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再生塩化ビニル製品とエコマーク  01.09.2000




 エコマークは、環境庁のお墨付きの一つである。環境負荷が低いことを表示し、その商品の販売推進を狙うものである。そこに今一つ問題が起きている。エコマークの一つに、リサイクルプラスチックを100%使用した製品というものがあるが、そこに、再生塩化ビニル100%使用の製品が申請された場合にどうするか、という問題である。エコマークについては、全く部外者だが、個人的な感触では一点評価主義というか、「ある一つの点で環境負荷が低いと認定されれば、それはエコマークの資格がある」という判断基準ではないかと思われる。ただし、「その製品が望ましくない環境特性をもっている場合には、それを理由に資格が喪失する可能性が高い」、のだろう。さて、この問題を議論してみよう。


C先生:プラスチックのリサイクルが上手く回らない。特に、消費者の手を経由したリサイクルになると、なんとかなっているのが、ペットボトルが少々、そして、ポリスチレン(トレーなど)も少々。とういうことで、大部分のプラスチックゴミは焼却されているか、あるいは、埋立てだ。

A君:家電リサイクル法では、現時点ではマテリアルレベルでのリサイクルだけがリサイクル率の勘定に入るので、大変ですよ。表示を完璧にやっておけばなんとかなるのですが。

B君:単にプラスチックの種別が分かっても再利用は難しい。重合度や添加物まで同じ表現できるコードを決めないと駄目だな。

C先生:要するに、プラスチック製品は、現状では、再利用・リサイクルのことを考えないで作られている。これがゴミ問題では、プラスチックが問題児になっている理由だ。

A君:という訳で、再生プラスチックを100%使用した製品にはエコマークという発想になるわけですね。

B君:そうなんだけど、ペットボトル、ポリスチレンを除けば、再生プラスチックとはいっても、それらは工場からでる廃棄物である場合が多いのではないか。要するに、中身が良く分かっているものだけが再利用されているのではないか。

C先生:そのあたり、良く分からないが、恐らくそうだろう。容器包装リサイクル法のお陰で、といっても、この法律が不出来であることは何回も何回もこのHPで文句を言っているが、なんとか再生ペット樹脂が再利用可能な状態で供給できるようになった。この再生ペットから繊維も作れるので、作業着や学校制服などが製造されている。また、他の用途にも使われている。ポリスチレンはかなり特殊で、トレー業界の努力によるところが大きいようだ。
 しかし、それ以外のプラスチックは、消費者が分別しようにも分別不能。なんでできているか分かるような製品はまず無い。だから、2000年4月から完全施行される容器包装リサイクル法でも、その他プラスチックと呼ばれているが、そのリサイクルルートは、高度熱利用だ。本当の意味でのリサイクルではない。

A君:とすると、プラスチック製品の場合には、再生原料を使っているといって威張れるようなものでも無いですね。

B君:その結論、ちょっと待った。工場から出る中身の分かった廃棄物も、以前は産業廃棄物として処理処分されることが多かった。それは、その方が安価だったからだ。しかし、最近では企業の認識も相当に変化して、社内で多少手を入れれば、処理費用を払うのではなくて、原料として売れるということに気がついた。

C先生:そう。さらに、日経の環境経営度調査などというものも第3回目を迎えて、松下通信機工業が前回の108位から7位になった。これは、同社環境部の鈴木さんの個人的努力に負うところが多いが、佐江戸工場などで、ほぼゼロエミッションを達成して、松下グループのモデル工場になっている。そのときのポイントがやはり廃プラスチックの分別などの産業廃棄物対策だ。

A君:そうか、再生原料を使う産業が無いと、回らなくなることは事実。再生原料が経済的にも成立すれば、問題は無い。とすると、原料コストが問題ということになりませんか。

B君:最近、文房具などで、再生ペットを使ったボールペンなどが出ている。これは、良い傾向だとは思うが、それを高く評価すべきかどうか、これは別途検討を要する。

C先生:そんな状況下で、再生塩ビ100%の家庭用品がでてきたらどう評価するか。これが今日の本題だ。
 まず、再生原料100%ということで、ペットを使っている場合に評価されるのであれば、塩ビだからといって、その点で評価しない訳には行かない。ある程度の得点獲得は事実だろう。もしもその塩ビが消費者経由のものであれば、さらに高得点獲得だろう。
 となると、減点対象として何かあるかということになる。

F君:ちょっと都合で来るのが遅れました。
 今日は塩ビの話ですか。個人的には「それは駄目」ですよ。最近の環境ビジネスの傾向では、脱ハロゲンとか言って、塩ビを使わないだけではなくて、添加物にも塩素、臭素などのハロゲン元素を使っていない製品を売り込むと言う傾向ですからね。

B君:塩ビが駄目というがなぜなんだい。

F君:燃やせば最強の毒物であるダイオキシンがでる。

A君:燃やさなければ良い。集めて、リサイクルをすればよい。

F君:燃やさない場合だって、火事にでもなれば、ダイオキシンが出る。だからリスクのポテンシャルはゼロではない。

B君:火事の場合を想定して、ダイオキシンのリスクが火事全体のリスクの何%になると思う。

F君:.....

A君:火事の場合、昔だと「やけど」による焼死が問題だったが、最近ですと閉所火災による不完全燃焼が問題。さまざまな毒ガスが出ますからね。とは言いながら、毒ガスとして、もっともリスクが高いのは一酸化炭素COですよね。微量ガスとしてHCN(青酸ガス)、HCl(塩化水素)などの無機ガスの他に、ホルムアルデヒドもでるし、また、発ガン物質として知られている多環芳香族(PAH)も多種類出るでしょう。勿論、ダイオキシンも出るのですが、どうもダイオキシンのような亜急性毒性の物質は、火事のときのリスクとしては評価されていないようですよ。

F君:となると、なんで脱ハロゲンの電線を「エコ電線」と呼ぶのだ?

B君:ビジネスになると思うと、なんでもやるんだよ。

F君:となると、塩ビが悪いのは、環境ホルモンかな。フタル酸ジエチルヘキシルなどの可塑剤が入っている。欧米では、子供の玩具には塩ビは使わないと言うから。

B君:玩具以外ならOKという意味か?

F君:予防原則の立場から、塩ビはすべての場合について、止めさせようという環境派が多いのでは無いか。

A君:その予防原則は、このABC部屋では使わない。誰かが「アルミニウムはアルツハイマーを引き起こすから危ない」といったら、すぐ予防原則を適用して、アルミの使用を禁止するのか? あるいは、「50〜60Hzの電磁波は白血病を引き起こす可能性がある」から、すぐ予防原則を適用するのか? という問題をどのように取り扱うか、ですから。

F君:そりゃー、代替品があるかどうか、これが問題ですよ。代替品があれば、予防原則が生きる。簡単じゃないですか。

B君:代替品といったって、全く同一の機能をもつ代替品などは無い。だから、「代替品がある」という判断そのものが、簡単ではない。となると、「白か黒か」という簡単な議論ではなくて、リスク−ベネフィットの定量的な議論が必要になるのだ。いずれにしても、アルミニウムや商用周波数の電磁波、これらとフタル酸ジエチルヘキシルなどの可塑剤の問題と、どこが違うか、どこが同じかという議論を行う必要があるだろう。

C先生:難しい問題になるから、ここでは基本的原則だけを再確認しておこう。あらゆるリスクを完全にゼロにしようとする考え方は、まず間違いだ。日常的なリスクは確かにゼロに近い方が良いから、高いリスクが存在していれば、それは当然下げる。しかし、完全にゼロにするのではなくて、そのリスクを下げる副作用としてどこかで別のリスクが上昇しないか、これをしっかり検討して、トータルなリスクをミニマムにする、これが基本になる考え方だ。これに、リスク−ベネフィット議論を組み合わせて、使用すべきかどうかを決める。

A君:可塑剤のフタル酸ジエチルヘキシルは、かなり良く調べられた物質ですよね。動物実験も相当量行われていて、まあ、「分かった」物質ではないでしょうか。

B君:フタル酸ジエチルヘキシルのリスクは確かに「ゼロに近いが完全にゼロではない」。しかし、他のプラスチック材料では訳のわからない添加剤が使われている可能性もある。フタル酸ジエチルヘキシルの場合には「知られたリスク」だから、有る程度許容するといった考え方が成立しそうにも思える。

F君:ということは、塩ビそのものが絶対駄目という理由は無いということですか。

C先生:そうとも言える。シナリオ次第。

F君:それじゃ、塩ビやポリ塩化ビニリデンなどのラップはどうなんですか。

C先生:あれも、量的には大したことはないのだが、あるシナリオを書くと、存在しない方が良いという結論になる。消費者の立場からみて、ベネフィットもそんなに大きくは無いし。

F君:それなら、塩ビだって同様でしょ。シナリオ次第。うーーん。そうか、塩ビの場合、シナリオなしに頭から駄目だとされている傾向が強いな。
 どんなシナリオを考えるのですか。

C先生:それはさっきA君が言ったリサイクルなんだ。完全にリサイクルされれば、塩ビも特に問題があるとは思えない。リサイクルされないで処分される場合でも、脱塩化水素が行われて、そらから、燃やされるのであれば、余り問題はない。
 先日、北九州市の響灘地域に日立が作った家庭から出るプラスチックを高炉の燃料化するプラントを見学(99年11月14日記事「北九州エコタウン見学」、書庫の表紙にリンク)したが、高炉燃料に使える条件として、「残留塩素分が1%以下、できればもっと低く」というのがある。佐賀市の家庭から出るプラスチックゴミを使って高炉燃料を作ると、どうも4〜5%の塩素を含む燃料になってしまう。原因は塩ビと塩化ビニリデンの混入だ。食塩も残留しているのかも知れない。そこで、比重の大きい塩ビを風力を使って分ける装置が動いていたが、どうも余り上手く分けられないようだ。金属類は磁力選別や渦電流による選別でなんとかなるのだが、同じプラスチックだけに技術的に難しいようだ。
 新潟市では、廃プラスチックを油化するプラントが動いている。油化技術自身、個人的には余り必要なものではないと思っているのだが、そこでも、問題は塩素だ。塩化ビニルが混入しているために、装置全体を耐腐食性の高価な材料で作らなければならない。しかも、塩ビは脱塩化水素をしたあとで、黒色の不飽和重合体になって、できる油を黒く着色して商品価値を著しく低下させる。
 焼却灰もそのまま捨てるのでは、最終処分地に対する負荷が大きいので、セメント原料にしようとする動きもある。その際、問題になるのが、焼却灰に残る塩素だ。これは、塩ビからの塩素だけではなくて、食塩の形で含まれている塩素の寄与も大きいのだが、この塩素量が多いと、セメントを強化する鉄筋が錆びる。だから、塩素分、多分塩化カルシウムの形になっていると思われるが、これを除去するために、焼却灰をわざわざ水で洗うといったプロセスが考えられている。

A君:家庭から出るプラスチックゴミに、塩ビが混入していると、このように社会的な負荷が掛かるということですね。

B君:そのための余分なコストを誰かが負担している。

C先生:そうなんだ。塩ビは、単にコストが低いことで勝負している部分がある。それ以外にも勿論、塩ビでなければできないような製品もある。例えばビニールホースがその例だ。ビニールホースは、柔らかさと耐久性・耐候性の両立が要求されるので、結構高機能製品なんだ。また、電線の絶縁被覆も塩ビが一番。もしもそれをポリエチレンでやろうとしたら、なんか難燃剤を入れたり、たわみやすくするために添加剤を加えたり、訳のわからないことを色々とやらなければならない。しかも、エコ電線で得られる消費者のベネフィットは全く無い。
 その低コストだけが武器という塩ビの場合には、その存在のために、社会的にコストを押し付けていることになる。もしも、塩ビが無ければ、高炉燃料化プラントも上手く動くだろうし、油化も楽かもしれない。もっとも油化にはペットも禁物なので、どうか分からんが。焼却灰の完全なセメント化をやるには、食塩を含む生ゴミを別途処理すべきなので、塩ビが家庭ごみから無くなってもすぐに問題解決とはならないが。

F君:社会的コストは、住民税から、というのがこれまでの原則ですよね。だから、ある程度社会コストに依存してもしょうがないという部分もある。

A君:今度は、塩ビ擁護派に回ったのですか。

F君:そう言えばそうだな。ビジネス界の考え方というのは、当たり前だがビジネス優先で、それだと、自分みたいな考え方が普通なのではないか。

B君:ビジネス界では、当たり前かも。また、新規市場形成というのも、一つの目標になっていて、エコ電線も新市場形成の一つのキーワードなんだろうよ。

C先生:社会コストを製品コストに内部化することが、21世紀のすべての製造者の責任になる。
 その上で、塩ビが良いというのなら、それは正当な競争だから認めるべきだろう。

B君:現時点では、なかなか社会コストの内部化が進まない。それなら、家庭から出るゴミの中に塩ビが入らないように、そんな用途に限って使うべきではないだろうか。例え、焼却されない不燃ゴミとしてであっても、容器包装リサイクル法の枠組みで行われる高度熱エネルギー回収に回るとしたら、その邪魔をすることは許容されないと思われる。

A君:塩ビにとっては厳しいですねえ。包装材料としては使わない。その他の家庭用品なら、デポジット製でも作って回収を完全にやる、といったことになりますね。

F君:それでは、ビジネスにはならないだろう。やっぱり、塩ビは駄目ということではないか。

A君:ビジネスとしては確かに難しいかもしれない。

B君:駄目な理由が重要なのだ。無条件に駄目というのではないのだ。あくまでも適材適所なのだ。

C先生:ということになると、エコマークの適否としてはどうなる。
 私見だが、塩ビ製品の場合には、回収ルートが確立されている製品については、100%再生塩ビを使用した場合にはエコマークをつけることを許容すべきではないだろうか。例えば、農業用ビニルの場合などが適用されるかもしれない。家庭用などのように、回収ルートが確立していない場合には、他のプラスチックとは状況が異なるので、エコマークを付けるべきではないだろう。

B君:本当のことを言えば、他のプラスチック製品だって、回収ルートを作るべきだ。

A君:それはそうです。最近までの評価では、「原料が再生品かどうか」、が問題であって、「使用後がどうなるか」は、評価の外でしたね。これをしっかり評価するようなエコマークに変えるべきなんでしょうか。

C先生:そうだ。

F君:そうか。回収ルートを確立するのが新ビジネスになるかもしれない、ということか。

C先生:いやそれがビジネスにはならないことを歴史が教えている。あるもの(XXX)の回収ルートは、XXXリサイクル法ができないと構築されないだろう。だから国の役割は大きいのだ。