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地球温暖化の真実:住先生の著書 06.18.2000




 最近、余り本屋を漁っている暇が無かったが、先日、ちょっと時間が空いて、八重洲ブックセンターに出かけた。そこで買ってきた本の1冊が、「地球温暖化の真実」、住 明正教授(東京大学気候システム研究センター)著、ウェッジ選書、平成11年11月9日、1200円。前半と後半で全く異なった構成になっていて、第1部が温暖化はどこまで検証されているか、という気象モデルを中心とした話。第2部が「人間圏」の未来を問う地球温暖化と題して、石 弘之教授(東大新領域創成科学研究科)、松井孝典教授(同)に住先生を加えた3名の対談になっている。


C先生:「住先生、やりましたね」、という著書だ。どうも半年以上前に出ていたようだ。もっと早く本屋を漁れば良かった。

A君:昨晩、ざっと目を通しましたが、これまでの温暖化の本とは全く違いますね。

B君:うーーん。この本を一言で言えば、温暖化を題材にして文明論だな。

C先生:本HPの読者にも是非お読みいただきたいと思うものの、何も説明しないで終わる訳にも行かないので、多少内容をまとめてくれ。

A君:了解です。まず、第1部の温暖化の検証の話ですが、第1章が地球の気温と気候の関係として、太陽エネルギーが地球の気温を決めていることが説明されています。第2章では、温暖化の機構として、大気、特に、水蒸気と二酸化炭素が無い状況だと平均気温が絶対温度で265K付近だと考えられること、現在の平均気温が290Kだからすでに25°温暖化していること。いったん温度が上昇すると、その影響がどのようにフィードバックされるか。最後に、なぜ、予測が難しいかということが記述されています。

B君:そこまでは、比較的普通の本なんだが、第3章の地球史からみた温暖化の話あたりから、多少違ってくる。

C先生:その話だが、似たような記述を本HPでもやったことがある。現時点がもっとも気温が高い訳ではないという話、縄文時代には、今よりも数m海水面が高かったが、それは気温のせいではないという話。気温が下がると日本でも戦国時代的になるということなどなど。

A君:ちょっと記述が違いますがね。いずれにしてもIPCCの予測による3度といった上昇も、絶対値としてはそれほど重大な問題だとも思えないのですが、現在の昇温速度、100年間で0.5度という速度は、地球史上最高の変化速度だということ。これが問題だということが指摘されています。

B君:第4章が地球が本当に温暖化しつつあるのか、その観測の話で、米国などで温暖化批判派がよりどころとしていた、衛星からの測定によれば、むしろ寒冷化しているというデータが実は間違いだったという話になっている。この衛星データの話が、米国における温暖化批判派の最大の根拠だったから、これは大きな影響を与えるだろう。さしもの米国も温暖化防止に向かって動く可能性が高くなるだろう。

A君:第5章が温暖化予測の信頼度という章で、主として、シミュレーションの信頼性の記述です。二酸化炭素濃度の上昇が「温暖化の原因」なのか、「温暖化の結果」なのか、これは色々な人が議論しているもう一つの問題なんですが、二酸化炭素の増加を算入しない限り、100年に0.5度といった速度は算出されないということから、やはり二酸化炭素は原因であるとの結論になっています。さらに、IPCCの第一次報告書で予測された速度よりも、実際の温暖化速度が遅い理由、雲や海洋による熱の吸収などが説明されています。

B君:そして、最後が第6章で、温暖化は地球の危機なのかと題する章で、地球にとっても危機でもないし、ヒトという存在の生存にとっても危機ではない。しかし、歴史上何回も起きている温度変化のときに比べると、格段に人口が増加しているために、国境というやっかいなものが厳然と存在しており、気候が悪くなったからといって移住するわけにはいかない。

A君:その程度なら、温暖化しても良いだろう、という訳でもなく、また、危機が来るから対策を取ろうというのは、上品ではないと切り捨てられています。環境と調和する生き方を選択すべし、ということです。

B君:さらに個人の自由などの議論も出ている。「「環境を守れ」と叫ぶ環境派の主張に「偽善的なにおい」を感じて反発する人も多いことと思います」、とか、「何か対応策をしようとする時に、問題になるのは、「不平等」ということです」、などといった独自の環境論が主張されている。

C先生:どうも住先生の理想は、「それぞれの個人が好きなように行動しても、社会全体として限界を超えないような社会をつくることが肝要です」、ということことのようだ。このあたりの本音がどこにあるのか、という興味が残る。
 ここまでで、感想は。

A君:今回のこの本にも余り明確には記述されていないのですが、どうも住先生は、温暖化を大体見極めたのではないでしょうか。地球というもののもつ能力が、IPCCが当初発表した第一次報告書における予測よりも大きいこと。そして、恐らく、100年で0.5度程度、あるいは、1度までの昇温速度がもっとも有りそうな値であることを。

B君:その値を見極めたからこそ、その本の前書きには、「地球が破局に向かっている」、「このまま人間による野放図な化石燃料の使用が続けば、先に待っているのはカタストロフだけだ」、というように、右をみても左をみても「不安をあおる」ような話ばかりです、という記述がある。そして、「まず、確かなことは、今のまま化石燃料を使い続けていけば、地球は温暖化するが、破局はしない」、と結論されているのだろう。

C先生:これは本HPでこれまで示している個人的見解なんだが、温暖化で地球上の生態系が破滅状態になるのは、100年で2.5度以上といった昇温速度で温暖化が進行したときだろう。なぜならば、東京の都心部では、すでにこのような昇温速度が現実のものになってしまったからだ。そして、後でまとめる対談編で、石先生が指摘しているように、杉が消滅したりといった現象は起きているが、しかしながら、枯れ木ばかりになってしまう訳ではない。

A君:その後でまとめる対談編ですが、第2部として「人間圏」の未来を問う地球温暖化という課題で、前述の3名がそれこそ知識を披露していますね。

B君:住先生が気候、石先生が生態系、松井先生が天文、がそれぞれの専門ということなんだが、どちらかというと、ちょっと普通の人の発想の枠を大幅に超えている。

A君:やはり、自分の専門以外の知識の多さ、いわゆる教養が有ることは驚くべきですね。

B君:とはいっても、この3名の議論が完全だとは思えない。なぜならば、第1部に、100年で0.5度という昇温速度だと、1万年経つと、50度も温暖化するという記述がある。これは、おかしい。なぜならば、二酸化炭素を発生するのは、当然ながら化石燃料の消費。化石燃料は、500年しか持たない。二酸化炭素の半減期は余り確定しているという訳ではないが、数10年で多少は減るだろう。となると、500年間増え続けた二酸化炭素も、100年以内にかなり低下し始める。それまでに地球に貯まったエネルギーがすぐには消滅しないが、それからは、寒冷化になる。すなわち、温暖化は、地球史上ほんの一時期の現象だということになる。

C先生:その記述、かなり前になるが本HPでも、やっている。グレーデル「気候変動」を引用したときに。グレーデルの本は、そんな記述になっている。推奨図書=「気候変動」 new02.16.1998の記事、書庫の表紙へリンクを張ります。 ついでに、人類絶滅への7章−サイアスの世紀末遊び new12.07.1998お読み下さい。

A君:そういえば、この対談では、ゴミ問題のような身近な問題は無視されていますね。

B君:当然だ。ゴミでは人は死なない。しかも、惑星的見地からは余りにも些末な問題だから。

C先生:しかし、省資源・省エネルギーが必要だという議論にはなっているようだが、この面での地球の限界が余り良く認識されていないような感触だった。

A君:まあ、専門が違うから仕方がないのでは。

B君:壮大な議論と、我々のような、プラクティカルなアプローチでは、所詮目的が違うということかい。

C先生:余り卑下することはない。「自らが着実にやるべきことを認識すること」、これがこの世の中でもっとも重要なことだ。さらに、この本で極めて重要なことがいくつか指摘されているが、中でも、地球温暖化が既成事実化してしまった過程のこと。すなわち、マスコミが「大変だ」、という。政府や国際社会がそれに対応する。研究者は「温暖化している」と言わないと予算が来ない、と思う。こんな過程で地球温暖化が既成事実として一人歩きを始める。環境ホルモン問題も全く同様だ。
 さらに重要なことは、「温暖化が不確実であること」と言うと、「だから対策をとる必要はない」、という反応を起こす人がいること。温暖化対策、例えば環境税によって不利益をこうむると思われる企業と、その利益代弁者である通産省などに出現するのだ。このあたりの議論をどのように進めるべきかについては、この本をよくよく読んで、検討してほしい。
 いずれにしても、この本をお読みになることをお奨め。