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「地球温暖化はでたらめだ」  07.29.2001




 ニューズウィークの最新号の表紙にそう書かれている。記事のタイトルは「地球温暖化なんて怖くない」である。ここには、ブッシュ政権が何を根拠として京都議定書からの離脱を宣言したか、そのひとつの鍵となりそうな記事がでている。勿論、本当の理由は、経済への影響が大きいということ、さらには、最近米国全体を覆っている孤立主義の台頭が原因なのだが、国益優先の米国のことゆえ、「温暖化が米国に大きな被害をもたらすことはない」、という予測ぐらいは行っているはずだ。
 結論的には、ニューズウィークの記事の内容は、かなり信頼性が高いものだ。表題が刺激的なのは、まあメディアの常。

C先生:「温暖化はでたらめだ。危機的な温暖化は起きるはずがない」、といった議論は、実は昔からある。特に、米国では大々的にそのようなキャンペーンが行われたものだ。私個人としても、温暖化のもたらす環境的危機だけが、ここ200年ぐらいを考えたとき、唯一かつ最大の危機ではない。未来を総合的にしっかり予測して、決して温暖化だけを特別視すべきでない、と言ってきたつもりである。

A君:日本という国は特殊な国ですね。温暖化の研究をやっている人々の中でも、IPCCの報告書の執筆に関わった人々に対する内々の批判があっても、余りそれを公言する研究者はいないですね。米国などと違って、やはり「なーなー」の世界なのでしょうか。

B君:日本の研究者は未熟だから、研究上の問題で他人から批判されると、批判された本人は、全人格的な非難・否定だと考える人もいる。確かに、人格と研究態度とはリンクしているから、完全に分離できるというものではないのだが、本当のところ、知性的区別によって、別の事象だと考えるべきものなのだ。それに加えて、温暖化を批判すると、環境団体が怖いという面もある。それに、ある問題が重要だと認知されると、それに関わる研究者にも有利という面がある。

C先生:日本の研究者は、他人の研究を批判することも無いが、他人の研究を評価することも少ない。ノーベル賞の推薦依頼などを日本人研究者に出しても、戻ってこないらしい。
 それはそれとして、ニューズウィークの記事を検証してみよう。

A君:今回の話題の主は、米国の気象学のリチャード・リンゼン教授(MIT)。ブッシュ政権が求めた温暖化の報告書の執筆にあたった。その後、ホワイトハウスで進言した。「京都議定書が発効しても温暖化が止まる訳ではない。あんなものは、莫大な金を食うだけの役立たず」。

B君:進言の前半、「京都議定書が発効しても温暖化が止まる訳ではない」は正しい。ただ、その後半の部分は、様々な解釈があってしかるべき。

A君:この前半の主張から分かるように、リンゼンも温暖化を完全に否定している訳ではないようで、人間活動が温暖化の原因になることは認めている。問題は、温暖化がどこまで進むか。リンゼンによれば、今の科学では二酸化炭素の影響を正確に把握できていない。そもそもコンピュータシミュレーションを信じるのが間違いだ、としています。

C先生:そういえば、温暖化を最初に言い出した人の1人、真鍋淑郎博士は、これまで旧科技庁が作った「地球フロンティア研究システム」の地球温暖化予測領域長として日本で活躍中だったが、米国に帰国することになったそうだ。その理由は、「米国に長くいた自分は、日本の縦割り行政に適合しきれない」。

B君:500億円掛けた地球シミュレータ(超大型コンピュータ)がこれから動き出すところなのに。

A君:ニューズウィーク解読の続き。そのコンピュータシミュレーションの結果が信じられないというのが、リンゼンの主張。大半の気候変動モデルは、今後100年で3〜4度の気温上昇を予測しているが、リンゼンの計算では1度未満。これから大騒ぎをすることは無い、としています。

B君:そのリンゼンの予測というやつはなんだ。

A君:予測は余り得意ではないようで、他人の予測を批判し、その予測が高すぎるといっているようです。

B君:温暖化を予測する研究者の悩みは、「温暖化が大変だ」といって予算を獲得した以上、いくら本音がそうであっても、「温暖化は不確実だ」とは言えない。だから、温暖化の批判は、予算をもらっていない「外部」からしかあり得ない。ひょっとしたら、真鍋氏も、地球シミュレータに500億円使って、その結果が温暖化を示すことができなかったらどうしよう、と思って手を引いた?なんということは無いかな。

C先生:外部からの批判をする研究者が少ないことも問題だが、本来外部から批判すべきマスコミが科学を読めないし、環境問題については中立的ポジションを取れない。環境運動家と同じことを言うだけだ。朝日新聞あたりが、「温暖化はでたらめだ」という記事を書けるのか。この意味で、ニューズウィークは偉い

A君:リンゼンですが、IPCCの報告書も、「あんなものは『科学者のコンセンサス』などではない、たった14名の学者が書いたものだ」、と述べているらしいです。

B君:その14名は、必ずしも気象学者として一流ではない、とは言ってないのか。日本の学者の中には、そういう陰口があるらしいが。

A君:リンゼンが地球温暖化の議論に反発しはじめたのは、88年のこと。当時上院議員だったアル・ゴアの行った公聴会で、著名な学者は、口を揃えて温暖化に警鐘を鳴らした。リンゼンは、それに反発したが、「民主党支持者なら、そんな意見を口にすべきでない」と言われた。

B君:科学者が発言するとき、「科学が重要なのか、政治が重要なのか」。

A君:リンゼンはそれに反発し、「温暖化は不確実だ」、といって、環境保護派に猛烈な反発を食らったことも、恐らくその主張を補強する方向になった。

C先生:まあ、ここまでで、リンゼンなる学者の大体の人柄は分かったような気がする。「タバコは肺がんには無関係だ」と言っているというところも、人柄を判断するヒントの一つになる。
 実際のところ、世の中不確実なことばかりだ。最近、本HPで問題にしている環境ホルモンリストに載っているDEHPやDINPなどの可塑剤の有害性など、もっと確実に分かるべきことなのに、人体への影響となると、本当のところはまず分からない。しかし、ある種の警告を出す研究者がいて、その人達に研究費が付く。しかも、最近だと、相当多額になる。多額の研究費を貰った以上、その結論が「実は、全く問題ありませんでした」、では済まない。日本では特にその傾向が強く、そんなプロジェクトを提案したこと自体が、行政的責任であるとされてしまう。そこで、なんらかの犠牲者(犠牲物質?)を作って、「辞めて責任を取った」という行政的な結論を作る。今回、おしゃぶり以外の通常の塩ビおもちゃにDEHPを使うことを禁止したことも、まあ、そんな結論の一つだと思うと、分かった気分になる。
 このような動きに、外部からの批判が存在していないと、不健全な社会になる。リンゼンはその外部の一人なのだろう。日本では、このような外部からの批判が無さ過ぎる。他人の研究を批判すると、日本の美徳に反するとされてしまう。
 
A君:この記事は、ここまででまだ半分なのです。その後、なぜシミュレーションが難しいかといった説明があるのですが、そこに間違った記述は無いと思いました。ご関心の向きは、是非、ニューズウィークを買われることを。

B君:住明正先生の本、ウェッジ選書の「地球温暖化の真実」もお奨め。

C先生:科学が不確実な情報しか出さないとして、それなら科学を信頼すべきでないのか。いや、そうとも言えない。不確実な情報も、数多くを積み重ねることによって、段々と誤差の範囲が分かるようになってくる。温暖化問題についても、そんな段階なのではないだろうか。
 現時点で確実に言えることは、二酸化炭素の放出によって、温暖化の傾向にあること。しかし、地球が元々持っている揺らぎは非常に大きいので、確実に温暖化するとは限らないが、もしも、地球の揺らぎが無ければ、若干の温暖化が起きることは確実だろう。それが致命的かどうかは、温暖化速度による。個人的な感触では、2.5度/100年というところまでならば、人類社会内部には困ることが一杯起きるとしても、地球生態系に決定的なダメージは起きないだろう。人類社会内部の問題は、人類が解決すればよい。だから、まず、温暖化速度がどのようなものなのかを見極めるのが第一。次に、被害が起きたときに、人類社会内部での解決法を議論して置けばよい。
 と考えると、京都議定書を批准して、二酸化炭素の放出量を下げることは、間違っているとは思えない。ただし、リンゼンが言うように、京都議定書で温暖化が防止できるという訳ではない。せいぜい、「しばらくの間、余り二酸化炭素を放出しないようにしながら、推移を見守ろう」という程度の意味しかないが、それが重要だ。米国が離脱したのは、やはり誤りだと思う。さらに、今回のCOP6.5の意義だが、日本・カナダのようにアメリカ的なスタンスを取るだろうと思われてきた国が、京都議定書をきっかけとして、大量消費社会から省資源・省エネルギー社会への方向転換を行うということ、それが非常に大きな意味なのだと思う。

A君:温暖化が米国に大きな被害をもたらすことは無いでしょうかね。

B君:米国にとっては、気候変動に伴う乾燥化が怖い。ハリケーンやトロネードの大型化も、多少問題にはなるが。

C先生:乾燥化が起きても、自国内への食糧供給は確保できる程度だ、と読んでいるのではないだろうか。となると、米国からの食糧輸入に頼っている国が危ない。それはどこだ!!!

A君:ヨーロッパ諸国にとっては、海流の大きな流れが変化することによる、寒冷化が怖いのでしょうね。

B君:それは、ヨーロッパが寒くなれば、別の場所が暖かくなることを意味するな。カナダのノバスコーシャとかニューファウンドランドあたりが住みやすくなるかもしれない。温暖化が海洋に与える影響は、実際ものすごく予測が困難なことらしい。

C先生:真鍋氏に代わって、次の地球シミュレータのトップになる研究者が、その責任を背負うのだろうな。それは誰だろう。