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多少落ち着きを見せてきた環境ホルモン問題 98.10.07
  






多少落ち着きを見せてきた環境ホルモン問題

この半年程度の期間、環境ホルモン問題は日本中を混乱に落とし入れた。しかし、やっと冷静さがマスコミの中にも出てきたようで、正常な判断をできるような状況になった。とはいっても、日本人は熱しやすく冷めやすい。環境ホルモン問題が問題ではなくなったということではないので、継続的に関心をお持ち下さい.


C先生:最近いくつかのマスコミ報道に、環境ホルモンは冷静に見れば良い、といった論調も見られるようになってきた。やっとそうなったか、という感じだが、このあたりを多少検証してみよう。
 今回話題に取り上げるものは、
  サイアス 10.16号 「精子減少」のウソ・ホント
  別冊宝島411 「あなたは子孫を残せるか」 98年11月2日発売(未来)
  かんき出版 「環境ホルモンから家族を守る50の方法」 北野大監修
  西川洋三 「環境ホルモン問題は、何が問題か(その2)」 
           アロマティックス、50、9、348(1998) 
  その他  日本経済新聞など

A君:マスコミの報道には周期というものがあって、大体始めの3ヶ月か4ヶ月はセンセーショナリズムが支配する。今回の環境ホルモン問題は、ブレークしたのがまあ2月でしょうか。それから7月ぐらいまでは、まさにマスコミセンセーショナリズムと各省庁の補正予算獲得競争、さらには、市民運動とが協調的に動いたからだと思いますが、大騒ぎでした。

B君:本ホームページでは、深刻な問題である可能性は高いが、ここ1ヶ月2ヶ月ということですぐどうということではないから、慎重に対策を考えれば十分間に合うというスタンスだったですよね。

C先生:まあそんなつもりだった。マスコミ報道の周期は大体6ヶ月で逆に流れるという法則がある。現時点が、逆の情報が増えてくるようなタイミングなのだろう。その例が、サイアスの精子減少の記事なのでは無いだろうか。

A君:その要旨ですが、デンマークコペンハーゲン大学のニルス・スキャケベク教授の呼びかけで英国やフランス、フィンランドなどの欧州の研究者が共同して、精子減少に関する研究を始めた。昨年の秋からは日本の研究者が参加し、まもなく米国も加わる。このような国際共同研究で、実態がわかるだろう。というものです。もしも「精子数は本当に減っている」ということになれば、その原因は何かという論争になるのは必須。記者の表現によれば、「私たちは、「化学物質はどうもうさん臭い」とかんじてしまいがちなので、つい環境ホルモン説に飛びつきたくなる」。と書いています。これなど、記者達の間でも、本当のところはなかなか分からないことに気がついた、あるいは、もともと気がついていてもそのような記事は、最初の混乱時期には書けないことを告白しているようなものですね。

B君:もうひとつ大きいのが、やはり官庁の環境ホルモンをめぐる予算獲得競争だろうよ。今回、環境ホルモンに付いた補正予算の額だが、総額127億円、環境庁50億円、厚生省15億円、農水省23億円、通産省16.5億円、科技庁13億円、建設省6.3億円、文部省3.4億円。
 これについては、別冊宝島の最後の記事「環境ホルモン狂騒曲」木村弥都子(ジャーナリスト)に内幕が書いてありますが、真実を突いているような気がします。それに、前にもこのウェブページで述べてますが、立花隆氏なども想像を逞しく「はやし立て」、全国家予算を使ってでも環境ホルモンの解明をすべしなどというもので、その影響が出てます。木村女史の記事の要旨は、通産省は環境ホルモン問題で出遅れた。なぜならば、環境モルモン問題は安全だという観点に立って、業界の保護に回っていたから。環境庁は、環境ホルモン学会なども上手く設立させたりして、実利をつかんだ。環境庁の国立環境研研究員が「費用がなければ研究などできるわけが無い。環境ホルモンで10年食える」、「覇権争いです。優秀な人材を確保するためには、魅力的な研究環境を整えることが一番です」、と発言したとしてますね。本当でしょうかね。本当かも知れないという感触は有りますが。どうも、環境研ですら、「市民の心配」を「省益のために利用」したという感じは拭えないですね。

C先生:補正予算争いも終わって、多少落ち着いたということもあるだろうが、環境ホルモンに関するさまざまな情報のうち、一部だけを使ってセンセーショナルな報道をしているのが、徐々にばれてきたことも重大な要因だ。これに関しては、業界関係からの反論が主になるのだけれど、西川氏の論文などは、やはりちゃんと読む必要がある。
 コイのメス化に関しては、ノニルフェノールなる環境ホルモンが原因ではなく、本物の女性ホルモンの代謝物が原因であるという証拠が英国環境庁報告から出ているのに、それを無視した報道ばかりがなされている。多摩川のコイも多分同様(どうもそうではないらしいという情報があります。記事の中頃ですが、探して下さい)。
 その他の環境汚染に関しては、TBT、PCB、DDT、などなどの濃度が、1970年をピークにして、すでに半分以下に減少していることが、それが報道されていない。ダイオキシン濃度ですら、実は減少している。それは、PCP、CNPなどの農薬由来のダイオキシンが昔は主だったから。現時点では、焼却炉周辺を除けば、ダイオキシンへの暴露は減っている。
 さらに、若干科学的な知識が必要となる問題だっただけに、当初記者連中も適当に記事を書いていたのが、徐々にその実態が分かって来た。生体影響の実験は、in vivoとin vitroの実験がある。すなわち、生体内の実験と、試験管内の実験で、in vitroの実験の結果は、本当のところなんとも言えない要素がある。in vivoの実験だと、フタル酸エステル、スチレンダイマー、スチレントリマーなどのエストロゲン性(女性ホルモン性)は無いことが証明されているが、in vitroだと、あるとされている。この、どっちが正しいか? 当然ながら、in vivoの結果が正しいのだろう。
 こんな要素が様々に重なってきて、あまり無謀にセンセーショナルな記事が書けなくなっているというのが実態だろうね。

A君:それなら環境ホルモンは問題では無いでしょうかね。問題で無いなら、国が127億円も投じて研究をするのは何なのでしょうか。はっきり言って、今、我々産業界は大変なんですよ。税金を無駄に使うぐらいなら、もっとやり方はあるだろうに。減税とか。

B君:確かに、今はそのような意見が言えるような雰囲気になった。狂騒曲の音量が最大のときには、そんなことを言うのは不謹慎極まりないという反応だったけど。

C先生:少なくとも、環境ホルモン問題が投げかけた問いは、非常に重要な指摘だったと思う。毒性は、急性毒性、発ガン性、催奇性だけではなくて、ホルモン毒性のようなものがあることを広く一般に認知させたから。これらの毒性に対して、多くの化学物質が無害であることを証明しない限り、「化学物質をうさんくさい」と見られる現実がまだまだ変わる訳ではない。
 毎回言うように、どのぐらいの毒性が有ったら、その物質を使わないようにするか、これは重大な問題だ。しかし、それ以前にどのぐらいの毒性があるか、これを良く知ることが、これからの人類にとって重要なことであることは、誰しも認めるところだろう。
 まあ、多少時間は掛かるだろうが、多くの化学物質が検討されること自体は望ましいことだろうね。ただし、本当のことを言えば、製造者がその検証をすべきなのだ。国の研究機関は、製造者からの依頼を受けて、費用負担も製造者がして、その検証をすべきだ。今回のようなどさくさ状態で、多くの研究費が特定の研究課題に流れることは、日本政府全体からみて見苦しい。しかし、それが現実。

A君:毒性に関して、本ウェブページでは、バックグラウンド原則というものを持ち出して、天然物質にも毒性があるという話をしてますよね。少々個別記事になりますが、日本経済新聞に、次のような記事が載ってました。


食物中の催奇物質 (日本経済新聞98年10月5日夕刊)
 女子栄養大学大学院教授 香川靖雄
 分子生物学の発展で、奇形の原因となる遺伝子と毒物が解明されつつある。
環境要因としては、放射線やウィルス感染とならび、妊婦の催奇物質の取り込みが上げられる。最も奇形を生じる危険が高い時期は、最終月経から34〜50日の間で、これを絶対過敏期とよぶ。この時期には胎児の様々な臓器が形成される。その時期をすぎると完成臓器への作用は少なく、口蓋や外性器などが影響をうける。
 催奇物質で良くしられているのは、催眠剤であるサリドマイドであるが、アミノプテリンなど多くの抗がん剤にも催奇性がある。性ホルモン剤、抗てんかん剤、抗ヒスタミン剤なども大量に服用すれば奇形の原因になりうる。
 薬剤ならば服用を避けられるが、ダイオキシン類や環境ホルモン類は食物中に入る可能性がある。催奇性の試験法も向上しており、消費者の安全を守るため、こうした食物に関する情報を消費者にもっと知らせる必要がある。
 がん予防に有効だとして人気があるビタミンAは、過剰にとると催奇性があると米国食品医薬局が警告している。一日に20万単位(所要量の100倍)をとると極めて危険で、1.5万単位でも対照実験の3.5倍も奇形が起きたとの報告がある。
 緑黄野菜をたくさんとっても通常の場合には1日1万単位に達しない。ビタミンA剤、特に皮膚の若返り薬として一部の国で売られているレチノイン酸の薬などには注意が必要である。


B君:なるほど。ビタミンAなどというと、健康に良いという錯覚があるが、取りすぎは及ばざるがごとしという訳か。

C先生:特に、サプリメント(補助栄養剤)として薬の形で取ることは、多くの場合に不必要であるだけではなくて、危険でもあると思う。食べ物よりも薬は絶対に危険性が高い。当然だよね。より純粋なのだから。自然の食べ物にも発ガン物質があるという話は、バックグラウンドの理解として、必要な話のひとつだが、それ以上に、「良薬口に苦し」ではなくて、「良薬、有害ゆえに有効」ということを理解すべきだろう。

A君:他の本はどうするのですか。

C先生:北野先生(人間地球系で共同研究者の一人)監修の本は、余りにも「底の浅いハウツーもの」ではあるのだけれど、書いて有ることはそんなに問題はない。まあ、この通り市民が生活すれば、環境負荷が全体としても低減されるだろう。2、3気になるのが、「石鹸の薦め」「浄水器」「母乳問題」などぐらいかな。石鹸で全部やると言う人がいても別に反対はしないが、水の質によっては石鹸では駄目だから、ゼオライトなどを入れた合成洗剤がある、というのが私の理解。下水が完備していれば、合成洗剤だからといって、悪いとも言えない。「浄水器」は、中に除菌剤が入ってますが、それが気にならなければどうぞ。しかし浄水器としては、中空糸程度のものにしましょう(1万円以下)。間違っても高いものを買わされないように。「母乳問題」は、まず、現時点の母乳中のダイオキシンの濃度は25年前の半分以下になっていることを書くべきだ。それに、母になる可能性が有る人は、たばこを吸うなと書くべき。その他、「缶ジュースは一体型を選ぶ」は意味が無いだろう。

B君:でも、自分は帯に書いてあった文字が気に入らない。「疑わしきは罰する」。これは、環境問題対策の基本法則だとしているが、これは、「地球が無限に大きかった過去の原則」。今は、この原則は、「ミニマムリグレット原則」に置き換わった。

C先生:確かにその通りだ。そのあたり、チャンスをみて、再度議論しよう。他に感想は。

A君:悪口です。別冊宝島を書いているサイエンスライターという連中のサイエンス音痴にはあきれますね。具体的に指摘すべきなのですが、これも別の機会に。

B君:立花さんに現時点で感想を聞いてみたい。騒ぎすぎだったとは言わないでしょうが。

A君:立花さんと言えば、上のサイアスに100億年の旅という記事があるのですが、その最後に、「それはまだ数10億年先のことだが、地球を待っている確実な未来は惑星の死なのである」、といってます。この「死」がそのちょっと前に記載されている「月のように死んだ」天体という意味なら、もっと早いですよね。グレーデル達の本では、15億年後には、地球の気温が100℃になるというから。

C先生:立花氏はジャーナリストだからね。話題がずれてきたので、本日はここまで。