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21世紀に期待される新環境技術:燃料電池  01.05.2000






 新千年紀を迎えたためもあり、新しい発展への期待が高まっている。環境関係が重要であるとの認識はかなり一般的になっているためもあり、環境関連技術への期待も相当大きいものがある。ここでは、21世紀に期待される環境関連技術を取り上げて、その実体について議論を行いたい。まずは、燃料電池から。


C先生:新年になって、新聞やテレビなどでも、新たなる発展への期待が高まっているようだ。日本の不景気、というよりも「不景気」雰囲気はそう簡単には解消しそうもないが、これからかなり考え方を変えなければならないのも事実だ。現在がむしろ普通だと。
 さて、新千年紀を迎えたが、次の1000年を議論するのは、ちょっと差し控えて、21世紀前半あるいは、四半世紀に期待される環境関連技術について、様々な報道が行われているので、多少検討をしてみよう。
 ところで、今日から新メンバーのF君が参加することになった。F君は、これまで余り意見交換をしたことが無いが、実は当研究室の客分みたいな人で、出身は文系。われわれABCのような理系とは違って、またビジネス最先端を行くためか、異なった考え方があるようだ。自己紹介から始めてもらうか。

F君:Fです。Fは「普通」の頭文字です。冗談、冗談。一応、政治学などを専攻しまして、現在、商社といっても大商社ではなく、中商社で電子部品の台湾、韓国、米国などからの輸入を担当しています。環境関連は若干かじっている程度ですが、もしも環境がビジネスになるならそちらの部署に移っても良いかな、と思っている次第。

A君:私は電機業界ですから、関連業界のようですね。

B君:「環境関連は若干かじっている」というところの程度が知りたいところだ。

F君:まあ、本当にかじっている程度ですよ。

C先生:さて、まあこんなところで始めよう。昨日テレビを見ていたら、燃料電池を使った車の話がすぐにでも実現するかのごとく語られていた。確かに、もう実物が存在しているのだから当然といえば当然なんだが。これについて、F君はどのように感じているのかな。

F君:私のもっている情報は、大部分がテレビ、新聞、経済誌といったところですが、まあテレビの報道そのままですよ。2003〜4年頃には、燃料電池車の大量生産に入るとか、ダイムラー・クライスラーとフォードが組んだとか、一方で、トヨタ+GMが協力を始めたとか。実際のところ、バラード社が存在しているカナダでは、バスも燃料電池で走り始めているということで、技術的にすぐにでも可能だと踏んでいますが。

A君:バラード社というのは、高分子膜を電解質とする燃料電池の開発では世界のトップを走っている企業ですね。日本もその次ぐらいを走っていますが。もともと潜水艦用の燃料電池を開発していた企業のようですが、確かに、バスも実用に近いレベルで走らせているらしいですね。

B君:そもそも、なんで燃料電池が必要なんだい。ガソリンで良いだろ。

F君:そりゃーガソリンはそのうち枯渇するし、となると、21世紀は水素エネルギーの時代だと言われていますから燃料電池へ、というのが当然の帰結ではないですか。

B君:確かに、そう言われている。しかし、水素はどうやって作るのだ。

F君:水の電気分解ではないですか。

B君:その電気はどうやって作る?

F君:現在のような化石燃料を燃やして発電している電気を使ったらなんの意味もないですから、当然、風力発電とか太陽電池とか。いわゆる自然エネルギーですよね。

B君:というのが世の中一般の理解だな。

A君:そうでしょうね。しかし、それは非現実的。不可能ではないですから、非現実的というよりも、時期誤認か。30年以上先の話でしょう。2003〜4年といった目前の話ではない。

F君:燃料以外の話もあって、これが本当の環境関連の話ですが、水素燃料電池を使えば、全くの無公害車ができるという話ですよね。完全なるゼロエミッション車が。だから、環境の世紀である21世紀には燃料電池車。

B君:確かに、そうも言われている。しかし、現在の車の排気はそんなにも汚いのか。ただし、ディーゼルは除外。ディーゼル車の出すSPM(微粒子状物質)は本当に汚いし有害だろうから。NOxも多いし。

F君:ガソリン車でもNOxが悪いと認識していますが。

A君:新排ガス規制適合車だと、東京環状七号、八号線の交差点などの汚い空気中のNOx量よりも、排気ガスの方がキレイになるといいますね。要するに、そのような場所だと、汚い空気を吸って、却って浄化された排気が出るということのようですよ。

F君:........

C先生:どうも私は余り出番が無いな。F君を過度にいじめないように。

F君:どうも。常識を述べているつもりなのですが、このABC部屋では常識が違うみたいですね。

C先生:いや。そういう訳でもない。ただ、世の中の報道では、肝心のことが抜けている場合が多いということだけ。
 燃料電池車のポイントは確かに2点あって、一つは無公害車だということ。しかし、だからといって、現在のガソリン車や、その発展形であるハイブリッド車では駄目ということではない。第ニ点が、燃料と資源枯渇の問題。また、「温暖化」は、公害とは性格が違うので、この第二点に含む問題だと考えてよいだろう。この問題は勿論今から考えるべきなのだが、深刻になるのは30年先。
 無公害車というものが燃料電池とどのように結びつくかというと、それには、特殊な訳があるのだ。B君から説明を頼む。

B君:それは、法律。今という時代が、実態に法律が追いつけなかった昔の公害時代と違うのは、法律の方が実態の先を走る時代であることだ。その最たるものが、カルフォルニア州のゼロエミッション車の法律。1990年改正大気浄化法(CAAA)及び州の作定した低公害車導入プログラムにより、2003年から販売車両の10%以上を完全無公害車(ZEV=Zero Emission Vehicle)とすること等を義務づけている。本当にこれが実施されるかどうか分からないが、ZEVは、二酸化炭素の排出も許されないので、いくら排気をキレイにしてもガソリンを燃やしていては駄目。となると、現在これに適合するのは電気自動車のみだ。販売車両の10%をZEVが占める必要があるとすると、ZEVの台数がカルフォルニア州における全車両販売数を決めてしまうことになるだろう。
  さて、電気自動車は売れるのか。まあ無理だ。確かに走る。しかし、フル充電で200km。しかも、空の状態からフル充電するには、6〜8時間ぐらいは掛かる。となると一日で400kmなどを走るということは有りえない。アメリカだと一日400km走行も難なく可能な道路状況(勿論日本でも高速料金を払えば可能、米国だとタダで可能)だから、ますます電気自動車の普及は難しい。さてさて、と考え付くのが燃料電池車ということ。

C先生:カリフォルニア州政府に二酸化炭素の発生までなぜゼロにする必要があるのか、それを問いたいところだ。「なにがなんでもゼロ」という考え方は、環境問題の場合に間違っているからね。そもそも電気自動車の場合だって、現状ではどこかで化石燃料を燃やして電気を起こしている。そこでは二酸化炭素の発生が当然あって、その他にもNOx、SOxの汚染が起きている。電気自動車=EVが、Electric Vehicle ではなくて、Emission -elsewhere Vehicle(汚染は他所で車) だと言われる所以だ。はっきり言えば、カリフォルニアのZEV法は馬鹿げているのだ。

A君:馬鹿げた法律が燃料電池車の開発を推進させているということですね。それはそれで面白いともいえますよね。

C先生:実際その通り。法律が新しい産業活力を生んでいる。実際には、無駄かつ過度な競争を生んでいるだけなのかもしれないがね。

F君:そういうことですか。燃料電池車が優れているから開発が進んでいるのかと思っていました。

B君:燃料電池が駄目だとは言っていない。優れているところは非常に多い。ガソリンエンジンのように、一旦ガソリンを燃やして熱にして、それを利用するという熱機関の場合には、理論的な効率はカルノーサイクルというもので決まる(ガソリンエンジンはカルノーサイクルではないことは承知)から、どうがんばっても効率100%ということは有りえない。燃料電池の場合には、理論的には効率100%が有りうる。

F君:そうそう、効率が良ければ、それは開発すべきですよね。

A君:それはそうです。現状の燃料電池車の効率は、多分35〜40%を目指すといったところではないでしょうか。ガソリンエンジンの効率が悪すぎるのですよね。大体15%ぐらい。加速時には10%以下。ところが、電気自動車ですと、最近の発電所の効率がコンバインドサイクルなどでは50%というところもあるもので、もっと高い効率が狙えるのです。要するに、分散型エネルギーはまだまだ効率が悪いということです。

C先生:それも本当だ。昨日見ていたテレビでは、携帯電話になって電話線が消える(?)ように、21世紀には、家庭に100Vの配線は来ないだろう。要するに分散型エネルギーの時代になるのです、と言っていた。これは、可能性はあるが、発電効率が高いからという訳ではないのだ。

B君:このあたりがしばしば誤解されているところだ。分散型にする本当の理由は、実は、発電効率のためではない。発電効率は、大型の発電所の方がはるかに優れている。しかし、分散型が言われるのは、発電装置からの排熱も利用しようということ。発電装置が燃料電池になるか、あるいは、マイクロガスタービンになるか、あるいは複合型になるか分からないが、排熱を温水などの形で利用しようということなのだ。要するに発電効率25〜40%+熱利用=総合効率70〜80%を狙おうというのが本当の理由。問題は、家庭などの場合に、そんなに熱需要があるかということ。特に夏期にはどうなんだろう。

A君:燃料電池を車に搭載したとしても、熱利用が冬期のヒーターに限られているために、そんなに効率が高くなる訳でもないということですね。

F君:なんだか、燃料電池の車が信じられなくなってきた。

C先生:追い討ちを掛けるようで恐縮だが、我がプリウスのようなハイブリッド車でも、効率はガソリンエンジン車の倍ぐらいにはなる。贔屓目で30%弱ぐらいか。燃料電池車は勿論ハイブリッド車よりも効率が高いが、それでも、ちょっと高いぐらいのところで終わるだろう。となると、製造コストと効率のバランスだけを考えるのならば、当面、ハイブリッド車でも十分。日本全体のエネルギー消費を下げるという目的ならば、全車両をハイブリッド化するのがもっとも早い方法だし、安上がりかもしれない。

F君:しかし、ハイブリッド車は普通車よりも高いというではないですか。

A君:失礼ながら、燃料電池車が売り出されたとしたら、いくらだと考えていますか。

F君:メルセデスが作るのだから、そんなに安くは無いでしょうが。

B君:今メルセデスではnecar4というものができていて、これはA160を基本とする車だが、まあ、500万円を切ることは無いだろう。Aは現在、300万以下。necarは場合によっては、700万円かも。

F君:誰が買うのだろう。

C先生:またまた追い討ちを掛けるようだが、2003〜4年に、水素をガソリンスタンドで供給する体制ができるとは思えない。米国の場合には、ガソリンのパイプラインがあって、安価に輸送ができている。広いからわざわざタンクローリーで運んでいてはコストがかなわないのだ。水素をどうやって輸送するか、これが大問題だ。液体水素で運ぶには、液化が大変だから。

F君:放送では、メタノールを使った燃料電池車が開発されていると言っていましたね。

C先生:それは一つの解だ。メタノールではなくて、LNGを使うというのがもっと良いと思うが。

A君:しかし、それだと、その車は、カリフォルニアのZEVに適合しませんね。メタノールやLNGから水素を取るための装置、リフォーマと言いますが、そこからメタノール、LNGに含まれている炭素が二酸化炭素になって必ず出ますから。

F君:分かった。メタノールやLNGをタンクローリーでガソリンスタンドに運んで、そこで、水素を作ればよいのだ。そうすれば、ZEVに適合する車になる。まてよ、それならガソリンから水素を作るプラントをガソリンスタンドにつければ良いのか。でも、やっぱり妙か。車から二酸化炭素がでなくても、ガソリンスタンドから出れば環境面からは同じか。

B君:とはいっても、近所に排熱を供給することができれば、熱効率面から結構行ける。

A君:しかし、カリフォルニアの大分部は砂漠ですからね。そんなところのガソリンスタンドで熱供給というのも。

F君:難しいもんですねえ。燃料電池にすれば、すべて解決かと思っていました。

C先生:さらに言えば、メタノールの場合には、どうやってメタノールを作るか、これが問題。原料は何なんだ。天然ガスが当面の候補だろうか。RITEが提案した未来型では、二酸化炭素を液化して日本から砂漠地帯に運んで、そこで太陽光発電で水素を作って、メタノール化するというものがあったが。まあ、甘く採点しても30〜40年先のシナリオだった。
 そろそろ抜けている部分を議論して、終わろう。残っているのが、温暖化への影響だろうかね。

A君:これもどのようにして水素を出すか、で決まりますね。当面、天然ガスが原料で、これに何か細工をして、最後には水素で燃料電池というシナリオですと、二酸化炭素の放出が多いとか少ないとかいった議論は、天然ガスを直接燃やす場合との比較になる。それには、排熱利用が必須ですね。

B君:天然ガスの明るい面は、比較的資源量が豊富ということだろうな。石油が枯渇しても、しばらくはもつだろう。しかし、未来永劫もつものではなくて、50年が目処だろう。となると、いずれにしても、未来型の水素、要するに、風力とか太陽エネルギーからの水素ということになる。だから、50年後には、水素で車が走っているのは多分事実だろう。
 天然ガスの暗い面は、その採掘時に相当の二酸化炭素の同時放出があるということ。要するに、天然ガスには、二酸化炭素が大量に含まれていること。だから、これを処理しないと、なんとも妙なことになる。さらに、暗い面は、天然ガスの成分であるメタンそのものが温暖化ガスであること。しかもその温暖化係数は、二酸化炭素の11倍あるということ。採掘時にかなりのメタンが漏れていることもよく知られている事実。温暖化を考えて天然ガスに変えることで、かえって温暖化を進める可能性すらある。

F君:実用を考えると、いろいろと考慮しなければならないですね。しかし、2003年に水素燃料型の燃料電池車が走ることが無いことが良く分かりました。水素スタンドができそうもない。メタノール型になると、カリフォルニアのZEV法が変わらない限り、存在意義がなさそうですね。やはり、報道を頭から信じる訳にはいかないようですね。
 やはり、車を買い換えるときには、ホンダのインサイトなるハイブリッドでも買いますか。新千年紀を記念して。

C先生:最後に、東京都内の車を超低公害車化(=ハイブリッド車化か)する名案(迷案?)を石原知事に捧げたい。まず、環状七号線の内側は、奇数日は奇数番号、偶数日は偶数番号の車だけが走れるような法律を作る。これはシンガポールの真似だが。ただし、ある一定の条件を満足する超低公害車は、いつでも走れるようにする。ナンバーの色でも変えるんだろうな。これをやれば、超低公害車が都内で猛烈に普及するだろう。ただし、白ナンバーに限っての話で、緑ナンバーの営業車は除外だろうが。ただし、古いディーゼル車には、奇数・偶数制限を適用すると言えば、それはそれで効果がでるだろう。2007年規制を先取りしたディーゼル車には除外するのだ。
  法律は、こうやって使うと効果的。無謀だが。


付録:
A君:実は業界某T社は、燃料電池を搭載した自動販売機を開発中とのこと。

B君:えっ。「環境に良い」が謳い文句の燃料電池で、「利便性の塊」たる自動販売機かよ。それ、どこに置くんだ。

A君:いやー。山奥に置くと、飲料をどのようにしてそこまで持っていくか。ヘリコプターなら可能ですが。そこまでして、缶ジュース、缶コーヒーを飲みたいか?ですが。

B君:山奥で無いとしたら、どこだろう。うーん。初詣の明治神宮というのはどうだ。参道の両側にずらーーーと、並べる。ホットの缶コーヒーが売れそう。

A君:ホットだけだったら、燃料+電池でも行けるのでは。

B君:それじゃ、真夏のイベント。例えば、Glayが20万人コンサートをやった会場とか。

A君:そんなところでしょうか。少なくとも、深山や海岸などに燃料電池を搭載した自動販売機を置かないで欲しい。

B君:バッテリーでは持たないのだろうか。

A君:計算しないと分からないですが。少々やりますか。まず、バッテリーですが、自動車用の鉛バッテリー、50Ahだとして、12Vですよね。0.6kWhか。0.6×3600kWsecとなって、ざっと2、000kJですか。メタノールを燃料に使うとして、発熱量をざっと5000kcal/リットル。ざっくり20,000kJ。1/4が電気になるとして、5,000kJ。
これだと、鉛バッテリー1個分の電気がメタノール400mlでという勘定でしょうか。確かにエネルギーの運搬は軽い。

B君:だが、イベント会場に燃料電池付きの自販機そのものを運ぶのが相当重そうだな。そう簡単に設置したりやめたりというのには向いていない。電気がそこまで来ていれば配線した方が楽だもんな。やはり、深山幽谷に設置しておいて、缶飲料と燃料は担いで運ぶことを考えているのではないだろうか。ううーーんん。

A君:電機業界は、やはり利便性優先なのかなぁ。

C先生:さて、真相はいかに。