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   貧困と環境  10.21.2001




 今週の環境に書いたように、10月12〜14日には、GEA地球警鐘会議なるものが、東京プリンスホテルで開催され、個人的には、第二分科会に参加したが、そのグループの課題は、「アジア太平洋地域における持続可能な発展 その現状と将来展望」であった。このWGは、1日目の午後全部、2日目の午前中と行われたが、どのような議論が行われたかをまず記述し、その後、考え方をまとめてみたい。


まず、5名のプレゼンテーションが行われた。
プレゼンテーションリスト
(1)中国全人環境与資源保護委員会主任 曲 格平教授 
(2)インド・タタ・エネルギー研究所長、ラジェンドラ・パチャウリ
(3)ESCAP環境天然資源開発部長 ラヴィ・ソーニー
(4)カザフスタン・中アジア地域環境センター所長 プラト・イェセキン
(5)東京大学生産技術研究所教授  安井至

その概要は以下の通りである。

(1)「ゆるぎないアジア・太平洋地域発展におけるパートナーシップ」
         曲 格平教授(中国全人環境与資源保護委員会主任)

趣旨:経済発展と環境保護は密接に関連しているものである。アジア・太平洋地域における経済発展に注力する際、環境問題にも同様に注力すべきである。

アジア・太平洋地域内の国は様々な発展段階にある。各国は、それぞれ違った経済構造や環境政策を持つと同時に、違った環境問題を抱えている。しかし、原因は似たり寄ったである。

まず、人口の増大が環境悪化の重要な要因である。次に、無理な開発もしくは低開発が、環境劣化の原因である。第3に理にそぐわない通商システムである。

どの国にとっても、自国の経済発展と環境保護を誰の助けもなく成し遂げるのは、たやすいことではない。効果的な国際協力とすべての国や地域による相互努力によってのみ、われわれはこの地域における環境・開発問題の解決を図ることができる。


(2)貧困と環境  
   インド・タタ・エネルギー研究所長、ラジェンドラ・パチャウリ

 アジア大陸には、貧しい人々がもっとも多く居住している。全体的には急速な経済発展を遂げているにも関わらず、アジアでは合計約10億人が貧困状態にある。この貧困状態を傍観することは、反倫理的である。また、貧困層は、天然資源を非持続的な形で利用しなければ生存できないので、周囲の環境を破壊する可能性がある。このような事実からも、貧困解消を行うことが必須である。

 啓蒙活動を通じて、貧しい地域において技術と技術革新の成果を普及させるという方法がある。それらの地域の能力開発が必要である。これを援助するプログラムも企画されている。

(3)21世紀におけるアジア太平洋地域の持続可能な開発に関する課題と展望
          ESCAP環境天然資源開発部長 ラヴィ・ソーニー

アジア太平洋地域は、世界でもっとも急速な成長を遂げている。生態系的にももっとも多様性に富む地域である。最大の課題は、9億人の貧困層を改善することである。

天然資源消費型の経済成長は、過去20年間で4倍の規模になっている。ある程度は貧困の解消に貢献してきた。ただし、アジア太平洋地域の天然資源が大量に失われていることも事実である。資源利用の効率性(環境効率)が欠如しているので、GDPの産出量に対するエネルギーや水といった天然資源の使用量が増え、環境が悪化している。

これを改善するには、やはり国際的協力が必要である。


(4)持続可能な開発 −未開発の可能性
   カザフスタン・中央アジア地域環境センター所長 プラト・イェセキン

開発問題
−部門的利益と領域的利益との均衡が取れていない
−政府高官や経済界の短期的利益が重視され、管理システムが不安定
−開発に関する共通目標の欠如

持続可能な開発い向けた施策案
−社会・環境資本を取り入れて生態系に基づく領域的管理体制に移行する
−経済指標を修正し、市場システムを改革することで、生活圏における経済法則と自然法則を調和させる
−国連の名の下に、天然資源利用者との長期的な契約に移行
−環境スペースと開発の制約条件を評価し、国連の資格で共通目標と保護区制度を明確化する(国際的利益)
−これまでのソビエトの制度から受け継いだ仕組みからの脱却


(5)資源・エネルギーの観点からみた持続可能性 安井 至
     省略


C先生:これまで、環境問題を考えるときに、地球レベルからの考察によって科学的に導かれる結論に従う責任が先進国にはある。すなわち、地球の持続可能性をいかにして確保するか、それは、資源・エネルギーの主たる消費者である先進国の責任である、という立場でしかものを考えてこなかった。

A君:環境問題といっても、様々なものがありますが、地球全体の持続可能性に関わる問題として、消費型環境負荷の問題やフロン、POPsなどの問題がありますが、それ以外の問題、特に、地域環境汚染とその人体影響といった問題は、そもそも国内問題なのではないですか。

B君:われわれはもともとそういう考え方だ。日本が水俣病などの被害を出してしまったのも、実は、世界に適当な先例がなくて、あるいは認識がなくて、あんな状況を招いてしまった。ところが、現時点は情報化の時代であって、発展途上国も、日本の産業公害の歴史を十分に知りうる立場にある。このような状況でどのような環境対策をとるかということについては、それは、まさしくその国の政府の責任であって、われわれが口を出すような問題ではない。

C先生:次の図は、いわゆる環境クズネッツカーブに属するものだと思われる。要するに、どの国でも経済成長を遂げると、この場合には、SOxの濃度だが、かなり低いレベルに戻すことができると思われる。普通のクズネッツカーブにはカーブが一本しか書いてないが、実は、そのカーブは複数本ありうる。恐らく、図のように、何本ものカーブが存在していて、それは、経済と環境とをどのぐらいのバランスで考えるかによって、どのカーブに乗るかが決まる。環境を考えすぎると、経済の発展が遅くなるといった副作用が無い訳ではないが、適切なバランス政策をとることによって、汚染のピークを下げることができるのだ。



A君:だから、それは、それぞれの国の政府がどのような政策をとるかが問題であって、「環境問題は国内問題である」、ということになる訳ですね。

C先生:これまでは、そのように考えてきた。ところが、今回の「貧困と環境」の主張をしたパチャウリの講演の意図は、「そのようなことが考えられるのは、ある程度の経済的な実力が備わってからであって、現在、世界中の注目を集めているアフガニスタンのような最貧国では、何も政策をとりようが無いぐらい貧しく、その場合には、援助が必須だ」、ということなのだ。

B君:西欧流人道主義の立場からは、当面人命が危機的状況にあるから、それは援助すべきだということになるな。

A君:食糧援助というものも同じような考え方からなされるのが一般的で、人命最優先で援助がなされるのです。しかし、食糧援助が行われると、多くの場合に、「飢饉になって援助して貰ったほうが、食の状況が良い」、という経験を住民に与えてしまって、自律的に食糧を生産しようという意欲を失わせることが多いらしいです。

C先生:今回議論していたのが、持続可能な発展であって、そのためには、とにかく自律的な発展をしようとする意識がもっとも重要なんだ。援助は「両刃の剣」であって、必ずしも良いことばかりではない。

B君:しかし、最近のアフガニスタンの映像などを見ると、山にはほとんど緑が無くて、あれでは、もっとも基本的な持続可能型の産業である農業ができない。確かに、あれでは、いくら意識があったとしても、自律型社会を構築できる訳も無い。

C先生:パチャウリはもともとインド人だ。彼に聞いたら、昔は、アフガニスタン産のドライフルーツのようなものがインドにも輸出されてきていたらしい。そのときには、勿論、農業がある程度持続的に成立していた。しかし、その後の内乱によって、現在のような国土の状況になってしまって、こうなると、降雨量も減るし、土壌の劣化もひどい状況になるから、今や、農業を再生するのは不可能ということになる。

A君:アフガニスタンだけではなくて、実際問題、中国の黄土高原の土壌の状況だって似たようなものですね。

B君:それが曲教授のような主張、「効果的な国際協力とすべての国や地域による相互努力によってのみ、われわれはこの地域における環境・開発問題の解決を図ることができる」、の元になるのだろう。しかし、実際のところ、この主張はふざけている。現在の中国の経済発展は実に順調のように思える。そのお陰で、日本は雇用不安が出ていると行っても間違いではない。中国は、自国を「海岸国」と「内陸国」に二分して、そして発展をするという戦略のように見える。そして、内陸国については「貧困と環境」の問題を自力では解決しようとしていない。

C先生:半分ぐらいは同意できるのだが、そのような主張をGEA会議のような場で行うのは、実はなかなか難しいのだ。しかし、今回のWGの主査は広中和歌子参議院議員(元環境庁長官)で、驚いたことには、かなりマイルドな表現にはなっているのだが、「中国ぐらいになれば、自律的に環境を考えることができるはずだ」、という主張をした。この会議では、大部分の意見の表明は英語で行われていたのだが、このところだけ、日本語になった。恐らく、より正確な表現をしたかったためだろう。

A君:日本からの援助といえばODAですが、これが、どのような本音をもってでどのような実体で行われているのか、これも問題です。やはり、日本の産業活力を高めるために、海外に無理やり日本の都合で製品を売るといった考え方もあったようです。

B君:やはりODAも最貧国を対象とした完全無償援助と、NGOなどによる技術移転とを組み合わせた形を指向すべき時代にはなったようだ。

C先生:最も重要なこと、それは、アフガニスタンのような国土の状況にしてしまったら、回復不能だということ。これを知識として最貧国に伝達すること。やはり、持続可能な農業が行えること、これが基本中の基本。

A君:そして、GEAの会議の結論はどうなったのですか。

C先生:それがまあ最初から決まっているようなものなのだ。だから、このような会議をやってもやらなくても、結論は決まっているように見える。
 報告書を作る。それは、数章からなるが、まず、序章では、この地域の持続可能性は、いくつかの国で危機的状況にあることを指摘する。そして、次の章以下で、対策を述べる。持続可能な発展にとって、経済的援助が最貧国を対象とすれば重要。その他、教育、健康、環境上の貢献も重要。その地域の資源、水、新エネルギー、土地の劣化、海洋汚染、などの状況に応じて、適切なプランを作る必要がある、と主張し、そして、次の章で、まあ20年後のゴールを定め、努力をする、といった結論になる。そのために、研究がまだまだ重要だし、各国の技術などの情報バンクや、各国のネットワークを作る必要がある。そして、なんらかの大規模でない先導的なプロジェクトを行うことで、その具体化をしよう。

A君:確かに、何を議論しても出そうな結論ですね。

B君:やはりやれることは限られているし、日本と途上国のいずれもが、それぞれの国益を中心でものを考えているから、落としどころはそんなもんだろうな。

C先生:正直な話、今回のGEAのような会議には、技術屋は出ても存在する場が無いような感じを受けた。ここは交渉の場であって、学問の場でも、哲学の場でも、勿論、技術を議論する場でもなかった。
 このような問題について、今後も、機会があればまた考えてみたいが、当面の目標はやはり先進国たる日本が、どのような未来の環境を目指して努力をすべきか、といったところに本HPは注力をしていきたい。

E秘書:遅くなりましたがお茶。話をちょっと聞いていると、日本のような国は、過度の快適性、完全ゼロリスクばかりを追いかけていては駄目だということですね。「浪費の先に見えた理想世界」という新しい実現目標と価値観を見つけて実行しない限り、先進国が考え出した「地球への警鐘」に途上国は乗ってこないですよ。