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日経ECO21を「ほめる」 98.10.21
  






本ページでは、これまで環境関係のジャーナリズムに疑問を呈し、「市民を恐怖感で支配しようとしている」、と主張してきた。環境ホルモンしかり、ダイオキシンしかり。しかし、最近になって、かなりちゃんとした主張が行われる場合も、少数ながら見えてきた。本ページでも取り上げた、「文芸春秋」、「サイアス」などである。今回、日経ホーム出版から日経ECO21の通算第2号が発行された。0号は論外、1号も不合格だったが、今回の雑誌のできは「合格点」である。ある環境関係の友人との雑談では、「この中で紹介されているエコ人脈の何人かよりも、この雑誌の方がまとも?!」



C先生:こんな問答をやるのははじめてだね。日経ECO21をほめてしまおう。まず、この雑誌の装丁が合格だ。全部で150ページ程度だから、当然といえば当然だが、針金綴じになっている。雑誌がなぜリサイクルに向かないか、それは、まずホットメルトという糊を使った綴じ方だからだ。いろいろな紙が混じっていることも原因のひとつではあるが。本雑誌が、100%再生紙使用となっている点も評価。ただ、100%「再生紙使用」なのか、「100%再生紙」使用なのか、分かりにくいが、実際には、古紙100%再生紙を使用したようだ。まあ、古紙100%再生紙が本当に良いかどうかは、議論の分かれるところではある。紙の話はまたいずれ別の機会に。

A君:1号では、巻頭の記事が「ガーデニング」だったもので、人為的装飾+殺虫剤大量使用のどこがエコかと見識を疑ってしまったが、今回は、アルフォルニアのデービス市の紹介でこれなら良し。

B君:環境ホルモンのウソとホント、これは、合格。C先生が83点をつけたといってましたが、多少甘めですか?

C先生:まあ本音レベル。どこで17点の減点になったか、これを議論してみようか。その前に、A君から記事の紹介を頼もう。

A君:はいはい。全部でなんと15ページ。大変なボリュームですね。まず、たいていのことは書いてあります。項目として取り上げられているのが、
(1)「内分泌攪乱物質は精子減少の原因か?」 −> 可能性無しとはしない。
(2)「塩ビ製の玩具を子供に与えてはいけないか?」 −> わざわざ子供を実験台にすることはない。
(3)「プラスチック製の哺乳瓶は危ないか」 −> 洗浄してから使えば良い。
(4)「ダイオキシンは遺伝子に影響を与える?」 −> 与えないだろう。
(5)「食品添加物に要注意?」 −> あぶない。
(6)「母乳安全宣言」はまだか −> アトピーのデータは読み方次第。
(7)「汚染まみれの魚は食べなければいいのか?」 −> 注意を要す
(8)「やっぱり農薬は危ない?」 −> 従来の毒性基準では甘い
(9)「牛乳からダイオキシンが出るのは本当か」 −> 本当
(10)「缶コーヒーは他より環境ホルモンが多い」 −> 桁で低い
(11)「ダイオキシンは本当に史上最強の毒物か」 −> 大いなる脅威は間違いない
(12)「塩ビはもういらない?」 −> リサイクルすればよい
(13)「もやしていけないものは」 −> 紙おむつは問題無い
などなど、これでもかなり省略しました。

B君:引用している学者も今回は多少メンバーに変更がある。東京大学医学部武谷雄二教授の見解、「(環境ホルモン問題とは)、否定できない可能性をどんどんつないでいった議論」が使われている。

C先生:最近私も似た表現を使っている。「環境ホルモン問題は、マスコミの中で行われた伝言ゲームの一種」、すなわち、自分の主張したい主旨に有ったデータだけを前言者の記事からコピーして何かを言っている。そして都合の悪いデータは無視する。
 結論的には、今回の記事程度なら合格点だろう。まだまだ不満は多いが。その最大のものが、環境汚染に対する全体的な理解が「大前提」として述べられていないことだ。我々の理解によれば、ヒトの健康に関係する環境汚染のレベルは、1970年頃を頂点に、それ以後順調に減り続けている。ダイオキシン関連物質についても、環境ホルモン関連物質についてもしかり。
 それでは問題は無いのか。いやいや、減り方が全国均一ではないことに問題があって、特定の地域、例えば焼却炉・最終処分場がある地域などは増加しているかも知れないということが大問題。大多数の市民は環境汚染レベルの減少を享受できるが、ある特定の地域の住民に、市民全体で責任を取るべき汚染をなすりつけていることだ。また、平行して見られる現象として、一部では過度の快適性・利便性を追求した結果、環境汚染が多少ながら顔を出したということもあるだろう。コンビニでの電子レンジでチン、スーパーのラップとトレイ、即席麺、などなどだ。(折角だから、思いついたものを書いてしまおう。抗菌剤の使用、抗菌処理商品の氾濫、ゴキブリ用などの殺虫剤の過剰使用、栄養補給薬品(ビタミン類など)の過剰摂取、毎日朝シャン、汚れてもいないものの洗濯、無農薬野菜の要求、バージンパルプ指向(ティッシュなど)、また気がついたら足します)
 もう一つ、環境汚染と明確に言えるものは確かに減少しているのだが、まだまだ不明の部分や灰色の部分=未知汚染が残されていることも問題だ。いやいや大きな問題だ。ディーゼル排煙、バイクからの排煙、焼却炉からの多環芳香族や金属の排出など、これらは、大多数の市民にとってダイオキシン問題よりも重要のように思える。
 さらに、バックグラウンドとでも呼ぶべき環境汚染が増大していることも問題だ。例えば、環境ホルモン問題ではじめて注目されるようになったが、本物の女性ホルモンの代謝物質が下水処理場から放出されていることだ。これが生態系に影響を与えているようならば、下水道そのもののあり方から考えなおさなければならないのだろうね。



C先生(続): 現世代のヒトの健康には影響しない「環境負荷」、というか「地球負荷」、すなわち、資源・エネルギーの消耗、二酸化炭素の放出などは、処分地の量的な不足も含めて、現時点でも着々と最高値を更新し続けている。
 こんな環境全体感から、様々な現象を語るのが本当のところだろう。まだ、そこまでの視野が持てていないね。これが減点の半分以上だな。83点とすると、17点減点だが、減点12点ぐらいは、こんなものだろう。

B君:それは要求するのが無理というものでは。C先生の「人間地球系」の研究チームですら、環境総体感がないとぼやいていたじゃないですか。環境の専門家ですらそうなら、ジャーナリストに要求すること自体が無理なのでは。

A君:同感!

C先生:............

B君:話を変えて、「多摩川の鯉にはメスが多い」の話ですが、中西準子先生のWebページに、おもしろいことが書いてありました。観賞魚としての鯉は、メスが好まれる。色・曲線がオスよりも良いらしい。魚類の性は、成長後でも変わるから、メスの鯉にオスのホルモンを与えてオス化して、メスと交配させると生まれてくる子鯉はすべてメスになる。こんなことを霞ヶ浦あたりでやって、多摩川に放流しているらしい。だとすると、多摩川の鯉を対象として環境ホルモンの研究をやった人達は、いったい何を研究したことになるのだろう。情報を知らないと、飛んでもない結論を導きかねないという見本だ。

A君:話を変えて、塩ビの話は切れがよい。「わざわざ子供達を実験台にする必要はない」というやつですが、残念ながら元祖があって、それはレゴ・ジャパンの見解だそうで。さすがだ。同じプラスチックでもほ乳瓶のところは切れが悪い。「ガラスでなぜ悪い」、と言い切って欲しかった。

B君:缶コーヒーの話。これでTULC缶(ペットと鉄板をラミネートした原料を一気に押し出し成形で作る缶、東洋製罐ご自慢の品)が良いという結論は馬鹿げている。鉄缶も、今でも30%ぐらいはどこか地球上に戻っている(散乱、あるいは、埋め立て)。鉄缶の美徳である、地球に戻ったときに比較的早く土になるという特性をTULC缶は放棄していて、環境ホルモン問題のみからこれを推奨するのは、環境総体の原則に抵触する。

A君:ダイオキシンが大きな脅威だと結論しているが、先日の文芸春秋の「ダイオキシン猛毒説の虚構」を読まされた後だと、なんだかね。環境ホルモン性は確かにまだまだ未知だけれど。

B君:ダイオキシンの摂取で、乳ガンが減ったという解釈の人もいるようだしね。これは、例のイタリア・セベソ事件の結果の解釈からだが。

A君:ゴミ焼却でダイオキシンが減るかどうかのところで、宮田先生が登場するけれど、塩ビに関して、どうも言うことが変わったように思う。「焼却炉の構造次第」と発言したようだ。以前著書の中では、塩ビは駄目と書いていたと思うけれど。

B君:あれ、C先生を全く無視して話を進めてしまった。

C先生:いやいや寝ていたわけではない。東京水産大学の水口先生が「4年前に有機スズが禁止され、一時絶滅しかかったイボニシが復活している」と言っている。これを記者はどのように解釈したのかな、と考えていた。もう一つ、紙おむつの焼却が大丈夫と保証しているが、これは、業界データを引用してのことだよね。これも記者は何を考えていたのかな、と疑問になるね。紙おむつも利便性の固まりみたいなものだしね。

A君:最後のページに何冊も本が紹介されていますが、記者も勉強はしたのでしょう。

B君:環境総体の原則とか、バックグラウンドの原則とかいったものを発明して使っているのは、C先生ぐらいなものだから、まあ、世界的にもまだ認知がされているわけでもないし、総体感が無いのは仕方がないのでは。

C先生:中西準子先生が今度、拙著「市民のための環境学入門」の書評を書いてくれた。丸善から出る冊子の「学鐙」というものに載るが、「"市民のための"と題されているが、環境問題の専門家もここに書かれているような全体的な視野はもっていないように思う。まず、専門家に読んでほしい」。と結んでくれた。これは過大評価で恥ずかしいが、日経ECO21の記者には是非とも読ませたい。

A君、B君:本音がでたところで、お時間もよろしいようで。