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   地球の組成と金属資源 11.11.2001




 地球を全部掘るとして、どのぐらいの金属・鉱物資源があるか、これは、「46億年前に地球ができたときに、どのような原料が使われたか」、で決まる話である。それなら、その地球の原料とは何だったのか。太陽系の惑星には、組成の異なる地球型と木星型があるが、その原料は違ったのか。
 こんな疑問に答えてくれるのが酒井均先生の本、「地球と生命の起源」、ブルーバックスB1248、ISBN4−06−257248−6である。
 ただし、今回取り上げる話題は、この本の極一部である。全部で9章まであるこの本の、主として第2章と第4章だけである。
 本HPでは、ブルーバックスを取り上げることが多くて、講談社の手先ではないかと思われるかもしれないが、全く違う。しかし、この程度の内容がこの程度の価格で手に入るというのは、科学的思考をしようとするすべての人々にとって貴重である。


C先生:地球の組成がどのようなものであるかを判断することは、われわれが究極的に使用できる金属元素がどのぐらい地球に存在しているか、といった疑問に答えるために必須である。今日の話題は、こんな疑問に答えがあるか、ということ。

A君:古くは クラーク数なるものがあって、これで地球の大体の組成が決まっているという話がありますが、このクラークさんは、米国地質調査所の研究者で、多数の火成岩と堆積岩の分析値から求めたもので、言わば手と足でデータを積み上げて地球の表面付近の組成を推定したものです。だから、地球全体の話でもないし、また、どこまで信頼に足るのか、と言われれば、それは多少の問題はあります。

B君:ライフサイクルアセスメントを積上げ法でやる方が信頼性がまだ高そうだ。

C先生:となると、もっとマクロな現象から、地球の組成なるものを推定するといった方法論を開発して、それをクラーク数と比較するといった方法が良いことになる。

A君:ええ。そんな訳で、地球の組成に関するデータを調べてみると、実に様々なものが提案されています。

B君:しかし、多少の違いはあっても、基本的には、「地球は金属型の星だ」と言える。

A君:面白いことには、1920年ごろまではですね、太陽の組成も地球の組成=金属型と近いものだと思われていたようです。実際には、太陽の組成は圧倒的に水素が多く、ヘリウムは水素の100分の1、その他の元素は最高存在量の酸素でも水素の8万分の1とほとんど無いに等しい。要するに、「太陽は水素型の星」なんですが。

C先生:そのような実験的証拠が見つかったのは、原子スペクトルが解析できるようになって、星の発する光のスペクトルを分析して、原子の存在量がわかるようになったからだ。

A君:先に述べました「太陽の組成が地球と大差無い」という誤解の話ですが、ウィルソン山天文台のラッセルという学者は、これを硬く信じていたのですが、太陽の主成分が水素であることを発表したペインのデータに大々的な衝撃を受けて、2年後には「太陽=水素」派になり、理論を展開して、太陽大気の組成を公表していますね。

B君:そのころ、隕石に注目した学者がいた。それがオスロ出身でドイツのゲッチンゲン大学教授になり、その後ユダヤ人故に迫害されてオスロに戻った「地球化学の父」、ゴルトシュミットだった。隕石の分析を行って、それを地球の平均組成だとし、ラッセルとペインの太陽大気の組成と比較した。

C先生:ゴルトシュミットの地球の構成物質に対する考え方は、今でも有用な考え方だと思う。私自身資源の限界を説明するときに用いる基本的考え方は、まさにそれなんだ。

A君:現在の地球の姿ですが、厚さ3000kmのケイ酸塩層とその下の鉄・ニッケル核からできており、最表層には、大陸では30km、海底では5kmの地殻がある、というものです。この考え方は、ゴルトシュミットの地球観とほぼ一致しています。

B君:ゴルトシュミットは、地球が火の玉から固まるときには、鉄、硫化鉄、ケイ酸塩という3種類のお互いに混じり合わない溶融体(メルト)に分離して、重い鉄メルトが中心に、その外側に次に重たい硫化鉄が、そしてその外側を軽いケイ酸塩がとりまく形になったと考えていた。

A君:その3種類のメルトに、それ以外の元素がいろいろな割合で溶け込んだ訳です。一般に2種類以上の液体に他の元素がどのような割合に溶け込むかを決める係数を「分配係数」と言いますが、この分配によって、非常に複雑な構造になったのが地球です。

C先生:この段階をゴルトシュミットは地球化学的分別の第一段階と呼んだ。そして、大気を第4番目の層として、それぞれの層に入ることを好む元素をそれぞれ親鉄元素、親銅元素、親石元素、親気元素と呼んだ。これが地球上における元素の存在状況の概要を決めていると考えてよいのだ。

A君:元素の地球化学的な分類をまとめますと、以下のようになります。
*親鉄元素:鉄、コバルト、ニッケル、白金、金、炭素、硫黄、窒素
*親銅元素:硫黄、銅、鉛、亜鉛、カドミ、銀など
*親石元素:鉄、ケイ素、酸素、アルミ、アルカリ金属、アルカリ土類
*親気元素:ヘリウム、アルゴン、水素、炭素、窒素、酸素

B君:この他に、今回取り上げないのだが、親生元素という生物を作る元素が存在する。これも元はと言えば、星間物質だ。

E秘書:はいお茶です。そうそう、私たちの体も「星間物質=星のカケラ」で出来ているのですよね。

A君:そういう言い方もあるんだ。なかなかロマンチックだ。

B君:資源としての枯渇性も決めるものこの「分配」だ。銅は、天然には硫化物として存在するが、地表に近いところはケイ酸塩が主成分だから、混じり合わない。そこで、極めて局所的にしか存在し得ないのだ。

C先生:こんな風に地球の構成元素が決まったとしても、その総量がどのようなものか、については、地球がどのようにして誕生したかを考察する必要がある。その話に移ろう。

A君:地球の歴史は46億年と言われますが、その誕生を考察するには、太陽系全体を考える必要があります。太陽系の主要メンバーは、10個の惑星とそれらの衛星。さらに、火星と木星の間に存在する6000個以上の小惑星群。それに加えて、彗星と隕石も主要メンバーの一つです。

B君:性格別に分けると、水星、金星、地球、火星の4つが地球型と呼ばれ、その外側に存在する隕石も地球型に分類される。さらに外側の木星、土星、天王星、海王星は木星型に分類される。冥王星はちょっと中途半端。

E秘書:実は、私は子供のころ、将来は天文学をやろうかと思っていた時期があるのですよ。土星の比重が1以下で水に浮くなどという話も知っていますし。

B君:それは驚きです。

A君:さて、このような性格の異なる惑星ができた理由について、最初に本格的考察を行ったのがユーリーなる人。第2次世界大戦後に盛んに検討された。多少変更を受けているようですが、基本的な考え方は、今でも正しいとされているようです。

B君:そのユーリーの考え方の基本は、誕生当時には太陽系星雲があって、その姿は原子太陽を中心にした円盤状であって、その中心に近い部分には、金属酸化物の塵が集まり、その円盤の外周には、氷と金属酸化物の塵が存在し、それに水素を主体とする星雲ガスがサンドイッチのパンのような状態ではさんでいる形だと考えた。

A君:こんな形になった理由は、「温度」です。中心部の太陽の近くでは、温度が高いもので、元素はほとんど遊離状態の原子で存在していますが、太陽から遠ざかるにしたがって、温度が低下してくるために、多くの元素は裸の原子状態では不安定になって、互いに結合して簡単な分子を作ります。さらに温度が下がると、ある分子は凝集して固体または液体の微粒子になります。これを塵と表現します。このため円盤状の星雲は塵と気体の混合物となります。

B君:どのような温度でどのような塵ができるか、これは原子の性格と近くに結合できる他の原子が存在しているかで決まることだ。太陽に近い高温の領域では、アルミニュームもケイ素も酸化物になり、鉄やマグネシウムも同様に酸化物になって、高温でも気体になりにくい耐火物的な物質が塵になった。
 これに対して、水、硫化水素、アンモニアなどの揮発しやすい物質は、太陽からはるかに離れた極低温の領域ではじめて凝集することができた。ユーリーの計算によれば、水蒸気は小惑星のあるアステロイド帯と木星の間で初めて氷になった。アンモニアは土星の近くで氷になるが、水素ガスやメタンは冥王星を越えても気体のままだ。

C先生:こんな状態になると、太陽からの距離に従って、さまざまな塵が存在しているというのが最初の太陽系の様子。その塵全部を集めたとき、その組成がどうなっているか、これは、太陽系全体の組成がどんなものかであったかということと同義だ。

A君:その太陽系全体の組成なんですが、先にできて来たゴルトシュミットが、その当時3種類の異なった隕石を詳しく分析して、「宇宙における元素の存在度」というものを出しているんですね。しかし、今にして思うと、隕石というのもは、太陽系内部の存在物でして、これが宇宙全体の組成であるという保証はどこにもなくて、むしろ、太陽系全体の組成と読み替えた方が良いようです。
 その太陽系の組成ですが、大体次の4つの特徴で表現できます。
(1)水素とヘリウムの存在度はそれぞれ92%と7%(現在の値は、90.8%と8.9%)で、この2種類の元素だけで、太陽系の全元素の存在量の99%以上を占める。
(2)若干の例外はあるものの、原子番号の増加とともに、元素の存在度は急速に減少する。この結果、水素とヘリウム以外の1%の元素の大部分は、原子番号27番までの元素である。
(3)原子番号が偶数の元素は、両隣の奇数の元素よりも存在量が多い。
(4)しかし、宇宙は完全な規則正しさを好まない。リチウム、ベリリウム、ホウ素は例外的に少なく、酸素と鉄は例外的に多い。

B君:この特徴は、後日、原子核の理論によって、元素の安定性と同じであることが証明される。

C先生:いずれにしても、これが60年前に分かっていたことだというと、たいしたものだと言うしかないな。

A君:話を戻しまして、地球が生まれるときの話ですが、組成の異なる塵が太陽からの距離に従って円盤状に分布していたんですね。そして塵が徐々に集まって大きくなりながら惑星を作った。ところが、太陽系全体の組成としては、水素、ヘリウム以外の元素は非常に少なくて、そのため、火星までの星は、塵の少ないところでできたもので、小さいのです。しかし、重たい。木星から先は、耐火物のような少量の酸化物に加えて、水やアンモニアも一緒になって固まったものだから、大きな惑星ができたという訳。だから軽い。

B君:しかし、地球は水の惑星と呼ばれるぐらい水があるが。

A君:それは、塵が水との化合物である水和物であった場合と、表面に吸着している水が原料である場合とが考えられるようです。アンモニアや硫化水素なども同様に塵に付着した状態で地球に取り込まれたようです。

E秘書:今の海の水が、元はと言えば、全部水和水とか付着水だというのは信じられないぐらいですね。

C先生:ということで、地球の組成は太陽系全体の組成とは大きく違うことになった。木星や土星の組成ともかなり違うものになった。

A君:このようにしてできた塵の塊が惑星の元になったのです。地球の中心部は鉄とニッケルが溶けた状態で存在していますが、どうして溶けたのでしょう。

B君:それは塵が凝集するときに熱を出す。その熱で溶けたとされている。最初のうちは、凝集すると同時に熱がでて、中心部にその熱が溜まって鉄とニッケルが溶けたと考えられていた。これを高温凝集説と呼ぶ。ところが、本当のところは、どうやら中心部から溶け出したのではなくて、まず塵が集まってある程度の大きさになり、そして、その表面から溶けたらしい。表面にマグマオーシャンというものができて、そこで溶けた鉄・ニッケルが、重力のためにまだ溶けていない中心部に向かって移動をしたというのが現在信じられている機構のようだ。

C先生:そのような機構が働くためには、表面からの熱を逃がさないように、「温室効果」が必要。すなわち、水や二酸化炭素などの濃い大気が必要で、計算によれば水蒸気圧180気圧、二酸化炭素20気圧で、この水の量が、現在の海水の量に等しく、また、二酸化炭素量から計算される炭素の量が岩石や海底堆積物中の炭素の量に等しいという。ということで、矛盾無く説明ができるらしい。

A君:その説の基本的な部分は、松井・阿部モデルと呼ばれるようですね。

B君:でも、今回の議論で結局、どのぐらいの資源量があるのか、良くわからないということにならないか。

C先生:多分そうなのだろう。地表から掘ることができるのが、高々数1000mだとして、その範囲内にどのような元素があるか、これは理論から導くのは難しいだろう。

A君:となると、できるだけ金属資源は大切に使うしかないということになりますね。

B君:西山孝先生の本、「資源経済学のすすめ」文春新書によれば、金などは、すでに半分ぐらいは掘ってしまったとか。

A君:どの元素をどのように使うかも重要な問題ですね。

C先生:それについては、一つ言いたいことがある。最近、有害だということだけで、色々なものが嫌われてしまう。鉛(Pb)がその代表格だ。となると、この元素を他の元素で代替したいということになる。例えば、PbをBi(ビスマス)で置換しようということがしばしば試みられる。ところが、Pbは量が比較的多い元素だが、原子の量が原子番号の偶数・奇数で決まるという法則があるために、原子番号が隣の元素は量が少ない。すなわち、Biは隣の元素だが、量が少ないのだ。しかも、もっと重要なことが、重元素で隣り合わせの元素は、性格がよく似ている。となると、鉱石は分配の法則で出来方が決まっているから、Biを採掘しようとすると、Pbを含む鉱石を採掘しなければならない状況になるのだ。

B君:ということは、有害だから嫌だという発想で、量の多い原子番号が偶数の元素を隣の奇数番の元素で代替することは上手くいかない場合が多いということか。

A君:地球の成り立ちまで考えたうえで、元素を上手に使いましょうということですか。

C先生:まあそういうこと。「有害だから使わない」という発想では、地球の資源限界に速くぶち当たることになる。となると、「人類にとって有害なものも、有害にならないように使うのが人類の知恵である」。

E秘書:18日から19日に掛けて、しし座流星群がまた観測できるようですよ。http://www.astroarts.co.jp/
流星も星のカケラ。私たちの体も星のカケラが起源ですから、しっかり観測して、太陽系と地球とヒトについて思いを馳せるのも、環境を理解する上で有効なのではないですか。