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  電磁波人体影響解説編 09.22.2002





 予定はさだかではないが、先日朝日新聞にスクープされた「電磁波が小児白血病に対してクロ」の正式な報告が、この秋にはなされることになっている。新聞報道がどうなるか、恐らくかなりセンセーショナルなものになりそうであるが、その真相をきちんと理解するために、必要と思われる知識について多少の解説を加えておきたい。

 この手の話は、AB&Cにとっては全くの専門外である。したがって、記述の細部に渡るまでの信頼性は全く無い。しかし、今回のこの記事についても、某専門家の方からのアドバイスに基づいていることを付け加えておきたい。

必要な単位換算: 4mG(ミリガウス)=0.4μT(マイクロテスラ)


C先生:今回のELF−EMF(超低周波電磁界=電力線からの磁界の人体影響)の疫学的研究は、1999年からスタートし、正味2.2年の検討を経て、本年の3月末ですでに終了している。その最終まとめ作業が現在進行中で、細部の吟味が必要な状況。

A君:どんな研究をしたのですか。

C先生:小児白血病の患者(疫学ではcaseと呼ぶ)を持つお宅に、磁界測定用のメーターを1週間置いて測定。同時に、ご両親には大量のアンケートに答えて貰っている。

B君:この間の朝日のスクープは、そんな患者の家族に対する十分な配慮があったのだろうか。どうもそんなことには無神経のように思えるが。

C先生:比較正常群、疫学ではcontrolと呼ぶが、こちらにも、メーターを置いて磁界の測定を行った。

A君:しかも、それ以外の交絡因子、すなわち、現在対象にしている主因子であるELF−EMF以外の因子が何か影響を与えていないかを検討しなければなりませんから、当然のことながら、アンケートも取ったのでしょう。

C先生:ELF−EMFの測定については、今回1週間継続した測定を行ったが、これまで検討が必要とされている一つの要因である、ノイズと高調波の測定は行っていない。

A君:それはすなわち、50Hz、60Hzの交流磁場の強さは理想的な正弦波、すなわち、サインカーブの形で変化するとの仮定で測定が行われていて、磁場にどのようなノイズが乗っているかは無視されていることになります。サイリスタなどを使っている温度調整機能の電気毛布とか電気コタツのようなものから出る磁場は、正弦波状とは限りません。高調波が発生している可能性が高いです。高調波とは、基本周波数のn倍の周波数を意味します。

B君:生体がある周波数に反応するとしたら、それなりの機能が体内で起きていることになる。これまで言われていることでも、Caイオンは16Hzで移動をしているとかいう話があったが、これだと、50Hzの1/3、60Hzの1/4に近いから、3つの波に1回、もしくは、4つの波に1回の割合で何かノイズが出る状態だと、16Hzに同期して何かが起きる可能性が無いわけではない。

A君:高電圧な送電線が放電を起こしているような状態だと、ノイズも、また、高調波も出ている可能性が有りますね。

C先生:今回の結果は、ノイズや高調波は無視されている。これは将来考えなければならない一つの要素ではある。敢えて言えば、これが決定的である可能性もある。

A君:これまでの研究でも、疫学はグレーの結果ですが、それ以外の細胞を使った研究や、動物実験などは、まあシロ。ときどき、遺伝子が多少変わった細胞を使うと、影響が見える場合もあるということです。

B君:がんの一般論として、遺伝子レベルで説明が可能という話はある。

A君:ここでやりたいのはその議論ではなくて、実験は、正弦波状の磁場で行われている、ということです。だから実験では再現されないという可能性が無いわけではない。

C先生:ところで、今回の日本における電磁界の人体影響の疫学は、これまでグレーだった結果にはっきりとした結果を与えるだろうと期待されていた。それは、日本のような人口密度が高く、電力消費量も多いから、ELF−EMFへの暴露が多いとWHOは考えていたからだ。
 ところが、その期待に裏切る形の結果がでたらしい。日本のELF−EMFへの暴露は、どうやらアメリカと同程度であったということのようだ。米国と同程度ということだと、その割合は1%以下。すなわち、高暴露群のデータがやはり不足ということになる。

A君:ということは、今回の数字がまだ出ていませんが、これまでの疫学研究で使われたcaseの数は余り増えていないということですね。スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究では、7例、その後のデンマーク、フィンランドの場合には、それぞれ3例。

B君:これがまず、本報告で関心のもたれるところ。

A君:その予測ですが、今回の日本の研究では、350名の小児白血病の患者が調査の対象になった。そして、1%弱が高暴露群だったとすると3例。リスクが2倍という結論だとすると、3×2で今回の高暴露群のcaseは6例だったのでしょうか。

C先生:となると、日本独自の疫学研究からの結果では、結論的にはやはりグレーとならざるを得ないのではないか。

B君:結論がグレーだと対策は、例の「慎重なる回避」ということになるが。

C先生:「慎重なる回避」とはprudent avoidanceの日本語訳。訳語として適切かどうか。

A君:「危険性が少しでもあるのなら、慎重に回避せよ」という意味に取ったら、全くの間違い。

B君:まあ、「完全なる回避」というものがあって、それは、電気をすべて止めること。送電線を止めて、全部自家発電にする。もっともそれでELF−EMFへの暴露が無くなるかどうか、それは分からないが。

A君:そうはいかないのですよね。「慎重なる回避」という言葉は、1989年に米国議会へ提出された報告書で使われた言葉で、その「慎重」とは「低めのコストで済むような回避行動を取ること」という意味です。

C先生:有ったとしてももともと低いリスクだから、「過度に反応する必要」はない、という意味。なぜならば、白血病は単一の要因で発病するものではなく、ELF−EMFは要因の一つであって、他の要因にも十分な配慮をすることが重要。例えば、他のがんと同様に、タバコとかストレスとか、食物とか。

A君:というと極めて乱暴な議論に聞こえるかもしれないですが、カロリンスカの研究では、こんなことが言われています。スウェーデン全体で小児性白血病は、年間70名が発症。そのうち、ELF−EMFによる発症数と考えられるのは、1名以下。

B君:スウェーデンは、人口が900万程度だから、日本だと絶対数は多いが。

C先生:さて、秋の報告書だが、今回の報告でも、日本のおける疫学研究の結果とは別に、プール解析なるものに対する報告が行われるものと予測される。それは、過去の研究で同様のものをプールして、症例を増やして統計的な確度を高めて解析をするというやり方。

A君:その先駆けとして、スウェーデン、デンマーク、フィンランドの3種類の研究を合わせて、デンマークとフィンランドの研究は、単独には関連性は見られないとされたものが、関連性あり、という結論になった。

C先生:最近のプール研究として代表的なものは、
「A pooled analysis of magnetic fields and childhood leukemia」
Brit. J. Cancer, 83(5), 692-698(2000)
著者は、
Dr. Anders Ahlbom of the Karolinska Institute in Stockholm,
Drs. Nicholas Day of the U.K.,
Maria Feychting of Sweden,
Martha Linet of the U.S.,
Mary McBride of Canada,
Jorg Michaelis of Germany,
Jorgen Olsen of Denmark,
Tore Tynes of Norway
Pia Verkasalo of Finland
 過去の研究の著者がすべて入っている。結果的には、9件の疫学研究をプールした。

A君:そして、先日の朝日新聞の発表ですが、この論文の結果と全く同一。多分、日本の結果ではcaseの高暴露群のデータが少ないということは、これまでのプール研究の結果を大きく変えないから。

B君:となると、プールされた論文の中で、caseの数がもっとも多かった研究が全体を決めることになる。

C先生:その通りで、どうも、Martha Linetの論文がプール研究の全体の傾向を決めているらしい。

A君:それが統計的に意味があるかどうか、それは、今回の疫学の専門家がしっかりと判定をしてくれることでしょう。

B君:それ以外に、何か新しいことが出るのだろうか。

C先生:交絡因子の一つとして、このような調査に参加してくれるcaseとcontrolの家族がある特性をもっているかどうか、ということがある。今回、それが明らかにされるとは思わないが、一般には、controlとして参加する家族は、どうも、知的レベルが高い家族が多いということは欧米では常識。ただ、日本の場合、平均的な教育レベルが諸外国よりも高いと思われるので、果たして、このような考察がなされるかどうか、そこも興味のあるところ。

A君:さて最後に、周辺の評価ですが、日本でも、疫学研究を批判している研究者が居て、その例が、金沢工業大学の雨宮先生。
http://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/amemiya/papers_j.htm
この論文の日付が1999年7月21日。したがって、この2000年のプール論文以降、どのように考えておられるのか、詳細は不明。

B君:この2000年のプール論文に対する海外の評価は、どうも結構高い。
http://www.powerlinefacts.com/Leading_Authorities.htm

C先生:最後のまとめ。この問題、絶対的なリスクは高いとは言えず、公衆衛生の問題としては、神経質になるのはどうかと思われる。しかし、ダイオキシンや環境ホルモンで過剰反応をした日本のマスコミが、またまたセンセーショナルに報道することになれば、一般市民で、高圧送電線の下に住むのは嫌だという人が増えることは確実だろう。また、高圧線の近くの不動産の価格が下がるといった影響も確実に出るだろう。さらに、新しい高圧線を引くのが住民の反対に合って、困難になるだろう。本日のところでは、こんな予測をしておくが、このような問題にどのように対処すべきだろうか。
 いずれにしても、秋の報告書が出たら、またまたご報告したい。