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朝日の環境ホルモン観 06.21.2000






 朝日新聞が「くらし」という面を作っていて、毎週月曜日が「ごみ・環境」である。6月19日の話題は、「関心薄れゆく環境ホルモン−次世代の健康を考える」であった。担当者は、伊藤景子記者。しかし、そもそも「環境ホルモン問題」という言葉で、一体何を問題にしているのか、朝日新聞の公式見解を聞きたいぐらいで、訳の分からない記事だった。
C先生:「ああ。これがあいつの正体だったのか」、という文章で始まり、「これだったのか」と荻原さんは頭を殴られたような感じだった。という感じの報告から始まるんだけど、はっきり言ってとんでもない記事の見本みたいだ。まあ、ちょっと議論してよ。

A君:その萩原さんは、「アレルギー体質の長男のために添加物や農薬の入っていない安全な食べ物が欲しいと」、生協に入ったのが10年前。7年前からは環境委員会の委員をしているそうで、どうも典型的「環境安全派」。萩原さんが疑問に思ったのは、「健康な大人ならなんともない添加物入りの食べ物に、萩原さんの長男は下痢や湿疹を起こしたのだ」。

B君:ちょっと待った。下痢や湿疹が環境ホルモンの症状の一つだというのか。

A君:いや。そう明示的には書いてはいないのですが、この文章の続きが、「当時の米国の研究によれば、母親がほんの少しのビスフェノールAなどの化学物質を食べ物や薬と一緒に体の中に入れてしまうと、おなかの胎児もそれを浴びる。生まれてきた子供が男の子だったら、将来生殖機能に影響する可能性があるという」、ときて、先ほどのC先生の引用、「これだったのか」。頭を殴られたような感じだった、に続くのですが、どう読めます。

C先生:少なくとも、すべてが環境ホルモンの影響だという方向へ、読者の判断を誘導しているように思える。

B君:ふーーむ。その伊藤景子氏の頭の中がどうなっているのか良く見えてきた。「化学物質」ということばは使わない方針なんで、単に「物質」と呼ぶが、要するに、そのような物質のあらゆる人体影響・作用が環境ホルモン性だというのだな。これは、他の新聞社も同様なんだが、環境庁のリストに掲載されている70品目がまず存在していることが重要で、それが、すなわち、環境ホルモンの定義になってしまったんだ。すなわち、どのような毒性作用があっても、それはすべて環境ホルモンとしての作用になってしまうのだな。

C先生:この筆者、伊藤氏の元々の専門分野(受けた教育の意味)がなんだか知らないが、環境ホルモン問題の本質を理解できていないのではないか、という印象だよね。やはり、そろそろ環境庁もこの70品目のリストを撤回、もしくは、再度詳しく説明を行うべき時期なのかもしれないね。ここまで、世の中が、特に、マスメディアが誤解したら、それは、部分的に環境庁の責任でもあるんだから。環境ホルモンとは何が問題なのか。これが実際最大の問題なんだな。

B君:「内分泌撹乱作用がある」、ということが、その定義だと信じる。これは、誰がなんといっても、それが定義だ。具体的に述べれば、「大部分は、妊娠3ヶ月までだが、胎児になんらかの影響がでること」、これが最大の問題だろう。大人はまあ、問題ない。しかも、ホルモンというぐらいだから、「通常の毒性の濃度から見れば格段に濃度が低いにもかかわらず、そのような影響がでる」、という当初からの指摘だったもので、これは大変だということになったんだ。だから、濃度レベルも問題。さらには、逆U字特性とかいって、用量と作用が線形ではないということも指摘されていた。しかし、どうもそんな実態は無いようだ。

C先生:しかし、実験的にそれをどうやって見るべきか、相変わらずよく分からない。試験管内の実験だと、乳がん細胞が増殖するかどうか、などの方法で検討はされているようだが。一部には、試験管内のテストでは駄目だという主張があるし。

A君:要するに、子供にアレルギーや下痢という症状が出たとしても、それが環境ホルモン問題だとは到底言えない、ということですね。最近の理解では、アレルギーは、むしろ、感染症が減ったおかげで、子供達の免疫システムが完成しないまま、15歳にもなってしまうことが主原因だと思うのですが。

C先生:医学界はそのような共通理解だ。昔は、遅くとも小学校を卒業するまでに、ツベルクリン反応は陽転したものだ。今は、地域によっては20%ぐらいしか陽転しないという状況もあるという。ツベルクリン反応は、単なる結核への感染と抗体の所有を意味するのではなくて、免疫システムが完成したか、未完成かといった意味もあるようだ。だから、今の子供は、免疫システムが不完全であるために、かなりの割合でアレルギー体質。もっと、細菌と共生しなければ、免疫システムをはじめとする体のバランスが崩れるのだ。泥が自然と口に入るような、そんな外での遊びをさせるべきだ。泥や砂には、サハラ砂漠の砂ですら、100万個/gぐらいの細菌がいる。そこらあたりの普通の泥なら、その100倍。細菌といっても、病原性のものは少ない。

B君:まず、環境ホルモンという言葉を使用禁止にすべきだよな。井口先生(この言葉の発明者)、そうでしょう。

A君:それから、記事では、環境ホルモンの歴史が若干説明されて、ついでに、遺伝子組み換え食品、脳への影響が懸念される電磁波、といった表現がでてきて、萩原さんも、「国民の健康にかかわる新しい脅威が次々と出てきた」、というありがちな「誤解」が表現されて、「どれも快適で便利な生活を享受してきたツケではある」、というこれまたありがちな表現で締めくくり。
 そして、「次世代の健康を守るという点において、これらはすべて政治の課題ではないか」、と萩原さんは思うのだそうです。

B君:その次に「120億円の調査研究費が付いたが、これも政治家が関心を持ったからだ」、という説明になっているけど、その費用に見合う結果を出すようにという要求がなされていない。このような形で使用された税金に対しては、説明する責任を是非とも追求すべきだ。公的責任をもつ新聞なんだから、「要求すること」、それが義務だ。記事では、国は今も「調査研究中」だ、とされているが、実際に「調査研究中」なのは、研究者なんだ。

A君:そして、「メディアが火を付けたブームが静まると同時に、政治家の興味も薄れていく」、と非難されて終わり。

C先生:話が戻るようだが、環境ホルモン問題というのは何か、これを、まず、メディアが理解していないのが大きいね。今回の記事が、「火は付けたものの、結局、ものの本質は理解できなかった」、という自己批判なら分かるが。勿論、私自身も環境ホルモン問題の本質が何か、いまだに充分には理解できないのだ。定義からして、余りにもはっきりしない問題なんでね。

B君:環境ホルモン問題にしても、ある種の既成事実化が進行して、環境庁の表に掲載されている物質の毒性が、イコール、環境ホルモン問題になってしまった。このような「既成事実化」がまず大問題だ。
 その既成事実化メカニズムは、大体、次のようなプロセスを経るのだ。
(1)先見の明のある人による事実の推定、ないし鋭い指摘。今回はbyコルボーン。
(2)メディアが騒ぐ
(3)政治家が騒ぐ
(4)国・国立研究所が対応を表明
(5)研究者は、ちょっとおかしいなあと思いつつ、多額の研究費に目がくらむ
(6)「おかしい」と口に出して言う研究者は、村八分状態になる
(7)自称サイエンスライターが、恐怖本を書いて、しこたま儲ける
(8)市民運動家が騒ぎの輪に加わる
(9)一般市民も「言葉だけは聞いたことのある状態」、「なんとなく怖い状態」、にはなるが、その本当の意味は分からない
(10)これで、既成事実化が完成。
今回は、環境庁の例の70品目の表が、環境ホルモンの定義になってしまった。

A君:星先生からの聞いた話ですが、最近の遺伝子組換え食品問題で、「DNAは怖い、だからDNAを含まない食品を探さなければ」、という人が居るらしいですねえ。

B君:さらに極端な話。「元素は怖い、だから元素を含まない食品を探さなければ」、という冗談もある。

C先生:そして、いずれは既成事実が解消されるのだが、実はそれが大変。そのプロセスは、大体次ぎのようなプロセスを経るが、その進行状態は非常に遅い。
(1)研究者の一部が、村八分になる覚悟で、「やはりおかしい」と言い出す。
(2)予算を獲得した研究者も、「実際、自分がどんな研究成果を出せるのか」、と不安な状況になる。
(3)しかし、研究予算がもっと欲しい研究者は、やはり重要なんだと主張。一部の研究者は、「説明不能な影響がある(脳への影響など)」と方向を修正する。
(4)そのような不協和音が、霞ヶ関や一部国会議員には聞こえるようになる。熱意冷める。
(5)市民も、被害が見えないので、大したことではないと直感的に理解する。
(6)市民運動家だけが置いてきぼり状態。
(7)一部の新聞記者も、この記事を見ると、やはり置いてきぼりらしい。
現在の環境ホルモン問題が、丁度このプロセスを進めているところのようだ。
 そして、このプロセスを比較的早く進めるのに、多額の国費を投入することがかなり効果的であるのは、どうも事実のようだ。一部には、まだ研究費が足らないと思っている向きもあるようだが、それは、120億円の研究成果を一度見てから。

A君:でも、この記事の主張である予防的措置、すなわち、「プラスチック製品の原材料と添加物の表示を義務化すること」、には賛成なんですが。

B君:予防的措置ということの本音は、その次に書いて有る「危険な物質の使用量を制限していくこと」が本命で、しかも、「危険」かどうかということは、「新聞が決める」んだろう。

C先生:なんだか、今回の反応は、かなり反朝日新聞一色だな。昨日(6月20日)の朝日夕刊の一面トップに、生活クラブとの研究の結果を大々的に出して貰ったのだが、この環境ホルモンに関しては、やはり指摘を緩める訳にはいかない。
 実は、このHPは、環境ホルモン第一弾で、次回にアップされる予定の第二弾は、朝日新聞も環境ホルモンをめぐる年譜の最後に掲載した「厚生省が調理用塩化ビニル手袋の使用中止の指導」についての詳細な検討記事だ。ということで、請うご期待。続く!