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遠赤外線筆記用具のウソ 07.28.2002 朝日新聞:筆記具も「癒やし系」記事批判 |
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”筆記具も「癒やし系」”は7月27日の朝日新聞朝刊の記事(宮崎太介記者)である。本HPは、この記事を批判しこきおろすのが目的である。もともとは、「今月の環境」のために書き出したものだったが、長くなったので、通常記事にすることにする。 ”筆記具も「癒やし系」” 朝日新聞 宮崎太介記者。 「これだけ健康を求める時代なのだから、筆記具にも、握りやすい、書きやすいという以外の提案をしてほしい」 ゼブラは、1年以上研究をした結果、今春、「遠赤外線効果で疲れを癒やす」ボールペンとシャープペン、「サーモアルファ」を発売した。遠赤外線を出す鉱物トルマリンを粉末にして握り部分に練りこみ、指を暖めて血行を促進、疲労感を軽減するという。 クツワ(大阪)も、握りの部分にマイナスイオンを発生する天然鉱石を練り込み、「使えば心身をリラックスさあせる」ボールペンとシャープペン、「ドクターイオン」を発売。今も生産が追いつかない。 この後、三菱鉛筆のウイスキー樽として使われたオーク材をペン軸にした「ピュアモルト」の話が続くが、この項はまとも。 C先生:今回のマイナスイオン騒ぎで、ほとんどすべての新聞の取材を受けたが、朝日新聞への情報の伝達が十分ではなかったようだ。朝日なる大新聞が、こんな詐欺の片棒を担いではいけない。 A君:クツワの天然鉱石を含む商品は簡単。放射性物質を含んでいて、本当にマイナスイオンを出しているか、さもなければ、マイナスイオンを出していないというインチキ商品のいずれかです。 B君:トルマリンとマイナスイオンの関係は、かなりインチキを暴いたつもりだが、トルマリンと遠赤外線とのウソは、暴き方が不十分だったのかもしれない。 A君:ゼブラが1年間かけていたという研究ですが、そもそも何の研究をやっていたのでしょうね。もっとも、電機会社がマイナスイオンを研究したのも同じような程度ですが。 B君:ウソとマコトの限界、あるいは、ウソと未確認との境界がどこにあるか、どこまでウソをついても、世の中から非難を受けることが無いか、それを研究したのだろう。 C先生:ゼブラのような全国ブランドを作っているメーカーまでが、このところ平然とオカルト的嘘をつく時代になったということを朝日新聞はまだ認識していないようだ。 B君:マイナスイオンなどに参入してくるのが一流企業であることに、怖さを感じる。この世も終わりなのではないだろうか、という恐怖だが。 A君:技術者が、技術者として倫理的な問題を全く感じなくなっている。開発を行っている技術者が、売れれば良いという、現在の市場原理に盲目的に従っている。これは、人類社会自己崩壊の悪いきざしですよね。 C先生:そうだ。マイナスイオンの批判は十分にやったが、これまで遠赤外線のウソについて、キチンとした説明をしてこなかったのが悪いかもしれない。多少長くなるが、やるか。 A君:しらべてみたら、本HPも肌着の記事で遠赤外線の説明をしていますが、再度、やりますか。 C先生:再録しつつ、なぜ、ボールペンで遠赤外線効果が効くはずが無いか、その説明をすべきだろう。 A君:遠赤外線ですが、これは、実在します。トリマリンは本当に遠赤外線を出しますが、しかし、効果は無いのです。また、ほとんどすべての物質は遠赤外線を出しているのです。では、再録します。 B君:一応理論を出してみる。黒体輻射というものがある。温度の高い物体は、光を放出する。完全に黒いものなら、それが何であっても、放出する光の分布は決まっている。それを完全黒体と呼ぶ。太陽も一種の黒体であって、約5800Kという温度なもので、可視域に最大のエネルギーをもった光を放出している。このお陰で、地球上の昼間は明るい。 A君:放射の最強波長λm[μm]と放射温度T[K]の間には、 λm・T=2900 の関係があり、これをウィーンの変位則といいます。太陽の場合 T=5800K とすると、λm=0.5μmで、可視光線に相当し、地球の場合はT=288Kをいれれば約10μmで、遠赤外線に相当します。 B君:体温だって同じで、37度だとすれば310Kだから、9.35μにピークがある遠赤外線を体の表面から出している。問題は何かといえば、常温程度の温度だと、その赤外線の強度は極めて弱くて、熱の伝達にとって、余り重要ではないということだ。熱は、通常、伝導、対流、輻射ということなった3種のメカニズムで伝達されるが、常温だと、対流と伝導が主たる方法になる。輻射の寄与は少ない。 A君:以上が、肌着のところで述べたもの。 B君:今回は、ボールペンに適用して、ゼブラの「サーモアルファ」がどんな理論なのかを推定してみよう。 A君:その前に、Webを調べましょう。http://www.zebra.co.jp/pro/thermo.html B君:説明文は、こんな風になっている。 ・遠赤外線は熱くはありませんが、分子にエネルギーを与えて自己発熱させる作用があります。遠赤外線を身体に取り込むと細胞や体液の分子に共振運動が起こり細胞を活性化し、血行を促進させ疲労感を軽減します。 A君:「分子にエネルギーを与えて自己発熱させる作用がある」。これが、Webのサーモグラフで主張していることのようですから、これをまず検証しましょうか。まず、遠赤外線は、温度と密接な関係があることは、再録部分で述べた通りですが、ボールペンと手との関係を次のような図で表現しましょう。
B君:温度が低いものから、温度が高いもの、今回の場合には、ペンから手への熱の移動は、物理的原則に反するので、行われない。勿論、ペンからも遠赤外線は出ていて、手に到達しているのだが、手の方が温度が高いものだから、手からペンへのエネルギー伝達量に比較して常に少なくて、たとえ、ペンから手への遠赤外線によるエネルギー伝達が起きたとしても、全体的な熱の移動に影響を与えることは無い。勿論、遠赤外線が生理作用を与えるような量では全く無い。 A君:それでは、なんでこんなサーモグラフのような状況が起こりうるのか。このサーモグラフの示すようなこと、すなわち、手の温度がもともとの手の温度よりも高く保てるというのなら、それは、このペンが自己発熱をしていて、手よりも温度が高くなっている場合。 B君:それ以外は、手はもともとの体温よりも下がっているのだが、さがる程度が少ないという場合だ。それには、比較に使用したペンが熱を奪うペンであるのに対して、サーモアルファーなるペンの表面が断熱性が高くて、ペンへの熱伝達が少ない場合。もう一つは、比較したペンの熱容量が大きくて、大量の熱を手から奪うのだが、このサーモアルファーなるペンは、熱容量も低くて、手からペンに伝達する熱量が少なくて済んだ場合。これ以外には無い。 A君:要するに、ペンから遠赤外線がでて、これがいくら手に作用したとしても、手を温めることはありえず、手の温度低下が通常のペンの場合よりも少ないかどうかが決定する現象で、それは、ペンの熱伝導率、ペンの熱容量、この2つで説明できる現象でして、ペンが遠赤外線を出すかどうかなど、全く無関係。極めて単純な物理現象で説明可能。 B君:要するに、なぜこんな現象が起きるか、情報を完全に与えなければその詳しい内容は分からないが、消費者の目から見て何か体に良さそうな妙なことが起きているように見える現象を探し出して、そして商品化しよう、という見破られにくいインチキの研究をやっていたことになる。 A君:それ以外の少ない可能性として、もしも、練りこんだトルマリンが放射線を出している場合には、手の温度の上昇を説明できるかもしれない。 B君:最近、その種の放射性トルマリンを使ったものが多くなってきているのかもしれないのだ。全商品を買い集めて、放射線の測定をしてみる必要があるかもしれない。なぜなら、場合によっては、健康どころの騒ぎではないから。それこそ、不法行為である可能性もあるので。厚生労働省ではなくて、文部科学省(旧科学技術庁)の範疇だが。 C先生:結論は、毎回同じになる。トルマリンは、全くのインチキか、もしもインチキでなく、効果があるとしたら、放射性のトルマリンを使っている場合だ。 B君:いずれにしても、今回のゼブラの「サーモアルファー」も詳細不明・理屈不明ながら、なんだか効きそうだから商品化してみた。 A君:それは、電機会社がマイナスイオン商品を出すときと全く変わらない発想。 C先生:簡単な物理現象の説明ができない人がゼブラの開発陣だということになる。どんな方々かお会いしてみたいので、もしゼブラ関係の方がこれをお読みになったら、コンタクトをお願いします。お待ちしております。 A君:Webには詳細説明というところがあって、それには次のような文章があります。 ・トルマリンは天然の鉱石です。1880年に、ノーベル物理学賞で有名なキューリー夫妻の夫ピエールが、トルマリン結晶に外部から圧力を加えると電荷(電気)が生じることを発見し、「電気石」とも呼ばれています。また、外部から圧力や熱が加わることで遠赤外線も発生します。 ・遠赤外線とは、4〜50ミクロンと最も長い波長の電磁波のことで、アメリカ航空宇宙局(NASA)などの研究により人体に良い作用をすることが分かっています。 ・皮膚の下40〜50ミリメートルまで達し、人間の細胞を共振させ、深い内部から加熱します。すなわち身体を芯から温め、微細血管の拡張、血液循環の活性化、新陳代謝の強化などで疲れを癒す効果があるといわれています。 ・サーモアルファのグリップにはトルマリンを粉末状に砕いたものを混ぜ込んであります。グリップは老朽化するまで半永久的に遠赤外線を出します。 ・ただし効果は使う人や状況により差がでますのでご了承下さい。 B君:トルマリンとキュリー夫妻の話。遠赤外線とは全く無関係なのだが、権威を使って、信頼性を高める方法を採用している。このあたりの知恵は、広告会社が関与しているのだろうか。 C先生:そのあたり気になるから、少々広告系の企業の誰かに聴いてみるか。 A君:遠赤外線が人体に作用すれば、それは、血行を良くすることもありますが、それは、遠赤外線を出す側の温度が、人体よりも高い場合。例えば、300度とか。今回のように、手よりも温度の低いペンが出す遠赤外線が、なんらかの生理作用を持つことは無いのです。 B君:ただし、効果は使う人や状況によって差が出ますのでご了承下さい、となっているところがインチキ商品を物語っていて、なかなか面白い。 A君:遠赤外線の生理作用ということでWebに出ている効果を集めると、次のようなものが有ります。 生体生理活性
A君:結局ほとんど眉唾ではないですか。 C先生:朝日新聞の宮崎太介記者へ。インチキとホンモノを見分けるには、多少の理科的素養が必要だが、あなたのご専門は? もしも科学系に自信が無いのなら、科学部に相談してから書くこと。最近は、一流メーカーが平気で嘘をつく時代なのだから。 |
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