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環境読み書きソロバン術 2000.01.16




 滋賀県からのお招きによって、市民講座で「環境問題に対応するための読み書きソロバン」と題して、講演をさせていただくことになった(1月21日夜19〜大津)。先方の「極めてやさしく」というご注文にどこまで応じられるか、その試みを行うことにした。そのために、C先生が考えた「講演戦略メモ」をまず掲載する。


「環境問題に正しく対応するための読み書きソロバン」メモ

1.環境問題対処法の基本
 環境問題に適切に対応する基本は、「頭から信用しない」、「疑問をどのようにぶつけるか」、「どこまで問答を続けるか」だろう。これが可能になるだけの、読み書きソロバン能力を身に付けることが必要。

1−1.疑問の種類
 「なぜ?」、「どうして?」、「どのように?」、「何が違う?」、「その意味は?」、「根拠は?」、「どのぐらい重大?」、「他に無いの?」、「どうやって求めたの?」、「どうやって比べるの?」、「別の方法は?」、「それ以外には?」、「xxxとは違うのか」などなどの質問を「とことん発する」こと。

1−2.問答の終結条件
 問答を止めて良いのは、問答が「環境影響の最終的な行き付く先」である、「人体への影響」、「生態系への影響」、「社会資産への影響」に繋がるまで。

2.環境影響の行き着く先の構成

2−1.「人体への影響」の構成
 これは次の3種のいずれか
  急性毒性:含む亜急性毒性
  慢性毒性:含む発ガン性
  生殖毒性:含む催奇形性

 急性毒性は、
   被害=摂取量×毒性の強さ
 
 慢性毒性は、体内蓄積量で決まる。
    体内蓄積量は半減期と毎日の摂取量で決まる。
    
2−2.「生態系への影響」の構成
 余り良く体系化されていないが、次のようなもの。
   複数の動物・植物の絶滅
   繁殖能力への影響
   原生林などへの影響
  
2−3.「社会資産への影響」の構成
 これも現状では体系化不充分。しかし、次のようなもの。
   地下資源の減少
   経済システムへの影響
   社会資本への影響
   不公平性による社会不安の増大
   社会コストへのただ乗り
   未来世代への影響


A君:少々質問があるのですが。まず、ゴールは分かったのですが、出発点はどんなところから始めるのでしょうか。

C先生:それは、どんな形でもよい。いかなる形でも問題意識があれば、それを出発点にできる。後で例を考えよう。

B君:「社会資産への影響」というのは、普通で無いですよね。普通なら、資源・エネルギーの枯渇、社会コストへのただ乗りの2点ぐらいを別々に考えるのでは。

C先生:どうも、日本のスタンダードがそうなりそうなので、早速採用したという「先取り」だ。少々使って見て、使い勝手をチェックしたい。

A君:その「社会資産への影響」ですが、政府が言っている循環型経済社会への影響といった項目が無いと、リサイクルなどへの好影響、悪影響が議論しにくいのではないですか。

C先生:いや。いつも言っていることだが、「循環型にする」のは手段であって、目的ではない。したがって、最終的な影響の行き着く先ではない。

A君:それでは、想定問答をやってみますか。

B君:受けて立とう。

C先生:それでは、「塩化ビニル電線は環境に悪く、塩ビを使っていない(ハロゲンフリー)電線=エコ電線はエコか」を題材に問答をやって見てくれ。
この手の問答は、「なぜ、塩ビを使わない電線はエコなのですか?」「それは、塩素などのハロゲン元素を使っていないから」、としばしばこの2行だけで分かった気になって終わる! 特に、ビジネス社会では、その傾向が強い。ときに、市民運動でもその傾向が強い(?!)ようだ。 
そこで終わってはいけない! 問答終結条件を満たすまでやるべし、といった見本を示してくれ。

以下:A&Bによる想定問答。


質問:「なぜ、塩ビを使わない電線はエコなのですか」
回答:「塩素などのハロゲン元素を使っていないからです」
質問:「なぜ、これまでの電線にはハロゲン元素が使われていたのですか」
回答:「難燃性が優れていたからです」
質問:「なぜ、優れているものを止めるのですか」
回答:「ハロゲン元素は、最近では嫌われているからです」
質問:「なぜ、嫌われているのですか」
回答:「それは、燃えるとダイオキシン類を出すからでしょう」
質問:「なぜ、ダイオキシンがでるのですか」
回答:「有機物が不完全燃焼をするときに、塩素分があると出るようです」
質問:「なぜ、電線が燃えるのですか」
回答:「焼却されるからです」
質問:「なぜ、焼却されるのですか」
回答:「そのまま埋立すると、かさばるからです」
質問:「焼却しない方法は無いのですか」
回答:「リサイクルするという方法があります」
質問:「なぜリサイクルを優先しないのですか」
回答:「リサイクルコストが高いからです」
質問:「リサイクルすれば、ダイオキシンは出ませんか」
回答:「出ません」
質問:「リサイクルをすれば、ハロゲン元素は問題ですか」
回答:「問題は無いです」
質問:「同じ用途に多くの材料が使われると、リサイクルの邪魔ですね」
回答:「そうも言えます」
質問:「塩ビはリサイクルに適していますか」
回答:「そうです」
質問:「となると、電線は塩ビでも問題が無いように思えますが」
回答:「塩ビには、いろいろと有害添加物が含まれています」
質問:「どのような添加物ですか」
回答:「安定剤といって分解を防止するもの、可塑剤といって柔らかくするものなどです」
質問:「それがどのように有害なのですか」
回答:「安定剤には、昔は鉛やカドミウムの化合物などが使用されました」
質問:「昔ということは、今は?」
回答:「今は、亜鉛やカルシウム系のものになりました」
質問:「それは危険ですか」
回答:「かならずしも。しかし、可塑剤にフタル酸エステルが使われています」
質問:「それは有害ですか」
回答:「フタル酸ジエチルヘキシルは、発ガン物質のA3に分類されています」
質問:「A3とはなんですか」
回答:「動物実験で発ガン性が認められているが、ヒトに対する発ガン性の危険性は考えにくいものです」
質問:「ヒトに対して考えにくいのなら、ヒトには危険性は極めて低い」
回答:「そうかもしれません」
質問:「それ以外に何か」
回答:「火事の際にダイオキシンなどがでます」
質問:「火事のときのダイオキシンはどのぐらい重大ですか」
回答:「一酸化炭素の方が重大です」
質問:「火事といった特殊な状況を考えることは重要ですか」
回答:「好みの問題かもしれません」
質問:「一般論で、ダイオキシンの有害性はどのぐらい重大ですか」
回答:「急性毒性はサリンの2倍と言われます」
質問:「サリンはどのぐらい毒性が強いのですか」
回答:「半数致死量が体重1kgあたり数マイクロgです」
質問:「日常的な物質の毒性の例を上げて下さい」
回答:「ヒ素とか青酸カリは数ミリg/kgです」
質問:「サリンより弱いことは分かりますが、余り日常的ではありません」
回答:「それでは、カフェインは220ミリg/kgです」
質問:「コーヒー1杯中のカフェイン量は」
回答:「100ミリgより少ないぐらいです」
質問:「体重50kgの人が死亡するには、コーヒー何杯ですか」
回答:「計算上は110杯になります」
質問:「ダイオキシンは食物にどのぐらい含まれていますか」
回答:「魚や肉、卵や牛乳に多いです。日本人の平均摂取量は、1日あたり150ピコg程度ではないでしょうか」(このあたりの事情は、99年の記事ダイオキシンサマリー(摂取量)  new07.15をご参照下さい。書庫の表紙にリンクします
質問:「ピコとはどんな単位ですか」
回答:「10のマイナス12乗を言います」
質問:「体重50kgの人が死亡するには、何日分の食料を食べることになりますか」
回答:「100万日分です」
質問:「それは何年分ですか」
回答:「2700年分です」
質問:「コーヒー1杯の方が危険のように思えますが」
回答:「急性毒性としてはそうかもしれません」
質問:「それ以外にはどのような毒性がありますか」
回答:「ダイオキシンは発ガンに関係する物質だと言われています」
質問:「どのように関係するのですか」
回答:「現時点では、発ガンプロモータ、すなわち、ガン発生したら、それを増やす効果があるようです」
質問:「発ガン物質とは違うのですか」
回答:「発ガンイニシエータとは違います」
質問:「ダイオキシンのそれ以外の毒性は?」
回答:「生殖毒性といって、赤ちゃんに異常を引き起こすことがあります」
質問:「どのような異常ですか」
回答:「行動が多少おかしい、生殖器の機能に異常がでるとか、あります」
質問:「どのぐらいの量で異常が出るのですか」
回答:「量では決まりません」
質問:「何で決まるのですか」
回答:「体内蓄積量で決まります」(このあたりの議論は、昨年のダイオキシン体内負荷量の考察 new06.27記事を参照して下さい。書庫の表紙へリンクします。
質問:「誰の体内蓄積量ですか」
回答:「母親の妊娠時の体内蓄積量です」
質問:「ダイオキシンは蓄積するのですね」
回答:「そうです」
質問:「蓄積するだけですか」
回答:「勿論、時間がたてば体内蓄積量は減ります」
質問:「何年で減るのですか」
回答:「半減期は7.5年ぐらいです」
質問:「半減期とは何ですか」
回答:「その物質の濃度・量が半分になるのに要する時間です」
質問:「どのように減るのですか」
回答:「7.5年で半分に、15年で1/4になります。22.5年で1/8、30年で1/16です」
質問:「でも毎日ダイオキシンを摂取していますよね」
回答:「そのような場合には、長期間取りつづけると体内蓄積量がある一定の値に近づくことが知られています」
質問:「どのぐらい溜まったら悪いのですか」
回答:「体内蓄積量が86ナノg/kgぐらいになると、影響が出るとされています」
質問:「ナノとはどんな単位ですか」
回答:「10マイナス9乗です」
質問:「86ナノg/kgになるには、毎日何グラム摂取することになりますか」
回答:「計算をしますと、43ピコg/kg/日となります」
質問:「その10分の1の毎日4.3ピコg/kg摂取すると、蓄積量はどうなりますか」
回答:「10分の1ですから、蓄積量も10分の1です」
質問:「10分の1なら安全ですか」
回答:「そう考えられているようです。そのため、4ピコg/kg/日を耐用摂取量と呼びます」
質問:「ある日、かなり大量のダイオキシンを摂取した場合にはどうなりますか」
回答:「勿論量によります。耐用摂取量の100倍ぐらいまでなら、蓄積量がその分増加しますが、すぐ危険ということはありません」
質問:「だとすると、火事のときにダイオキシンを摂取したとして、影響はでるのでしょうか」
回答:「出るとは考えにくいです」
質問:「他に何か?」
回答:「世の中では、ダイオキシンによって赤ちゃんの死亡率急増といった記事が出回っています」
質問:「それは真実ですか」
回答:「実は、統計的にはなんとも怪しい代物です」(このあたりの詳しい事情は、99年記事所沢赤ちゃん死亡率の実像 new09.08をご覧下さい。書庫の表紙にリンクします)
質問:「妊婦以外への影響をどのぐらい考えるべきですか」
回答:「男性への影響は、確実なところは未解明です。しかし、動物実験では相当な高濃度ですと、遺伝的に影響が出るようです」
質問:「ヒトの場合はどうですか」
回答:「通常の摂取量では有り得ないでしょう」
質問:「催奇形性があるというのは事実ですか」
回答:「未解明ですが、かなり可能性は低いでしょう」
質問:「それなら、脱ハロゲンの電線の意味はなんですか」
回答:「実は、回答不能です」
質問:「リサイクルの義務化を避けるための免罪符ではないですか」
回答:「そう言われたくはないですね」

C先生:以上のような議論がどのように行われたか、それを図示すると、図1のようになっているようだ。この図だけですべての議論を尽くした訳ではない。しかし、図に書くことによって、どのような経路で議論が行われたか、分かることは抜け落ちのチェックにも有用だろう。実際問題、まだまだ議論すべき項目が残っているが、今回はこれにて。