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   各紙の環境ホルモン報道 06.15.2002




 環境ホルモンに関する平成14年6月15日の各紙の報道の差異について議論を行う。メディアが一体何をどう報道するのか、どのような根拠で報道の題材が選択されるのか、そんな目で読んでいただきたい。

C先生:まず、何はともあれ、各紙の報道をお読みください。

読売新聞:社会面 

環境ホルモン2例目の認定

 環境省は14日、主に工業用洗剤の原料に使用されている化学物質「オクチルフェノール」(略称OP)を、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)と認める調査結果をまとめた。OPを混ぜた水の中で飼ったメダカに生殖機能の異常が確認されたためで、同省が認定した環境ホルモンは、ノニルフェノールに次いで2例目。(157字)


A君:カバーされているキーワードは、(1)工業用洗剤、(2)オクチルフェノール、(3)メダカ、(4)生殖機能の異常、(5)ノニルフェノールといったところ。

B君:「生殖機能の異常」という言葉が何を意味するか、わからないと本当のところは意味が無い。

C先生:魚の性は、染色体でまず一義的には決まるものの、その後の外的要因で変わってしまうものだという理解が記者にあるかどうか。多分、この記事を書いた記者には無さそう。このあたりの詳しい知識は、新しい生物学の教科書を参照

A君:次に行きます。


毎日新聞:「事件、話題、暮らし」面

工業用洗剤原料に環境ホルモン作用 環境省確認

 環境省は14日、工業用洗剤の原料、4−オクチルフェノールが環境ホルモン(内分泌かく乱物質)として働き、メダカのオスをメス化する影響があるとの報告書をまとめた。環境ホルモン作用の確認は2例目。
 実験は、5段階の濃度の4−オクチルフェノールを混ぜた水で、メダカを卵から70日間飼育した。その結果、水1リットルあたり23.7マイクログラムの濃度で、10匹のオス中、2匹に精巣に卵子の元となる卵母細胞ができた。【足立旬子】(231文字)


A君:カバーされているキーワードは、(1)工業用洗剤、(2)オクチルフェノール、(3)メダカ、(4)生殖機能の異常=オスをメス化=精巣に卵母細胞が発生。(4’)濃度の記述。

B君:キーワードとしては、まあ読売と同程度だな。ただし、生殖機能の異常の中身について若干詳しい記述がある。2例目と言いつつ、ノニルフェノールに続くものであるということは記述されていない。

C先生:濃度の記述があるが、それが何を意味するのか、これでは全く分からない。すなわち、余計な情報であるといえる。むしろ、読売新聞の濃度を取り扱わないという態度の方がすっきりしている。

A君:次です。


日本経済新聞:社会面

環境ホルモン2例目確認 オクチルフェノール 環境省が動物実験

 内分泌かく乱物質(環境ホルモン)の作用が疑われる物質の有毒性評価を進めている環境省は14日までに、工業用洗剤の原料などに使われているオクチルフェノールが環境ホルモンとして働き、メダカの産卵数を低下させたり、雌化させたりする作用があることを確認した。同日開いた同省の検討会で公表した。動物実験で環境ホルモン作用が確認されたのは、工業用洗剤の原料などで使われるノニルフェノールに続いて2例目。
 環境省は環境ホルモンとしての働きが疑われる65物質をリストアップしている。このうち、優先的に有害性評価を進めている10物質について、水に混ぜてメダカを受精から約2ヶ月間飼育したり、雄メダカを約20日飼育するなどの検査を実施した。
 その結果、オクチルフェノールが魚類の女性ホルモン受容体との結合性がつよいことが分かり、産卵数、受精率の低下や、雄の精巣の一部が卵巣に変わる雌雄同体が認められた。ただ、ヒトのホルモン受容体との結合性は弱いため、人体への影響はないという。
 オクチルフェノールは界面活性剤の原料などに使用されていて、1999年の使用量は推定約1万トン。(506字)


A君:カバーされているキーワードは、(1)工業用洗剤、(2)オクチルフェノール、(3)メダカ、(4)生殖機能の異常=オスをメス化=精巣に卵母細胞が発生。(5)ノニルフェノール、(6)65物質から10物質を優先的に分析したこと、(7)ヒトに対する影響はない、(8)使用量が1万トン

B君:日経の記事で決定的に優れている点は、ヒトに対する影響はないことを明言していること。

C先生:オクチルフェノールは、もともと水性生物にしか影響を与えないと思われる物質だから、ヒトに影響はないのはもともと分かっているとも言えるが。

A君:次です。


朝日新聞:総合面

化学物質「4−オクチルフェノール」 環境ホルモンと確認 世界2例目

 工業用の界面活性剤やプラスチックの可塑剤に含まれる化学物質「4−オクチルフェノール」に、魚類をメス化する内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の作用があることが環境省の調査でわかった。同省が昨年、工業用洗剤の原料になるノニルフェノールが環境ホルモンであることを世界ではじめて確認したのに続き、2番目となる。
 14日に開かれた同省の検討会で報告した。メダカを水槽に入れて飼う実験では、1リットルあたり94マイクログラムの濃度で、オス10匹のうち5匹の精巣から卵細胞が見つかった。また、一定以上の濃度になると、メスの産卵数が少なくなり、卵の受精率が下がることもわかった。ただ、魚類への影響は1リットルあたり0.992マイクログラム以下ではなくなると考えられる。国内の河川の平均濃度は1リットルあたり0.03マイクログラムで、影響は低いと見られるという。
 同省は人への影響を調べるためラットを使った実験をしている。ダイオキシンなどに比べ人体への蓄積性が低いことなどから、影響は低いと見ている。
 4−オクチルフェノールは、ノニルフェノールとともに界面活性剤の原料となる。99年に国内でノニルフェノールは1万9千トン、4−オクチルフェノールは1万トン使われたと推定される。
 日本石鹸洗剤工業会は、98年、日本石鹸洗剤組合などは99年から家庭用洗剤への使用を自粛している。日本界面活性剤工業会は、昨年からクリーニングや自動車洗浄など、廃水処理が不完全な汚泥が環境中に出ていく場合は使用を自粛するよう呼びかけている。(682字)


A君:カバーされているキーワードは、(1)工業用洗剤、(1’)可塑剤、(2)オクチルフェノール、(3)メダカ、(4)生殖機能の異常=オスをメス化=精巣に卵母細胞が発生。(4)産卵数減少、(5)ノニルフェノール、(7)ヒトに対する影響はない、(8)使用量が1万トン、(9)河川中の濃度は十分低いため現実の生態系に影響はない、(10)自主規制が行われていて、あまり心配するに及ばない。

B君:やっと、評価に関する記述もある。要するに、心配は無いということが記述されている。

C先生:14日の夜、というよりは、15日朝午前0時40分からのNHKのニュースで報道がされているが、その内容は、大体、日本経済新聞程度のものだった。

A君:音声での情報伝達はなかなか難しい。

B君:しゃべり手のトーンが全体を決めてしまうこともあるし。しかし、それにしても、各社程度の差はあるが、まあまあ報道していたのではないか。

C先生:いや、甘い甘い。14日に環境省から発表された報道資料は、実は、以下のようなものなのだ。4−オクチルフェノールのメダカへの影響は、本当は、刺身のつまのようなもので、伝えるべき内容は、むしろ1.の方だ。
 ともあれ、お読みいただきたい。


平成14年6月14日
平成14年度第1回内分泌攪乱化学物質問題検討会について (内分泌攪乱作用に関する有害性評価結果(人健康影響、生態系影響)について)

 6月14日(金)に「内分泌攪乱化学物質問題検討会(座長:鈴木継美東京大学名誉教授)」を開催しました。主な審議内容等は、次のとおりでした。

 環境省では、「環境ホルモン戦略計画 SPEED'98」掲載の内分泌乱作用が疑われる物質について、平成12年度からのミレニアムプロジェクトにより、優先順位の高いものから、順次、有害性評価を行うこととしている。
 平成12年度に12物質、平成13年度に8物質を選定し、人の健康及び生態系への影響を評価するための動物実験(哺乳類、魚類)と試験管内試験を実施してきたが、今般、平成12年度選定の12物質のうち、哺乳類及び魚類を対象とした各10物質の試験結果が得られたので、これに基づく内分泌攪乱作用についての有害性評価を行った。
 
1. 人健康影響(哺乳類)に関する有害性評価の結果

○  次の10物質について「げっ歯類を用いた1世代試験」及び「試験管内(in vitro)試験」の試験結果等を整理した。
 トリブチルスズ、フタル酸ジ-n-ブチル、オクタクロロスチレン、ベンゾフェノン、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジエチル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、トリフェニルスズ
  注) フタル酸ジ-n-ブチルについては、現在追加試験を実施中。

○  今回得られた試験結果からは、いずれの物質についても、低用量(文献情報等により得られた人推定暴露量を考慮した比較的低濃度)での明らかな内分泌攪乱作用は認められなかった。
 ただし、一部の物質については、現時点において内分泌攪乱作用との関連は明らかではないものの、mRNA発現量や血中ホルモン濃度等につき有意差のある変化が認められており、今後の知見集積の中で注視する必要がある。
 
○  なお、全ての物質について、高用量(既報告で影響が認められた濃度)では、一般毒性と考えられる影響が認められた。今後、一般毒性を含む環境リスク評価を行う際には、この知見を活用する。
 
 
2. 生態系影響(魚類)に関する有害性評価の結果

○  平成12年度選定12物質のうち、既公表のノニルフェノール及びトリブチルスズ以外の10物質について、メダカを用いた「ビテロジェニン産生試験」及び「パーシャルライフサイクル試験」等の結果を整理した。
 
○  このうち、4-オクチルフェノールについては、[1]魚類の女性ホルモン受容体との結合性が強く、[2]肝臓中ビテロジェニン(卵黄タンパク前駆体)濃度の上昇、[3]精巣卵の出現、[4]産卵数・受精率の低下が認められ、魚類に対して内分泌攪乱作用を有することが確認された。
  注) 今回の試験結果からは、魚類への作用がないと考えられる濃度は0.992μg/Lであり、国内の環境水中濃度(概ね0.03μg/L)からみて、魚類への内分泌攪乱作用に関するリスクはやや低いと考えられる。なお、本物質については、各種生物を考慮に入れた環境リスク評価が別途、進められている。

○  フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、ベンゾフェノンの5物質については、頻度は低いものの、精巣卵の出現が確認された。現在、追加試験を実施しており、その結果も踏まえて評価を行うこととする。 

○  残り4物質(オクタクロロスチレン、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジエチル、トリフェニルスズ)については、今回得られた試験結果からは、明らかな内分泌攪乱作用は認められなかった。
 
 
3. その他
   本年11月に広島で開催する「第5回内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」に関して報告。 (1626字)


A君:各紙の報道を読んだ限りでは、こんな内容が発表されたということは分からないですね。全く印象が違う。なんで各紙はメダカだけをことさら取り上げたのでしょうか。

B君:環境ホルモン問題の最大の争点が、低用量でいわゆる逆U字特性があるかどうかというものだ。まあ、本当の争点は、ビスフェノールAの逆U字特性というべきかもしれないが。

C先生:生態系、とくに、魚類への影響があることは、魚なる生物の特性から言っても、あって当然。だから環境中の濃度が魚類に影響を与えているほど高いか、ということが重要。さらに言えば、物質の特性としてオクチルフェノールとノニルフェノールは兄弟みたいなもの、要するに両方ともアルキルフェノールなのだからだから、特性が似ていても当然。2例目であるかどうかなど、全く価値が無い情報。結論としては、「アルキルフェノールには、魚類に対して環境ホルモン性がある」、ということでよい。

A君:それが記者には分からなかった。

B君:決定的なことは、恐らく2つある。まず、一番目の報告は、「無害」に関するもので、二番目は、メダカが対象ではあったが、「有害」に関するものだったこと。

A君:報道機関として「有害」を報道しないのは責任を果たしたことにならない、と正当化しつつ、本音は、センセーショナルな方を選択したい。納得、納得。それは言える。

B君:もう一つは、「無害」に関する化学物質が10種類もでてきて、中身が分からず、「ごちゃごちゃしているな。これを読者に理解させることは、自分だって分からないのだから、無理。それに、名前を挙げるだけで文字数が116字もある」、と思ったこと。

C先生:読売のように全体で150字しか紙面を割いていないのだから、116字もの名前がでてきたら、何も書けない。正しい指摘だろう。

A君:しかし、一般市民に、報道というものはこんなものだと思っている人が何人いるのだろうか。だから、「自分で情報を探そう」、と思ってくれない限り、環境問題は解決しないですね。

B君:まあ、今回の結論を客観的に、かつ新聞風に書けば、「環境ホルモンほぼ無罪。論点だった低用量作用を否定。ただし、魚類には一部影響。」、といったところがまあまあなのではないか。

C先生:あれほどの金(300億??)を掛けて検討した結果が、新聞に無視されてしまっては、社会的に大損失だ。なんとか、きちんとした報道が行われることを保証するシステムはないものだろうか。