチック1kg使っていたとしたら、大体、LSIのための製造エネルギーが、その他の材料の製造エネルギーに匹敵するということになる。それは非常に大きい。

C先生:実際そうなんだが、ただ、数kWhという消費電力の絶対値を考えると、余り大したものではない。エアコンを10時間動かす程度だから。パソコンの消費電力を100Wとすると、数10時間。パソコンのライフサイクルエネルギーと比較すると、まあ「ほんのちょっと」という感じ。

A君:やはり、ライフサイクル全体で見ると、電機製品の場合には、使用時のエネルギー消費が大きいですね。

C先生:だから、消費電力が少ない液晶ディスプレイは、CRTを使っている場合と比べれば、ライフサイクル全体で見れば当然省エネルギーだと思っていたが、液晶にもTFTという半導体が付いているので、もしもそのプロセスが他のLSIと同様だとすると、1万時間ぐらい使わないと、ということになるかもしれない。このあたりも、メーカーからの正式な発表が欲しいところだ。

B君:次が温暖化ガスであるHFC、PFC、SF6といったフロン類の使用量。

C先生:これも詳しいことは分からないのだが、シリコンプロセスのエッチングといった目的で使用されていて、恐らくその大部分は処理されないで排出されている。その温暖化効果は、半導体を製造している電機企業だと、すべての二酸化炭素の排出量にほぼ匹敵する温暖化ガスをHFC、PFCなどで放出しているのではないか、という推論ができる。

B君:ちょっと調べてみたら、キャノンは、1999年には、HFC、PFCなどの排出量を大幅に減らしている(1/3ぐらいに減少)のだが、それ以前には、温暖化という観点からみれば二酸化炭素排出とこれらのガスによる寄与はほぼ同じぐらい。とはいえ、現在でも全くゼロになった訳ではなく、いまだに半導体プロセスに関するところは使用中。

A君:法律的な規制が無いから、処理装置を付けようということにならないのですよ。それ自身は人体には無害だし。

C先生:製造時の消費電力についても、フロン類の放出にしても、罰則規定が有るわけではない。コスト的には、消費電力のコストといっても、実はそんなに大したことが無い。ということになると、製造プロセス一式が高いもので、そちらにばかり気が行って、ランニングコストはどうも無視されているのではないかという気がする。だから、国として、なんらかの規制を掛ける必要があって、温暖化対策というよりも、二酸化炭素排出量の削減に関する見通しを付けておく必要がある。

A君:しかし、使用時の消費電力がやはり全体のエネルギー消費を決めている。

C先生:そういうことになる。今年のはじめのころに掲載した記事に(情報技術は新環境技術か new01.23.2000)、1000文字のデータを他人に送るのに要するエネルギーの比較というものをやっているが、最悪なのは、待機電力を無駄に使うFAX。すなわち、ほとんど受信しないFAXが悪い。デスクトップパソコンもそんなに良くない。勿論最良なのは、携帯電話で送ること。消費電力が1W以下だから。しかし、1000文字を携帯電話で送るのは、作文が大変だろうが。

A君:ということでモバイルの勧めということになる訳ですね。

C先生:そうなんだが、モバイルの本当の問題点は、電池だろう。電池という電気化学的なデバイスは、半導体で回路を設計するよりも実際のところもっと難しい。現存するものよりも画期的に良い電池を作ることは、そう簡単ではない。

B君:そして、ITには様々な新しい元素や化合物が使われる。余り大量にならなければ、問題は無いのだが、普及率が予想よりも大幅に上がると、何か問題がでないか、常に考えておく必要があるということ。

C先生:そうだ。このところ急激に伸びているものがやはり怖い可能性がある。例えば、携帯電話。これには、GaAsが半導体デバイスとして使われている。GaAsなら、食べても大丈夫だが、これが焼却されると猛毒のAs2O3になる。もっとも現在のところ、携帯電話は、かなり含まれている金、銀、パラジウムなどのために、リサイクルする価値があって、そのために焼却などの処理も貴金属精錬業が行っているようなので、都市部には問題は出ないだろう。

A君:最近伸びているのが、CD−Rですね。これまで、バックアップデバイスとしては、MOとかZIPとか、いろいろ言われてきましたが、現在ならCD−Rが便利。これには、色素が使われていますが、大丈夫なんでしょうね。

B君:さらに最近では、CD−R/Wがかなり普及した。この記録膜には、Teを含む合金が使用されている。Teは一応毒物だと認識すべきだ。現在程度の普及度なら問題は無いが、やたらと使用されるようになると、要注意。

C先生:電機企業は、鉛を含まないハンダを使うことによってイメージアップを狙っているが、どうも「めくらまし」なのではないか、と思われる節もある。鉛も有毒は有毒だが、ハンダ中の鉛が口に入る可能性はかなり低い。生態系などを考えて、あるいは、数1000年後への影響を考えて、鉛を無くしておこうという高尚な志ならば、ご立派なものだが。ところが、鉛の変わりに銀をかなり含むものだから、その資源枯渇という別の問題を抱えている。だから、そんなに長くは使い続けることができない材料だと思う。

A君:先日、デンマーク工科大学でのHauschildとの会話でも、鉛削減の環境面での効果は、「Marginal」ということだったようですね。

C先生:というような形で、講演の部は終わって、パネルディスカッションになった。参加者は、講演を行った山本良一、三橋規宏の両氏に加え、NTT生活科学研究所の山田氏が、追加発表を行ったのだが、その中で、「NTTグループの使用電力は、1990年で2010年にはほぼ3倍になる」(「すでに3倍」と当日は聞こえたのですが、そうではないとのご指摘がNTT関係者以外の方からいただきましたので訂正します)、というのを聞いて、モバイルの勧めが間違っていたのでは無いかと思ってしまった。恐らく、大量の携帯電話を裏で支えているシステムが大電力を消費しているのだろう。すなわち、かなりの無線出力を必要とする相当な回線数維持することが大変なのだろう。夜の六本木など、携帯が話し中になるということが多いが、それだけの需要は明け方から朝には無い訳で、無駄なFAXと同様に待ち受け状態になっているのではないだろうか。

A君:やはり儲かっている会社は違う。電力消費量が3倍になるなら、売り上げは恐らく6倍?

C先生:山田さんの話でもう一つ気になったのが、電話帳の話。紙を15万トンも使っていて、日本全体の紙使用量の0.5%相当である。これをCD−ROM化することによって、資源の削減になるという話。確かに、その通りなのだが、IT革命の場合にも、本来、全く同様の発想が必要不可欠で、携帯電話が普及したら、別の何かを切らないと、やはり全体としては増加傾向になるに決まっている。しかも、普及率が相当高いとなると、ますます無限スパイラルに落ち込むことになる。何を切るか、ということは発表しにくいのだろう、全くそんな観点の話は無かった。

B君:IT革命などと言うが、結局のところは、人減らしの効果だ。人を切るのだ。これまでの職業が不必要になり、新しい職業が出てくるということ。だから、人という観点から見れば、「安住の地は無いぞ」、という革命なんだ。良いところばかりではない。社会を不安定にする可能性がある。

A君:携帯電話を作っている我が社などは、全くといって良いほど儲からない。携帯の価格などほとんどゼロだから。その割にはモデルチェンジが頻繁で、担当者は大変。忙しいから人も切れないし。

C先生:とかく良くある話といことになるが、バイオテクノロジーのときにもそんなことが有ったが、IT革命の場合にも、無条件に良いとすることは危険だ。本当に必要な便利さとは何か、それが無限スパイラルに落ち込むような種類の便利さでは無いのか、などといった摂理ある見方ができることが重要だ。

B君:それはそうだが、現在のこの日本という国の政策は、景気が回復するのならば何をやっても良い、というレベルまで落ちた。むしろ、現在程度の低空飛行をいかに長期的に継続しながら、精神的満足感を得るにはどうすべきか、といった方向にチェンジをする良いチャンスだと思うが。

A君:それは大学のようなところに職がある人の言い分で、企業人としては、とても認めがたい。

C先生:経済成長率がたとえ2%以下であったとしても、100年立つと2倍以上になっている。物質を動かしてこの経済成長を果たそうとしたら、動かす物質量は2倍になってしまう。これはやはり破滅への道だろう。そこで、IT革命というのは、脱物質化を行って、情報のような無形のもので金を儲けようという発想なんだが、NTTのエネルギー使用量からも分かるように、全く無形でという訳にはいかない。やはり実体が伴う。

B君:というと、技術万能主義者は、一電子デバイスなどができれば、消費エネルギーがほとんどゼロになると言う。

A君:それは境界条件を広くとれば、多分正しく無い。例えば無線を使って通信をしようとすれば、どうしてもある程度以上のパワーが必要。恐らく、あるデバイスは非常なる省電力型になるが、それを支えるシステム全体のどこかの部分に、かなり大電力消費を伴うような状況になるのではないでしょうか。

C先生:まあ多分そんなところだろう。IT革命に伴う省エネルギーにしても省資源にしても、もっとストイックに、何かをスパッと諦めるという覚悟が必要だと思うね。