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  電磁波は人体に悪影響 歴史編 09.15.2002





 朝日新聞が1面トップで取り上げた電磁波の人体影響だが、クロという判定が下されていると記述しているものの、そんなにも簡単に結論が出せるものではない。歴史的にどのような経緯を経ているのか、ここでもう一度復習をしたい。
 今回使用した参考書は、大朏博善著、「携帯電話で脳は破壊されるか」、WAC文庫、ISBN4-89831-508-9、880円。この他にも、大朏氏は、電磁波の本を出版している。
C先生:電磁波が人体に悪い影響を与えるという話は、1970年代にアメリカで始まった話だが、色々と複雑な要素があって、簡単にそのような結論を出す訳にもいかない問題なのだ。

A君:まず、電磁波には、種類が多数あること。一般家庭に来ている50〜60Hzの電力線は、電磁波とは言えず、電磁界なのですが、このように低い周波数のものから、ガンマ線のように、極めてエネルギーが高く、波長の短いものまで、連続的に存在することがまずあります。

B君:だから、電磁波というときには、何Hzの電磁波、というか、あるいは、別の表現、例えば、電力線からの電磁界とか、電力線によるELF−EMF(Extremely Low Frequency - ElectroMagnetic Field)とか書く必要がある。

C先生:現時点に問題になっているのは、その電力線からの電磁界と、携帯電話からのマイクロ波の2種類に限定できるだろう。パソコンからの電磁波が問題にされることもあるが、これはまず根拠も何も無いだろう。

A君:紫外線、X線、ガンマ線、も電磁波ですが、これらは人体に悪影響を与えることが確認されている、というよりも、人体に被害が出ている、と言うべきでしょう。

C先生:という訳で、まず、携帯電話のマイクロ波の話に限定して、どのような歴史があるかを記述してみよう。

A君:了解。携帯電話のマイクロ波は、日本では800MHzですが、PHSの場合の1.9GHzも、あるいは、電子レンジの2450MHzも、まあ同類だと考えても良いでしょう。携帯電話の800MHzは、ちょっと周波数がずれるのですが、水分子と共鳴する周波数で、発熱作用があることは絶対的に確実。人体の中で、もっとも加熱に弱いのが目の水晶体。マイクロ波で加熱されて、白濁することがあります。しかし、この発熱作用以外の作用があって、しかも、発熱量などが問題にならない程度の弱いマイクロ波でも人体に悪影響を与えると言われ始めたのが、1996年。

B君:1996年の話は、イギリスの新聞「サンデー・タイムズ」が「携帯電話からでるマイクロ波は、使用する人の頭部に吸収されて、脳腫瘍を成長させる可能性がある」としたことが最初。米国のワシントン大学のヘンリー・ライ博士が、やった実験がもとになっている。

A君:その実験は、「2450MHzのマイクロ波を照射されたラットの脳細胞で、遺伝子を構成するDNAの鎖が切断される現象が多く見られた」、というもの。

C先生:確かにDNAが損傷を受ければ、細胞が分裂するときに、がん化する可能性はある。しかし、実際には、生物にとってDNAの損傷など日常茶飯事で起きていることだから、それを修復する能力がある。もしも修復能力が無かったら、体中ががんになって大変なことになる。なぜなら、損傷発生のもっとも多い原因が、細胞中の酸素代謝だからだ。発がん物質や放射線なら避けることが可能だが、酸素を摂らない訳には行かないからね。

A君:このような重要な実験事実があると、その後、追試が行われ発表がなされるはずなのですが、現時点に至るまで、そのような確実な成果にはなっていないのです。

B君:それが不思議。恐らく、この実験の精度が低いものだったのではないか。

C先生:携帯電話で脳腫瘍になったという訴訟は、アメリカなどでは多数出されているが、勝てる訴訟では無さそう。

A君:イギリスでは、携帯電話の疫学的な研究を推進することになっていますが、まあ、何かでるとも思いにくい。

B君:「念のため、子供に携帯電話を使わせない」、といった程度の結論になるのではないだろうか。

C先生:携帯電話有害説の根拠は、今のところこれだけ。科学というものの持つ本質として、絶対に無害であるという結論を導くことは不可能。何事につけても、「可能性が完全にゼロ」を証明することは不可能だからだ。人間が考えられることには限界があって、ある範囲内ではゼロであることは証明ができたとしても、人間の発想の限界を超えた何事かが起きれば、ゼロではなくなってしまう。さらに、ある範囲内でも完全にゼロを証明することも実はできない。実験を100万匹の動物を使ってやって、何も起きなかったとしても、100万1匹目で何か起きないという保証はどこにもない。

A君:ところが、携帯電話有害説は、結構日本でも困った事態を招いているようですね。

B君:やはり、「米国の何でも訴訟現象」、「日本での安全ボケ現象」の一つと言えるだろう。

C先生:携帯電話の話を終わって、電力線からの電磁界の話に行く。これは、朝日新聞に報道されたように、疫学的には、小児白血病との関連がどうも何かありそう。しかし、いかなる動物実験においても、その直接的な関係は証明されていない。

A君:まず、年表を作りましょう。
1966年:WHOの「磁界に関する環境保険基準」、「50ガウス以下の電磁界では、有害な生物学的な影響はみとめられていない」。 注:この50ガウスは、極めて強い磁界で、今問題になっているそれ以上だと白血病を引き起こすという閾値の1万倍以上。ちなみに、地球の磁場は静磁場だが0.3〜0.5ガウス程度。これも、白血病の閾値の100倍以上強い値である。
1970年代:「ニューヨーク州送電線訴訟」、カナダからの76.5万ボルトの送電線の可否で、訴訟が起きて、その和解過程で、調査研究が行われた。研究費500万ドル。
1979年:「ワルトハイマー・リーパー報告」、「デンバーにおける電力線配置と小児がん」。1950年〜73年に小児がんで死亡した344名について疫学的研究を行った。
1987年:「サビッツ論文」、「配電線の近くに住んでいた14歳以下の子供の小児がん(特に白血病)の発生率は、配電線近くに住んでない子供の小児がん発生率に比べ、1.5倍から2倍である」。
1990年7月:ポール・ブローダー「メドウ通の災厄」を大衆週刊誌「ニューヨーカー」に掲載。たった200mにある9軒の家には、脳腫瘍、悪性腫瘍が多く発生。変電所と高圧線が原因だとされた。 注:恐らく偶然なのだが、電力線反対運動の基本的は発想パターンがここで確立。
1992年:「スレーター小学校訴訟」、「副校長が死亡した原因は、送電線からの電磁波が原因のがんである」。結局、訴訟取り下げ。
1992年:「カロリンスカ論文」、スウェーデン国立カロリンスカ研究所のマリア・ファイヒティング発表。「送電線から50メートル以内に住宅のある子供では、白血病になるリスク比が2.90」。1960年から85年までの25年分のデータを解析したもの。
1994年3月:クリントン発言。総額5600万ドル規模の「EMF−ラピッドプログラム」による電磁波の生体影響の大々的研究の宣伝のため。社会的な不安を解消することが目的であったが、「そこまでお金を掛けて研究することが必要なぐらい、電磁波は危険なものなのだ」という理解が社会に広まった。
1995年3月:日本に電磁波問題上陸。テレビ朝日系の「ザ・スクープ」。
1995年:米国物理学会「電力線の電磁界と公衆の衛生について」なる見解を発表。「がんと電力線電磁界とのあいだに、一貫性があり有意である関連性を示すものは、ひとつもない」。 注:電磁波の物理学を多少でも知っていれば、当然このように考えるだろう。
1996年:米国科学アカデミー報告。「現時点での一連の証拠は、電磁波の暴露が人への健康の障害になることは示していない」。
1999年5月:「EMF−ラピッドプログラム」の結果報告。「極めて低い周波数の電磁界によって健康リスクが増大しているということを示唆する科学的な証拠は弱い。実験動物において白血病が増加する兆候は観察されていない」。
1999年:WHOによる世界的なプロジェクト、「静的および変動電磁界への暴露による健康・環境への影響調査」開始。
2002年夏:WHOプロジェクトの日本担当分の予備的報告がスクープされた。
2002年秋:同上の最終結果が報告される予定。

C先生:こんな流れの中で、先日の朝日新聞の発表は行われたのだ。いずれにしても、電磁波によるリスクは、他のリスクに比べると非常に低いものなのだが、そのような記事になっていたかどうか。

A君:若干、センセーショナルだったかもしれません。

C先生:もう少々詳しい情報を得てから、解説編を書いてみたい。最終的な報告が出たら、どのように読むべきか、という解説になる予定。