________________

遺伝子組み換え表示その4  08.12.99 08.13追加






 各紙8月11日の朝刊によれば、遺伝子組み換え食品の表示問題を検討している食品表示問題懇談会遺伝子組み換え食品部会は、先日もめた表示案を多少変更したものを了承したようだ。変更点は、主として2点。
(1)28品目が30品目に。高オレイン酸大豆と「コーングリッツを主な原材料とする食品」が追加された。
(2)米・小麦など、現時点で遺伝子組み換え作物が流通していない穀物類を原料とする場合には、「遺伝子組み換え不使用」という表示は不適切とした。
 以下、遺伝子組み換え食品について、多少拡大された議論を行って、当面の結論としたい。この問題は、科学・技術のあり方、人類の生き方そのものにかかわる非常に重要な検討課題なので、今後とも問題意識をもちつづけることになりそうである。

C先生:遺伝子組み換え問題は、単に今回のような比較的単純な食品への使用といった問題だけではなくて、掘り下げていくと、人類の生存とは何か、個人とヒトとの関係は何か、遺伝子そのものに意思はあるのか、地球上に生物が存在するという意味は何か、などといった生命倫理にかかわって来る。これはなかなか重たい問題で、個人的には、「臓器移植は、自分では受けたくない」と思っているが、他人に対しても、そう言えるのか、と言った問題とも密接な関連をもつように思える。
 しかし、そこまで踏み込むと、なかなか元に戻れなくなる危険性が高いので、できるだけ「浅く」取り扱いたい。
 ということで、遺伝子組み換え食品について、その問題となる点をできるだけ環境問題に限って整理して見よう。

A君:とは言っても、なかなか「限れない」のがこの問題ですね。
(1)現時点での消費者の安全性
(2)遺伝子組み換え作物が、食糧不足を解決する手法か
(3)遺伝子組み換え作物が在来種を滅ぼすことは無いのか
(4)遺伝子組み換え作物によって、農薬の使用量は減らせるか
(5)耐性植物や、耐性昆虫が発生することは無いのか
(6)遺伝子組み換え作物によって、昆虫などに負の影響はでないのか
(7)抗生物質と耐性菌との競争のように、無限のスパイラルにならないか
(8)遺伝子という観点からみた生態系の価値と反することはないか
(9)非常に長期的にみて、ヒトに悪影響を及ぼす可能性は無いのか
というような形に整理してみましたが、(8)になりますと、もはや環境問題の枠組みを超しているとも言えそうです。B君、ご意見をどうぞ。

B君:うーん。うーん。「すぱっ」とは切れないな。
(1)の直接的健康影響だが、それほど重大な危険が予測されないこと、これはまあ確実だろう。有ってもアレルギーぐらいか。アレルギーは、全員にということは無いから、だから駄目とはなかなか言いにくい。なぜならば、現状であっても、そばアレルギー、米アレルギー、なんでも有りで、対象物質はどんどん増えている。しかも、その主たる原因が、ヒト側の変化にあるという主張を本HPではしている訳だし。今年の記事だと環境と健康、そして日本の将来 new06.14 が該当。昨年の記事だと、ディーゼルの排ガス規制強化 new12.21。こちらは、例によって、表紙にのみリンクを張ります。
(2)の地球レベルの食糧不足の解決だが、現時点ではNOだろう。光合成効率の改善といった遺伝子組み換えはなかなか難しいらしい。現時点では、農業の省力化が目的の遺伝子組み換え作物ばかり。だから、誰かがこの(2)を主張したら、それは現状では嘘だと言おう。
(3)の在来種への影響だが、これも、光合成効率が非常に高い植物ができたとすると、在来種は成長速度で負けそう。生態系に組み換え植物が入り込むと、在来種は日陰にされて消滅しそうな気がする。
(4)の農薬の使用量は減らせるか。これは現状YESだろう。これまで数回撒いていた除草剤や殺虫剤が1回になるということらしいから。でも、将来ともそうかどうか、これは分からない。
(5)がそれだ。すでに、除草剤グリフォサート(商品名ラウンドアップ)に耐性を持った植物が出始めているらしい。ただし、これが、耐性遺伝子が大豆から雑草に移動したためなのかどうか、不明(と書いたが、どうもラウンドアップレディー型のなたねについて中国のケースでは、DNA鑑定の結果、遺伝子の自然への漏れ出しが証明されたらしい)。「通常の農薬の方が、害が分かっているからましだ」、という考え方にどちらかと言えば同調する。
(6)の目的外の昆虫への被害だが、普通の殺虫剤が非選択的であることに比べれば、まあ少ないと言えるだろう。Bt遺伝子を組み込んだ殺虫トウモロコシが、蝶の幼虫を殺したとして問題になっているのだが、組み換え作物を売っている会社側としては、「通常の農薬だったら、もっと死にますよ」、だろうな。
(7)このあたりから、問題が難しくなってくる。すでに耐性植物が出始めているとすると、泥沼的スパイラルに落ち込む可能性は皆無ではないなあ。
(8)これはパス
(9)これもパス

A君:なるほど。(8)、(9)はパスですか。究極の選択を迫られたとして、何をもって、遺伝子組み換えを拒否できるか、と考えたのが、実は(8)、(9)なんですけどね。

C先生:なかなか考えているようだな。遺伝子組み換えも、農作物はまだしも、ヒトの遺伝子組み換え問題などとなってくると、さらに倫理的側面が重要になってくる。昨日終わったNHKスペシャルの主題でもあったようだが、自分の子供の遺伝子を自在に組み換えることができるような時代(さていつの日か? 21世紀末頃か)になると、受精したばかりの胚を対象として遺伝子をいろいろと組み換えてデザインした子供ができるようになる。遺伝病、例えばハンチントン舞踏病や、鎌形赤血球貧血などといった病気は、当然のことながら絶滅する。ここまでは、良いと言えても、それから先はどうだ。例えば、外見も変えられる、知能指数も自在になる、などとなったらどうなんだ。その夫婦の子供なのか。
  多くの人の意見としては、「これは、議論をもっとやろう。そして、あるところまででストップを掛けるか、今から多少進展を遅らせるのが良い」と考えるのが普通だろう。そのときにために何か屁理屈でもよいから準備しようというのが、遺伝子組み換え作物については、(8)、(9)だったという訳だな。

A君:まあ、そんなところです。少々誤解があるといけないので、追加しますと、ハンチントン舞踏病や鎌形赤血球貧血などの診断を、妊娠中に羊水をチェック(当然遺伝子解析)して行い、診断結果によって妊娠中絶をするという方法論なら、今でも可能です。

B君:そうことなら(8)に関してだが、一応、パス解除。
 昨日のNHKスペシャルでは、鎌形赤血球を作る遺伝子が出現した理由というのが、マラリアに対する抵抗力を高めるためだった。すなわち、ヒトとしての生存戦略の一つだったという話だ。やはり単一生態系は抵抗力が弱い、これは真実なのだろう。多様性、多重性、冗長性、などといった言葉が、システムの安定性を増すためのキーワードだとしたら、やはり、これは生態系にとっても貴重品なのだろう。特定の価値観によって、遺伝子を操作すると、生態系の多様性、多重性、冗長性が失われるだろう。遺伝子組み換え作物も、特定の価値観によって遺伝子を操作したものではないだろうか。

C先生:さて、皆様のご意見は? 「遺伝子組み換え」の可否を本当に考えなければならないのは、食品(植物)よりも動物、動物の中でもヒトです。そして、この延長線上にある究極の問題が、「クローン人間を作ることは善か悪か」、「もし悪だとしたら、それはなぜか」といった議論があるように思います。
 こんな理解をするきっかけが、今回の「遺伝子組み換え表示」でできれば、それは「良かった」ということになるのでしょう。


参考資料:

遺伝子組み換え作物の栽培面積(平方キロ) 1996〜98年

国名 1996 1997 1998
アメリカ
15,000
81,000
205,000
アルゼンチン
1,000
14,000
43,000
カナダ
1,000
13,000
28,000
オーストラリア
1,000
1,000
1,000
メキシコ
1,000
1,000
1,000
スペイン
1,000
フランス
1,000
南アフリカ
1,000
合計
17,000
110,000
278,000

朝日新聞 8月10日朝刊
 農水省は10日、食品表示問題懇談会遺伝子組み換え食品部会を開き、遺伝子組み換え食品の最終的な表示案をまとめた。現状の科学的検査で組み換えしたかどうかを特定できる大豆、トウモロコシなどの関連30品目に限り、製造業者や輸入業者に「遺伝子組み換え」「遺伝子組み換え不分別」などの表示を義務づける。同省は来年4月、最終案に沿って「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づく品質表示基準を告示し、1年間の猶予期間を置いた後、実施する方針だ。
 同部会の最終報告によると、現在、政府が安全性を確認して国内での流通を認めている遺伝子組み換え農産物は、大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、菜種、綿、トマトの6作物ある。この関連食品の豆腐、みそ、コーンスナック菓子、生食用のジャガイモや、栄養素の組成が通常の大豆油と異なる高オレイン酸大豆油などが義務表示の対象になる。
 当初、同省が示していた原案では28品目が対象だったが、最終案で高オレイン酸大豆と「コーングリッツを主な原材料とする食品」が追加された。コーングリッツはトウモロコシの粉の一種で、クッキーやビスケットなどの原材料として使われる。
 最終報告はまた、米や小麦など、現時点では遺伝子組み換えされたものが存在していない農作物や、その関連食品については、「遺伝子組み換えではない」などと表示することを逆に「不適切」とした。商品を高く売るための方便に使われる恐れがあるためで、同省は違反した場合は罰則の対象とすることも検討している。
 表示が守られているかどうかのモニタリングについては、同省の消費技術センターや各自治体の食品分析センターなどで行うほか、同省は中小企業の支援策などを行う。


朝日新聞 8月11日朝刊
表示必要50社中16社 遺伝子組み換え食品で本社調査

 朝日新聞社は遺伝子組み換え食品の表示問題について、食品、流通などの主要企業50社を対象にアンケートした。組み換え食品を「販売していない」と答えた企業は7社だけで、「わからない」とした企業が6割の30社を占めた。原料に使う大豆やトウモロコシが遺伝子組み換えかどうか分別されずに流通していることが多いためで、メーカー、販売者とも、正確な実態を把握できていないことを示した。現在、商品に何も表示していない企業は40社あるが、農水省表示案によって、商品の一部でも表示が「必要になる」か「必要になりそう」な企業は16社にとどまり、現状の科学的検査で組み換えかどうかを特定できる品目に義務づけを絞った同省案が限定的なものであることを裏付けた。自主的に取り組むとした企業は一部だった。
 農水省案についての賛否は6割弱が答えず、「賛成」「どちらかといえば賛成」が15社、「反対」「どちらかといえば反対」が6社だった。
 遺伝子組み換え食品(農産物、外食メニュー、飼料を含む)を現在販売しているかとの問いには、日本ハム、カゴメ、三井製糖、ヤクルト本社、ポッカコーポレーション、フジッコ(煮豆)、タカノフーズ(納豆)の7社が「販売していない」と回答。一方、「販売している」は5社で、理由は「国が安全と認めている」「安全性に問題はない」など。一方、「わからない」とした30社の中には、「原料加工メーカーに問い合わせ中」など確認を急ぐ動きが見られた。
 現在の表示については、フジッコ、日本生協連合会、生活クラブ生協の3社が現在、遺伝子組み換え品不使用の表示をしているだけだった。生活クラブは、組み換え原材料の混入の可能性を示す「不分別」の表示もしている。
 農水省案と別に、今後どのような表示方針をとるかについては「国、行政に従う」が15社、無回答が15社、「表示を始める」が7社、「検討中」「表示しない」がともに5社だった。表示を始めると答えたのは結局、農水省案で義務対象にあがった豆腐の朝日食品工業、凍り豆腐の旭松食品、納豆のタカノフーズなどだった。朝日食品工業は、義務づけ予定の2001年4月までに全原料を遺伝子組み換えでない大豆に切り替える方針で、切り替えが済めば表示は見送るという。「表示を拡充する」と答えたのは生協2社だけだった。


<遺伝子組み換え>表示問題で米、日本の動きに神経とがらす
毎日新聞ニュース速報

 遺伝子組み換え食品の表示問題は、米国に全面的に食糧を依存する日本の構造問題を浮き彫りにした。米国は輸出市場での競争に勝ち抜くため、農産品の遺伝子組み換えに走っており、日本の動きに神経をとがらせている。
 日本は大豆とトウモロコシのほとんどを輸入に頼るが、輸入大豆の70%以上、トウモロコシでは90%以上が米国産だ。新潟大経済学部の小沢健二教授(アメリカ農業専攻)によれば、世界の貿易量のうち大豆とトウモロコシは米国産が70%以上を占める。
 米国は1996年の農業法改正で不足払い制度を廃止し、固定支払いに切り替えた。このため、生産者は一層のコストダウンを迫られ、反収アップと省力化を目指し、除草剤耐性や害虫抵抗性の高い遺伝子組み換え品種の作付けに積極的になったという。例えば、アワノメガを駆除する害虫抵抗性トウモロコシの導入によって農薬散布が大幅に減り、年間1200億円を節約できたといわれる。
 米国農業に詳しい農林中金総合研究所の蔦谷栄一基礎研究部長は、米国は除草剤などの農薬を減らすなど持続的農業に力を入れており、これも遺伝子組み換え作物を増やす理由になっていると指摘する。
 先月末に来日した米農務省のシディキ特別補佐官は「義務表示は貿易に大きな障害が出てくる」と懸念を表明したが、こうした内政干渉まがいの発言も、米国農業が遺伝子組み換えなしには成り立たなくなっているからだ。ただ、米国にとって日本は最大の顧客のひとつ。日本の食品業界は遺伝子組み換えとそうでないものとを「分別」流通する動きを強めており、その流れに合わせて分別して輸出するようになるのではないか、という見方もある。
 一方、国内でも遺伝子組み換え作物の研究開発は進められており、輸入頼りの需給構造と相まって今後も遺伝子組み換え問題は尾を引きそうだ。