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久しぶりのダイオキシン 05.09.2000




 ダイオキシンの報道のトーンがかなり「普通」になってきたように思える。5月1日号の朝日新聞朝刊のくらし面で、「焚き火をどうしよう」というダイオキシン関連記事が掲載された。どちらかといえば、「焚き火復活」を主張している記事のように思える。
 AB&Cも、以前から「焚き火復活」を主張している。ただし、煙が迷惑にならない範囲でという条件付きだが。一方、地方自治体では、どうも焚き火を禁止する方向らしい。

書庫内の焚き火とダイオキシン関係の記事(いずれも書庫の表紙にリンク)
 どんど焼きと神社の対応 new01.13.1999
 誰が「落ち葉焚き」の楽しみを奪ったのか new12.29.1998


C先生:ダイオキシンの記事の書き方がかなり普通になった。この朝日新聞を例にして、久しぶりにダイオキシンの話をしてみようか。

A君:はいはい。添田孝史記者が担当の記事です。「昔ながらの焚き火まで気にする風潮が出ている。」と書いていて、どちらかと言えば、恐々ながら、焚き火を擁護しています。
 渋谷区の区立恵比寿保育園では、焼き芋会が恒例行事。渋谷区そのものは、昨年9月に23区でははじめて家庭用小型焼却炉を全面禁止にしたなど、ダイオキシン類対策には厳しい態度。相談を持ちかけられた区は、環境保全課は、「焚き火はなるべくやめてほしい」、保育課は、「葉っぱが主だし、子供も楽しみにしている」、と意見が対立。結局、「年1回なら良いだろう」との結論に落ち着いたようです。

B君:ううううん。焚き火によるダイオキシンのリスクが本当に高いのならば、年1回という結論も有り得るが、別に、月1回にしても、トータルリスクは変わらないのではないだろうか。毎日となると、ダイオキシン以外の物質の発生もあるだろうから、問題かもしれないが。

C先生:昔は、「囲炉裏=いろり」で毎日毎日焚き火をしていた。毎日ダイオキシンを吸入していたことになる。確かに、そのころ日本人の寿命も短かった。しかし、それが囲炉裏からのダイオキシンのせいなのか、それとも、感染症のせいなのか? 多分感染症の方が短い寿命の主因だとは思うが、証明は不可能。
 炭なら問題は少ないが、薪を燃やせば煙が出る。煙には、ベンツピレンを始めとする発ガン物質が含まれている。その他の有害物質も多いだろうし、化学物質過敏症で問題になっているホルムアルデヒドも生成する。だから、煙には、防腐剤としての効果があって、萱葺きの屋根が長持ちした。煙全体としてなんらかの健康影響があるのは事実だろう。
 この手の議論をすると、ゼロリスク論者は、「だから煙はダメ」という結論を出す。「最近、ダイオキシンのせいなんですが、流産が多いんですよ」、といった思いこみも多いのも、ゼロリスク論者の特徴。ダイオキシンへの暴露量は、恐らく、囲炉裏で薪を使っていたころの方が高いだろう。

A君:東京都環境科学研究所の研究によれば、小型焼却炉でケヤキの葉を燃やしたところ、1グラムのケヤキを燃やした煙から総量で0.17ng(ナノグラム)のダイオキシンが検出されたそうです。

B君:4pg(ピコグラム)/kg/日という耐用摂取量だから、体重50kgとして、200pg/日。0.17ナノグラム=170pgだから、1グラムのケヤキの葉っぱを燃やしたダイオキシンをすべて吸ってしまうと、それで、大体耐用量になってしまう。

A君:しかし、ケヤキは塩素が多いらしくて、葉っぱとしては多量のダイオキシンが出るようです。それでも塩ビを燃やした場合の800分の1だそうですが。

B君:待てよ。800分の1か。同じ重さの塩ビねえ。塩素量にすると、1グラムの塩ビの中に大体40〜50%の塩素。葉っぱには、大体0.1%のレベルだろうから、大体500倍か。概ね、塩素量に比例ということになるなあ。

C先生:「塩素量で決まる」、これが大体の原則だと思っていたら、この間、国立環境研究所の安原さんの実験結果を知って、「多少違うのか」、と思い始めた。安原さんの主張は、ダイオキシン発生には、やはりベンゼン環が必要だと言うのだ。確かに、私自身も、大分以前は、化学的常識としてそう考えていた。
 安原さんの実験は、こんな感じだ。
  ●新聞紙+食塩を燃やす=ダイオキシン大量発生。
  ●塩ビから添加物を全部除去したものを燃やす=ダイオキシン発生ほぼゼロ。
  ●ポリスチレン(ベンゼン環大量)+HClを燃やす=ダイオキシン大量発生。
  ●ポリエチレン(ベンゼン環なし)+HClを燃やす=ダイオキシン発生ほぼゼロ。
 発生したものには、確かにベンゼン環が含まれている。

A君:非常に面白いのは、「塩ビだけならばダイオキシンが発生しない」ことですね。しかし、普通の塩ビ製品になると、可塑剤にベンゼン環を含むものがあるから、ダイオキシンが発生する。

B君:木材などには、リグニンと呼ばれるベンゼン環を含んだ成分があるから、ダイオキシン発生の原因になるということでしょうかね。

C先生:どうもそうらしい。新聞紙は、メカニカルパルプだから、リグニン分を含む。通常の製紙プロセスはクラフトパルププロセスと呼ばれて、リグニンを分離しているので、そんな紙を燃やせばダイオキシンは出ないのかもしれない。

A君:話を戻して、環境庁にも問い合わせをしたところ、「積極的に大丈夫とも言えないし、だめとも言えない」という歯切れの悪い答えが返ってきたそうで。

B君:環境庁にとっては、答えにくい問題だろう。焚き火を大丈夫だといってしまえば、これまでダイオキシンだ、焼却炉だと言ってきたことの自己否定をしてしまうし、「焚き火駄目」といえば、これはこれでまた叩かれる。

C先生:ダイオキシンだけによる健康影響を考えれば、焚き火からのダイオキシン摂取量などは、知れているだろう。ダイオキシンの耐用摂取量(ダイオキシン体内負荷量の考察 new06.27.1999、表紙へリンク)のところで解説したように、耐用摂取量の2000日分といった大量のダイオキシンを摂取したところで、繰り返し摂取をしない限り、すぐ害がでるというものではない。しかも、その害というものが、生殖毒性に限定されていると考えられるので、本当に気にしなければならないのは、若い女性。しかも、受精後4ヶ月経過してしまえば、もうあまり問題ではないかもしれないので、近未来に妊娠の可能性のある女性だけだろう。ダイオキシンの体内代謝は遅いので、急にダイオキシン摂取量を減らしても駄目なんだ。

A君:それに、煙が駄目なら、毎回の主張を繰り返しますが、タバコをなんで吸っているのだ。これですね。葉っぱの種類によって塩素含有量は違いますが、タバコの煙は、まさにそれを吸う目的の煙。焚き火の煙なら吸わないようにする。この差がさらに大きい訳ですから。若い女性の喫煙は禁止!!

B君:朝鮮焼肉の煙だって、秋刀魚を焼く煙にだって、ダイオキシンが含まれているに決まっている。焦げた肉は、昔はガンの原因だと言われた。その学説は今は消えたようだが、ダイオキシン含有ということは事実だろう。

C先生:結論にするか。
 焚き火の煙を、「ダイオキシンを含むから」といって避ける必要は特に無い。焼き芋やるべし。焚き火をやるという行為自身、人類が長期間に渡って経験してきた「生きる能力の証」としての行為のように思える。焚き火を上手く燃やすことのできる子供を育てることが、恐らく、健全な子供を育てることと同義だろう。だからといって、煙は別の意味で迷惑でもある。都会では難しいと考えることに、そこそこの合理性はある。田圃で稲わらを焼くことは、栄養素(主としてカリウムとシリカ)を大地に戻す行為でもある。なんでも焼却炉で燃やすという行為は、ますます人類を自然から離すだけだろう。

A君:環境教育的発想ですね。しかし、この記事の最後のところで、焚き火を環境教育と考えている「ぱあぴ連」事務局の人の発言、「石油など地下資源を燃やすのに比べたら、昔からの循環型資源である薪の方が安全だと思いませんか」、これはどうです。

B君:やはり安全かどうかという議論だな。なんだか、この連中も「ゼロリスク指向」のように思える。この「ゼロリスク指向」が焚き火を危機的状況にした張本人なんだ。「石油だって天然資源だ」、という発想にならないものだろうか。

C先生:その発言の裏に潜んでいる「化学工業に対する反感の強さ」も、実際余り合理的では無いのだが、「それに対する化学工業側の反応の鈍さ」がさらなる問題だ。このあたりを根本的に変えないと、「石油だって天然資源だ」という理解にはならないだろうな。