ミツカン酢のガラス瓶   12.05.99

 


 朝日新聞(大分前、さて?)、中日新聞(H11/11/20)などで取り上げられたように、ミツカン酢のガラス瓶が、これまでのリターナブル瓶からワンウェイ瓶に変更になる。この一見「環境調和性」に逆行するような決定に、実は、当研究室はかなり深く関与した。すでに数年前のことだが、ガラス瓶の製造・運用に関わる環境負荷が計算できるソフトウェアを、日本LCA研究会との共同でデータを集め(実際には、東洋ガラス、山村ガラス、キリンビール、などからのデータ提供)、そしてVisualBasicでプログラムを作ったのは、C先生自身。このプログラムは、ビール瓶専用だったが、これでキリンの軽量瓶(605g→475g)による環境負荷の軽減なども検討してもらった。その後、ガラス瓶汎用に変更されたプログラムが中埜酢店(ミツカン酢)によって使用され、そのデータが基礎になって、環境負荷を軽減するために、リターナブル瓶がワンウェイ瓶に変えられることになったのだ。
 ここでは、もっと具体的にどのような検討手法が取られたのか、どのぐらいの環境負荷の低減になっているのか、といったデータを提示してみたい。なぜならば、新聞報道では、このような事実にほとんど触れられていないからである。勿論、より科学的な記述に変更し、論文としても投稿予定である。


C先生:ミツカン酢のリターナブル瓶が、ワンウェイ瓶に変更されることになった。この変更にあたっては、ライフサイクルアセスメント的な検討法が採用され、ミツカン社内で相当に慎重な議論が行われた様だ。そして結論は、これまでの伝統的な青色のリターナブル瓶からカレットレベルのリサイクルに適した無色のワンウェイ瓶に変更することになった。その詳細をこれから説明してみたい。

A君:ミツカンの500ml、900mlの食酢瓶がリターナブルだということは知りませんでした。

C先生:私も最初聞いて驚いた。しかし、確かに再利用はされているが、本当にリターナブル仕様を満足しているか、と言われると、ちょっと疑問なんだ。現状のように程度の良い瓶だけを選択して使用するということが可能な瓶の強度しかないようで、回収されたほとんどすべての瓶が再利用可能という本格的リターナブル瓶の条件を満たすには、もう少々頑丈に作る必要がある。現在の瓶の重量は230gなのだが、340gぐらいの瓶にすれば、そんな条件を満たすことになる。

B君:実際に再利用されているということですが、どのぐらい回収されていたんですか。

C先生:回収率は約10%ということ。すなわち、約1.11回の使用ということ。現状の瓶だと、程度が良いものを選んで使うということもあるし、大体、リターナブルであるということが広く認知されている訳ではないから、そんなに回収がなされる訳でも無い。積極的に回収するのも名古屋、大阪近辺に限られていたようだ。さらに、リターナブルという点で不利なのは、ミツカンが全国ブランドだということ。もしも本格的に回収しようとすると、全国から集めなければならないから。

A君:ビールがリターナブル瓶を継続できるのは、全国ブランドでありながら、流通量が非常に多いからでは無いですか。

B君:そりゃそうだ。瓶を集めるために酒屋を回ったときに、1ヶ所で10本しか集まらないような状況だったら、輸送のためのエネルギー消費と環境負荷が猛烈になってしまう。

C先生:そんな観点が重要だ。食酢が各家庭に複数本あるとは思えない。冷蔵庫などに入っている食酢は、まあ1本。下手をすると1年間入りっぱなし。こんな特性の食酢だから、そもそもその瓶をリターナブルにするには無理がある。昔は、すし酢、ポン酢なんていう製品は無かったじゃないか。だから、食酢を使って台所で作った。マヨネーズを作ることも有ったろう。しかし、最近では食酢が使われるのは、酢の物、餃子用、やきそばに掛ける、などといった用途に限られるのではないだろうか。とにかく使用量が減った。となるとリターナブルが成立しにくくなる。

A君:となると、食酢の瓶のリターナブルを止めるのは当然と言えるのでは。

C先生:短絡しないように。一応、リターナブルが成立すると仮定して環境負荷を算出するのが科学。そこで、モデルとして、次の5種類。(1)現状:230gで1.11回使用、(2)軽量ワンウェイ:190g、(3)本格リターナブル:340g、1.11回使用、(4)同:2回使用、(5)同:3回使用。
 その結果を以下の何枚かの図に示す。 


A君:確かに、現状よりも軽量ワンウェイの方が環境負荷が低いですね。

C先生:ここで示したものは全部ではないが、すべての項目に渡って環境負荷が低い。特筆すべきは、廃ガラスの量まで少なくなっているから、当然ながら自治体が処理に使用しているであろう社会コストも低下しているだろう。恐らく公共下水道に放出される負荷も下がっている。排水、すなわち、水使用量も下がっているから、ときどき水不足になる中京地区にとってもメリットは大きいはず。

B君:まとめると、こんな感じですかね。
 現状瓶:環境負荷:中、社会コスト:中、しかし名前は、一応「リターナブル」
 改良瓶:環境負荷:小、社会コスト:小、しかし名前は、「ワンウェイ」
 そして、「実質」を取るのか、「名前」を取るのか。当然実質を取るべきだ。
 
A君:ちょっと待ってください。中日新聞の記事には、コメントが2つ載っています。
 「リターナブルびんを見直しペットボトルをやめめさせる会」の羽賀育子代表は、「ワンウエー瓶は税金で回収処理され、企業にとっては自社回収よりも利益が大きい。ミツカンの方針転換をきっかけにワンウエーがさらに増える危険がある」。
 通産省生活産業局生活用品課は、「循環型社会の構築を目指す中でリユース(再利用)のシステムがなくならないよう、リユース容器は現状維持が望ましい」。

 この2つのコメントですが、どうですかね。

C先生:両方とも「実質よりも」、「名前」が重要だと言っている。ところで、中日新聞の記者の境田未緒さんは、LCAデータをどこまで示してコメントを求めたのだろうか。それがまず問題だ。それが行われなかった可能性も考えて議論すべきだろうな。
 
B君:確かに。羽賀さんは全く事実誤認。今回のミツカンの場合には、ワンウェイ化によって社会コストも下がっている。また、ワンウェイガラス瓶はこれ以上増えようが無い。PETに変わる方向。リターナブルが成立するのは、やはりビール、牛乳ぐらい。ビール瓶の割合は減る可能性が高いでしょう。でも牛乳は復活するのではないだろうか。

C先生:通産省のもなんだかボケたコメントだな。「循環型経済社会の構築を目指す」と言うが、それは単なる「手段」にすぎない。その手段を採用するのはなんらかの「理由」すなわち「目的」が有るからだ。その真の目的とは「環境負荷を下げること」。今回のミツカンの場合は、いわば「環境負荷を下げつつ、企業としての収益性をも確保する」こと。これが本来の国の大方針・大目的でもあるべきなのだ。繰り返すが、「循環型経済社会の実現」は手段であって目的ではないのだ。

B君:環境保護団体は、しばしば「手段と目的を混同する」ことがある。「リターナブル瓶を見直しペットボトルをやめさせる会」という名称そのものが、それを示しているのではないか。

A君:なるほど。環境負荷を下げること、社会コストを下げることが、本来の環境保護の目的であるはずなのに、その一つ手前の「手段が目的化」してしまっている、ということですね。

C先生:そう言うことだ。最後にリターナブルの理想形を議論してみようか。
 
A君:まず、条件があると思うのですよ。瓶の存在密度と中味の充填工場の分布。ミツカンのように全国ブランドではかなり難しい。どうしてもやりたい、となれば、それは共通瓶にするしかない。

C先生:リターナブル瓶の研究も相当進んでいるようだ。500mlで195gという超軽量リターナブル瓶があるらしい。表面をウレタンコートすることで傷が付かないようにしている。こんな軽量リターナブル瓶が共通瓶になって、ほとんどすべての液体の食材容器に使われるようになれば、確かにそれは一つの理想形。

B君:全国共通瓶というものを推進するとしたら、それは、自治体、消費者団体などが協力する必要ありだ。取り敢えず、生協が主体になるのが良いかもしれない。

A君:共通瓶以外でリターナブルをやろうとしたら、瓶の存在密度を高くするために、限定した地域内でやることでしょう。地域限定となると新鮮さが要求されるようなものが良いことになって、牛乳などが候補ということでしょうか。日本酒、焼酎、地ビールなどの酒類も有りうるでしょうか。

C先生:まあ、そうだろう。しかし、極限の瓶のリユースは、相当昔のことになるが酒屋さんがやっていた量り売りだな。これを今の店舗でやるのだ。現在の自動販売機の技術を使えば、お酢とか、醤油のディスペンサーとかが簡単にできそうに思える。消費者が自分で洗った瓶を持ち込んで、中身だけ買ってくる。容器を持っていない人のために、空瓶の自動販売機もある、といった形。

B君:でもそうなると、容器はPETになりませんかね。

C先生:PETは中味の臭いが残るから、色々な種類を入れるならやはりガラスだろう。

A君:ドイツなどでは、自分のカップを持って行くと、コーヒーを注いでくれる自動販売機が大学などにはあるようですが、そんなものも欲しいところですね。