________________

遺伝子組み替え食品と表示義務  08.04.99






 ここ2日間程度、夏休みモードに突入して、久しぶりに自由な時間があったもので、やらなければならないことをいくつか棚に上げて、本日は珍しく自分のオフィスで本HP用記事を書いてしまいました。普段は、新幹線乗車中とか土日休日の作業なのですが。ところで、これは本業なのだろうか?

  さて、朝日新聞の平成11年8月4日朝刊に、農水省の原案が決定されたという報道があった。それによれば、概略は次の通りである。

1.方法と対象:28品目に限って表示義務
●「遺伝子組み換え」と表示
   高オレイン酸大豆油、その製品
●使用の場合は、「遺伝子組み換え」、混入の可能性が有る場合は、「不分別」との表示を義務付け。不使用の場合は表示なしか、「遺伝子組み換えでない」と任意で表示。

2.28品目のリスト:
 豆腐、豆腐加工品(油揚げ、がんもどきなど)、凍り豆腐、おから、ゆば、調理用大豆、枝豆、大豆もやし、納豆、豆乳、みそ、煮豆、大豆缶詰、黄な粉、いり豆、コーンスナック菓子、生食用トウモロコシ、ポップコーン、冷凍トウモロコシ、以上を主原料とする食品、未加工ジャガイモ、大豆粉を主原料とする食品、植物たんぱくを主原料とする食品、コーンスターチを主原料とする食品、コーンフラワーを主原料とする食品

ただし、重量の5%以上で、重量の上位3品目までに入っている場合に限り、表示を義務付ける。

3.朝日新聞による批判は概略次の通り:
 農水省案は科学的検査で特定できる最終製品だけを対象としているが、これは問題だ。なぜならば、表示義務から外れた大豆油、しょうゆの原料としての使用料は、年間380万トンで、大豆全体の流通量の7割強を占める。量から見れば、表示が義務付けられる豆腐やみそ、納豆などの方が少数派である。
 現在、米国産大豆は昨年時点で作付けの約27%が遺伝子組み換えで、日本の米国産の輸入量は約390万トン。その大半は食用油の原料になっている。
 トウモロコシの場合も、最大の用途は飼料で、これは対象外。これを勘定に入れると、9割以上が対象外になる。
 欧州連合EUが、今年5月に害虫に強い組み換えトウモロコシの認可を凍結するなどとしたために、安全性に対する消費者の関心が一層高まっている。
 兵庫県が昨年5月にまとめた消費者調査では、回答者の79%が組み換え食品に「不安を感じる」と答え、95%が表示が「必要」と答えた。
 反面、農水省案は欧州連合(EU)の規制水準は確保している。EUも科学的な分析で特定できる食品だけに表示義務を課している。
 組み換え食品の輸出国である米国、カナダは、高オレイン酸大豆油のような栄養素や組成が通常品と違うものだけに表示を義務付けている。
 
4.今後の審議予定:
これはまだ案であって、4日に開催される食品表示問題懇談会の遺伝子組み換え食品部会で論議する。委員名簿は次の通りである。
食品表示問題懇談会遺伝子組換え食品部会委員
 粟飯原景昭  大妻女子大学教授
 荒井 伸也  サミット(株)代表取締役社長
 伊藤 康江  消費科学連合会事務局長        
 貝沼 圭二  生物系特定産業技術研究推進機構理事
 片桐 純平  日本生活協同組合連合会常務理事       
 金子 弘道  日経新聞社論説委員
 川原 秀雄  油糧輸出入協議会専務理事
 岸  ゆき  女優
 神村 義則  (社)日本植物油協会専務理事
 佐室 端穂  キリンビール(株)常務取締役
 鈴木 敦   日本たばこ(株)取締役 
 高田 卯基  カゴメ(株)常務取締役社会対応室長
 高野 博   全国農業協同組合中央会常務理事
 田中 里子  東京都地域婦人団体連盟参与         
 知久 雅行  日本醤油協会専務理事
 長良 恭行  (財)食品産業センター専務理事
 原田 宏   筑波大学名誉教授  
 藤巻 正生  東京大学名誉教授
○渡辺 武   
(財)競馬・農林水産情報衛星通信機構会長  
 和田 正江  主婦連合会副会長
 (○印:座長)


C先生:遺伝子組み換え食品については、昨年、参議院議員選挙の各党の公約に遺伝子組み換えに関するものが含まれていたため、本HPでも概略の説明を行った。1998年版「参院選の公約−遺伝子組換え食品 new07.06」がそれ。またまた表紙にリンクを張っておきますのでご利用下さい。
 やっと表示義務が課せられる方向に固まってきたようだ。そのこと自体は歓迎すべきだろう。しかし、表示義務ぐらい当たり前のことだと思うが、それがなぜ、こんなに議論の対象になるのか、また、表示義務はこの問題に限った話ではなくて、むしろもっと表示義務を課すべき対象が有りそうに思えるのだが、少々間口を広げて議論してみようか。

A君:今回、わたしがやるべきまとめが、対話以前にほとんど掲載されてしまいましたので、追加すべきものはほとんどないのですが、昨年のHPで、話題にしたのは、モンサント社の除草剤と大豆だけですが、この表示義務にはトウモロコシも入っていますね。これはチバ−ガイギー(現ノバルティス)社の製品で、その他にも、遺伝子組み換え食品として流通が行われているものがあります。このWebのリストをご覧下さい。
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/syokuhin/kanajin/idensi.htm

B君:これらを摂取したとしても、ヒトに対しては害が出ない理由は次のように説明されている。
 まず、グリフォサート=除草剤(モンサント社製、商品名「ラウンドアップ」)の影響を受けない大豆とは、遺伝子操作によって、細菌から取り出した遺伝子を大豆に入れて、光合成の経路で働いている酵素の一部を変えることによって、このような遺伝子組み換えを行っていない雑草が除草剤の影響で光合成ができずに枯れるのに対し、組み換えられた大豆は光合成を続けることができる。
  「したがって光合成をしない人間に影響を与えることはありません。」
 「害虫に強いトウモロコシについても、昆虫と哺乳類の消化器官の働きなどが違うため、昆虫の腸管内で作られる毒性は人間の体内では作り得ないことによるものです。」

C先生:日本の遺伝子組み換え食品に対しては、生協などを初めとしてさまざまな反対が行われている。朝日新聞の調査でも、79%の人が不安を感じているとしている。しかし、人間に対する影響を反対の第一の理由にしているのは、どうも日本だけではないのか。少々調べて見てくれないか。

A君:しばらくお待ちください。
.............
2つだけ見つかりました。また探しますがとりあえず。


アイスランドの反応:
30%:自然に反しているように思える
29%:長期的な影響(含む人体へ)が不明
24%:買うかどうか判断できるほど情報がない


グリーンピースの反応:
 反対理由として取り上げているのが、
  unsustainable(非持続可能)
  hazardous to biodiversity(生物多様性への害)
  human and animal health(ヒトおよび動物の健康)です。
もっと具体的には、
●Toxic or allergenic effects 毒性とアレルギー (A君:これはヒトへの影響だろう)
●the spread of antibiotic resistance genes to gut(?) bacteria and pathogens. 抗生物質耐性遺伝子がバクテリアを乗っ取る(?) (誤訳かも。)
●the potential for creation of new bacteria and viruses. 新しいバクテリア
●the spread of transgenes to related weed species, creating superweeds  スーパー雑草ができる
●Increased use of toxic, non-discriminating herbicides with herbicide-resistant transgenic plants lead to large-scale elimination of indigenous agricultural and natural species.     除草剤耐性植物による土着植物種の抹殺
●the more rapid evolution of resistance in major insect pests. Rather than the promotion of genetically modified foods and the risks they bring, we should support the conservation and sustainable development of indigenous agricultural biodiversity, which will better guarantee long term food security for all.    もっと長期的に普通にやろうよ


 ということで、ヒトに対する影響が最初に出てくるのですが、やはりそれよりも環境影響を心配していることがよく分かります。  

C先生:まあ、ヒトが遺伝子組み換え大豆で作った豆腐を食べても、「それが原因で即死ということは無い」ことまでは良いだろう。まあ、ヒトに対する直接的な影響は、余りないような気がしている。
 しかし、それこそ生態系を経由して長期的にどうなるか、これが問題。個人的には、やはり環境影響が現在の人間の知恵の範囲内では掴みきれないこと、これがまず心配。それ以外にも個人的に反対の理由があるのだけれど、それはまた後で。

B君:この話、見えにくいのがとにかく難点だ。誰もどうなるか本当のことは分かっていない。だから非常に難しい。遺伝子をいじってはいけないというのなら、実は、通常の品種改良だって遺伝子改良だなんだ。商業的に遺伝子をいじるのがけしからんというなら、通常の品種改良だって、商業的目的による遺伝子改良だ。

A君:それは、時間の要素を考えるべきなのではないでしょうか。通常の品種改良といっても、交配による方法論だと、相当長い期間かかって新品種を作る訳ですよね。しかも、もともと有りうるような品種改良はかなりの確率で可能でしょうが、除草剤耐性遺伝子が大豆に発現するには、普通だった余り考えやすくないですよね。通常の品種改良のプロセスだったら、恐らく数100年かかるのでは。だって、グリフォサート耐性の微生物ができて、その遺伝子がなんらかの偶然で、ある植物に移る。そしてその植物と大豆がもしも直接交配できるのなら、それから除草剤耐性大豆ができるかもしれないですが、そううまく行くとも限らないから。
 ということは、本来数100年、場合によっては1000年かかるかもしれないことを、非常に短期間にやってみせたことが遺伝子組み換えの本質で、これがアイスラインドの反応、「自然に反しているように見えるという」こ出ているということではないでしょうか。

C先生:まあそういう言い方も可能だ。我々は、ある製品の地球への負荷を時間消費法という方法論で測ろうとしているが、遺伝子操作は、大豆という植物の時間だけ1000年先に進めてしまったことになるのかもしれない。
 しかし、個人的には、こんな風に考えている。恐らく哺乳類に対しては害は出ないだろう。しかし、昆虫類までは何が起きるか危ない。植物が変わることは、これは可能性がある。微生物は一世代が短いので、当然何か起きると考えるべきだろう。それが環境全体にどのような影響を与えるか、これは分からない。
 しかし、このような理由が遺伝子操作に反対している主な個人的理由ではない。むしろ、政治的問題としてこの問題を考えている。すなわち、21世紀の環境危機がどのような形で来るのかといえば、それは第一に食糧危機だろう。なぜならば、すでにカナダを含めた米国が、世界に食糧を供給できる余力をもった唯一の国・地域になっているからだ。この地域に何か起きたら、それは世界全体が餓死するだろう。特に、食糧を自給できない国、日本は、餓死の第一候補だ。餓死しないとしても、「金にあかせて食糧を買って」という世界各国からの非難は、世界的飢饉の状況下ではすごいものになるだろう。
 米国という国は、基本的に世界支配をいつでも考えているとしか思えない国だ。アグリビジネスでの世界制覇が、21世紀の基本戦略のように思える。種子と農薬のカップリングなどで、世界の農業を支配することも受容しがたいが、それに加えて、もしも組み換え農作物が問題で、食糧生産そのものが世界的にコケたら、どうしようもなくなる。そもそも農業は、単一生態系を作ることと同義で、多様性を喪失した生態系は外乱に対して弱いから、環境破壊につながりやすいと言える。それが遺伝子組み換え農作物で、ますます妙なことになりそうだ。これが遺伝子組み換え農業に対する感想。だからキライなのだ。

A君:熱は無いですか。冷房病で遺伝子が組み換えられたのか、過激ですね。

B君:どうもこのところ、我がキーワードだった「過激さ」で負けている。
 よし、C先生の発言をフォローすれば、米国は基本的に農業国だから、バイオ技術が重要。ところが日本という国は、食糧自給すらままならない国だから、バイオ技術はほとんど役に立たない。ところが、何を考えているのか、次世代産業技術はバイオだバイオだと叫ぶ人が未だに多い。

C先生:過激に来たな。日本のバイオは、農業分野、化学分野ではほぼ無用。医薬分野に限られるだろう。これは同意。工学バイオはあるのですか、軽部先生!?!

A君:話変わって、今回のことが決定されれば、表示義務ができることになりますが、なんでたかが表示義務程度のものが2001年4月まで1年間も猶予されるのでしょうか。

B君:それが行政が業界の顔を見すぎているからだ。

C先生:審議会の委員名簿を見ると、今回表示が義務付けられるであろう28品目に直接関連する業界代表者がいないような気がする。今回表示が免除された、食用油、しょうゆ、ビールなどの業界からは委員が出ているが。だからと言えるかどうかだが、1年も先延ばしをするのは、農水省というよりも行政のやり方だと理解すべきではないか。確かに、表示ぐらい、2000年1月からでもできるね。

A君:表示を嫌がるというのが業界の体質だとしたら、なぜ表示を嫌がるのでしょうか。われわれ電機業界は、製品をバラせばどうなっているか分かってしまうのが特徴。だから、表示はいくらでもという感じなのですが。

B君:液晶ディスプレイの液晶本体が何か表示をしたら、その発言を認めよう。

A君:あれは、化学物質ですよ。化学業界の体質を表しているのですよ。

C先生:食品業界とか、あるいは化粧品業界、日用品業界などが表示に反対するのだろう。その理由は分からないでもない。食品業界なら食品添加物、化粧品なら界面活性剤、日用品業界なら殺菌剤といったほんの少量で利くもので商品の特徴を出して、それを武器として消費者へアッピールをするという業界の体質だから、そこに企業秘密ができる。
 微量だから分析もやりにくい。実際やっても良く分からない場合もある。これが表示を嫌がる業界の共通項だろう。

B君:これはうがった見方だが、他社の真似をする慣習(?)の業界が、表示義務を嫌がるのではないだろうか。場合によっては、日本全体がそうかもしれない。開発した会社ではなくて、二番手が儲かるというのは、やはりおかしい。細かい内容物まで表示するとすぐ真似をされるので、嫌がるのだ。お互いに独創性を尊重しあうような風潮にならないと、自主的に表示するような社会にはならない。

A君:割と過激で鋭い。でも、化学業界への指摘が抜けてますよ。
化学業界について言えば、やはり世間にこんなものを売って良いのかと言われるのが嫌なのでは無いですか。もともと微量成分で勝負するというのは、化学業界の本質ではないでしょうから。

B君:そうだろうか。化学業界といっても全部同じではない。例えば、プラスチックなども、添加剤の塊。その微妙なコントロールで商売をしているのがプラスチック業界なのではないだろうか。

C先生:そういえば、(株)リコーは、コピー機のプラスチックのリサイクルを行っているが、表示がやはり相当細かくされている。単にスチレンとかいうだけでは、マテリアルリサイクルは不可能なのだ。添加剤だけではなくて、分子量がどのぐらいかといった細かいところまでが表示されないと、プラスチックなどというものはマテリアルリサイクルが不可能なのだ。PETボトルにしても、何か添加物が入っているのだろう。まだまだプラスチックになると、余り公表されていないことが多いようだ。

A君:包装材料の表示義務も当然ですよね。

B君:先日の「買ってはいけない」の表示義務に対する主張も当然。

C先生:環境ホルモン問題も、微量な添加物まで表示されるようになると、かなり問題の解決に近づくことになるだろう。
 最後に、朝日新聞のコメントに対する感想だが、行政というものの本質をもう少々市民に伝達することが必要なのでは無いだろうか。行政とは、このような表示義務を作っているときにも、というよりもいつでも必ずそうなのだが、「守らなかったらどうして強制するか」ということを考えている。となると、守っていないことを科学的に検証できるか、これが最大の問題なのだ。必要条件なのだ。
 さらに、EUの表示義務が、今回の表示義務と一致していることがなにか意外だというコメントであるようにも読めたが、それは、EUも(農水省も多分)、今回除外した食用油などの遺伝子組み換え食品によって、消費者の健康が直接的に損なわれるとは考えてないからだろう。
 勿論、 EUも米国による食糧戦略をこころよくは思っていない。そこで、この問題についても、市民運動が起きて、米国に対してある種の反対の感情が出て、そして不買運動にでもつながれば、という思いが部分的には有るだろう。一方、米国から非関税障壁だという非難をさけるためにも、ある程度緩い方が妥当だという判断も働いているのだろう。 米国と全面的食糧戦争をやるのは、非常につらそうだから。 となると、EUにとっても、この程度の表示義務でも良いかということになりそうだ。